1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:06:17.84 ID:6CYMarEf0
「ねえ、ドキンちゃん、」
「なによう、ばいきんまん。あたし忙しいの」
「俺はね、」
意味深に目を伏せてばいきんまんは息をついた。
短い指を組んで解いてを繰り返す様は赤子に近いものがあり、
いつものばいきんまんとは縁遠い仕草だった。
思わず化粧をする手を止めてじいっと
ばいきんまんを眺めた。ばいきんまんは寂しそうに笑った。
「俺はね、」
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:09:10.30 ID:tYFvbTTc0
食パンマン「俺の出番ある?」
「ねえ、ドキンちゃん、」
「なによう、ばいきんまん。あたし忙しいの」
「俺はね、」
意味深に目を伏せてばいきんまんは息をついた。
短い指を組んで解いてを繰り返す様は赤子に近いものがあり、
いつものばいきんまんとは縁遠い仕草だった。
思わず化粧をする手を止めてじいっと
ばいきんまんを眺めた。ばいきんまんは寂しそうに笑った。
「俺はね、」
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:09:10.30 ID:tYFvbTTc0
食パンマン「俺の出番ある?」
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:11:35.12 ID:6CYMarEf0
穏やかな昼のことだった。
いつもの如くしょくぱんまんはワゴンを駆って
パトロールに励んでいたし、あんぱんまんもかれーぱんまんもパトロールに勤しんでいた。
代わり映えなく滞りなく平常運行している穏やかな昼のことだった。
ワゴンを駆る自分の手。
ワゴンの前に赤い影が飛び出してきた。
「え、え、う、わあああっ!?」
慌ててハンドルを切る。人影にあたることなく茂みに突っ込む。
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:15:35.53 ID:6CYMarEf0
「あいたた……」
目の前が奇麗なグレーマーブルに歪んでいて目を顰めた。
後頭部を強く打ってしまって視界が歪む。
舌打ちをした。丁度大きな木にぶつかっていて
フロントガラスに細やかなヒビが入っている。
(く、うー。誰ですかもう…飛び出しなんて危ない…)
文句も兼ねてたったいま飛び出してきた人影を振り返る。
「あのねえ、急に飛び出したら危な―――――…」
「しょくぱんまん様ッッ!」
「え、うわ!?」
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:18:26.70 ID:6CYMarEf0
泣き腫らした目をしたどきんちゃんが走り寄ってくる。
しょくぱんまん様ぁ、とワゴン越しに縋るように腕を掴まれた。
食品と菌という相容れないものである自分達であるから
どきんちゃんが掴んだ自分の腕に緑色の黴ががじわりと広がっていった。
(ぅっ……)
触らないで、と腕を振り払うことは容易いのにできない。
だってこの子は泣いている。泣いて助けを求めている。
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:21:19.66 ID:6CYMarEf0
泣き腫らした真っ赤な目。
いつもつんとしているおしゃれさんなどきんちゃんの
面影はそこになく、ただ涙と鼻水でぐちゃぐちゃの
子供っぽいかおがそこにあるだけだった。
「……どうしたんですか」
「助けて、助けてください。お願い。お願い、します」
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:27:04.78 ID:6CYMarEf0
そんなこともあり今、助手席にはティッシュで鼻をかむどきんちゃんが乗っている。
幸いフロントガラスの損傷があったものの基本的には大丈夫だった愛車に感謝しつつ走行する。
「………だいじょうぶですか、どきんちゃん」
「う、ひっく、ずび、ふ、ひっく。ごめんなさい、あたし…」
どきんちゃんがすまなさそうに頬を染めた。
過ぎたことだからもうしょうがないと割り切った自分は
彼女への怨恨もなく車を運転する。
「いいんですよ」
優しく呟いたら、どきんちゃんはまた泣き始めてしまった。
すこしだけ、日は傾いていた。
42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:32:28.07 ID:6CYMarEf0
「俺はね、」
ばいきんまんが意味深に目を伏せた。
「奇麗になりたかったんだ」
痩せてぎょろついた眼球がぐるうりと回って丁度
化粧台を前に呆ける自分を捕らえる。
本能的な身震いが背筋を舐めていった。死んだ目をしている。
ひたすらに、濁っている。
「………奇麗に、なりたかったんだ」
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:40:15.16 ID:6CYMarEf0
「……え、それで、」
「………いなくなっちゃったの。ばいきんまん」
「………ううん…?」
顎に手をやる。
信号待ちのけだるい数分間は黙考に最適で、丁度今も最適な数分間となっている。
「……キレイになりたい…ですか…」
「そうなの。朝起きたらいなくて、あたし、怖くて……」
来てしまってごめんなさい、とどきんちゃんが頭を再度下げた。
構わないですよ、と笑う。
どきんちゃんの丸い目からまたぽろぽろと涙がこぼれていく。
「ごめんなさいなんだかあたし情緒不安定で」
という彼女に、つい、ついうっかり、
「それならうちに来ませんか。おうちに一人なんですよね?」
そう、言ってしまった。
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:42:50.03 ID:NFIn7nQkO
全体!ズボンを下に下ろせぇ!
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:45:27.73 ID:6CYMarEf0
それならうちに来ませんか。
その一言でどきんちゃんの顔がぱあと明るくなる。
しまったと思う反面、泣き止んでくれたうれしさがあった。
真っ赤な目でありがとう、とはにかむどきんちゃんは
普通に女の子で、少しだけどきどきした。どきんちゃんが
「やだ安心したらまた」
と小さく呟いてずいぶんと勢いの弱まった涙を拭った。
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:51:11.12 ID:6CYMarEf0
「あらっ。かれーぱんまんににあんぱんまんおかえりなさい」
ドアが開く音がしてバタ子はオーブンを弄る手を止めた。
土埃でくたびれたマントをはためかせてあんぱんまんとかれーぱんまんが立っている。
かれーぱんまんがぞんざいに
「ただいまあ」
と言い放って奥の自室に走っていった。
あんぱんまんはくすくす笑う。
「どうしたの、かれーぱんまん。御機嫌ななめ?」
「はは。見たいテレビがあるんじゃないかな」
「あらー。言ってくれたらあたし録画したのに
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:57:29.33 ID:6CYMarEf0
カーステレオから穏やかなバラードが流れてくる。
どきんちゃんは先程からうとうとと眠そうにしていて
溶けるようなこの春日じゃしかたないなあと自分でも思う。
目蓋がとろとろと落ちてきて危うく眠ってしまいそうになるのを堪えてアクセルを踏む。
ちらと横目に見えた公園ではカバオ君達が楽しそうにはしゃいでいる。
(やっぱり、子供は笑ってるのが一番いいんですよね)
カバオ君達の眩しいぐらいきらきらした笑顔を
角膜に思い出させながらちらりと寝息を立て始めたどきんちゃんを見る。
相当焦燥していたようだし疲れても居たのだろう。
気持ちよさそうに眠っていた。
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 01:05:08.51 ID:6CYMarEf0
あっはっはっは、と奥の部屋から
かれーぱんまんの笑い声が響いてくる。
「いやあよく笑ってますねえ」
「そんなに麒麟って面白いかしら」
「僕はノンスタですねー」
「えーあたしオードリーだわ」
「ふふふ、」
バタ子さんがしょくぱんまん、遅いわねえと呟いて煎餅を囓った。
ぼりり、と砕ける音。
塩煎餅のどこか甘いような塩の臭い。
じいっと眺めていたらあんぱんまんもお煎餅どう?
と海苔煎餅を勧められた。
「わ、いいんですか?」
「いいもなにも、家族みたいなもんじゃない」
「へへ、」
「おいしいわよ」
「ありがとうございます」
ぺりぺりと袋をむいて煎餅を囓った。
海苔の香ばしさが鼻を通り過ぎていく。
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 01:18:08.12 ID:6CYMarEf0
「つきましたよー、どきんちゃーん?」
優しくからだをゆすられてはっと目を覚ました。
起き抜けのまぶたは霞む。甘い体温。
「しょ、ぱん 様」
「大丈夫ですか。よく眠ってましたねえ」
「…………あ!」
体を起こそうとして顎に糸引く物を感じた。
よだれ。
「………きゃああああごめんなさいシートがっ」
「あはは。いいんですよ。気にしないで」
「……ごめんなさい……」
恥ずかしさで顔が熱くなる。
しょくぱんまん様は夢にまで見たあの柔和な笑みで自分をやさしく抱き起こす。
色々と無茶苦茶な状況なのに、それなのに愛しい愛しいこの人が自分のために骨を折って
笑ってくれるという事実が震えるほど嬉しくて別の意味で頬が熱くなる。
ワゴンの外はほどほどに小綺麗なアパートだった。
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 01:23:19.54 ID:6CYMarEf0
ほどほどに小綺麗なアパートのなかは想像したとおり、ひどく整頓されていて
どこもかしこのしょくぱんまん様のにおいでいっぱいで、胸がぎゅうっと狭くなる。
「狭いけど、どうぞ、くつろいで」
「あ、はい……」
フローリングの床の冷たさ。
胸の音がうるさい。
(お、お邪魔しちゃった……)
夢みたいだわ。
幸福が胸に充満していく。
それと同時に、朝起きて、隣に誰も居なかったという今朝方の背筋が冷えていくような恐怖が蘇って身震いした。
92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 01:28:46.90 ID:6CYMarEf0
「あー、面白かったぜー!麒麟最高!」
「やーねえもう。オードリーが一番だってば」
「いやあ、麒麟だろ!麒麟最高だあ」
「いーやオードリーね!」
「ふふ、」
子供っぽく言い争うバタ子さんと
かれーぱんまんを眺めていたらあんまりに
穏やかだから笑ってしまった。
「絶対麒麟のほうが……って、あ、ごめん、俺ちょっと出掛けてくる!」
「え、かれーぱんまん、どこ行くんですか」
「そうよお。まだオードリーか麒麟か決めてないじゃない」
「いや、今朝俺の家のポストに用があるから来てくれっていう手紙が」
慌てたようにマントを羽織るかれーぱんまん。
急がねえと約束の時間に遅れちまう、と焦ったように言う。
慌てて玄関から走り出していくかれーぱんまんにバタ子さんが、早く帰るのよーと言った。
96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 01:36:03.79 ID:6CYMarEf0
「はぐ、はふ、はぐっ」
「大丈夫ですか。まずくないですか?」
「ぜ、ぜんじぇんまうぐないれうっ!」
「ふふ、それは良かったです」
疲れを隠して笑う。
どきんちゃんが頬を赤くした。
自分のお手製チャーハンを頬張った口元にごはんつぶが一粒付いていて、
それをとってあげたらふうっと遠い目をして、ああなんとなく消えたばいきんまんのことを考えているのだなと思った。
「ばいきんまんのこと、やっぱり心配ですか」
「………うん」
「大丈夫ですよ、居なくなるような方じゃないですよきっと」
「………ありがとう、しょくぱんまんさま」
107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 01:45:13.37 ID:6CYMarEf0
ほう、と溜息をついた。
隣では座布団を敷いただけの簡素な布団に
タオルケットにくるまったどきんちゃんが眠っている。
(疲れ、たあ……)
あー、と気を抜いた声を出して
リラックスしてから肩を回す。ぺきぺきといい音。
(あー、もう八時…パン工場に顔出さないと…)
(でもどきんちゃん、寝てるし起こせないしなあ……)
流し台では水に漬けられたままの皿がキレイにされるのを待っているし洗濯物もまだ触れていない。
(……まあ、一日ぐらい顔見せなくても、だいじょうぶですかね)
111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 01:55:11.66 ID:6CYMarEf0
一日ぶりの職場。
「………え?」
頭が白くなる。
「…………かれーぱんまん、帰ってきて、ない?」
「そ、そうなのよ…しょくぱんまん、何か知らない!?」
「なんでもいい!かれーぱんについて何か知らないですか!?」
あんぱんまんとバタ子さんが自分に詰め寄る。
咽の奥がからっからに乾いて唾も飲み込めない。
昨日は朝方パトロール前に逢ったっきりでそのあとのことは知らない。
なんだ、この、乾きは。
「……ほ、ほんとに居なくなったんですか」
「ほんとよ!!手紙で呼びだされたって…!」
「本当に何か知らないんですか!?しょくぱんまん!」
首を振るのが精一杯だった。
ただ、家に残してきたどきんちゃんのことをどうしてだか思い出したのだった。
119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 02:03:33.74 ID:6CYMarEf0
「…………暇だわ」
キレイに整頓されたしょくぱんまんさまの部屋。
座布団も床も布団もしょくぱんまん様でいっぱい。
先程仕事へ出て行ったしょくぱんまん様の居ない部屋はあたしの独壇場。
そんな元気ないけど。
緩慢に座布団の海へ沈む。
ほどほどに大きな窓から柔らかな陽差しが降ってくる。
目を細めることすら煩わしくて座布団の中に顔を埋めた。
すこしのホコリくささと、やわらかなお日さまの臭い。
(ばいきんまん、)
(どこ行ったの)
朝起きて、となりにあるはずだと思っていたものが欠片もなく消えていたあの恐怖。
真っ白いシーツがやけにのっぺりして見えたのだった。
(………このあたしを置いていくなんて)
(…早く、迎えに来てくれないかしら)
(…………早く)
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 02:05:24.06 ID:ZhYThYqHO
wktkしながら
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 02:16:13.79 ID:6CYMarEf0
「え?かれーぱんまん?知らないよ」
「そ、そうですか……く、どこに行ったんだっ…」
「……しょくぱんまん、なんかあったの?」
「いっ、いやっ。なんでもないんです。ありがとう、カバオくん」
「んーん。いいよ」
カバオ君がにへ、と子供らしく笑って公園へ戻っていった。
自分はただのし掛かるような焦燥に胃袋を喰われてしまいそうで戦々恐々としている。
こんな聞き込みに意味があるかどうか知らないけれど、縋る希望はこれしかない。
役割上、恨まれる事はいくつもあったしそれはもうしょうがないと割り切っている。
しかし、もしかれーぱんまんが自分達に恨みを持つ人物の罠中に嵌ったりしていたら、その割り切った気持ちはどうなるのだろう。
ただ唇を噛んで、ワゴンに乗り込む。
どうか、無事でいてください。祈るような気持ちでアクセルを踏んだ。
142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 02:28:27.33 ID:6CYMarEf0
「どきんちゃん」
「……んあ?」
昼寝していたら揺り起こされた。
霞む目蓋。眠ってばかりいる自堕落。
「………ん。…………!?」
「ああ、起きた起きた。おはよう、どきんちゃん」
「かっ……かれーぱんまん…!?」
「ふふ、」
反射的に警戒心が脳天まで貫いて
慌てて受け身をとるように自分を抱き締めた。
敵。敵。
「………何の用よ」
「やだな、冷たいな」
相変わらずどきんちゃんは冷たいなあ。
困ったような眉尻を下げる仕草。
網膜に焼き付いた壁が重なる。
「……ばいきんまん?」
147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 02:35:57.27 ID:6CYMarEf0
「違うって。わかるだろ、俺はかれーぱんまんだよ」
「………何しに来たのよ」
「…なんで俺をばいきんまんだなんて思ったんだ」
「う、うるっさいわね!」
「ふふ、不法侵入しちゃだめだろ。どきんちゃん」
「ふ、不法侵入なんかじゃないわ!ちゃんとしょくぱんまん様が」
ちゃんとしょくぱんまん様が招き入れてくれたから
ここに居るのよ、と怒鳴り掛けてはっとした。
かれーぱんまんは狡猾に目を細めている。
「あいつがどうしたって?まさかあいつ敵をかくまってた?」
「………っっ」
「違うだろ。君は『不法侵入』だろ?」
冷たい目が言外にしょくぱんまんを裏切り者にしたくないならとっとと出て行けと語っている。
唇を噛んだ。悔しい、悔しい。けど、あの人に迷惑を掛けられない。
「……わかったわよ。出て行けばいいんでしょ」
159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 03:13:34.16 ID:ARBalgwX0
全部脳内再生される
198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:11:28.58 ID:6CYMarEf0
「………え?」
どく、と。
鼓膜が大きく波打つような錯覚。
一回り大きく拍動を刻んだ自分の心臓。
「いま、なんて?」
「だーからさっ。しょくぱんまん、お前の家にどきんちゃんが忍び込んでたんだって!
