『横山健の別に危なくないコラム vol.66』



「前書き」

 今回のコラムはいつもと趣を変えて、インタビューをした。
 政治家の方とお話した。ちょっとでも日本の政治に興味があったり、テレビのニュースを見る方なら知っているであろう人だ。
 逆に政治に全く関心がない人にとってはまるで誰だか分からないし、内容もなにやらサッパリ分からないであろう。

 しかし、関心のない人にこそ、今回の内容は読んでもらいたい。
 なぜなら新聞や週刊誌を見ても、ここまで生々しく、ここまで分かりやすく、政治家の口から語られる話は絶対にないからだ。
 文中に出てくる分からない言葉は誰かに聞いて、ネットで調べて、何度でも読み返して、なんとなくでも理解できるようになるまで読んでもらいたい。
 「知る」、そのきっかけにして欲しい。
 
 細田博之氏。
 昭和19年生まれ(現在65歳)島根県松江市出身。
 東京大学法学部卒業後、通産省に入省。
 平成2年 島根選挙区より初当選。現在7期連続当選。
 その後、自民党の様々な要職につき、小泉内閣時において女房役である官房長官を務め、麻生内閣時代には自民党の要職・幹事長を務める。

 麻生政権での幹事長時に、定例会見等でその姿を見た人も多いはずだ。
 ご存知の通り、自民党は2009年8月の衆院選で歴史的大敗し、初の野党転落となった。
 民主党政権が発足、始動して活動を活発化させていき、現政権の声は聞きたくなくても耳に入ってくる。
 しかし、たった数ヶ月前まで政権を担っていた人達の声は一体どこへ行ったのか…?
 今の自民党はほぼ声を失いつつある。
 そんな中での、「小泉内閣と麻生内閣の中枢を担った人物」への、時期的にも非常に貴重なインタビューとなったと思う。

 11月、会期中の国会は「事業仕分け」で揺れていた。
 よく晴れた日の昼下がり、オレは自民党本部のある永田町へ車を走らせた。
 東京で育っておきながら昼間の永田町など縁遠く生きてきたオレ、正直言って日中の都心部の渋滞にはビックリした。
 かろうじて定刻通りに到着すると、通された部屋で細田氏はもう待っていた。
 そしてオレが同行したピザオブデスの社員全員を、名物「自民党カレー」でもてなしてくれた。
 一緒に昼食をとりながら音楽や最近の国会について談笑した後、インタビューはスタートした。




「細田博之氏インタビュー」



「細田博之氏と。」


横山健(以下:K)では、宜しくお願いします。

細田氏(以下:H)はい、宜しくお願いします。

K : まず最初にお話しておきたいのですが、政治に関しては全くの素人なので、…もし失礼な事を訊く様な事があっても、あの…ご容赦下さい。

H : いえいえ、どうぞ。

K : まず、…細田さんは麻生内閣に於いて「幹事長」を務めていらっしゃいました。いわゆる「総裁の女房役」ですよね。その細田さんから見て、「総裁・麻生太郎」とはどんな人物だったのでしょう?

H : ひとつはね、大変な楽観主義で、なにか悪い事になるんじゃないかとか一切考えない人ですね。だから選挙も、負けるまでは「なんとか勝てるんじゃないか」っていうぐらいの楽観主義だったですね。

K : 本当にそう思ってらっしゃったんですか?

