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2009年12月21日

動画を手にして、妻と職を失った男

 さて今回は、12月14日に行われた原口悦郎被告人(逮捕時58)の裁判の話。罪名は、著作権法違反。

 ファイル共有ソフト「ウィニー」などを使い、映画やテレビドラマを権利者に無断でインターネット上に流通させたとして、元東京消防庁滝野川消防副士長が著作権法違反の疑いで逮捕された、という事件です。
 報道によると、調べに対し容疑を認めた上で「他人に売ったりしなければ大丈夫だと思っていた。消防署でも指導を受けたが、無料で入手したい気持が上回った」と供述。5年間で約3000作品をダウンロードし、うち約1000作品を無断で流通させていたという。

 情報流出の話題でおなじみのウィニーに関する事件です。
 まずは11月16日に行われた初公判から。起訴されたのは、被告人が自宅からパソコンでウィニーにつなぎ、08年11月29日に「デトロイトメタルシティ」、今年2月3日に「マラソン」、2月6日に「蛇にピアス」と「百万円と苦虫女」を不特定多数の人に閲覧可能にして、著作権を侵害したという内容。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は平成15年から「WinMX」の利用を始め、平成17年に回線を光にして、映画のダウンロードが増えたという。逮捕時には「Winny」でダウンロードした動画を少なくとも1116本所持していたとのこと。
 取り調べに対し、被告人は「アメリカンポップスが好きで、ネット上でプロモーションビデオを探しているうちにWinMXを利用するようになった。するようになってからの5年間で、4000本程ダウンロードし、そのうち1000本くらいが映画だった。Winnyを使うのは上司から禁止されていたが、「CSI」や韓流映画が見たかっらので、上司に逆らって利用していた」と述べているらしい。
 そして、被告人質問。まずは、弁護人から。

 弁護人 「問題になってる4本の映画は、ダウンロードしたものですよね」
 被告人 「そうですね」
 弁護人 「買ってきたDVDやCDをHDに入れて、アップロードできる状態にしたことは?」
 被告人 「それはないです」
 弁護人 「多くの人が利用してて、そんなに悪いこととは思ってなかったんですかね?」
 被告人 「そうでございます」
 弁護人 「それは、ダウンロードしたものをCDやDVDに焼いて販売したら罪になるという認識だったんでしょうか」
 被告人 「お金にするのは悪いことだと思ってましたが、(本件が)これほど、おおごとになるとは」

 あまり深く考えずに本件行為を行っていたようです。

 弁護人 「個人情報や消防庁の情報が流出するから使うなと職場で教育されませんでした?」
 被告人 「情報漏洩問題もあったので、言われていました」
 弁護人 「著作権違反になるからとは?」
 被告人 「それも言われていました」

 上司からは使わないように言われてたのに、利用していたようです。そして、本件逮捕を受けて、退職することになり、離婚することになった経緯も明かして、

 弁護人 「今後、ウィニーは?」
 被告人 「もうそんなものから遠ざかります」

 と、再犯しないことを約束して、質問終了。次は、検察官から。

 検察官 「ウィニーについては開発者の事件があったりして、社会問題になっているのはわかっています?」
 被告人 「はい」
 検察官 「利用して捕まると思いませんでした?」
 被告人 「まさか逮捕されるとか。ダウンロードして売ったらダメだと思ってましたが」
 検察官 「個人で楽しむ分にはいいだろうと?」
 被告人 「はい。でも、タダで見続けられるのがおかしな話ですからね」

 と、罪悪感があまりなかったことを改めて証言です。

 検察官 「『デトロイトメタルシティ』に関しては、あなたが(ウィニーに)最初にアップロードした可能性があるのですが」
 被告人 「それは(取り調べで)聞かされてびっくりしました。MXで落としたもので、もう出回っているものかと思ってて」
 検察官 「MXでダウンロードしたから、ウィニーでもアップされると思ってた、と」
 被告人 「はい」

 個人的に、この手のファイル共有ソフトってのを利用したことないんで知らなかったんだけど、ファイルをアップロードするとダウンロードできる枠が増えるらしい。被告人は、その枠を増やすために、本件4本の動画からアップロードしていたというわけのようです。
 最後は、裁判官からの質問。

 裁判官 「3000本以上ダウンロードしてたようですが、全部見たわけじゃないんですか?」
 被告人 「1000本くらいでしょうか、見たのは」
 裁判官 「そんなにね、映画観たいのであればレンタルビデオ店に行けばいいと思うんだけど」
 被告人 「そこまで行くのも面倒かなって」

 継続していた理由は、レンタルが面倒だから。ま、5年間続けても逮捕されなかったんだから、規範意識が鈍磨してたんだろうけど。

 裁判官 「公務員ですし“ウィニーに使うな”とまぁ、我々も言われてましたけど、ウィニー使うこと自体いけないってのも言われてましたよね」
 被告人 「はい」
 裁判官 「そして、今回のことで失うものも大きかったですよね?」
 被告人 「職も失いまして、妻も失いましたし、あと、判決後に退職金の返還もするように言われました」

 退職金返還の話は証拠に出てなかったのか、裁判官は驚いた顔をして、

 裁判官 「え、あぁ、そう…」

 と、ため息のような一言を漏らして、質問終了。
 この後、検察官が懲役1年を求刑。最終陳述で被告人は、

 被告人 「映画、ドラマの著作権を有する会社に深くお詫び申し上げます。あと、元職場の方々にも迷惑かけました。先ほど言ったように、私は仕事も妻も失いました。自分の軽率な行動を悔やんでも悔やみきれません。今後は謹んで生活したいと思っています」

 と、述べて閉廷でした。
 そして、12月14日の判決公判。
 結果は、懲役1年執行猶予3年でした。裁判官は、

 裁判官 「多くのものを失ったと思いますけど、その重みも受け止めて生きていってください」

 と、アドバイスをして、閉廷。
 タダで得た動画の代償は、値段が付けられないほどに高くつきましたね。いまさらレンタルビデオ店に行っても、仕事と奥さんは見つからないわけで。
 ウィニー開発者の裁判(1審有罪、2審無罪)もいろんな見方があるだろうけど、この被告人みたいな人がいなければ罪に問われることはなかったんだよね。包丁で人を傷つけることもできれば、ケータイのカメラも盗撮もできる。ウィニーで著作権を侵害することだってできる。世の中って、毎日が社会人としての常識を問われているんだな。

注目の裁判

12月28日(月)被告人・今井田純ほか1人:貸し金業法違反(判決)
<携帯電話で違法な貸付を行った事件> 09年9月、東京・板橋区の今井田純(当時22)ら元暴走族のメンバー9人は、同年1月から4月の間に会社員らに、法定金利を最大で172倍超える超高金利で違法な貸付を行ったとして逮捕された。名簿業者から多重債務者の連絡先を手に入れ、携帯電話から勧誘していていた。

1月7日(木)被告人・大川弘次:殺人(判決)
<路上での殺人事件> 09年2月、茨城県鹿嶋市の家屋解体業手伝い、大川弘次(当時61)は、千葉県香取市の路上で無職の篠塚和男さん(当時45)を包丁で刺して死亡させた。1審で懲役18年の判決を受けた。

1月8日(金)被告人・小宮生嗣:恐喝
<警察官に対する恐喝事件> 08年12月、福岡県大牟田市の無職、小宮生嗣(当時21)は、警視庁玉川署に勾留中に、警察官から携帯電話を借りて外部と連絡を取り、「ばらたらクビだ」と現金500万円を脅し取ったとして逮捕された。


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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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