危ないトコロだったな、おまえ」
「ぇ、ちょ、……」
え、それ、それって。
呆然とする。なぜ、出て行った。
いくら敵であるかれーぱんまんに見つかったと
言えど彼女は自分がここにいる理由を説明しなかったのだろうか。
あんぱんまんとバタ子さんは危ないところだったわね、と胸をなで下ろしている。
自分はただ頭を掻きむしりたい衝動にかられて拳を握りしめている。
「あ、そろそろ見たい番組始まるや。俺ちょっとテレビみてきまーす」
そう言って自分の横を通り過ぎる際、小さな、小さな声で
「ざまあみろ、食パン野郎」
と呟かれた。
200 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:12:41.52 ID:ns4eFzUcO
カレーのくそったれはどうしようもないな
204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:21:31.20 ID:6CYMarEf0
テレビを見て笑っていたらいきなり部屋の戸が開いた。
後ろを振り返ったら案の定怒りで表情を歪ませたしょくぱんまんが立っていた。
「……よお、食パン野郎」
「…………説明、してもらおうか」
がん、と強く壁に体を押さえつけられて息が詰まった。
しょくぱんまんに肩を押さえ込まれている。
「………説明、してもらおうかッ!」
「…へっ。敵をかくまっといてよく言うぜ。俺はお前を守ってやったんだぞ」
「このっ…!」
「へん、殴んのかよ。おまえさ、このパン工場追い出されたら生きてけねえだろ。
お前を守ってやったんだぜ、俺はよ」
「…――~~ッッ!!」
「ウッ」
どす、と重い拳が右頬にきた。
そのまま壁に頭を打ち付けて蹲る。
目に涙を浮かべたしょくぱんまんは息を荒くして
「このやろう」
と呟いて出て行った。ざまあみろ、食パン野郎。
205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:23:04.91 ID:Sfr6jxTIO
カレーUZEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!
208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:26:02.30 ID:JUX3ghY3O
しょくぱんテライケメン
あ、もともとか
209 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:30:31.53 ID:6CYMarEf0
わかったわよ、出て行けば良いんでしょう。
そう言って飛び出した。
「………はあ、ふう」
春先の夜風は胃液まで凍るように冷たくて
首をちぢめても肩を抱いてもただただ無情な
寒さは末端神経からじわじわと自分を蝕んでいく。
(寒い、お腹減った…)
いつも、こんな時なら
「何してるのばいきんまん、寒いじゃない」
の一言ですぐにばいきんまんがなんとかしてくれたのに、
今は、いない。
(……お腹減った)
公園の遊具の中にもぐりこんで寒さを凌ぐ。
ホームレスのように惨めな自分に涙がとまらなかった。
213 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:37:53.25 ID:0z9qplX+0
ちんちん シュッ! シュッ! シュッ! 優良スレ 普通 糞スレ
┝ - - - - - - - - - - - ┿━━━┿━━━┥
(``7‐、 _ /
__/´ ' ノ /
ン-o= ─ 、/_ /)
!O(。 /‐o‐(:::)( i )))
'、'`二'ヽO ン /:: /
ヽi_:ノ! __∠/ソ
/´||_、_|| _ノ
│::<(___)
\(ミl_,_(
/. 彡つ\
/_ / \ _. 〉
/::::/ /:::::/
(二二) (二二`)
214 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:39:43.14 ID:6CYMarEf0
「……あら?」
夕食を買いに行った帰り、公園の隅で見慣れた影を見つけた。
寒そうに蹲るその華奢な肩。
(………ドキンちゃんかしら)
(こんなところで何してんでしょ)
足音を忍ばせて公園内に滑り込む。
あっというまに華奢な人影に近づいて、声を掛けた。
215 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:41:48.81 ID:6CYMarEf0
「どきんちゃん、よね?」
「ッ」
びく、とその肩が震える。
怯えたように戦慄く顔がこちらを振り返る。
「ねえ、こんなところで何――」
「きゃ、きゃああぁぁああっ」
「きゃっ」
強く突き飛ばされてしりもちをつく。
腰を強く打って背骨に響く鈍痛があった。
「い、痛…」
「……っ。ご、ごめんなさ……」
ごめんなさい、と言いかけてどきんちゃんが自分を助け起こす。
買い物袋の中の卵はグチャグチャに潰れていて
それを見つけたどきんちゃんは泣きそうに俯いて再度
ごめんなさいあたしびっくりして、と消えそうに呟いた。
216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:48:24.59 ID:wxu74FC2O
わくてか
217 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:49:34.04 ID:6CYMarEf0
泣きそうに唇を噛んで割れた卵や散らばった
食材を必死に掻き集めてビニール袋に戻す
どきんちゃんの優しさに胸をぽわぽわさせていたら
食材をすべて袋に戻し終えたどきんちゃんが
何度目かわからないごめんなさいを呟いて
公園から走り出していった。
ただ、自分だけが残された。
232 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 13:28:53.54 ID:6CYMarEf0
「……え!?ドキンちゃんに逢った!?」
「そうなのよ。あとごめんなさい、卵潰れちゃったから今晩はチキンライスだわ」
「いえチキンライス好きだからいいですよ、それよりどこで逢ったんですか!?」
「そこの公園よ。どうしたのそんなに慌てて」
バタ子さんが今日のしょくぱんまんは
「何か変ねえ」
とバタ子さんが穏やかに笑った。
がさりとビニール袋が擦れて砕ける音がする。卵がまた割れたのだ。
「……ちょっと僕、アパートに忘れ物してきたので」
「え、ちょっ、しょくぱんまん!晩ご飯は!?」
「いらないです!アパートで食べてきますから!」
パン工場を飛び出す。途端体を蝕んでくる寒さ。
こんな寒さの中で一人どきんちゃんは震えているのだ。
(早く、行かなきゃ…!)
236 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 13:42:11.50 ID:6CYMarEf0
「ふ、ぐすん、ひっく、う、うう」
震えている。寒さでもう末端の感覚はない。
冷えた手で自分の頬に触れてみても一片のぬくさもそこにはなくて
ただただ変につやつやした皮膚がそこにあるだけだった。
(寒い。おなか、へった。暗い。怖い)
バス停のベンチに蹲って寒さを凌いでいる。
この暗さではもうどこにも行けない。
王子様なんていないのはわかっているし自分が助けて貰えないなんて言うのも知っていた。
無慈悲な早さで車が通りすぎていく。ライトが目を灼く。
膝を抱え治して蹲る。王子様なんて居ないのだ。
ぎゃぎゃ、と悲鳴のようなブレーキ音でどこかに車が停車したようだ。
蹲って潰した視界では何も見えないから怖くないのだ。
膝が自分の吐息でしっとりと湿ってくる。
誰かの手が自分の肩に触れた。王子様なんて、
「ここにいたんだね、どきんちゃん」
「……しょく…ぱんまん様…?」
「帰ろう。かれーぱんまんが酷いこと言ったんだってね。ごめんよ」
よしよしと優しく頭を撫でられて涙が溢れた。王子様なんて。
240 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 13:54:11.92 ID:6CYMarEf0
「しょ、く、ぱんまん様ぁ」
「ひとりにしてごめんね。もう大丈夫ですから」
「う、ぅう」
ドキンちゃんが涙でグチャグチャに濡れた頬を拭おうともせず自分に縋り付いた。
驚くほどその体は冷えていて自分のふがいなさでぎゅうっと胸が狭くなった。
よしよし、もう大丈夫ですよ怖くないですよ。
優しくその背をさする。ドキンちゃんのすすり泣く声が少し大きくなる。
よしよし、大丈夫大丈夫。
そのとき。
「………やっぱり、ここにいいたか。食パン野郎」
「――――ッッッ!!」
全身の血が凍り付く。
にやにやといやらしく口元を歪めたかれーぱんまんが道の向こう側に立っていた。
どきんちゃんがひゅう、と短く息を詰めたのがわかった。
243 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 14:07:27.42 ID:6CYMarEf0
「やっぱりなあ、裏切り者」
「か、かれーぱんまんっ…」
一気に車通りのなくなった車道を渡って徐々にかれーぱんまんが距離を縮めてくる。
反射的にふるえるどきんちゃんを抱き締めた。
しょくぱんまん様、とドキンちゃんが戦慄いたように呟く。
どうしてあたしなんかのためにここまでしてくれるんですか。
決まってるでしょうそんなのと囁き返す。
かれーぱんまんはもうそこまで迫ってきている。
「………どきんちゃんから離れろ、食パン野郎」
「……厭ですね。泣いている女の子を放っていけません」
「ゴタクはいーんだよ。追い出されたいのか」
追い出されたいのか。
その一言は重く心にのし掛かった。
生唾を呑む。かれーぱんまんの頬の歪みが深くなった。
「いいのかよ、どきんちゃん。
このままそいつに甘えてると、愛しのしょくぱんまん様がホームレスだぜ」
「…ばっ、馬鹿なこと言うな!大丈夫ですよどきんちゃん、惑わされないで」
「…………」
とん、と。
顔を蒼くしたどきんちゃんが静かに自分を突き放した。
「どきんちゃんはお利口だね」
かれーぱんまんが低く笑った。
244 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 14:08:42.55 ID:vBzWQ9+wO
あああしょくぱんさま愛しいよしょくぱんさま
245 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 14:15:26.01 ID:6CYMarEf0
とん、と。
顔を蒼くしたどきんちゃんが静かに自分を突き放した。
どきんちゃんはお利口だね。かれーぱんまんが低く笑う。
「……え、どきん…ちゃん…?」
「……もういいの。ありがとう、しょくぱんまん様」
自分を優しく拒絶したどきんちゃんが幽鬼のような
足取りでふらふらとかれーぱんまんのもとへ歩んでいく。
かれーぱんまんは笑っている。
「さっさとどっか行っちまえ、食パン野郎」
ふらふらと近づいて行くどきんちゃんの華奢な腕をかれーぱんまんが掴む。
「ほら、さっさとどっか行っちまえ」
かれーぱんまんが言い放つ。
なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ。
思いと裏腹に、脚はあさっての方向へ歩き出した。
247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 14:27:20.32 ID:6CYMarEf0
「ふたりになれたね。どきんちゃん」
「………なんでこんなことするの。なんでよ」
「わかんないかな」
ばいきんまんによく似た仕草で首を曲げる。
吊り上がった口角には皮肉と嘲笑が滲み出ている。
真っ暗な夜道は自分達の他に誰も居ない。
水銀灯の薄明かりがせっせと灰色の影を作り続けるため光り続けている。
「きれいだろ?」
滲むような悪意がじわじわと寄ってくる。
後ずさりした。しょくぱんまん様にこれ以上迷惑は掛けられないのだ。
「それって、水銀灯のこと?」
「どう思う?」
その手が自分の肩に触れた。鳥肌ばかりが大きくなっていく。
252 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 14:34:32.36 ID:SqjEw03mO
カレーはどきんちゃんのこと…
253 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 14:34:48.99 ID:6CYMarEf0
鳥肌が背筋までぎっちりと埋めていく。
かれーぱんまんの姿は水銀灯にほとんど照らされていなくって、自分の肩を掴むその手しか見えない。
(………触らないでよ)
(あたしのこと触って良いのは、)
“ねえ、どきんちゃん”
閉じた目蓋に帰ってくるのはホラーマンでも
かびるんるん達でも、しょくぱんまん様でもなくて、
“ねえ、どきんちゃん。おはよう”
「………ばいきんまんだけよ」
254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 14:43:41.78 ID:6CYMarEf0
「………ふぅん、」
すうとかれーぱんまんの目が冷たくなる。
肩を掴むその手の力がつよくなる。痛みに目を顰めた。
痛みになれていない自分の体はあっというまに感覚ごと白くなっていく。
歯を食いしばった。耐えろ、堪えるのだ。自分よ。
「……そうなんだ」
「…そうよ。悪い?」
「悪くないなあ。嬉しい」
寂しそうにかれーぱんまんが笑う。
どうしてもそこにばいきんまんの影を重ねてしまって胸が痛くなる。
かれーぱんまんが再度口を開こうとして、
どすん。
開こうとして、
「………大丈夫だった?どきんちゃん」
「…しょ、しょくぱんまん様?」
かれーぱんまんが口を開こうとして、後ろから殴りかかったしょくぱんまんの拳に倒れた。
しょくぱんまんは優しく、女の子を見捨てては行けませんよと呟いた。
263 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:05:20.17 ID:Kx7bMcK3O
どきんちゃんってかわいいな…
264 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:08:44.34 ID:6CYMarEf0
「っく………いってえ」
むくりと起きあがる。起きあがった場所は
案の定固く冷たいアスファルトの上だった。
「あんにゃろう…食パンめ」
首を曲げようとして自分の顎に生暖かい
ものが伝っていったのを感じた。鼻血だ。畜生。
(どきんちゃん…は当然連れて行かれてるよな)
(ワゴンもねえ……どきんちゃんごと乗せていったか)
気を取り直して再度起きあがる。土埃を払う。
そうか、逃げたか。それならそれでいい。
(おまえらがその気なら)
(……こっちにも、考えがあんだよ)
口元を乱暴に拭う。鼻血は止まらなかった。
265 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:11:29.39 ID:2YgvejAAO
ワクテカ
267 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:13:41.92 ID:NCEfytEQO
wktkがとまらない
273 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:27:33.68 ID:tnGY+qYKO
この場合かれーぱんまんの鼻血はカレーでいいのか
274 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:29:02.29 ID:2YgvejAAO
>>273
くせぇwwwwwwwwwwwwwww
275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:29:58.70 ID:xhDom2Bu0
>>273
それは流石に駄目だろwwwwwwww
272 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:27:11.23 ID:6CYMarEf0
暗い夜道をワゴンが走る。
水銀灯に照らされたどきんちゃんの横顔は蒼白くって生気が感じられない。
「……安心してください。大丈夫ですよ」
「………ごめんなさい。あたし…」
「大丈夫ですから」
優しく言う。
正直自分も仲間であるかれーぱんまんを殴ってしまった事で胸が痛んだ。
じりじりと穴を開けるような痛みが胃に染み込む。歯がゆい。
ふっとどきんちゃんが
「カーステ、かけていい?」
と聴いてきたのでいいですよと言う。
どきんちゃんの華奢な腕がカーステのボタンを押す。
276 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:31:03.32 ID:6CYMarEf0
《ガ…ガーピピー…ザー…本日未明、食パンマン…ガー…ザザー
ピー………えー、今夜もやってまいりましたミュージックアワー!