H : うん、「そんなに負けるはずがない」っていう強い信念は持ってましたね。
 それからもうひとつは、リーマンショックのために日本の経済がもうメチャクチャになってきた。前のバブルの崩壊の時も大変だったんだけどね。…失業者も増えるし、中小企業も助けなきゃいけない。自動車会社もエレクトロニクスも、先端産業がみんな輸出でやられてしまって。大変だったんですよ。だから景気対策に大きな予算をつけなきゃいけない。エコポイントだとかエコカー買い替えの補助金だとか、大きな公共事業もやらなきゃいけないとか、それはもう熱心に取り組んだんですよ。そうしないと本当に日本経済が倒れちゃうから。
 麻生さんはかなり大きな会社の社長も経験しているし、「経営者」なんですよ。日本の経済がどう動いているか良く分かっている。わたしも通産省にいたから、経済の事は良く分かっているつもりで。「これは大変な事になった」と、去年の秋ね。
 だから…選挙やって僅かに勝って政権を維持するのもいいけど、それよりは今ここで早急に対策をとらなきゃいけないと、本当に真剣に考えたんですよ。だけど結果的には…あの頃解散してた方が勝った…かもしれないね。どんどん時代が悪くなっちゃった。
 麻生さんは自分の信念として、一国の総理大臣として、「なんとかしなきゃならない」っていう、…一国を背負って立つ気概でやってたんだ。しかしね、結果的にどんどん悪くなっていった…。

K : 一国民としての感触を言わせていただきますと、やっぱり麻生さんは…実直な方だとは思うんですよ。ただやり方とタイミングが悪かったのかな、という気はしますね。リーマンショックとか、誰にも予測できなかった事が起こって…リーマンショックはボク達の日常生活や影響が及んで。まぁ言ってみれば、ボク達の生活そのものが経済なわけですから。

H : そうですね、みんな苦しくなっちゃったんだよね。
 しかも総理大臣も3人変わったとか、いろんな大臣がいろんな事言ってもう党内もまとまらないし。国民からしたら「けしからん」と。そして民主党の方が宣伝が上手くて、「自民党は政官癒着で悪い事してる」、「天下りの役人が横行している」とかね、そういう事をテレビで毎日やるもんだからね。

K : あれは洗脳に近かったですね。

H : そういう影響はありましたね。もう朝から晩までずーっと批判だからね。

K : そこでひとつ、鳩山さんの「パフォーマンスの上手さ」というのはありましたよね。

H : 「政権交代」というキャッチフレーズが、不況といろんな不祥事が重なった事への批判と重なって、「なるほど、それでは一度変わってみてもらおうじゃないか」っていう雰囲気がグァーッと盛り上がった。
 だから我々から見ると、「元々そんなに悪い事してないよ」っていうのは一生懸命言ってたんですよ。つまり、天下りのために予算をつけてるなんて事は、当然ないし。たまたま必要な予算が政府系金融機関だとか、私学助成で言えば私学助成団体を経由していくけど、そこに文部省の役人が天下ってるとか、…確かにそれはあるんだけど、そのために予算をつけてるとか、無駄に野球の道具やマッサージチェアを買ってるとかほとんどないんだけど…。
 だから逆に今、民主党が政権をとって「無駄を叩け」って言って「仕分け」の作業をして「どこに無駄があるんだ」「何兆円も無駄がある」ってやってるんだけど、なかなかそんなに出てこないんですよ。
 みんな真面目に…もう予算っていうのは予算案を作って各省が要求して、財務省の主査が「国のお金は大事だからつけられませんよ」って言ってギリギリやる。そして諦めるものもある、やっぱり本当に必要なものは認められるっていう作業をしてるからね、そうおかしなものはないんですよ。今仕分けやってて「何億出ました」って言ってるけど、全体の予算でみるとそんなにムチャクチャ無駄をしてたっていう事じゃないという結果が出ると思いますよ。
 他方ね、その言われている無駄を全部止めて、今度はガソリンの暫定税率を下げて2兆円安くしましょう、子ども手当はそれこそ…楓太クンも含めてですね。


K :

