きょうのコラム「時鐘」 2009年12月30日

 新年に映画「男はつらいよ」一挙放送、と衛星放送の番組案内にあった。正月は、懐かしい日本の暮らしや人情に浸りたくなる

主人公の寅さんが役所を訪れ、入り口の意見を募る箱に目を止めるという場面がある。箱に「あなたの声をお聞かせください」の文字がある。美声が自慢の寅さんは、口を近づけて「あーあー」と声を発し、何にも起きないじゃないか、とクビをかしげて去る

劇場で観たときは、観客の大爆笑が起きた。主人公を笑うのは簡単だが、似たような光景はいくらも目にする。政治とカネの問題で、納得できる説明をお聞かせください、と注文しても、アーアー、ムニャムニャ。その後は、何も起きそうにない

通り一遍の謝罪や釈明からは、きちんと説明できるカネならさっさとそうしている、という声が聞こえてきそうである。政治家のカネとはそんなもの、と何度知らされてきたことだろう。「ああ、嫌だ嫌だ」と、寅さん一家なら、ため息をもらす

そう嘆きながらも、映画の登場人物たちはけなげに暮らし、観る人に元気を与える。心が冷えるときは、人情喜劇が何よりである。