みなさんこんばんわ、DJの…》
「……ちょ、ちょっと待って、今…」
「……あ、あたしも聞こえました……まさか…」
ラジオチャンネルからさきほどのニュースチャンネルに切り替える。
《ザー…ザザー…本日未明、食パンマンに殴られたカレーパンマンが
脳震盪を起こしているのを通行人が発見、突然の凶行の影に
見え隠れするバイキンマンとその相方、ドキンちゃんの存在が匂われており……》
がく、とドキンちゃんが真っ白になった。
自分はただあまりのことに何も言えない。
「まさか…こんな…」
277 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:35:44.37 ID:6CYMarEf0
「いやー、ありがとうございました。凄い特ダネですよ」
「いや、俺が役に立てるならいいんだって」
「すいませんね。お礼はあとでさせて頂きますから」
ぺこぺこと俺に頭を下げるラジオ局の局長。
俺は大仰に包帯を巻いた頭を見せつけるように立っている。
殴られたあと、自分の脚で病院へ行きそしてラジオ局に話題が届くように喋った。
案の定この平和な街に突如として転がり込んだ特ダネに食いついてきたラジオ局を犬にするのは容易かった。
「いやー、すごいよ。視聴率も反響も大きく伸びてる」
手放しで喜ぶ局長と職員達を見てほくそ笑んだ。
(ざまあみろ、食パン野郎)
278 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:39:35.82 ID:Sfr6jxTIO
そういえばカレーパンのくせに脳「みそ」あるのか…
279 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:40:49.08 ID:0uAdPgMy0
>>278
隠し味程度にな
287 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:53:33.99 ID:6CYMarEf0
「まさか…こんな…」
しょくぱんまん様は脳天を打たれたように呆けているしあたしも同様だった。
「………かれーぱんまんだわ。…きっと」
「…それは…そうだろう、けど」
かれーぱんまん、どうしてこんなことを。
しょくぱんまん様はぼーっとしたように脱力している。
あたしは、もうこれ以上迷惑を掛けられないと、思った。
「……停めて」
「え?」
「停めて!もういいから停めて!あたしのせいで!あたしのせいでッ!」
「え、ちょ、う、うわ、暴れないで!落ち着いてください!」
「いやっ!触らないで!」
シートベルトを外して窓から飛び降りようとしたあたしに業を煮やしたのかしょくぱんまん様が強くアクセルを踏んだ。
車体が揺れる。あたしも、揺れた。
強く頭を打ち付けて、いたあ、という呻きが漏れる。
それを制止するようにしょくぱんまん様が、大丈夫、安心してと優しく呟いた。
王子様みたいだ、と。思った。
302 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:10:11.34 ID:6CYMarEf0
バタ子さんのすすり泣く声が響いている。
アンパンマンは顔を覆っているし、ジャムおじさんはラジオのスイッチを切って自室へ引っ込んだ。
薄暗いパン工場はさらに薄暗く見えてひどく陰鬱だった。
まぁ、子供のように可愛がった子が裏切りを重ね、仲間を殴った最低な奴だと報道されればショックもあるだろう。
「……ああ…しょくぱんまん…どうして」
「大丈夫だったの?かれーぱんまん。あたし、もう…」
うう、と呻くようにバタコさんが顔を伏せた。
自分はただ笑い出したいのを堪えて悲しそうに振る舞っている。
「……でもね、」
「大丈夫かよ、バタ子。無理すんなって」
「あたし、」
バタ子さんが顔を上げた。
どこか強い光を目に宿している。
「あたしね、しょくぱんまんがそんなことすると思えないわ」
303 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:11:26.66 ID:HhOnc0H30
バタコさんktkr
308 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:26:35.22 ID:6CYMarEf0
「あたしね、しょくぱんまんがそんなことすると思えないわ」
度肝を抜かれる。
一瞬、すべてを見透かされたかと思った。
まぁ、そんなわけないんだけれど。
「………バタ子さん」
「あんぱんまんもそう思わない?……あたしは、そう思う」
あんぱんまんに同意を求めるようにバタ子さんがあんぱんまんを振り返る。
あんぱんまんが小さく僕もそう思います、と呟いた。
かっと顔が熱くなる。
313 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:29:47.55 ID:6CYMarEf0
僕もそう思います、と呟いた。かっと顔が熱くなる。
「……なんだよ」
低い、声だった。
「………俺を信じないのかよッッッ!!」
ばあん、と怒りにまかせて机を蹴る。
バタ子さんがびくりと震えた。
ただただふうふうと荒い息で自分は錯乱している。
「………もういい、知らねえ」
「あ、ちょ…かれーぱんまん!待ってよ!」
「触らないでくれよっ!」
バタ子の手を振り払って出て行こうとした、その時。
「………笑いが、隠し切れてないんじゃないの」
低く。
低く低く、いつのまにか傍らに立っていたあんぱんまんが
低く低く俺の耳元に呟いた。バタ子は目を丸くしている。
何も聞こえなかったことにして、そのまま飛び出した。
319 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:39:56.12 ID:Y69yqsNJ0
カレーざまぁwwwww
320 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:40:02.46 ID:qK1tuWgF0
アンパンマン怖ええ
321 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:42:06.21 ID:6CYMarEf0
夜道を走るワゴン。
目指すはどきんちゃんの家でありばいきんまんの家である場所。
「あたしたち…どうなっちゃうの」
「わかりません。でもとりあえずあなたの安全が先です」
必死だった。
先程からカーステはずうっと自分達の悪行について語っている。
正直聴くのも厭だけどこればかりはそうも言っていられない。
(くそっ…このままじゃ……)
ラジオによれば街警察はもう動いているとのこと。
しょうがなくこんな山道を選んで走っている。
しかし舗装されていない道の負担はすさまじく先程から腰が痛くてしょうがない。
「……怖い」
「大丈夫、です、から。もうちょっとの辛抱です」
324 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:44:19.50 ID:Sfr6jxTIO
食パンかっこよすぎwwwww
327 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:47:03.18 ID:xhDom2Bu0
食パンが一々かっこいいなwwww
409 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:26:17.73 ID:6CYMarEf0
「もうちょっとの辛抱です」
そう呟いた瞬間、がくんと衝撃が走った。
腰をシートにぶつけて再度痛みがぶりかえす。目を顰めた。
「な、何なんですか…っ」
「あ、あ!しょ、しょくぱんまん様!」
どきんちゃんが金切り声を上げてバックミラーを指さす。
何かと思って覗き込んだバックミラーの中に、
「…………あ、」
ワゴンを片手で止めたままこちらを見るあんぱんまんの姿があった。
あんぱんまんの唇が
「やっと見つけた」
と云ったように見えた。
ゲームオーバーだ。顔を覆った。
410 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:31:37.91 ID:ZyFZRQ2G0
あんぱんまんんn
411 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:33:20.84 ID:op5XulpTO
きたああああ
413 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:35:40.44 ID:6CYMarEf0
「……ラジオ聴いてびっくりしたよ、かれーぱんまんと何かあったの?」
「…いやそういうわけじゃないです。……僕らのこと警察に突き出すんですか」
警察、という単語に敏感に反応したどきんちゃんがびくりと肩を震わせて自分に縋り付いてきた。
よしよし怖くないですよと頭を撫でてやると安心したようにくすんと鼻を鳴らす。
「はは、そんなことしないって」
仲間じゃないですかとおどけたようにあんぱんまんが言う。
心底ほっとした。
「それにしても、何があったかぐらいは説明してくれてもいいんじゃない?」
「……んー、…」
たき火がぱちぱちと音をたてている。
愛車を風よけのようにしてたき火にはげんでいる。
ワゴンを無理矢理止められたあと、最早抵抗の余地はないと
言われるままにワゴンから降りてみたら自分達を待っていたのは
温かな同僚、あんぱんまんの笑顔だった。
「……いやでもほんと、助かりましたよ」
「いや、しょくぱんまんも大変だったみたいだし、別にいいよ」
416 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:40:28.94 ID:8fDiTSGfO
あんぱんは敵か味方か……ゴクリ
418 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:44:18.54 ID:6CYMarEf0
「気にしないで」
とあんぱんまんが笑う。
僕はしょくぱんまん達のミカタです、と言われて肩の力が抜けていく。
あんぱんまんと向かい合うようにして
傍らのどきんちゃんと寄り添ってしばらく、揺れるたき火を眺めていた。
ふいにあんぱんまんが口を開く。
「………僕ね、思うんだ」
「え?」
どきんちゃんが眠そうに目を擦った。
421 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:46:50.33 ID:6CYMarEf0
「……かれーぱんまんの、ことなんだけど」
「な、どうしたんですか急に」
「………かれーぱんまんさあ、ほんとは、」
ぐちゅ。
湿った。
湿った音がした。
「……―――…あんぱん、まん?」
「ァ、ぐ」
白目を剥いたあんぱんまんがぐらりと倒れる。
その、後ろに。
「……かれーぱんまん」
太い棒きれを振り下ろした姿勢で笑うかれーぱんまんの姿があった。
423 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:49:29.19 ID:ZhYThYqHO
……!?
424 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:49:34.36 ID:zKCEmwRFO
ぎゃあああああうううわあああああ
425 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:50:14.45 ID:CUkNroDn0
嘘だアアア阿アアあああ!
426 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:52:14.30 ID:pH7BxalbO
カレー怖ぇぇぇwwwwwwwwwww
427 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:52:32.02 ID:Vwg7aBfpO
あんぱんがああぁぁあぁー
429 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:54:02.39 ID:op5XulpTO
あんぱんさまぁあああぁあ
430 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:54:03.06 ID:UXaTtjvC0
とびちるつぶあん
431 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:54:32.35 ID:AjVLcERsO
怖すぎワロタwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
432 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:55:38.08 ID:6CYMarEf0
どきんちゃんの甲高い悲鳴が鼓膜を突く。
後頭部を歪にへこませたあんぱんまんが倒れ伏している。たき火が頼りなく揺れる。
「……見つけたぜ。食パン野郎」
「か、かれー…ぱんまん…。な、なんて事を…」
「きゃ、ぁ、ぁあああぁぁあああああ!!」
どきんちゃんが高い金切り声を上げて自分の肩にすがりつく。
オレンジ色の炎に照らされたかれーぱんまんの横顔は狂気にまみれている。身震いした。
「……さあ、裏切り者の食パン野郎、どきんちゃんから離れろ」
「くっ…、まだ言うかっ!裏切り者はどっちですか!
どきんちゃん、私から離れないでください!」
「う、うん、わかった。しょくぱんまん様」
ぎゅう、と強くどきんちゃんを抱き締めた。
狂気に淀んだかれーぱんまんはもうそこまで迫っている。
433 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:00:13.91 ID:ZhYThYqHO
早く新しい顔を…!!
435 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:04:21.66 ID:NCEfytEQO
いやあああああ
436 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:06:54.62 ID:6CYMarEf0
ざく、ざく、と無情なまでに滞りなくかれーぱんまんは近寄ってくる。
後ずさりを続けていたらワゴンに行く手を阻まれこれ以上後退できない。
「……さっさとどきんちゃんから離れな、食パン野郎」
「い、厭です。プライドは売れません」
「しょ、しょくぱんまん様」
「大丈夫、絶対守りますから、離れないで」
ついにかれーぱんまんとの距離が一メートル以下ほどになる。
自分の心臓の鼓動がひどくうるさい。純粋に怖かった。
「そうかい、じゃあ、死にな」
かれーぱんまんが木の枝を大きく振り上げる。
どきんちゃんだけは守れるようにと華奢な躯を強く抱いて目をつぶる。
446 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:17:49.85 ID:6CYMarEf0
「……?」
目をつぶっても思っていたような衝撃はいっこうに来ない。
恐る恐る目を開けると必死の形相でかれーぱんまんの足元に齧り付く
半分ほど頭を潰されたあんぱんまんの姿があった。
「く、くそっ、放せ!あんぱんまんっ!」
「だ、れ、が、離すもん、かあ…!」
脂汗をながしながら必死にかれーぱんまんの歩みを止めるあんぱんまん。
かれーぱんまんが
「くそ、この、はなせ」
と叫んであんぱんまんの顔をがむしゃらに踏みつけた。
みるみるうちに顔が崩れていく。
「くそっ、このっ、はなせッ!」
「い、や、で、す……!!」
「あ、あんぱんまん!無茶しないでくださいっ!」
「ぼ、ぼくは、だ、だいじょう……ぶ…だから…はやく逃げ…」
「くそっ、このっ!」
「もうやめろかれーぱんまん!あんぱんまんが死んでしまうッ!」
449 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:22:35.78 ID:Ngfzd5+/0
このカレーパンマンは辛口
450 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:24:12.01 ID:6CYMarEf0
「く、ううっ!はやく、早く逃げ、」
あんぱんまんが必死に叫ぶ。涙が溢れた。
見捨てたら自分はひとでなしだ。
けれど、けれど自分の腕の中で震えるこの弱い女の子を見捨てたらもっともっと人でなしだ。
唇を噛んだ。
「……ごめん、あんぱんまん」
「い、いいよ、はや、く、行け」
どきんちゃんを抱きかかえて走り出した。
「ちくしょう待てこのやろう」
というかれーぱんまんの怒号がねっとりと糸を引くように耳の奥でいつまでも響いていた。
464 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:35:09.63 ID:6CYMarEf0
真っ暗な森の中を走りに走ってようやくどきんちゃんの家が、はるかかなた豆粒ほどに見えてきた。
どきんちゃんを抱きかかえたままでは体力の消耗が驚くほど早くて肺が重く痺れてきた。
息が荒い。
「は、は、はあ」
「しょ、しょくぱんまん様無理しないで。あたし歩けます」
「い、いや、だいじょ…う…ぶ」
「あたしこそもう大丈夫ですってば!おろしてください!」
どきんちゃんがいやいやをするように腕の中で暴れる。
しょうがなく降ろすと、なるほど体がひどく軽く感じられた。
466 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:37:27.96 ID:ARBalgwX0
+ ∧_∧ + +
(0゚・∀・) ワクワク 。
oノ∧つ⊂) +
( (0゚・∀・) テカテカ 。
∪( ∪ ∪ 。
と__)__) +
468 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:39:16.56 ID:6CYMarEf0
「いや……ふう。大丈夫だった?どきんちゃん」
「あたしは大丈夫です。それよりしょくぱんまん様、大丈夫ですか?凄い汗」
「いや、ぼくはだいじょう、」
どすん。
瞬間目の前に火花が散った。
誰に殴られたかなんてのはもう考える余地もない。
どきんちゃんの悲鳴。倒れ伏している自分。
「ざまあみろ、食パン野郎」
565 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:06:13.93 ID:gNBHzbHD0
「離して!離してよッ!」
「だあっ、もうっ、暴れんな!」
「厭!はなしてえ!」
暗い森の中をひたすらに疾走する。
手にはほどほどに重い暴れるどきんちゃん。
鍛えているはずの体にもこれは重労働で、いくぶんも走らないうちに息が上がり始めた。
「くっ……はあ、ぜえ。くそっ…」
「離して!しょくぱんまん様になんてことするのよお!」
喚くようにどきんちゃんが暴れる。
うるせえ黙れ。痺れを切らして怒鳴る。
どきんちゃんがぶるりと身を震わせてやがて静かになった。
591 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:23:53.53 ID:gNBHzbHD0
森の中には一片の光もない。
ただ自分の乱れた吐息とどきんちゃんの静かな吐息がこだまする。
濁った汗が自分の頬を流れていった。
腕の中のどきんちゃんが目を伏せて呟く。
「………あんた、ばいきんまん?」
「ち、ちげえっ、っは、はあっ、ぜえ。違えよっ」
「……嘘つかなくてもいいわよ。似てるのよ、仕草が」
「違うっつってんだろ!」
「じゃあ、じゃあばいきんまんはどこなのよ!!」
強い、強い声だった。
疲れた体に重く染みる強い語調。
「知るか!くそっ!黙ってろ!」
「じゃああんたなんであたしの家に向かって走ってるのよ!」
びき、と。
意識に亀裂が入る音がした。
601 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:30:57.35 ID:gNBHzbHD0
意識にヒビが入る。
歩みが停まる。
ただ乱れた吐息だけがこだましていていた。
あれ、俺、なんで、? ?
