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21世紀も今年で10年になる。9・11テロや二つの戦争、未曽有の不況をへて、すっかり姿を変えた世界は10、20年後はどうなっているだろう。
中国は米国に迫る経済大国となる。米中、大欧州に加えて新興諸国が地球規模の秩序形成にますます存在感を増す。紛争はなくならないまでも、地球規模で相互依存が深まり、より安定しているかもしれない。
対極のシナリオもある。米政府の国家情報評議会が描く「2025年」。中国、インド、ロシアなどが連携して米国と対立し、保護主義や軍拡が蔓延(まんえん)する。あるいは新興諸国の発展がエネルギー危機で止まり、資源争奪の軍事衝突が始まる……。
続く地殻変動の中で、日本はどうやって平和と繁栄を維持し、世界の安定に役立っていくのだろうか。
「日本の奇跡」。2カ月前、オバマ米大統領は東京での外交演説でこの言葉を繰り返した。戦後日本の復興という「奇跡」が他のアジア諸国にも広がり、いまや世界経済を支える地域の繁栄につながったというのだ。日米の同盟を軸とした米国のアジア地域への関与がそれを可能にした、と。
■同盟という安定装置
最強の軍事大国と専守防衛の国。太平洋をはさむ二大経済大国。類(たぐい)まれな組み合わせをつなぐ現在の日米安保体制は今年で半世紀を迎える。大きく歴史を振り返れば、大統領が誇るのももっともなことだ。
いざというときに日本を一緒に守る安保と、憲法9条とを巧みに組み合わせる選択は、国民に安心感を与え続けてきた。そして今、北朝鮮は核保有を宣言し、中国の軍事増強も懸念される。すぐに確かな地域安全保障の仕組みができる展望もない。
米国にとって、アジア太平洋での戦略は在日米軍と基地がなければ成り立たない。日本の財政支援も考えれば、安保は米国の「要石」でもある。日本が米国の防衛義務を負わないからといって「片務的」はあたらない。
アジアはどうか。日米同盟と9条は日本が自主防衛や核武装に走らないという安心の源でもある。米中の軍事対立は困るが、中国が「平和的台頭」の道から外れないよう牽制(けんせい)するうえで、米国の力の存在への期待もあるだろう。中国を巻き込んだ政治的な安定が地域の最優先課題だからだ。
同盟国だからといって常に国益が一致することはない。そのことも互いに理解して賢く使うなら、日米の同盟関係は重要な役割を担い続けよう。
問題は、同盟は「空気」ではないことだ。日本の政権交代を機に突きつけられたのはそのことである。
■「納得」高める機会に
普天間問題の背景には、沖縄の本土復帰後も、米軍基地が集中する弊害で脅かされ続ける現実がある。
過去の密約の解明も続く。米国の軍事政策と日本の政策との矛盾。当時の時代的な背景があったにしても、民主主義の政府が隠し続けていいはずはない。密約の法的な効力がどうなっているか。国民が関心を寄せている。
いま日米両政府が迫られているのは、これらの問題も直視しつつ、日米の両国民がより納得できる同盟のあり方を見いだす努力ではなかろうか。
とくに日本の政治には、同盟の土台である軍事の領域や負担すべきコストについて、国民を巻き込んだ真剣な議論を避けがちだった歴史がある。鳩山政権のつたなさもあって、オバマ政権との関係がきしんではいるが、実は、長期的な視野から同盟の大事さと難しさを論じ合う好機でもある。
日米の安保関係は戦後の日本に米国市場へのアクセスを保証し、高度成長を支える土台でもあった。いまや、日中の貿易額が日米間のそれを上回る。中国、アジアとの経済的な結びつきなしに日本は生きていけない。
しかし、だからといって、「アジアかアメリカか」の二者択一さながらの問題提起は正しくない。むしろ日本の課題は、アジアのために米国との紐帯(ちゅうたい)を役立てる外交力である。
■アジア新秩序に生かす
アジアには経済を中心に、多国間、二国間で重層的な協力関係が築かれるだろうし、いずれ「共同体」が現実感をもって協議されるだろう。
だが地域全体として軍備管理や地域安全保障の枠組みをつくるには、太平洋国家である米国の存在が欠かせない。そうした構想を進めるうえでも、日米の緊密な連携が前提となる。
日本が米国と調整しつつ取り組むべき地球的な課題も山積だ。アフガニスタン、イラクなどでの平和構築。「核のない世界」への連携。気候変動が生む紛争や貧困への対処。日米の同盟という土台があってこそ日本のソフトパワーが生きる領域は広い。
むろん、同盟の土台は安全保障にある。世界の戦略環境をどう認識し、必要な最低限の抑止力、そのための負担のありかたについて、日米両政府の指導層が緊密に意思疎通できる態勢づくりを急がなければならない。
日米の歴史的なきずなは強く、土台は分厚い。同盟を維持する難しさはあっても、もたらされる利益は大きい。「対米追随」か「日米対等」かの言葉のぶつけ合いは意味がない。同盟を鍛えながらアジア、世界にどう生かすか。日本の政治家にはそういう大きな物語をぜひ語ってもらいたい。