はい。

H : 0歳から15歳まで手当すると、毎年5兆3000億円かかるんですね。もらう方は年間30万円でありがたいんだけど、毎年5兆円というと…本当に政府としていいのかと。それから生活に困らない人にも出していいのかと。
 ところがね、「生活に困る、困らない」っていうのが、これまた難しいんですね。税務署が調べて「あなたは去年の所得がいくらだったから…」っていう線を引くとなると、税務署の個人情報を使わなきゃいけないから困る。するとどうしても全員に出すって事になって…社民党なんかは「所得水準によって変えろ」って言うんだけど、そうすると社会的にギスギスするんですね。だから所得によって出すっていうのは良くない。
 自民党の案もね、「幼稚園、保育園を全部ただにして、幼稚園・保育園に手当すれば個人にばらまかなくていいんじゃないの?」っていうものなんだけど、これだと年間8000億円くらいで済むんですよ。子供であれば全員手当する、毎年5兆3000億となると、「どこに財源があるんだ」と。とても勘定が合わない。
 そうすると支出を増やして収入を減らすんだから、その分借金を増やすことになるから健全ではないと。そう言ってきたんだけど、…まぁ分かりにくいんだよね。世間で言うと、テレビで「あいつら無駄してんだ」と、「結託して天下りのために悪い予算を使ってる」と、もう言った方が勝ちで。
 …というね、政治に於ける「ルール違反」がね、行われたわけなんですよ。

K : なるほど。…確かに。ボクは特定の支持政党を持っていません。自民党支持でもないし、民主党支持でもないです。
 しかしこれはあくまでもボクのイメージなんですけど、自民党というのは昔からの日本の国民性に沿ったイメージなんですね。日本人って「グレーゾーン」が好きじゃないですか?自民党は良くも悪くもそういった部分を多少持っていて、それが意外と日本国民の生活に馴染んでいたような気がするんですね。ところが民主党というのは、もう「白黒ハッキリさせよう」という結構西洋的な考えで…そこの歪みが今…今というよりもこれから出てくるんじゃないかなという気はしますね。
 ただ自民党もその「グレーゾーン」が広くなり過ぎて、みんなに知られ過ぎたんですよ。

H : 不祥事によって「傷ついちゃった」んだけどね。
 それからね、さっき言われた中で、自民党っていうのは「愛国心」とか…日本人としてのね。やっぱり日本人っていうのは結束して外国に当たらないと負けちゃいますよ。経済の面では中国、アメリカ、ヨーロッパに負けた、コンピューターの世界ではどこに負けたってね、食っていけないじゃないですか。だからやっぱり日本というのは、愛国心を持って結束してやらなきゃいけないっていう基本がある。そして「うまく生きていこう」と。これが今まで支持を集めてきたんだけど、もっとそれを上回る風が、暴風雨が吹いて。それでとうとうコケちゃった。
 しかし日本の醇風美俗っていうか、伝統をしっかり守ったよい政党だなと思ってくれてる人は30数%はいる。だから我々としては、まぁ…元へ戻るチャンスであると見ていますけど。

K : ボクもここで、「民主党がどこまでやってくれるのかな」っていうのは、一国民として冷静に見ているので。だから今「仕分け」を一生懸命やってますけど、正直言ってかなりパフォーマンス的な要素もあると思ってます。

H : うーん…まぁ、人間的に横暴だね。

K : そう思います。

H : つまり、役所の人だってその人の人生があり、一生懸命国家公務員になる勉強をして、試験を受けて。国のために働いてるって意識はみんなあるんですよ。でも頭っから「お前らは国家のためにならない」って言われてるからね。もう、やる気も無くなっちゃってるんだ、今。わたしはね、その点は非常に心配している。これから国のために行政機関で働こうっていう真面目な人がいなくなっちゃうよ。それで「こんな事言われるんなら真面目に仕事したってしょうがないや」ってなったらね、もう国家は崩壊していきますよ。

K : 省庁が黒い部分をたくさん持ってて、政府を操ってたというイメージで報道されてますけど、民主党政府があそこまで強い姿勢を出したら、もっと黒くなっていくんじゃないかな?って気はしましね。

H : そう、おっしゃる通り。権力で…大臣なり副大臣なり政務官の権限が強すぎる役所ができると、正に汚職が起こる可能性がありますよね。
 つまり「この人が権力者だ」ってわかると、そりゃ民間だって「この工事が欲しい」と思ったらその人のところへ行って賄賂かなんか使う例がある。そういう構図を作っちゃいけないんですよ。つまり、その人が「うん」って言わなきゃなんにもできないようじゃ駄目。日本人っていうのはやっぱり、みんなで知恵出して協議して。ちょっと非効率だけどね。