手の筋肉が弛緩してドキンちゃんを取り落とした。
いたあい、という悲痛な声。
「……あれ、俺?」
「い、いたあい」
「……あれ、あれ、あ。あ?ああ?あああ?」
「…え、ちょ、なによ」
「え、おれ、みんなをなぐ、なg、棒で、なg、あ、ああ?ああ?」
「……や、やだ気持ち悪い。なによ」
「なgなgなg殴ったんだngなgなgなgあ?ああ?あああ?」
意味がわからない。
何が?何が?なにがあ?ああ?あああ?
ざくりと草を踏む音がして振り返ったあ?あああ?あああああ?
「……お疲れ様、カレーパンマン」
「ああおまえはああ?あああ?ああ?」
どきんちゃんが悲鳴を上げたあ?あああああああ?ああああああ?
「……君の役目は終わりだよ」
ああ?あああ?
602 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:31:59.79 ID:Hl83cUit0
まさかの…
603 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:32:04.77 ID:GXBbV8muO
なんというホラー
604 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:33:01.20 ID:BaYZVIx9O
なぐなぐぎゃああああ
605 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:33:19.87 ID:j37EtWOC0
サザエさんのペット何とか思い出した
606 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:33:35.11 ID:sUA8QUfB0
ひやあああああ
607 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:33:59.21 ID:7ITq8mDz0
あああ?あああああ?ああああ
あ
でんわ でろ
609 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:35:40.63 ID:BaYZVIx9O
>>607
風呂入れなくなった
610 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:35:53.87 ID:0VaPYMhi0
>>607
ぶwwww
612 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:37:26.24 ID:O4Jj6HgZ0
>>607
ちょwww思い出させんなwww
やべぇトイレいけねぇ
619 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:39:31.38 ID:gNBHzbHD0
「君の役目は終わりだよ。」
暗闇が手を振りかざした。
ぽってりとしたシルエットが暗闇の中に浮かんでいる。
ハネと、ショッカク。
「出ておいで、かびるんるん」
低い、声。
倒れ伏したかれーぱんまんの中からかびるんるん達が這いだしてくる。
蟻さながらだった。
そして陰っていた月が徐々に雲から抜け出していく。
薄い月明かりが充満していく。
暗闇が月明かりに喰われていく。
ぽってりとしたシルエット。
ショッカク。
ハネ。
ぎょろついた目。
ああ、ああ。
探していたのだ。
「ただいま、どきんちゃん」
623 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:43:25.91 ID:gNBHzbHD0
「ただいま、どきんちゃん。」
その一言で、自分の両目から凄まじい勢いで涙が溢れるのを感じた。
嗚咽が漏れる。
声が掠れる。
ああ、ああ。探して、いたのだ。
「……ばいきんまん……」
「一人にしてごめんね」
木立の中に埋もれるように立っているばいきんまんに縋り付く。
涙が止まらなかった。
626 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:44:17.81 ID:2ioqWdIcO
濡れ場はまだかね
628 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:44:38.28 ID:BaYZVIx9O
ウオオオ!ドキンンン!
624 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:43:48.55 ID:WtO63DruO
うわあっ
631 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:46:00.77 ID:6oqnPEnRO
心臓がドキンドキンいってるアアア!
635 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:48:14.91 ID:gNBHzbHD0
「……う、ひっく、うう。ひどいじゃない。どうして、」
「ごめんね。ごめんね……」
「きれいになれなくてごめんね。」
ばいきんまんが低く呟いた。
え?と聞き返したらばいきんまんはただ
寂しそうにふがいない俺様でごめんねと呟く。
「なにが、う、ぐすん、ひっく。何が、よ?」
「きれいになりたかっただろ、どきんちゃんは」
「そりゃきれいになれるなら、ひ、ひっく、なりたいわよ」
「ごめんね」
ばいきんまんが再度ごめんねと呟いて自分の首根に顔をうずめてきた。
ふんわりとばいきんまんのにおいでいっぱいになる。
636 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:49:35.59 ID:JgSqHTH90
これは映画k…
おっと、誰か来たようだ
637 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:50:37.13 ID:BaYZVIx9O
>>636
行っちゃらめえええ
638 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:53:40.98 ID:gNBHzbHD0
「はあはあ」
と、周囲に聞こえる音は自分の拍動の音と荒れた息の音だけだった。
脂汗に似た液体が首を伝って鎖骨まで落ちていく。
「……は、はあ、はあ。っく……!」
「……しょくぱ…まん…」
「だ、だいじょうぶです……わ、私はっ…大丈夫です…」
「………ぼくを…置いてい…け…」
「い、や、で、す…!」
頭がクラクラしている。
グレーマーブルに歪んだ景色は今朝方を思い出させた。
(そ、そもそもあの時どきんちゃんにぶつかりかけた…から…)
(今…こんな…事に…なってるんですけどね…!)
「……重いだ…ろ…置い…い…けよ…」
「い…いや…です…!!」
食いしばった歯は割れそうだった。
踏ん張った手足は千切れそうだった。
あんぱんまんを背負う背中は砕けそうだった。
けれど。
「今度こそ……見捨てはしませんか、らね…!!」
642 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:56:16.83 ID:7ITq8mDz0
泣いた
646 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:57:55.19 ID:c2DceiB0O
・・・ふぅ
649 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:59:05.87 ID:LikfUtK60
こ・・・この食パン野郎・・・・
650 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:00:44.30 ID:gNBHzbHD0
「…ごめんね」
「なんであやまるのよう。気持ち悪いわねえ」
ひどいなあ、とばいきんまんが眉尻を下げて少しばかり笑ってからふっと真剣な表情になる。
「……覚えてないの?」
「覚えて…って…何がよ」
「だって、どきんちゃん、きれいになりたいって」
「そんなのいつも言ってるわよ。何?」
「………ほんっとーに、覚えてないの?」
「何がよ?」
意味がわからない。
隠そうともせずそう言うと、ばいきんまんががっくりと膝をついた。
え、な、何よ。あたし、なんかひどいこと言った?
「……どきんちゃんが、菌のまんまじゃしょくぱんまんと結婚できないっていうから」
「そ、そりゃできないわよ」
「菌じゃなくなる方法、ずっと、考えてたんだ」
「……は?」
652 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:03:35.81 ID:6rRoriZS0
ばいきんまん良い子すぎる
655 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:04:35.01 ID:7M5lB0rc0
ばいきんまんこそ主人公
656 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:06:29.27 ID:IGhnnE+vO
なにこの切なさ
657 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:06:33.19 ID:gNBHzbHD0
「色々やって、色々考えて、結局食品であるあんぱんまん達の体を乗っ取るのが一番良いって、ことに、なったから」
「………かびるんるんをかれーぱんまんに仕込んだの?」
「うん、手紙で呼びだしたらアッサリ来た」
「……ご、ごめん意味がよくわかんないわ」
どきんちゃんは真面目に混乱しているらしく目を白黒させている。
自分は愛しい彼女の願いさえ叶えられないのだ。
「………どきんちゃんを、菌じゃないきれいな体にしたかったんだ」
ごめんね、どきんちゃん。ふがいない俺で、ごめんね。
眉尻を下げて呟いたらなんでだか殴られた。
ぐえっ、と気管から空気が押し出されて妙な声が出た。
「痛い、どきんちゃん何するんだよ」
と叫ぶと、どきんちゃんはどうしてだか物凄い泣き方をしていた。
661 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:08:36.51 ID:o2E7k5v4O
ああなんか切ないな…
ばいきんまんはドキンちゃんの願いを叶えたかっただけだったんだな…
662 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:08:38.21 ID:PdbVnFVU0
せつねえええええええ
663 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:09:38.87 ID:DyUQlrueO
バイキンマン・・・
665 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:09:50.47 ID:RUt1Cmbi0
バイキンマンなんて一途な
668 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:11:24.07 ID:gNBHzbHD0
「……ばいきんまんのバカ!!あたしが他の男と結婚してもいいの!?」
「え?」
どきんちゃんが突進してくる。
胸をぼかぼかと柔らかな拳が叩く。苦しい。
「バカ!バカ!ばいきんまんのバカ!あたしがっ!他の男と結婚してもいいの!?」
「ぐ、ぐえっ。く、苦しいよどきんちゃん」
「バカバカバカバカ!あ、あたしっ…あたしは…!
あんた意外に結婚したいやつなんていないのよ!バカ!ヒクツ!」
ここまで一気に捲したてられてどきんちゃんは号泣した。
バカバカ、ばいきんまんのバカ。
どうせならあたしを一人にしたことのほうにあやまりなさいよお。バカ。
泣いて叫んでどきんちゃんは俺に抱き付いてきた。バカあ。
あたしは菌でもいいのよ、一生汚い菌でもあんたが側にいてくれるんでしょ!バカ!
怒号に気圧されたのか、どうしてだか、自分の頬を生温い涙が流れていった。
670 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:12:19.70 ID:cqjRoTOp0
やばい
ドキンちゃん可愛いw
672 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:12:32.30 ID:a7NXoCYpO
泣いた
673 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:12:48.72 ID:6oqnPEnRO
ドキンちゃんかわいすぎる
674 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:12:48.71 ID:XKzmULmfO
どきんちゃんかわいい
677 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:13:32.97 ID:7DhW1sC40
切ないな・・・・・
>>1
頑張れ
678 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:13:45.82 ID:F/ODOLP70
ぱんつを脱いで支援
684 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:19:15.80 ID:gNBHzbHD0
「………う?」
「ああ!気が付いたんですね!かれーぱんまん!」
「大丈夫?かれーぱんまん」
「……え?ぅっ…」
目を開けたらしょくぱんまんとあんぱんまんと、バタ子がいた。
みんな一様に嬉しそうにしている。
起きあがろうとして後頭部がひどく痛んだ。眉を顰める。
「ああっ、無理しないでください!まだ顔を替えたばかりなんですから」
「くそっ…いってえ。おいら、どうなっちまったんだ?ここどこだよ?」
「近所の山です。……かびるんるんに操られてたんですよ」
「ええ?おいらが?まっさかあ。嘘言うなよしょくぱんまん」
「う、嘘じゃありませんよ!まったくあなたは心配掛けて!」
「なにおう!?やんのか?」
「誰かそんなことしますか!私は野蛮人じゃありませんからね!」
「……ふふ、いつも通りですね。あの二人」
「そうねえ。良かったわ。だってかれーぱんまん、様子が変だったもの」
「そうですよね、僕も……うっ」
「ああ、あんぱんまん、顔替えたばかりなのよ。無理しないで」
708 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:31:31.26 ID:gNBHzbHD0
ひとしきりどきんちゃんは大泣きして静かになったと
思ったら自分に抱き付いて離れなくなった。
「……ばかあ、」
「ちょ、ちょ、どきんちゃん!」
「…あたしにはあんただけなのよ」
もわもわと頬が熱くなる。
こんなに甘えてくるどきんちゃんを見るのは初めてかも知れない。
717 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:34:56.77 ID:gNBHzbHD0
しばらくそうしていた。
がさ、がさがさ。
草木を踏む音が聞こえた。
頬が引きつる。
「……大変だ」
「え?何が?」
「あんぱんまん達だ。見つかった」
精一杯に焦燥しているのにどきんちゃんは自分から離れようとしない。
「どきんちゃん離れて」
と言ってもぎゅうっとくっついたままだ。
「は、離れて、どきんちゃん。どきんちゃんまでアンパンチ喰らうよ」
「……いいわよ。誰が今更そんなの気にするもんですか。
それよりばいきんまん、あんたしょくぱんまん様に迷惑かけたんだから
あとでちゃんと菓子折持って謝りに行くのよ!
あと利用しちゃったかれーぱんまんにもね!」
いつも通りのつんつんした態度のどきんちゃんを見て、笑みがこぼれた。
「畏まりました、おひめさま」
********
トリプルパンチの炸裂した夜空に、やけに嬉しそうな二人分のバイバイキンの声が、いつまでも響いていた。
~fin~
720 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:36:14.93 ID:1sreo4WV0
なんというハッピーエンドだ・・・
729 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:37:02.55 ID:cqjRoTOp0
(;∀;)イイハナシダナー
732 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:37:39.37 ID:RUt1Cmbi0
乙乙
こういう話好きだ
次も楽しみにしてる
743 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:39:22.84 ID:eg8mmcJ8O
乙
ばいきんまんのような一途な喪男でありたい
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4577034565/2log0d-22/ref=nosim/
穏やかな昼のことだった。
いつもの如くしょくぱんまんはワゴンを駆って
パトロールに励んでいたし、あんぱんまんもかれーぱんまんもパトロールに勤しんでいた。
代わり映えなく滞りなく平常運行している穏やかな昼のことだった。
ワゴンを駆る自分の手。
ワゴンの前に赤い影が飛び出してきた。
「え、え、う、わあああっ!?」
慌ててハンドルを切る。人影にあたることなく茂みに突っ込む。
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:15:35.53 ID:6CYMarEf0
「あいたた……」
目の前が奇麗なグレーマーブルに歪んでいて目を顰めた。
後頭部を強く打ってしまって視界が歪む。
舌打ちをした。丁度大きな木にぶつかっていて
フロントガラスに細やかなヒビが入っている。
(く、うー。誰ですかもう…飛び出しなんて危ない…)
文句も兼ねてたったいま飛び出してきた人影を振り返る。
「あのねえ、急に飛び出したら危な―――――…」
「しょくぱんまん様ッッ!」
「え、うわ!?」
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:18:26.70 ID:6CYMarEf0
泣き腫らした目をしたどきんちゃんが走り寄ってくる。
しょくぱんまん様ぁ、とワゴン越しに縋るように腕を掴まれた。
食品と菌という相容れないものである自分達であるから
どきんちゃんが掴んだ自分の腕に緑色の黴ががじわりと広がっていった。
(ぅっ……)
触らないで、と腕を振り払うことは容易いのにできない。
だってこの子は泣いている。泣いて助けを求めている。
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:21:19.66 ID:6CYMarEf0
泣き腫らした真っ赤な目。
いつもつんとしているおしゃれさんなどきんちゃんの
面影はそこになく、ただ涙と鼻水でぐちゃぐちゃの
子供っぽいかおがそこにあるだけだった。
「……どうしたんですか」
「助けて、助けてください。お願い。お願い、します」
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:27:04.78 ID:6CYMarEf0
そんなこともあり今、助手席にはティッシュで鼻をかむどきんちゃんが乗っている。
幸いフロントガラスの損傷があったものの基本的には大丈夫だった愛車に感謝しつつ走行する。
「………だいじょうぶですか、どきんちゃん」
「う、ひっく、ずび、ふ、ひっく。ごめんなさい、あたし…」
どきんちゃんがすまなさそうに頬を染めた。
過ぎたことだからもうしょうがないと割り切った自分は
彼女への怨恨もなく車を運転する。
「いいんですよ」
優しく呟いたら、どきんちゃんはまた泣き始めてしまった。
すこしだけ、日は傾いていた。
42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:32:28.07 ID:6CYMarEf0
「俺はね、」
ばいきんまんが意味深に目を伏せた。
「奇麗になりたかったんだ」
痩せてぎょろついた眼球がぐるうりと回って丁度
化粧台を前に呆ける自分を捕らえる。
本能的な身震いが背筋を舐めていった。死んだ目をしている。
ひたすらに、濁っている。
「………奇麗に、なりたかったんだ」
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:40:15.16 ID:6CYMarEf0
「……え、それで、」
「………いなくなっちゃったの。ばいきんまん」
「………ううん…?」
顎に手をやる。
信号待ちのけだるい数分間は黙考に最適で、丁度今も最適な数分間となっている。
「……キレイになりたい…ですか…」
「そうなの。朝起きたらいなくて、あたし、怖くて……」
来てしまってごめんなさい、とどきんちゃんが頭を再度下げた。
構わないですよ、と笑う。
どきんちゃんの丸い目からまたぽろぽろと涙がこぼれていく。
「ごめんなさいなんだかあたし情緒不安定で」
という彼女に、つい、ついうっかり、
「それならうちに来ませんか。おうちに一人なんですよね?」
そう、言ってしまった。
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:42:50.03 ID:NFIn7nQkO
全体!ズボンを下に下ろせぇ!
