まんたんウェブ

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

黒川文雄のサブカル黙示録:日本アニメの危機 反比例するアジアの人気

 明けましておめでとうございます。

 昨年、麻生政権でアニメなどのコンテンツを中心に海外にアピールしよう……などという気運があったのもつかの間、国や官僚が「国策」とか言い出してから、かえってテンションが落ちました。これは経済産業省がゲーム産業に注目してから産業としてのゲームの覇気がなくなったことと似ています。

 一方で、アジアでは日本のアニメやゲームソフトが熱狂的に受け入れられています。それは前回のコラムで触れたシンガポールだけの現象ではありません。既に香港、マレーシア、中国でも同じような現象が起こっています。

 「日本アニメの制作環境が、制作費などの問題でピンチなのに、これだけ世界に受け入れられているギャップが不思議な感じする」

 これはふと知人が漏らした言葉ですが、現在の日本のコンテンツ環境を端的に表した言葉でしょう。

 前回のコラムを書き終えて思ったことは、07年を契機に日本のアニメ制作や放送環境が厳しくなっていることです。かつて2000年前後はアニメバブルで、新しいアニメを作れば地上波のテレビ放送枠は決まり、DVDでリリースすれば、万単位の受注は普通でした。しかし、事情は一変しました。

 元々、1枚セル画を描いて1000円以下という低価格で、コストのズレが指摘されていました。その後予算は次第に減り、おのずと作品のクオリティーも低下します。さらに伸びない視聴率、放送枠の減少もあり、「再放送作品を流しておくほうが効率的」と気づいてしまいました。結果、スポンサーも減り、アニメというコンテンツ自体の熱が急速に冷える結果となりました。振り返ってみると作りすぎだったのでしょう。視聴者や購買者を無視したペースでの制作と発売。破綻(はたん)に向かいながらもブレーキを踏まない“チキンレース”だったのです。

 そのチキンレースの果てにあったのは、もはや燃料すら補充できない、既にエンジンはブロー、タイヤもバースト、ドライバーは高齢化してしまいました。それでも何とか走るのは過去のライブラリーがあるからで、それはいつか消費されつくすものでしょう。

 幸いなことは、それらのコンテンツがアジア各国で支持され、熱狂を持って迎えられ、それらが新しいフォロワーを呼び入れています。少なくとも人類の歴史と同じように繰り返され、その中から新しいものが生まれるというわけです。

 人には寿命があり、生前に得た知識、知恵、人間性などは、時を超えて次世代に持ち越すことはできません。それができたら人類はもっと成長し、成熟したかもしれません。しかし、カタチだけが残り、その解釈を巡って創造が生まれます。それはまさにコンテンツの輪廻(りんね)転生。ひょっとして、アメリカで生まれ、日本で開花し、最後に笑うのは新興アジアなのでしょうか?

 望む望まざるにかかわらず、才能は予想外の場所から生まれるものです。これは歴史が証明してきたことでもあります。

 本年もよろしくお願いします。

◇筆者プロフィル

くろかわ・ふみお=1960年、東京都生まれ。84年アポロン音楽工業(バンダイミュージック)入社。ギャガコミュニケーションズ、セガエンタープライゼス(現セガ)、デジキューブを経て、03年にデックスエンタテインメントを設立、社長に就任した。08年5月に退任。現在はブシロード副社長。音楽、映画、ゲーム業界などの表と裏を知りつくす。

2010年1月1日

まんたんウェブ 最新記事

まんたんウェブ アーカイブ一覧

おすすめ情報

注目ブランド