K : その「非効率」なのが日本の国民性そのものなんですよ。

H : それが日本の風土に合ってたんだけど、それを今革命のようにバーンと壊してる。じゃあ革命を起こして壊して上手くいくのか、…また反省が来ると思ってますよ。

K : 国民は、一生懸命に国のために働いている人がその対価としてそれなりの報酬をもらう事に対しては理解していると思うんですよ。しかし「権力」に対してはやっぱり敏感ですよ。

H : そうなんですね。そういう意味では自民党も批判されたし。権力者然とした自民党の政治家も昔からいたからね。「よっしゃ、よっしゃ」の時代もあったわけですよ。しかしもう随分時代は変わりましたからね。

K : ハハハ。あの当時は強烈な「よっしゃ」が必要だったんですね。



「オレだって真面目に人と話す時くらいあります。」


H : そうなんですね。今はもう…政府の金もなくなったし。
 ほとんどが社会保障費なんですね。医療費が…まだみなさん若いからあまりお医者さんにかかってないから実感ないと思うけど、国民医療費がなんと34兆円もかかっている。一人あたり年間で25万円かかってんの。って事は平均で、夫婦2人の子供2人の4人家族なら100万円かかっている。だけど若い家族っていうのは、大きな出費は出産費用くらいで、あとは風邪ひいた時のお医者さんくらいでしょ?
 ところがお年寄りの場合だとものすごい医療費がかかってる。その負担をみんな背負っていくんだけど、若い人が背負いきれないから赤字が増えていく。不祥事で赤字が増えているんじゃなくて、ほとんど医療、年金、介護で赤字が増えていってるんですね。なんとかしなくちゃいけない…それがこれからの国家の大事な課題ですよ。

K : 例えばスウェーデンなんかはもの凄い重税を課している代わりに、生涯の保障がものすごく手厚い。「みんなで背負う」というものが国民に浸透している国ってありますよね?しかし日本は他人の責任を背負うのがイヤだと思うんですよ。象徴的なのが、ニュースなんか見てると「私達はこれだけ『背負わされて』いる」って表現を使う。ボクは実はその表現がすごく気に入らなくてですね。
 そこで、そういった「報道の在り方」って、おかしいと…思いません?

H : 特に消費税の議論ですね。ヨーロッパでは15%とか高い消費税の国もみられる。しかし医療でもその他でも、国からのサービスをたくさん受けている。そして実際を見てみるとね、お金持ちほどたくさん消費するわけだから、お金のない人は国からもらう分がそれだけ多くなるわけだけど。
 消費税って1%上げるとね、お金のない人は100万円使うと1万円上がる。お金を持っている人が1000万円使うと10万円上がる。お金のない人の1万円の方がお金のある人の10万円より打撃が大きいっていうね、「所得に対する逆進性」っていうんだけど、インパクトが所得の少ない人の方に多いっていう論理構成がまかり通っている。
 ところが実際はそうじゃないんですよ。どういう事かっていうとね、100万円使う人は1万円上がるって言ったけど、1%消費税を上げるとね、全国民の平均で2兆5000億円増える。国民一人あたり2万円上がってる事になる。…その消費税収入が医療費や介護やその他の回されると、お金のない人の方がたくさん貰えるんですよ。出したよりもはるかに貰えるのが消費税の仕組みで。
 ヨーロッパ人はそれを理解しているからね。だからドイツで新政権が超党派でできてね、「メルケル政権」っていうのができた時に、17%だった消費税が19%に上がったんですよ。言ってみればそれは「金持ち課税」なんだから上げちゃおうって事で、シャンシャンと決めちゃった。日本はねぇ、もう3%にするのも大変だったし、5%になったら内閣は潰れちゃうし。それを7%にするか8%にするかって事を議論すると必ず選挙で負けちゃうから、鳩山政権は「消費税なんか絶対に上げません」って今言ってるでしょ?それだと政府の赤字は増えちゃう。
 消費税っていうのは所得の低い人がたくさん貰える得な構造をしているのに、誰もが「貧しき者を圧迫する消費税」って言うから上げられない。だから国民がどんどん不幸になるんですよ。

K : …今聞いてて初めて「なるほど」と思ったところがいっぱいあったんですけど、…なぜそういう理論を国民に浸透させられないんですかね?