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:45:27.73 ID:6CYMarEf0
それならうちに来ませんか。
その一言でどきんちゃんの顔がぱあと明るくなる。
しまったと思う反面、泣き止んでくれたうれしさがあった。
真っ赤な目でありがとう、とはにかむどきんちゃんは
普通に女の子で、少しだけどきどきした。どきんちゃんが
「やだ安心したらまた」
と小さく呟いてずいぶんと勢いの弱まった涙を拭った。
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:51:11.12 ID:6CYMarEf0
「あらっ。かれーぱんまんににあんぱんまんおかえりなさい」
ドアが開く音がしてバタ子はオーブンを弄る手を止めた。
土埃でくたびれたマントをはためかせてあんぱんまんとかれーぱんまんが立っている。
かれーぱんまんがぞんざいに
「ただいまあ」
と言い放って奥の自室に走っていった。
あんぱんまんはくすくす笑う。
「どうしたの、かれーぱんまん。御機嫌ななめ?」
「はは。見たいテレビがあるんじゃないかな」
「あらー。言ってくれたらあたし録画したのに
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 00:57:29.33 ID:6CYMarEf0
カーステレオから穏やかなバラードが流れてくる。
どきんちゃんは先程からうとうとと眠そうにしていて
溶けるようなこの春日じゃしかたないなあと自分でも思う。
目蓋がとろとろと落ちてきて危うく眠ってしまいそうになるのを堪えてアクセルを踏む。
ちらと横目に見えた公園ではカバオ君達が楽しそうにはしゃいでいる。
(やっぱり、子供は笑ってるのが一番いいんですよね)
カバオ君達の眩しいぐらいきらきらした笑顔を
角膜に思い出させながらちらりと寝息を立て始めたどきんちゃんを見る。
相当焦燥していたようだし疲れても居たのだろう。
気持ちよさそうに眠っていた。
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 01:05:08.51 ID:6CYMarEf0
あっはっはっは、と奥の部屋から
かれーぱんまんの笑い声が響いてくる。
「いやあよく笑ってますねえ」
「そんなに麒麟って面白いかしら」
「僕はノンスタですねー」
「えーあたしオードリーだわ」
「ふふふ、」
バタ子さんがしょくぱんまん、遅いわねえと呟いて煎餅を囓った。
ぼりり、と砕ける音。
塩煎餅のどこか甘いような塩の臭い。
じいっと眺めていたらあんぱんまんもお煎餅どう?
と海苔煎餅を勧められた。
「わ、いいんですか?」
「いいもなにも、家族みたいなもんじゃない」
「へへ、」
「おいしいわよ」
「ありがとうございます」
ぺりぺりと袋をむいて煎餅を囓った。
海苔の香ばしさが鼻を通り過ぎていく。
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 01:18:08.12 ID:6CYMarEf0
「つきましたよー、どきんちゃーん?」
優しくからだをゆすられてはっと目を覚ました。
起き抜けのまぶたは霞む。甘い体温。
「しょ、ぱん 様」
「大丈夫ですか。よく眠ってましたねえ」
「…………あ!」
体を起こそうとして顎に糸引く物を感じた。
よだれ。
「………きゃああああごめんなさいシートがっ」
「あはは。いいんですよ。気にしないで」
「……ごめんなさい……」
恥ずかしさで顔が熱くなる。
しょくぱんまん様は夢にまで見たあの柔和な笑みで自分をやさしく抱き起こす。
色々と無茶苦茶な状況なのに、それなのに愛しい愛しいこの人が自分のために骨を折って
笑ってくれるという事実が震えるほど嬉しくて別の意味で頬が熱くなる。
ワゴンの外はほどほどに小綺麗なアパートだった。
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 01:23:19.54 ID:6CYMarEf0
ほどほどに小綺麗なアパートのなかは想像したとおり、ひどく整頓されていて
どこもかしこのしょくぱんまん様のにおいでいっぱいで、胸がぎゅうっと狭くなる。
「狭いけど、どうぞ、くつろいで」
「あ、はい……」
フローリングの床の冷たさ。
胸の音がうるさい。
(お、お邪魔しちゃった……)
夢みたいだわ。
幸福が胸に充満していく。
それと同時に、朝起きて、隣に誰も居なかったという今朝方の背筋が冷えていくような恐怖が蘇って身震いした。
92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 01:28:46.90 ID:6CYMarEf0
「あー、面白かったぜー!麒麟最高!」
「やーねえもう。オードリーが一番だってば」
「いやあ、麒麟だろ!麒麟最高だあ」
「いーやオードリーね!」
「ふふ、」
子供っぽく言い争うバタ子さんと
かれーぱんまんを眺めていたらあんまりに
穏やかだから笑ってしまった。
「絶対麒麟のほうが……って、あ、ごめん、俺ちょっと出掛けてくる!」
「え、かれーぱんまん、どこ行くんですか」
「そうよお。まだオードリーか麒麟か決めてないじゃない」
「いや、今朝俺の家のポストに用があるから来てくれっていう手紙が」
慌てたようにマントを羽織るかれーぱんまん。
急がねえと約束の時間に遅れちまう、と焦ったように言う。
慌てて玄関から走り出していくかれーぱんまんにバタ子さんが、早く帰るのよーと言った。
96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 01:36:03.79 ID:6CYMarEf0
「はぐ、はふ、はぐっ」
「大丈夫ですか。まずくないですか?」
「ぜ、ぜんじぇんまうぐないれうっ!」
「ふふ、それは良かったです」
疲れを隠して笑う。
どきんちゃんが頬を赤くした。
自分のお手製チャーハンを頬張った口元にごはんつぶが一粒付いていて、
それをとってあげたらふうっと遠い目をして、ああなんとなく消えたばいきんまんのことを考えているのだなと思った。
「ばいきんまんのこと、やっぱり心配ですか」
「………うん」
「大丈夫ですよ、居なくなるような方じゃないですよきっと」
「………ありがとう、しょくぱんまんさま」
107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 01:45:13.37 ID:6CYMarEf0
ほう、と溜息をついた。
隣では座布団を敷いただけの簡素な布団に
タオルケットにくるまったどきんちゃんが眠っている。
(疲れ、たあ……)
あー、と気を抜いた声を出して
リラックスしてから肩を回す。ぺきぺきといい音。
(あー、もう八時…パン工場に顔出さないと…)
(でもどきんちゃん、寝てるし起こせないしなあ……)
流し台では水に漬けられたままの皿がキレイにされるのを待っているし洗濯物もまだ触れていない。
(……まあ、一日ぐらい顔見せなくても、だいじょうぶですかね)
111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 01:55:11.66 ID:6CYMarEf0
一日ぶりの職場。
「………え?」
頭が白くなる。
「…………かれーぱんまん、帰ってきて、ない?」
「そ、そうなのよ…しょくぱんまん、何か知らない!?」
「なんでもいい!かれーぱんについて何か知らないですか!?」
あんぱんまんとバタ子さんが自分に詰め寄る。
咽の奥がからっからに乾いて唾も飲み込めない。
昨日は朝方パトロール前に逢ったっきりでそのあとのことは知らない。
なんだ、この、乾きは。
「……ほ、ほんとに居なくなったんですか」
「ほんとよ!!手紙で呼びだされたって…!」
「本当に何か知らないんですか!?しょくぱんまん!」
首を振るのが精一杯だった。
ただ、家に残してきたどきんちゃんのことをどうしてだか思い出したのだった。
119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 02:03:33.74 ID:6CYMarEf0
「…………暇だわ」
キレイに整頓されたしょくぱんまんさまの部屋。
座布団も床も布団もしょくぱんまん様でいっぱい。
先程仕事へ出て行ったしょくぱんまん様の居ない部屋はあたしの独壇場。
そんな元気ないけど。
緩慢に座布団の海へ沈む。
ほどほどに大きな窓から柔らかな陽差しが降ってくる。
目を細めることすら煩わしくて座布団の中に顔を埋めた。
すこしのホコリくささと、やわらかなお日さまの臭い。
(ばいきんまん、)
(どこ行ったの)
朝起きて、となりにあるはずだと思っていたものが欠片もなく消えていたあの恐怖。
真っ白いシーツがやけにのっぺりして見えたのだった。
(………このあたしを置いていくなんて)
(…早く、迎えに来てくれないかしら)
(…………早く)
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 02:05:24.06 ID:ZhYThYqHO
wktkしながら
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 02:16:13.79 ID:6CYMarEf0
「え?かれーぱんまん?知らないよ」
「そ、そうですか……く、どこに行ったんだっ…」
「……しょくぱんまん、なんかあったの?」
「いっ、いやっ。なんでもないんです。ありがとう、カバオくん」
「んーん。いいよ」
カバオ君がにへ、と子供らしく笑って公園へ戻っていった。
自分はただのし掛かるような焦燥に胃袋を喰われてしまいそうで戦々恐々としている。
こんな聞き込みに意味があるかどうか知らないけれど、縋る希望はこれしかない。
役割上、恨まれる事はいくつもあったしそれはもうしょうがないと割り切っている。
しかし、もしかれーぱんまんが自分達に恨みを持つ人物の罠中に嵌ったりしていたら、その割り切った気持ちはどうなるのだろう。
ただ唇を噛んで、ワゴンに乗り込む。
どうか、無事でいてください。祈るような気持ちでアクセルを踏んだ。
142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 02:28:27.33 ID:6CYMarEf0
「どきんちゃん」
「……んあ?」
昼寝していたら揺り起こされた。
霞む目蓋。眠ってばかりいる自堕落。
「………ん。…………!?」
「ああ、起きた起きた。おはよう、どきんちゃん」
「かっ……かれーぱんまん…!?」
「ふふ、」
反射的に警戒心が脳天まで貫いて
慌てて受け身をとるように自分を抱き締めた。
敵。敵。
「………何の用よ」
「やだな、冷たいな」
相変わらずどきんちゃんは冷たいなあ。
困ったような眉尻を下げる仕草。
網膜に焼き付いた壁が重なる。
「……ばいきんまん?」
147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 02:35:57.27 ID:6CYMarEf0
「違うって。わかるだろ、俺はかれーぱんまんだよ」
「………何しに来たのよ」
「…なんで俺をばいきんまんだなんて思ったんだ」
「う、うるっさいわね!」
「ふふ、不法侵入しちゃだめだろ。どきんちゃん」
「ふ、不法侵入なんかじゃないわ!ちゃんとしょくぱんまん様が」
ちゃんとしょくぱんまん様が招き入れてくれたから
ここに居るのよ、と怒鳴り掛けてはっとした。
かれーぱんまんは狡猾に目を細めている。
「あいつがどうしたって?まさかあいつ敵をかくまってた?」
「………っっ」
「違うだろ。君は『不法侵入』だろ?」
冷たい目が言外にしょくぱんまんを裏切り者にしたくないならとっとと出て行けと語っている。
唇を噛んだ。悔しい、悔しい。けど、あの人に迷惑を掛けられない。
「……わかったわよ。出て行けばいいんでしょ」
159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 03:13:34.16 ID:ARBalgwX0
全部脳内再生される
198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:11:28.58 ID:6CYMarEf0
「………え?」
どく、と。
鼓膜が大きく波打つような錯覚。
一回り大きく拍動を刻んだ自分の心臓。
「いま、なんて?」
「だーからさっ。しょくぱんまん、お前の家にどきんちゃんが忍び込んでたんだって!
危ないトコロだったな、おまえ」
「ぇ、ちょ、……」
え、それ、それって。
呆然とする。なぜ、出て行った。
いくら敵であるかれーぱんまんに見つかったと
言えど彼女は自分がここにいる理由を説明しなかったのだろうか。
あんぱんまんとバタ子さんは危ないところだったわね、と胸をなで下ろしている。
自分はただ頭を掻きむしりたい衝動にかられて拳を握りしめている。
「あ、そろそろ見たい番組始まるや。俺ちょっとテレビみてきまーす」
そう言って自分の横を通り過ぎる際、小さな、小さな声で
「ざまあみろ、食パン野郎」
と呟かれた。
200 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:12:41.52 ID:ns4eFzUcO
カレーのくそったれはどうしようもないな
204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:21:31.20 ID:6CYMarEf0
テレビを見て笑っていたらいきなり部屋の戸が開いた。
後ろを振り返ったら案の定怒りで表情を歪ませたしょくぱんまんが立っていた。
「……よお、食パン野郎」
「…………説明、してもらおうか」
がん、と強く壁に体を押さえつけられて息が詰まった。
しょくぱんまんに肩を押さえ込まれている。
「………説明、してもらおうかッ!」
「…へっ。敵をかくまっといてよく言うぜ。俺はお前を守ってやったんだぞ」
「このっ…!」
「へん、殴んのかよ。おまえさ、このパン工場追い出されたら生きてけねえだろ。
お前を守ってやったんだぜ、俺はよ」
「…――~~ッッ!!」
「ウッ」
どす、と重い拳が右頬にきた。
そのまま壁に頭を打ち付けて蹲る。
目に涙を浮かべたしょくぱんまんは息を荒くして
「このやろう」
と呟いて出て行った。ざまあみろ、食パン野郎。
205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:23:04.91 ID:Sfr6jxTIO
カレーUZEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!