H : そう。…それが歯がゆいんだけどね。言いたいんだけどね、マスコミとか一部の人は、「そういう保障はないじゃないか」、「計算上はそうなるかもしれない。しかし消費税でとったものは、どこかでいい加減に使って、懐へ入れちゃうんじゃないか」と。それは予算の構造からすると嘘でして、ほとんど社会保障費に充てられるんだけどね。
 それでも今度は論争になると、「鳩山 対 麻生」の議論になると、麻生さんも一生懸命考えて「景気が回復したら消費税を上げざるを得ない、それを社会保障に充てるのが一番いいから、将来の若い人の負担が減って良くなりますよ」っていう説明するでしょ?そうすると政治的にはね、「とんでもない。無駄遣いばかりして、天下りのために金を使ってるような政府が、増税をしようと企んでる。そういう増税はけしからん」とね。こういう議論を張ると選挙に勝てるもんだから、そこでそういう論争をポシャらせるわけですね。
 政治的にポシャらせてしまうから、非常に損をするのは国民なんですよ。
 消費税だって上げても、食料品とか生活の基礎になる製品を非課税にする事は可能なんですよ。これだけコンピューターが発達すれば、どこのスーパーに行ったってみんなコンピューター管理してるでしょ?物によって課税したりとかも可能かもしれない。「そういう知恵を出そうじゃないか」って言えばいいんだけどね。
 今の日本の政治は、まだ未熟なんだね。つまり、「反対した方が国民の受けがいい」。

K : 基本的にジャーナリズムは「野党的な物言い」の方が強いわけじゃないですか。なので、小さな不祥事に対しては大騒ぎするのに、与党が与党然として良い事を言っても誰も受け入れない。しかし、今自民党は野党なわけですから、…もう、細田さん、やって下さい。大きな声で言っていって下さい。

H : ハハハ。これから与野党逆転したけど、「いいことばっかじゃありませんね」と。どんどん赤字が増えちゃって、…赤字が増えるってコトはみなさんのような若い人に負担がかぶっさってくるわけだからね、必ずツケが回るわけですよ。だから赤字を減らすようにっていうのを、まずしなきゃいけない。そうするとね、また鳩山さんがこの間国会で言ってたけど、「ここまで悪くしたのはあなた方自民党じゃないか」って。
 だけど日本はここ20年くらい見ると非常に不幸な運命を背負っててね、竹下さんや海部さんが湾岸戦争の前くらいに総理大臣をやってた頃は、長期の借金って250兆くらいしかなかった。これはGDPの半分以下の数字なんですよ。で今800兆。
 その間なんでこんなに増えたかって言うと、やっぱり「バブルの崩壊」っていう、平成に入ってからのものすごい大不況があったでしょ。銀行が大手16行あったのが今は4グループに集約されて。みんな事実上破産して統合されて国家資金を入れられてっていう中で、不動産も株も2割に下落してもうメチャクチャになったんですよ。もう今のリーマンショックよりも規模が大きかったんだけど、政府は収入が減って、景気対策にために公共事業をしなければいけないから支出はしなきゃいけない。それをもう10年間くらいしたてたんですよ。
 それで年々30兆ずつ借金が膨らんだ。平成に入ってから今まで17年で510兆円くらい…それほど借金が増えているんですよ。
 だから「自民党政権で長くやってて、おまえらの責任で借金が増えたんじゃないの」って言うのは、実は大変な誤解もあって。バブル崩壊後の不況を乗り越えるために相当な事をやらざるを得なかったっていく事はあるんだよね。
 でもこれも言い訳してちゃあれだし誰にも分からない事だから、鳩山さんが…ちょっと今、景気対策で借金増やさなきゃって時にね、ぼくらが野党として「鳩山さん、あなたも小さな政府作るって言ってたのに、なんで借金増やすんだ」って言うと、「それは自民党には言われたくない」と、「ここまで借金を増やしてきたのは自民党でしょ」って言うんだけどね。

K : しかしマニフェストであれだけ「国債発行はしない」ってあれだけ言ってて、もし、…もしですよ?…そこに着手したらどうするんですかねぇ?

H : まぁ…、なにか言い抜けるんだろうけど。それはねぇ…内閣に入った亀井さんが言ってるんだよね。
 鳩山政権は今、補正予算で3兆円くらい合理化して無駄を削ったって大声で言ってるけど、「バカな事言うな」と。「30兆40兆今すぐに出さなきゃ景気回復なんかしないじゃないか」って言い出して。段々政府の中がゴチャゴチャになってきててね。
 だから麻生さんが一生懸命やってきた不況対策の予算をみんな叩き切る事に専念してるけど、「じゃあ次にどういう事をやるんですか」っていう知恵がない。それから、長期の科学技術っていうのは、研究者達が一生懸命研究して、燃料電池でも電気自動車でも太陽光発電でもいろんな技術を開発して、それが世界で特許を取って稼ぐわけですよ。先端産業が金稼がないでどうするんですか。そういう「稼がなきゃいけない、成長しなきゃいけない」っていうセンスが、今の政府にはどうしてもない。だから科学技術予算をね、今の仕分けでムチャクチャに切ったんですよ。

K : 大事な「知的財産」じゃないですか。

H : そうそう。全部叩き切ってんの。あまりにも長期的な日本の…これからの発展を考えてないね。…暴挙ですよね。

K : 浅知恵で申し訳ないのですが、今の「仕分け」は実際は強制力はないんですよね?
H : …ないけども…言われたら抵抗できないって感じでしょ。あらかじめ有識者と民主党の上層部が揃って、各省を呼んで、「これは無駄だ」と。
 それは言うのは非常に簡単で。目的があってついてる予算なのに、…なぜなら「天下りのための予算じゃないか」って言われると、反論できなくなっちゃってね。実は天下りのための人件費は少なくて、事業費なのね。
 …合理化して、切るに切れないものが切れるようになったっていうのも「ない」とは言いませんよ。「なくてもあっても同じだ」っていう予算もないとは言えないけどね、ごく少数だよね。そりゃ今まで政府でやってきた事なんだから、それだけ自信持たないと駄目なんです。「全部悪い事してきました、みんな無駄金でした」なんて、そんなバカな政府がどこにあるかっていう事です。

K : 「天下り」と「無駄遣い」という事がキーワードで、今回の鳩山政権の予算の中で、本当にそれが出来上がれば…それは大したものだ、とは思いますけれども。果たしてそれがどこまで出来るか…。

H : それがキーワードになっちゃったから、みんな「悪い事」として見てるけど、それで切れるものはわたしの直感では数%なんですよ。

K : 「何兆円単位」には届かない、と?