208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:26:02.30 ID:JUX3ghY3O
しょくぱんテライケメン
あ、もともとか
209 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:30:31.53 ID:6CYMarEf0
わかったわよ、出て行けば良いんでしょう。
そう言って飛び出した。
「………はあ、ふう」
春先の夜風は胃液まで凍るように冷たくて
首をちぢめても肩を抱いてもただただ無情な
寒さは末端神経からじわじわと自分を蝕んでいく。
(寒い、お腹減った…)
いつも、こんな時なら
「何してるのばいきんまん、寒いじゃない」
の一言ですぐにばいきんまんがなんとかしてくれたのに、
今は、いない。
(……お腹減った)
公園の遊具の中にもぐりこんで寒さを凌ぐ。
ホームレスのように惨めな自分に涙がとまらなかった。
213 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:37:53.25 ID:0z9qplX+0
ちんちん シュッ! シュッ! シュッ! 優良スレ 普通 糞スレ
┝ - - - - - - - - - - - ┿━━━┿━━━┥
(``7‐、 _ /
__/´ ' ノ /
ン-o= ─ 、/_ /)
!O(。 /‐o‐(:::)( i )))
'、'`二'ヽO ン /:: /
ヽi_:ノ! __∠/ソ
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\(ミl_,_(
/. 彡つ\
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(二二) (二二`)
214 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:39:43.14 ID:6CYMarEf0
「……あら?」
夕食を買いに行った帰り、公園の隅で見慣れた影を見つけた。
寒そうに蹲るその華奢な肩。
(………ドキンちゃんかしら)
(こんなところで何してんでしょ)
足音を忍ばせて公園内に滑り込む。
あっというまに華奢な人影に近づいて、声を掛けた。
215 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:41:48.81 ID:6CYMarEf0
「どきんちゃん、よね?」
「ッ」
びく、とその肩が震える。
怯えたように戦慄く顔がこちらを振り返る。
「ねえ、こんなところで何――」
「きゃ、きゃああぁぁああっ」
「きゃっ」
強く突き飛ばされてしりもちをつく。
腰を強く打って背骨に響く鈍痛があった。
「い、痛…」
「……っ。ご、ごめんなさ……」
ごめんなさい、と言いかけてどきんちゃんが自分を助け起こす。
買い物袋の中の卵はグチャグチャに潰れていて
それを見つけたどきんちゃんは泣きそうに俯いて再度
ごめんなさいあたしびっくりして、と消えそうに呟いた。
216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:48:24.59 ID:wxu74FC2O
わくてか
217 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 12:49:34.04 ID:6CYMarEf0
泣きそうに唇を噛んで割れた卵や散らばった
食材を必死に掻き集めてビニール袋に戻す
どきんちゃんの優しさに胸をぽわぽわさせていたら
食材をすべて袋に戻し終えたどきんちゃんが
何度目かわからないごめんなさいを呟いて
公園から走り出していった。
ただ、自分だけが残された。
232 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 13:28:53.54 ID:6CYMarEf0
「……え!?ドキンちゃんに逢った!?」
「そうなのよ。あとごめんなさい、卵潰れちゃったから今晩はチキンライスだわ」
「いえチキンライス好きだからいいですよ、それよりどこで逢ったんですか!?」
「そこの公園よ。どうしたのそんなに慌てて」
バタ子さんが今日のしょくぱんまんは
「何か変ねえ」
とバタ子さんが穏やかに笑った。
がさりとビニール袋が擦れて砕ける音がする。卵がまた割れたのだ。
「……ちょっと僕、アパートに忘れ物してきたので」
「え、ちょっ、しょくぱんまん!晩ご飯は!?」
「いらないです!アパートで食べてきますから!」
パン工場を飛び出す。途端体を蝕んでくる寒さ。
こんな寒さの中で一人どきんちゃんは震えているのだ。
(早く、行かなきゃ…!)
236 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 13:42:11.50 ID:6CYMarEf0
「ふ、ぐすん、ひっく、う、うう」
震えている。寒さでもう末端の感覚はない。
冷えた手で自分の頬に触れてみても一片のぬくさもそこにはなくて
ただただ変につやつやした皮膚がそこにあるだけだった。
(寒い。おなか、へった。暗い。怖い)
バス停のベンチに蹲って寒さを凌いでいる。
この暗さではもうどこにも行けない。
王子様なんていないのはわかっているし自分が助けて貰えないなんて言うのも知っていた。
無慈悲な早さで車が通りすぎていく。ライトが目を灼く。
膝を抱え治して蹲る。王子様なんて居ないのだ。
ぎゃぎゃ、と悲鳴のようなブレーキ音でどこかに車が停車したようだ。
蹲って潰した視界では何も見えないから怖くないのだ。
膝が自分の吐息でしっとりと湿ってくる。
誰かの手が自分の肩に触れた。王子様なんて、
「ここにいたんだね、どきんちゃん」
「……しょく…ぱんまん様…?」
「帰ろう。かれーぱんまんが酷いこと言ったんだってね。ごめんよ」
よしよしと優しく頭を撫でられて涙が溢れた。王子様なんて。
240 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 13:54:11.92 ID:6CYMarEf0
「しょ、く、ぱんまん様ぁ」
「ひとりにしてごめんね。もう大丈夫ですから」
「う、ぅう」
ドキンちゃんが涙でグチャグチャに濡れた頬を拭おうともせず自分に縋り付いた。
驚くほどその体は冷えていて自分のふがいなさでぎゅうっと胸が狭くなった。
よしよし、もう大丈夫ですよ怖くないですよ。
優しくその背をさする。ドキンちゃんのすすり泣く声が少し大きくなる。
よしよし、大丈夫大丈夫。
そのとき。
「………やっぱり、ここにいいたか。食パン野郎」
「――――ッッッ!!」
全身の血が凍り付く。
にやにやといやらしく口元を歪めたかれーぱんまんが道の向こう側に立っていた。
どきんちゃんがひゅう、と短く息を詰めたのがわかった。
243 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 14:07:27.42 ID:6CYMarEf0
「やっぱりなあ、裏切り者」
「か、かれーぱんまんっ…」
一気に車通りのなくなった車道を渡って徐々にかれーぱんまんが距離を縮めてくる。
反射的にふるえるどきんちゃんを抱き締めた。
しょくぱんまん様、とドキンちゃんが戦慄いたように呟く。
どうしてあたしなんかのためにここまでしてくれるんですか。
決まってるでしょうそんなのと囁き返す。
かれーぱんまんはもうそこまで迫ってきている。
「………どきんちゃんから離れろ、食パン野郎」
「……厭ですね。泣いている女の子を放っていけません」
「ゴタクはいーんだよ。追い出されたいのか」
追い出されたいのか。
その一言は重く心にのし掛かった。
生唾を呑む。かれーぱんまんの頬の歪みが深くなった。
「いいのかよ、どきんちゃん。
このままそいつに甘えてると、愛しのしょくぱんまん様がホームレスだぜ」
「…ばっ、馬鹿なこと言うな!大丈夫ですよどきんちゃん、惑わされないで」
「…………」
とん、と。
顔を蒼くしたどきんちゃんが静かに自分を突き放した。
「どきんちゃんはお利口だね」
かれーぱんまんが低く笑った。
244 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 14:08:42.55 ID:vBzWQ9+wO
あああしょくぱんさま愛しいよしょくぱんさま
245 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 14:15:26.01 ID:6CYMarEf0
とん、と。
顔を蒼くしたどきんちゃんが静かに自分を突き放した。
どきんちゃんはお利口だね。かれーぱんまんが低く笑う。
「……え、どきん…ちゃん…?」
「……もういいの。ありがとう、しょくぱんまん様」
自分を優しく拒絶したどきんちゃんが幽鬼のような
足取りでふらふらとかれーぱんまんのもとへ歩んでいく。
かれーぱんまんは笑っている。
「さっさとどっか行っちまえ、食パン野郎」
ふらふらと近づいて行くどきんちゃんの華奢な腕をかれーぱんまんが掴む。
「ほら、さっさとどっか行っちまえ」
かれーぱんまんが言い放つ。
なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ。
思いと裏腹に、脚はあさっての方向へ歩き出した。
247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 14:27:20.32 ID:6CYMarEf0
「ふたりになれたね。どきんちゃん」
「………なんでこんなことするの。なんでよ」
「わかんないかな」
ばいきんまんによく似た仕草で首を曲げる。
吊り上がった口角には皮肉と嘲笑が滲み出ている。
真っ暗な夜道は自分達の他に誰も居ない。
水銀灯の薄明かりがせっせと灰色の影を作り続けるため光り続けている。
「きれいだろ?」
滲むような悪意がじわじわと寄ってくる。
後ずさりした。しょくぱんまん様にこれ以上迷惑は掛けられないのだ。
「それって、水銀灯のこと?」
「どう思う?」
その手が自分の肩に触れた。鳥肌ばかりが大きくなっていく。
252 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 14:34:32.36 ID:SqjEw03mO
カレーはどきんちゃんのこと…
253 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 14:34:48.99 ID:6CYMarEf0
鳥肌が背筋までぎっちりと埋めていく。
かれーぱんまんの姿は水銀灯にほとんど照らされていなくって、自分の肩を掴むその手しか見えない。
(………触らないでよ)
(あたしのこと触って良いのは、)
“ねえ、どきんちゃん”
閉じた目蓋に帰ってくるのはホラーマンでも
かびるんるん達でも、しょくぱんまん様でもなくて、
“ねえ、どきんちゃん。おはよう”
「………ばいきんまんだけよ」
254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 14:43:41.78 ID:6CYMarEf0
「………ふぅん、」
すうとかれーぱんまんの目が冷たくなる。
肩を掴むその手の力がつよくなる。痛みに目を顰めた。
痛みになれていない自分の体はあっというまに感覚ごと白くなっていく。
歯を食いしばった。耐えろ、堪えるのだ。自分よ。
「……そうなんだ」
「…そうよ。悪い?」
「悪くないなあ。嬉しい」
寂しそうにかれーぱんまんが笑う。
どうしてもそこにばいきんまんの影を重ねてしまって胸が痛くなる。
かれーぱんまんが再度口を開こうとして、
どすん。
開こうとして、
「………大丈夫だった?どきんちゃん」
「…しょ、しょくぱんまん様?」
かれーぱんまんが口を開こうとして、後ろから殴りかかったしょくぱんまんの拳に倒れた。
しょくぱんまんは優しく、女の子を見捨てては行けませんよと呟いた。
263 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:05:20.17 ID:Kx7bMcK3O
どきんちゃんってかわいいな…
264 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:08:44.34 ID:6CYMarEf0
「っく………いってえ」
むくりと起きあがる。起きあがった場所は
案の定固く冷たいアスファルトの上だった。
「あんにゃろう…食パンめ」
首を曲げようとして自分の顎に生暖かい
ものが伝っていったのを感じた。鼻血だ。畜生。
(どきんちゃん…は当然連れて行かれてるよな)
(ワゴンもねえ……どきんちゃんごと乗せていったか)
気を取り直して再度起きあがる。土埃を払う。
そうか、逃げたか。それならそれでいい。
(おまえらがその気なら)
(……こっちにも、考えがあんだよ)
口元を乱暴に拭う。鼻血は止まらなかった。
265 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:11:29.39 ID:2YgvejAAO
ワクテカ
267 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:13:41.92 ID:NCEfytEQO
wktkがとまらない
273 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:27:33.68 ID:tnGY+qYKO
この場合かれーぱんまんの鼻血はカレーでいいのか
274 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:29:02.29 ID:2YgvejAAO
>>273
くせぇwwwwwwwwwwwwwww
275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:29:58.70 ID:xhDom2Bu0
>>273
それは流石に駄目だろwwwwwwww
272 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:27:11.23 ID:6CYMarEf0
暗い夜道をワゴンが走る。
水銀灯に照らされたどきんちゃんの横顔は蒼白くって生気が感じられない。
「……安心してください。大丈夫ですよ」
「………ごめんなさい。あたし…」
「大丈夫ですから」
優しく言う。
正直自分も仲間であるかれーぱんまんを殴ってしまった事で胸が痛んだ。
じりじりと穴を開けるような痛みが胃に染み込む。歯がゆい。
ふっとどきんちゃんが
「カーステ、かけていい?」
と聴いてきたのでいいですよと言う。
どきんちゃんの華奢な腕がカーステのボタンを押す。
276 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:31:03.32 ID:6CYMarEf0
《ガ…ガーピピー…ザー…本日未明、食パンマン…ガー…ザザー
ピー………えー、今夜もやってまいりましたミュージックアワー!