H : 行かない。そういうまったく必要のないようなものっていうのは、わたしはほとんど無いと思いますよ。
 だから3兆円を削ったっていうのは、とりあえず先送りしただけの削り方だし。今の仕分けで…数千億出てるか出てないかっていうレベルでしょ?そういうレベルでは出るというのは我々も分かっているんです。というのは今までも政府与党が自民党の時代でもね、5000億とか8000億程度なら「止めろ」と言って、大きな摩擦無く止められた。それが2兆とか5兆とか10兆のオーダーになるとね、これは「必要なものを削る」という事に必ずなる。今の民主党政権も、それが段々分かってくるはずなんですよ。
 国民のみなさんにどう分かってもらうかっていう事があって、つまり大袈裟な事を言って選挙に勝った、しかし実は一部しかできなかったって時にね。これから我々の難しいところはね、「一部でも出来たからいいじゃないか」って言う国民は必ずいるんですよ。しかし我々から言うと、そんな大風呂敷を広げて、「それだけ合理化できるんだから子ども手当にもいくら、高速道路はただにする」って言いまくって、こっちの方は公約だから実現しておいてですよ、そしてこっちの方は「いやぁ思ったよりも出来なかったけど、無いよりましの1兆円は削りました」ってこれ、勘定に合わないしね。ツケを先延ばしするだけ罪であるわけ。
 でも一部の人は「いや、1兆円も節約できたんだから、これは罪なんかじゃなくいい事だ」ってそっちだけ見る人がいる。子ども手当は「いや、しらないけど30万円ずつくれるんだから有り難いじゃないの」って、これが政治の難しいところでね。価値判断がそこで倒錯をするわけだね。

K : あの…鳩山さんしかり、小沢さんしかり、自民党出身じゃないですか。だから「分かっている」はずですよね?なんでそこまで無理をして、「わたしは赤字国債を発行しません」と100%言い切る。「わたしはこれこれをこうします」って、街頭演説を聞いた者が、ニュースを見た者が「あー、そうなったらいいなぁ」って思うようなうっとりする様な事を言う。そして選挙に勝つ。…選挙に勝つ事だけが目的だったんですかねぇ?

H : そうでしょ。長年選挙に勝てなかったから、もうそのためには「何でもあり」で「何でも言おう」ってわけ。でもそのツケは国民が背負うからね。
 だから我々は選挙戦で今年の前半からずーっと言ってきた事なんだけど、「この嘘つき」と。「ここが嘘、あそこが嘘」って言ってきたんだけど…まぁ誰も取り上げない。
 で「嘘とはなんだ」と。「自民党はいつから野党になったんですか?」なんて、我々が作って反論した資料に対して彼らはいつもそういう事を言って。国民に対してテレビなんかでね、「こんな無駄があります、あんな無駄があります、一度代えてみましょう」っていうのが勝ったわけだけどね。
 …やっぱり、ルール違反でね。ボクシングで言うと、突然金づちみたいのを出してブン殴るような感じなんですよ、我々に言わせるとね。

K : 国民から見たら「上手いクリンチ」ですね。上手く試合をコントロールして。

H : しかもそれだけじゃなくて、レフリーの見えないところでね…。

K : 肘が入っていたかの様な。そういう感じかもしれないですね。

H : それをしかし出来るかの様に言った時に、選挙という時に皆さんが正しく判断できるかっていうと…なかなか出来ないんですよね。

K : そう考えると、今の自民党には、「口が達者な人」がいないですよね。

H : 守る側っていうのは難しいんだよね…。

K : しかしかつては…象徴的な方がいたじゃないですか?党的にはどうなのかは分からないですけど、キャラクターが強い人がいたじゃないですか。そういう人が、今欲しいですよね。

H : まぁそうだね。それは確かにそうだ。…小泉さんを最後にしていなくはなった。
 我々もちゃんと訴えかける事をしなくちゃいけない。今の民主党だけでは駄目だ、発展性がないと。
 実際、科学技術予算だって「削ったって大した影響はないだろう」ってバンバン削ったらね、地道に研究してる人は路頭に迷うからね。そのお金がなかったら研究できないんだから。そういう事を平気でやっているって事は、誰も今のところ分かっていない。

K : 例えばその切られた技術者であったり、そっちの方から声が上がれば、…良いか悪いかは分からないですけど、今「八ッ場ダム」の件が話題になってますよね。地元から反対の声が起きてる、そういった声をあげている人達が今の民主党のやり方に対して、どれだけ「NO」を突きつけるのかなっていうのが今後の注目ですね。そこが見えてくるのが楽しみでもあり、もしこれで…機能するのなら民主党でいいのかな?という気もしますし。