みなさんこんばんわ、DJの…》
「……ちょ、ちょっと待って、今…」
「……あ、あたしも聞こえました……まさか…」
ラジオチャンネルからさきほどのニュースチャンネルに切り替える。
《ザー…ザザー…本日未明、食パンマンに殴られたカレーパンマンが
脳震盪を起こしているのを通行人が発見、突然の凶行の影に
見え隠れするバイキンマンとその相方、ドキンちゃんの存在が匂われており……》
がく、とドキンちゃんが真っ白になった。
自分はただあまりのことに何も言えない。
「まさか…こんな…」
277 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:35:44.37 ID:6CYMarEf0
「いやー、ありがとうございました。凄い特ダネですよ」
「いや、俺が役に立てるならいいんだって」
「すいませんね。お礼はあとでさせて頂きますから」
ぺこぺこと俺に頭を下げるラジオ局の局長。
俺は大仰に包帯を巻いた頭を見せつけるように立っている。
殴られたあと、自分の脚で病院へ行きそしてラジオ局に話題が届くように喋った。
案の定この平和な街に突如として転がり込んだ特ダネに食いついてきたラジオ局を犬にするのは容易かった。
「いやー、すごいよ。視聴率も反響も大きく伸びてる」
手放しで喜ぶ局長と職員達を見てほくそ笑んだ。
(ざまあみろ、食パン野郎)
278 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:39:35.82 ID:Sfr6jxTIO
そういえばカレーパンのくせに脳「みそ」あるのか…
279 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:40:49.08 ID:0uAdPgMy0
>>278
隠し味程度にな
287 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 15:53:33.99 ID:6CYMarEf0
「まさか…こんな…」
しょくぱんまん様は脳天を打たれたように呆けているしあたしも同様だった。
「………かれーぱんまんだわ。…きっと」
「…それは…そうだろう、けど」
かれーぱんまん、どうしてこんなことを。
しょくぱんまん様はぼーっとしたように脱力している。
あたしは、もうこれ以上迷惑を掛けられないと、思った。
「……停めて」
「え?」
「停めて!もういいから停めて!あたしのせいで!あたしのせいでッ!」
「え、ちょ、う、うわ、暴れないで!落ち着いてください!」
「いやっ!触らないで!」
シートベルトを外して窓から飛び降りようとしたあたしに業を煮やしたのかしょくぱんまん様が強くアクセルを踏んだ。
車体が揺れる。あたしも、揺れた。
強く頭を打ち付けて、いたあ、という呻きが漏れる。
それを制止するようにしょくぱんまん様が、大丈夫、安心してと優しく呟いた。
王子様みたいだ、と。思った。
302 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:10:11.34 ID:6CYMarEf0
バタ子さんのすすり泣く声が響いている。
アンパンマンは顔を覆っているし、ジャムおじさんはラジオのスイッチを切って自室へ引っ込んだ。
薄暗いパン工場はさらに薄暗く見えてひどく陰鬱だった。
まぁ、子供のように可愛がった子が裏切りを重ね、仲間を殴った最低な奴だと報道されればショックもあるだろう。
「……ああ…しょくぱんまん…どうして」
「大丈夫だったの?かれーぱんまん。あたし、もう…」
うう、と呻くようにバタコさんが顔を伏せた。
自分はただ笑い出したいのを堪えて悲しそうに振る舞っている。
「……でもね、」
「大丈夫かよ、バタ子。無理すんなって」
「あたし、」
バタ子さんが顔を上げた。
どこか強い光を目に宿している。
「あたしね、しょくぱんまんがそんなことすると思えないわ」
303 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:11:26.66 ID:HhOnc0H30
バタコさんktkr
308 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:26:35.22 ID:6CYMarEf0
「あたしね、しょくぱんまんがそんなことすると思えないわ」
度肝を抜かれる。
一瞬、すべてを見透かされたかと思った。
まぁ、そんなわけないんだけれど。
「………バタ子さん」
「あんぱんまんもそう思わない?……あたしは、そう思う」
あんぱんまんに同意を求めるようにバタ子さんがあんぱんまんを振り返る。
あんぱんまんが小さく僕もそう思います、と呟いた。
かっと顔が熱くなる。
313 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:29:47.55 ID:6CYMarEf0
僕もそう思います、と呟いた。かっと顔が熱くなる。
「……なんだよ」
低い、声だった。
「………俺を信じないのかよッッッ!!」
ばあん、と怒りにまかせて机を蹴る。
バタ子さんがびくりと震えた。
ただただふうふうと荒い息で自分は錯乱している。
「………もういい、知らねえ」
「あ、ちょ…かれーぱんまん!待ってよ!」
「触らないでくれよっ!」
バタ子の手を振り払って出て行こうとした、その時。
「………笑いが、隠し切れてないんじゃないの」
低く。
低く低く、いつのまにか傍らに立っていたあんぱんまんが
低く低く俺の耳元に呟いた。バタ子は目を丸くしている。
何も聞こえなかったことにして、そのまま飛び出した。
319 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:39:56.12 ID:Y69yqsNJ0
カレーざまぁwwwww
320 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:40:02.46 ID:qK1tuWgF0
アンパンマン怖ええ
321 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:42:06.21 ID:6CYMarEf0
夜道を走るワゴン。
目指すはどきんちゃんの家でありばいきんまんの家である場所。
「あたしたち…どうなっちゃうの」
「わかりません。でもとりあえずあなたの安全が先です」
必死だった。
先程からカーステはずうっと自分達の悪行について語っている。
正直聴くのも厭だけどこればかりはそうも言っていられない。
(くそっ…このままじゃ……)
ラジオによれば街警察はもう動いているとのこと。
しょうがなくこんな山道を選んで走っている。
しかし舗装されていない道の負担はすさまじく先程から腰が痛くてしょうがない。
「……怖い」
「大丈夫、です、から。もうちょっとの辛抱です」
324 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:44:19.50 ID:Sfr6jxTIO
食パンかっこよすぎwwwww
327 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 16:47:03.18 ID:xhDom2Bu0
食パンが一々かっこいいなwwww
409 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:26:17.73 ID:6CYMarEf0
「もうちょっとの辛抱です」
そう呟いた瞬間、がくんと衝撃が走った。
腰をシートにぶつけて再度痛みがぶりかえす。目を顰めた。
「な、何なんですか…っ」
「あ、あ!しょ、しょくぱんまん様!」
どきんちゃんが金切り声を上げてバックミラーを指さす。
何かと思って覗き込んだバックミラーの中に、
「…………あ、」
ワゴンを片手で止めたままこちらを見るあんぱんまんの姿があった。
あんぱんまんの唇が
「やっと見つけた」
と云ったように見えた。
ゲームオーバーだ。顔を覆った。
410 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:31:37.91 ID:ZyFZRQ2G0
あんぱんまんんn
411 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:33:20.84 ID:op5XulpTO
きたああああ
413 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:35:40.44 ID:6CYMarEf0
「……ラジオ聴いてびっくりしたよ、かれーぱんまんと何かあったの?」
「…いやそういうわけじゃないです。……僕らのこと警察に突き出すんですか」
警察、という単語に敏感に反応したどきんちゃんがびくりと肩を震わせて自分に縋り付いてきた。
よしよし怖くないですよと頭を撫でてやると安心したようにくすんと鼻を鳴らす。
「はは、そんなことしないって」
仲間じゃないですかとおどけたようにあんぱんまんが言う。
心底ほっとした。
「それにしても、何があったかぐらいは説明してくれてもいいんじゃない?」
「……んー、…」
たき火がぱちぱちと音をたてている。
愛車を風よけのようにしてたき火にはげんでいる。
ワゴンを無理矢理止められたあと、最早抵抗の余地はないと
言われるままにワゴンから降りてみたら自分達を待っていたのは
温かな同僚、あんぱんまんの笑顔だった。
「……いやでもほんと、助かりましたよ」
「いや、しょくぱんまんも大変だったみたいだし、別にいいよ」
416 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:40:28.94 ID:8fDiTSGfO
あんぱんは敵か味方か……ゴクリ
418 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:44:18.54 ID:6CYMarEf0
「気にしないで」
とあんぱんまんが笑う。
僕はしょくぱんまん達のミカタです、と言われて肩の力が抜けていく。
あんぱんまんと向かい合うようにして
傍らのどきんちゃんと寄り添ってしばらく、揺れるたき火を眺めていた。
ふいにあんぱんまんが口を開く。
「………僕ね、思うんだ」
「え?」
どきんちゃんが眠そうに目を擦った。
421 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:46:50.33 ID:6CYMarEf0
「……かれーぱんまんの、ことなんだけど」
「な、どうしたんですか急に」
「………かれーぱんまんさあ、ほんとは、」
ぐちゅ。
湿った。
湿った音がした。
「……―――…あんぱん、まん?」
「ァ、ぐ」
白目を剥いたあんぱんまんがぐらりと倒れる。
その、後ろに。
「……かれーぱんまん」
太い棒きれを振り下ろした姿勢で笑うかれーぱんまんの姿があった。
423 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:49:29.19 ID:ZhYThYqHO
……!?
424 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:49:34.36 ID:zKCEmwRFO
ぎゃあああああうううわあああああ
425 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:50:14.45 ID:CUkNroDn0
嘘だアアア阿アアあああ!
426 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:52:14.30 ID:pH7BxalbO
カレー怖ぇぇぇwwwwwwwwwww
427 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:52:32.02 ID:Vwg7aBfpO
あんぱんがああぁぁあぁー
429 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:54:02.39 ID:op5XulpTO
あんぱんさまぁあああぁあ
430 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:54:03.06 ID:UXaTtjvC0
とびちるつぶあん
431 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:54:32.35 ID:AjVLcERsO
怖すぎワロタwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
432 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:55:38.08 ID:6CYMarEf0
どきんちゃんの甲高い悲鳴が鼓膜を突く。
後頭部を歪にへこませたあんぱんまんが倒れ伏している。たき火が頼りなく揺れる。
「……見つけたぜ。食パン野郎」
「か、かれー…ぱんまん…。な、なんて事を…」
「きゃ、ぁ、ぁあああぁぁあああああ!!」
どきんちゃんが高い金切り声を上げて自分の肩にすがりつく。
オレンジ色の炎に照らされたかれーぱんまんの横顔は狂気にまみれている。身震いした。
「……さあ、裏切り者の食パン野郎、どきんちゃんから離れろ」
「くっ…、まだ言うかっ!裏切り者はどっちですか!
どきんちゃん、私から離れないでください!」
「う、うん、わかった。しょくぱんまん様」
ぎゅう、と強くどきんちゃんを抱き締めた。
狂気に淀んだかれーぱんまんはもうそこまで迫っている。
433 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:00:13.91 ID:ZhYThYqHO
早く新しい顔を…!!
435 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:04:21.66 ID:NCEfytEQO
いやあああああ
436 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:06:54.62 ID:6CYMarEf0
ざく、ざく、と無情なまでに滞りなくかれーぱんまんは近寄ってくる。
後ずさりを続けていたらワゴンに行く手を阻まれこれ以上後退できない。
「……さっさとどきんちゃんから離れな、食パン野郎」
「い、厭です。プライドは売れません」
「しょ、しょくぱんまん様」
「大丈夫、絶対守りますから、離れないで」
ついにかれーぱんまんとの距離が一メートル以下ほどになる。
自分の心臓の鼓動がひどくうるさい。純粋に怖かった。
「そうかい、じゃあ、死にな」
かれーぱんまんが木の枝を大きく振り上げる。
どきんちゃんだけは守れるようにと華奢な躯を強く抱いて目をつぶる。
446 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:17:49.85 ID:6CYMarEf0
「……?」
目をつぶっても思っていたような衝撃はいっこうに来ない。
恐る恐る目を開けると必死の形相でかれーぱんまんの足元に齧り付く
半分ほど頭を潰されたあんぱんまんの姿があった。
「く、くそっ、放せ!あんぱんまんっ!」
「だ、れ、が、離すもん、かあ…!」
脂汗をながしながら必死にかれーぱんまんの歩みを止めるあんぱんまん。
かれーぱんまんが
「くそ、この、はなせ」
と叫んであんぱんまんの顔をがむしゃらに踏みつけた。
みるみるうちに顔が崩れていく。
「くそっ、このっ、はなせッ!」
「い、や、で、す……!!」
「あ、あんぱんまん!無茶しないでくださいっ!」
「ぼ、ぼくは、だ、だいじょう……ぶ…だから…はやく逃げ…」
「くそっ、このっ!」
「もうやめろかれーぱんまん!あんぱんまんが死んでしまうッ!」
449 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:22:35.78 ID:Ngfzd5+/0
このカレーパンマンは辛口
450 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:24:12.01 ID:6CYMarEf0
「く、ううっ!はやく、早く逃げ、」
あんぱんまんが必死に叫ぶ。涙が溢れた。
見捨てたら自分はひとでなしだ。
けれど、けれど自分の腕の中で震えるこの弱い女の子を見捨てたらもっともっと人でなしだ。
唇を噛んだ。
「……ごめん、あんぱんまん」
「い、いいよ、はや、く、行け」
どきんちゃんを抱きかかえて走り出した。
「ちくしょう待てこのやろう」
というかれーぱんまんの怒号がねっとりと糸を引くように耳の奥でいつまでも響いていた。
464 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:35:09.63 ID:6CYMarEf0
真っ暗な森の中を走りに走ってようやくどきんちゃんの家が、はるかかなた豆粒ほどに見えてきた。
どきんちゃんを抱きかかえたままでは体力の消耗が驚くほど早くて肺が重く痺れてきた。
息が荒い。
「は、は、はあ」
「しょ、しょくぱんまん様無理しないで。あたし歩けます」
「い、いや、だいじょ…う…ぶ」
「あたしこそもう大丈夫ですってば!おろしてください!」
どきんちゃんがいやいやをするように腕の中で暴れる。
しょうがなく降ろすと、なるほど体がひどく軽く感じられた。
466 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:37:27.96 ID:ARBalgwX0
+ ∧_∧ + +
(0゚・∀・) ワクワク 。
oノ∧つ⊂) +
( (0゚・∀・) テカテカ 。
∪( ∪ ∪ 。
と__)__) +
468 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 22:39:16.56 ID:6CYMarEf0
「いや……ふう。大丈夫だった?どきんちゃん」
「あたしは大丈夫です。それよりしょくぱんまん様、大丈夫ですか?凄い汗」
「いや、ぼくはだいじょう、」
どすん。
瞬間目の前に火花が散った。
誰に殴られたかなんてのはもう考える余地もない。
どきんちゃんの悲鳴。倒れ伏している自分。
「ざまあみろ、食パン野郎」
565 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:06:13.93 ID:gNBHzbHD0
「離して!離してよッ!」
「だあっ、もうっ、暴れんな!」
「厭!はなしてえ!」
暗い森の中をひたすらに疾走する。
手にはほどほどに重い暴れるどきんちゃん。
鍛えているはずの体にもこれは重労働で、いくぶんも走らないうちに息が上がり始めた。
「くっ……はあ、ぜえ。くそっ…」
「離して!しょくぱんまん様になんてことするのよお!」
喚くようにどきんちゃんが暴れる。
うるせえ黙れ。痺れを切らして怒鳴る。
どきんちゃんがぶるりと身を震わせてやがて静かになった。
591 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:23:53.53 ID:gNBHzbHD0
森の中には一片の光もない。
ただ自分の乱れた吐息とどきんちゃんの静かな吐息がこだまする。
濁った汗が自分の頬を流れていった。
腕の中のどきんちゃんが目を伏せて呟く。
「………あんた、ばいきんまん?」
「ち、ちげえっ、っは、はあっ、ぜえ。違えよっ」
「……嘘つかなくてもいいわよ。似てるのよ、仕草が」
「違うっつってんだろ!」
「じゃあ、じゃあばいきんまんはどこなのよ!!」
強い、強い声だった。
疲れた体に重く染みる強い語調。
「知るか!くそっ!黙ってろ!」
「じゃああんたなんであたしの家に向かって走ってるのよ!」
びき、と。
意識に亀裂が入る音がした。
601 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:30:57.35 ID:gNBHzbHD0
意識にヒビが入る。
歩みが停まる。
ただ乱れた吐息だけがこだましていていた。
あれ、俺、なんで、? ?
手の筋肉が弛緩してドキンちゃんを取り落とした。
いたあい、という悲痛な声。
「……あれ、俺?」
「い、いたあい」
「……あれ、あれ、あ。あ?ああ?あああ?」
「…え、ちょ、なによ」
「え、おれ、みんなをなぐ、なg、棒で、なg、あ、ああ?ああ?」
「……や、やだ気持ち悪い。なによ」
「なgなgなg殴ったんだngなgなgなgあ?ああ?あああ?」
意味がわからない。
何が?何が?なにがあ?ああ?あああ?
ざくりと草を踏む音がして振り返ったあ?あああ?あああああ?
「……お疲れ様、カレーパンマン」
「ああおまえはああ?あああ?ああ?」
どきんちゃんが悲鳴を上げたあ?あああああああ?ああああああ?
「……君の役目は終わりだよ」
ああ?あああ?
602 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:31:59.79 ID:Hl83cUit0
まさかの…
603 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:32:04.77 ID:GXBbV8muO
なんというホラー
604 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:33:01.20 ID:BaYZVIx9O
なぐなぐぎゃああああ
605 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:33:19.87 ID:j37EtWOC0
サザエさんのペット何とか思い出した
606 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:33:35.11 ID:sUA8QUfB0
ひやあああああ
607 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:33:59.21 ID:7ITq8mDz0
あああ?あああああ?ああああ
あ
でんわ でろ
609 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:35:40.63 ID:BaYZVIx9O
>>607
風呂入れなくなった
610 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:35:53.87 ID:0VaPYMhi0
>>607
ぶwwww
612 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:37:26.24 ID:O4Jj6HgZ0
>>607
ちょwww思い出させんなwww
やべぇトイレいけねぇ
619 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:39:31.38 ID:gNBHzbHD0
「君の役目は終わりだよ。」
暗闇が手を振りかざした。
ぽってりとしたシルエットが暗闇の中に浮かんでいる。
ハネと、ショッカク。
「出ておいで、かびるんるん」
低い、声。
倒れ伏したかれーぱんまんの中からかびるんるん達が這いだしてくる。
蟻さながらだった。
そして陰っていた月が徐々に雲から抜け出していく。
薄い月明かりが充満していく。
暗闇が月明かりに喰われていく。
ぽってりとしたシルエット。
ショッカク。
ハネ。
ぎょろついた目。
ああ、ああ。
探していたのだ。
「ただいま、どきんちゃん」
623 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:43:25.91 ID:gNBHzbHD0
「ただいま、どきんちゃん。」
その一言で、自分の両目から凄まじい勢いで涙が溢れるのを感じた。
嗚咽が漏れる。
声が掠れる。
ああ、ああ。探して、いたのだ。
「……ばいきんまん……」
「一人にしてごめんね」
木立の中に埋もれるように立っているばいきんまんに縋り付く。
涙が止まらなかった。
626 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:44:17.81 ID:2ioqWdIcO
濡れ場はまだかね
628 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:44:38.28 ID:BaYZVIx9O
ウオオオ!ドキンンン!
624 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:43:48.55 ID:WtO63DruO
うわあっ
631 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:46:00.77 ID:6oqnPEnRO
心臓がドキンドキンいってるアアア!
635 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:48:14.91 ID:gNBHzbHD0
「……う、ひっく、うう。ひどいじゃない。どうして、」
「ごめんね。ごめんね……」
「きれいになれなくてごめんね。」
ばいきんまんが低く呟いた。
え?と聞き返したらばいきんまんはただ
寂しそうにふがいない俺様でごめんねと呟く。
「なにが、う、ぐすん、ひっく。何が、よ?」
「きれいになりたかっただろ、どきんちゃんは」
「そりゃきれいになれるなら、ひ、ひっく、なりたいわよ」
「ごめんね」
ばいきんまんが再度ごめんねと呟いて自分の首根に顔をうずめてきた。
ふんわりとばいきんまんのにおいでいっぱいになる。
636 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:49:35.59 ID:JgSqHTH90
これは映画k…
おっと、誰か来たようだ
637 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:50:37.13 ID:BaYZVIx9O
>>636
行っちゃらめえええ
638 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:53:40.98 ID:gNBHzbHD0
「はあはあ」
と、周囲に聞こえる音は自分の拍動の音と荒れた息の音だけだった。
脂汗に似た液体が首を伝って鎖骨まで落ちていく。
「……は、はあ、はあ。っく……!」
「……しょくぱ…まん…」
「だ、だいじょうぶです……わ、私はっ…大丈夫です…」
「………ぼくを…置いてい…け…」
「い、や、で、す…!」
頭がクラクラしている。
グレーマーブルに歪んだ景色は今朝方を思い出させた。
(そ、そもそもあの時どきんちゃんにぶつかりかけた…から…)
(今…こんな…事に…なってるんですけどね…!)
「……重いだ…ろ…置い…い…けよ…」
「い…いや…です…!!」
食いしばった歯は割れそうだった。
踏ん張った手足は千切れそうだった。
あんぱんまんを背負う背中は砕けそうだった。
けれど。
「今度こそ……見捨てはしませんか、らね…!!」
642 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:56:16.83 ID:7ITq8mDz0
泣いた
646 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:57:55.19 ID:c2DceiB0O
・・・ふぅ
649 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 00:59:05.87 ID:LikfUtK60
こ・・・この食パン野郎・・・・
650 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:00:44.30 ID:gNBHzbHD0
「…ごめんね」
「なんであやまるのよう。気持ち悪いわねえ」
ひどいなあ、とばいきんまんが眉尻を下げて少しばかり笑ってからふっと真剣な表情になる。
「……覚えてないの?」
「覚えて…って…何がよ」
「だって、どきんちゃん、きれいになりたいって」
「そんなのいつも言ってるわよ。何?」
「………ほんっとーに、覚えてないの?」
「何がよ?」
意味がわからない。
隠そうともせずそう言うと、ばいきんまんががっくりと膝をついた。
え、な、何よ。あたし、なんかひどいこと言った?
「……どきんちゃんが、菌のまんまじゃしょくぱんまんと結婚できないっていうから」
「そ、そりゃできないわよ」
「菌じゃなくなる方法、ずっと、考えてたんだ」
「……は?」
652 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:03:35.81 ID:6rRoriZS0
ばいきんまん良い子すぎる
655 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:04:35.01 ID:7M5lB0rc0
ばいきんまんこそ主人公
656 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:06:29.27 ID:IGhnnE+vO
なにこの切なさ
657 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:06:33.19 ID:gNBHzbHD0
「色々やって、色々考えて、結局食品であるあんぱんまん達の体を乗っ取るのが一番良いって、ことに、なったから」
「………かびるんるんをかれーぱんまんに仕込んだの?」
「うん、手紙で呼びだしたらアッサリ来た」
「……ご、ごめん意味がよくわかんないわ」
どきんちゃんは真面目に混乱しているらしく目を白黒させている。
自分は愛しい彼女の願いさえ叶えられないのだ。
「………どきんちゃんを、菌じゃないきれいな体にしたかったんだ」
ごめんね、どきんちゃん。ふがいない俺で、ごめんね。
眉尻を下げて呟いたらなんでだか殴られた。
ぐえっ、と気管から空気が押し出されて妙な声が出た。
「痛い、どきんちゃん何するんだよ」
と叫ぶと、どきんちゃんはどうしてだか物凄い泣き方をしていた。
661 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:08:36.51 ID:o2E7k5v4O
ああなんか切ないな…
ばいきんまんはドキンちゃんの願いを叶えたかっただけだったんだな…
662 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:08:38.21 ID:PdbVnFVU0
せつねえええええええ
663 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:09:38.87 ID:DyUQlrueO
バイキンマン・・・
665 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:09:50.47 ID:RUt1Cmbi0
バイキンマンなんて一途な
668 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:11:24.07 ID:gNBHzbHD0
「……ばいきんまんのバカ!!あたしが他の男と結婚してもいいの!?」
「え?」
どきんちゃんが突進してくる。
胸をぼかぼかと柔らかな拳が叩く。苦しい。
「バカ!バカ!ばいきんまんのバカ!あたしがっ!他の男と結婚してもいいの!?」
「ぐ、ぐえっ。く、苦しいよどきんちゃん」
「バカバカバカバカ!あ、あたしっ…あたしは…!
あんた意外に結婚したいやつなんていないのよ!バカ!ヒクツ!」
ここまで一気に捲したてられてどきんちゃんは号泣した。
バカバカ、ばいきんまんのバカ。
どうせならあたしを一人にしたことのほうにあやまりなさいよお。バカ。
泣いて叫んでどきんちゃんは俺に抱き付いてきた。バカあ。
あたしは菌でもいいのよ、一生汚い菌でもあんたが側にいてくれるんでしょ!バカ!
怒号に気圧されたのか、どうしてだか、自分の頬を生温い涙が流れていった。
670 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:12:19.70 ID:cqjRoTOp0
やばい
ドキンちゃん可愛いw
672 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:12:32.30 ID:a7NXoCYpO
泣いた
673 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:12:48.72 ID:6oqnPEnRO
ドキンちゃんかわいすぎる
674 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:12:48.71 ID:XKzmULmfO
どきんちゃんかわいい
677 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:13:32.97 ID:7DhW1sC40
切ないな・・・・・
>>1
頑張れ
678 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:13:45.82 ID:F/ODOLP70
ぱんつを脱いで支援
684 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:19:15.80 ID:gNBHzbHD0
「………う?」
「ああ!気が付いたんですね!かれーぱんまん!」
「大丈夫?かれーぱんまん」
「……え?ぅっ…」
目を開けたらしょくぱんまんとあんぱんまんと、バタ子がいた。
みんな一様に嬉しそうにしている。
起きあがろうとして後頭部がひどく痛んだ。眉を顰める。
「ああっ、無理しないでください!まだ顔を替えたばかりなんですから」
「くそっ…いってえ。おいら、どうなっちまったんだ?ここどこだよ?」
「近所の山です。……かびるんるんに操られてたんですよ」
「ええ?おいらが?まっさかあ。嘘言うなよしょくぱんまん」
「う、嘘じゃありませんよ!まったくあなたは心配掛けて!」
「なにおう!?やんのか?」
「誰かそんなことしますか!私は野蛮人じゃありませんからね!」
「……ふふ、いつも通りですね。あの二人」
「そうねえ。良かったわ。だってかれーぱんまん、様子が変だったもの」
「そうですよね、僕も……うっ」
「ああ、あんぱんまん、顔替えたばかりなのよ。無理しないで」
708 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:31:31.26 ID:gNBHzbHD0
ひとしきりどきんちゃんは大泣きして静かになったと
思ったら自分に抱き付いて離れなくなった。
「……ばかあ、」
「ちょ、ちょ、どきんちゃん!」
「…あたしにはあんただけなのよ」
もわもわと頬が熱くなる。
こんなに甘えてくるどきんちゃんを見るのは初めてかも知れない。
717 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:34:56.77 ID:gNBHzbHD0
しばらくそうしていた。
がさ、がさがさ。
草木を踏む音が聞こえた。
頬が引きつる。
「……大変だ」
「え?何が?」
「あんぱんまん達だ。見つかった」
精一杯に焦燥しているのにどきんちゃんは自分から離れようとしない。
「どきんちゃん離れて」
と言ってもぎゅうっとくっついたままだ。
「は、離れて、どきんちゃん。どきんちゃんまでアンパンチ喰らうよ」
「……いいわよ。誰が今更そんなの気にするもんですか。
それよりばいきんまん、あんたしょくぱんまん様に迷惑かけたんだから
あとでちゃんと菓子折持って謝りに行くのよ!
あと利用しちゃったかれーぱんまんにもね!」
いつも通りのつんつんした態度のどきんちゃんを見て、笑みがこぼれた。
「畏まりました、おひめさま」
********
トリプルパンチの炸裂した夜空に、やけに嬉しそうな二人分のバイバイキンの声が、いつまでも響いていた。
~fin~
720 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:36:14.93 ID:1sreo4WV0
なんというハッピーエンドだ・・・
729 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:37:02.55 ID:cqjRoTOp0
(;∀;)イイハナシダナー
732 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:37:39.37 ID:RUt1Cmbi0
乙乙
こういう話好きだ
次も楽しみにしてる
743 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/01(日) 01:39:22.84 ID:eg8mmcJ8O
乙
ばいきんまんのような一途な喪男でありたい
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4577034565/2log0d-22/ref=nosim/
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コメント一覧
こういう話はいいね
いいハナシダナー
ドキンちゃんかわいいww
読んでて何か燃えたが、あのアンパンマンが、ここまで子供にお勧めできない話になるとはwww
自分の中では擬人化されて映画化決定。
ひねくれモノですまん
俺こういうの好きだわww
これはアンパンの本心かよ
ドキンちゃんの乙女心がいいなーと
ラノベと携帯小説の間みたいな文章のつたなさを感じた。
アンパン系パロディは誰でも考えるけど原作の設定を崩さないまま雰囲気を大人にさせるのって少ない気がする。
しかしどうやったらこれほどの作品が出来るのだろうか
脳内再生はまんまあの絵なんだが・・・
しかしまあカレーの役回りが不憫すぎる気がしたがwww
菓子折りとか現実的(アンパンマン的に)www
いい話なの?これ
なんにせよ、間違いなく名作だった!
感動したw
デフォルメされたドキンちゃん達が
俺の脳内で再生されてたよ
アンパンマンでここまで泣けるとは・・・
ドキンちゃんだけ擬人化ピンク髪ポニーテール超絶美少女で再生された
途中ところどころ意味わからんかったが面白かった
カレーの扱いひどすぐるw
オチでくすりとした
この内容ならやなせさんも納得だろ?
“でんわ でろ”“サザエさん ペット”って何?
バイキンマンのやった事がどうやったらドキンちゃんがキレイな体になる事に繋がるのか誰か教えてくれ
特に最後の方
でも話し自体は面白かった
この>>1は文才ないだろ
最後はきれいにまとめただけで、文章が拙い
ルイズで再生されてた
サスペンス的なものをかきたいのか
はっきりしてほしかった
どきんちゃん罪な女だな
どきんちゃんを菌じゃなくなることにつながるのかが分からないんだが。
誰か教えて。
なんでマントで飛ばな(ry
;p;
視点がぐるぐる変わって読みにくいな
使ってる語彙もなんとなくラノベの香りがw
途中までは良かったんだけどなぁw
誰視点で語ってるのかわかりづらい。
内容はいいと思うんだけど……。
触られても菌は移らないんですけど・・・
ttp://homepage2.nifty.com/osiete/s768.htm
ドキンちゃんはバイキン一族です。
でも面白かったぞクソー
アンパンマンなんてシンプルな素材でここまでの話が書けるのは、一種の文才でしょ。
飽きないし。
たしかに視点はコロコロ変わってるかもだけど。
パン知識な
視点変更がめまぐるしい上に文章がつたない
話自体は面白かったけど
「ほどほど」を多様しているが使い方がおかしいところがチラホラ
まぁ、ガンガレ
べた褒めしてる人はニコニコで神!を連呼してる類かな?
もっといろんな本を読んだほうがいいよ
ドキンちゃんを思ってやったことではあるけど
誰かを殺してそいつに成り代わって幸せになるって発想が狂気染みてると思うんだが・・・
最後殴られるのなやっぱww
ジャムおじさん
…は?
すぎてわからなかった
まぁスレなんだからそもそも批判が的外れなんだけどな、内容は充分楽しかったし
あんまり評価しないな。
むしろこういう話は各個人の心理状態が現れててより面白く感じると思う。
アクセル踏み込んだら危ないぉw
で、なぜか秋山瑞人を思い出した
一途ですっとこどっこいなばいきんまんにちょっと惚れました。
何故カレー乗っ取りがドキンをキレイにするにつながるんだ?
アンパンチで攻撃したりしないけどね
食パンマンとドキンちゃんを結婚させてあげるために研究してたってことだろ?
じゃあなんでカレーパンマンの体をのっとってから、終始、食パンマンとドキンちゃんを引き離そうとしてたんだ?
マジで意味がわからんぞ。
カレー→あんぱん→しょくぱんって形に乗り移って行って最後にどきんちゃんの前に現れれば
厚みが出たかも。3人操るネタは正直難しいけど
しかしおもしろかった。
ってコメントみたら皆それ言っててワロタw
国語力も足りない感じだな、いい話だけどそういう所が気になってしまって駄目だった
話の内容にブレがあるな。
俺の理解力の問題かも知れないが何を楽しめば良かったのか分からん。
つかおおたくん、「でんわ でろ」
自分のとこでまとめてるのに参考リンク張らないのか?
「菌のままじゃ食パンと結婚できない」というドキンのためにカレーの体を用意してたのは誰のため?
ドキン?バイキン?
意味が分からん
カレーの体を菌が乗っ取ったところでカビの生えたパンになるだけだと思うのは自分だけだろうか
違うと思うぞ
>>1の前作はハルヒ 元スレで言ってた
20年経って初めて気付いた
アンパンマン擬人化では定番だよなw
色んな意味で
泣いた
これを思い出す
形容表現じゃなく文体そのものに個性を持たせられないか?
色々おかしい部分はあるが「胸が狭くなる」はないわ。
おもしろいから出直してきてくれ。
内容はとてもいいのに、文や構成がいまいち…
文章の魅せ方をもっと知ることができたら
さらに良い作品ができるんじゃないかな。
次回作に超期待!
…誰か文才のある方、この話を内容そのままで書き直してみてくれんかなぁ
完成された文しか認めません(キリッ
とでも言いたいのかね?
カレーパン乗っ取った所でカビパンになっちゃうだかもしんないけど、それでもどきんちゃんのために何とかしたいって所がばいきんまんの愛すべき所だと思うんだ。
俺は小説結構読むし、賞ももらったことあるけど、こういうのを批判したりはしないよ。
こういう話は、こういうものとして読むのが筋ってものじゃないの?
なんでこういう話に文章力とか求めるのかな?
いいじゃない、面白いんだからさ。
こういう作品が増えるとうれしいな
しかし、しょくぱんまんのにおいはなんとなく美味しそうだが、ばいきんまんのにおいはちょっと嫌だwww
おもしろかったよ>>1
しょくぱん襲ったのは、割り切って協力するつもりだったけど自分の気持ちが抑えきれず暴走したため、と考えて読んでいた
キャラクターが魅力的だったな
確かに文章は拙いし、途中ややこしくて読みづらいけど
元ネタを崩しすぎずに設定も大していじらずにこのストーリー作った点は素直に上手いと思う
に激しい違和感
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