H : まぁそうですね、それは国民の判断で。
 ただ農業だってね、個別農家コスト補償しますって言ってるでしょ?これは大変な事でね。コストを補償するっていうのは、製品が幾らで売れたか全部チェックして、そのコストは機械代だ、肥料代だ、飼料代だ、労賃が幾らかかったかって全部計算して、その差額は赤字だから補償するっていう事になるでしょ。
 売値の高い良いものを作った人もいれば、大規模にして能率が良くなったけどデカい機械を買わなきゃいけないという人もいる。農家だって全部違うわけですよ。それを「コスト補償します」っていうのは「何を補償するんだ」と。掴み金で、じゃあ1農家10アールあたりで3万円配ればいいのかって事になるとね、決してそうじゃない。
 それで本当にコストが補償されたら誰も真面目にやる人がいなくなっちゃう。

K : 新しい形の「ばら撒き」じゃないですか。

H : そういう事をひとつひとつ正していかないとね。
 公共事業の問題も「八ッ場ダム」の件が象徴的だけど、全部コンクリートで作ったものは悪であるって言って、道路はやらない…島根県なんてまだ山陰自動車道もないんだけど。建設中でやっとこれからっていうところで、本当に止めていいのかっていう事。
 地方からは生活の問題が出てくるんですね。つまりまぁ一家の主婦みたいなもんでね、政府っていうのはあらゆる人の要望に少しずつ応えなきゃならない。だから全員から見て不満かもしれないしね、みんなに満足してもらおうと思うと制度にいろんな欠陥が出るって事はある。長い間たつとその批判がたまってきて、今回のような革命的な政権交代が起こる。
 じゃあそれで上手く行くかっていうと、そんなに上手くいかない構造をしてるんですね。収入が増えなきゃ駄目なんですよ、やっぱり。もうそれはハッキリしてるんです。だけどそれは棚上げだからね。
 で元の話に戻ったんだけど、…政治が正しく国民の皆さんに訴えて、「こうでなければ駄目なんだなぁ」って分かるようにしたいんだけどね。これはマスコミの責任でもあるけど、…マスコミはそういう責任を放棄してるんだ。

K : 今ジャーナリズムは、野党になった自民党を味方してくれますかねぇ?

H : うーん、…少なくとも、民主党に反旗を翻していく可能性は、これからありますよね。「あなた方が言ったように上手くは行かないじゃないか」と。一部今出てますけど。まだ今はねぇ、おだててますよ。「いやー、良くやってます」、「仕分けの作業、大いにやって無駄をなくして下さい」と。それはいいんですね。無駄がなくなる部分も1兆くらいあって、…しかし「無駄だ」と言って止めたけど実は打撃があるものが、多分1兆円くらいあってね。それが非常に大きな影響を与えていく。

K : うーん、たった数人でジャッジしているんですもんねぇ…。

H : なんて言うかなぁ、…「悪しき大衆裁判」みたいなね。あれは、イヤなムードでしょ?

K : そうですね。絵ヅラで見たら、政治家としてもの凄く「凛としている」様に見えたりもするんですよ。蓮舫さんとか、「うわ、この人すごいなぁ!」って見えますよ。しかし果たしてそれが、…「本質はどこにあるのか」っていうと、なかなか見えないですね。だからパフォーマンス寄りに見えてしまうんです。

H : 「劇場政治」だね。わたしは…決してそれは良い事じゃないと思うよ。それを来年からどんどん追求していく。
 予算案が出来てくるでしょ?そうすると被害者がいっぱい出てくるからね。追求していって、どこまで国民の皆さんに訴えられるかですよね。それが上手く行かないと参議院選挙でも負けちゃう。そうすると「労働組合主導型」の民主党政権がズーッと続いちゃう可能性もあるんですね。

K : …そうですねぇ。

H : …なんとなく「自由な雰囲気」がないのがいやらしいと思うんだよね。

K : それはもしかしたら冒頭でもお話しましたが、グレーゾーンを無くして「白と黒に仕分け」しようとしているからじゃないですかね。「グレーが自由でいいか」っていうとそうではないのかもしれないですけど、まだこう…例えばブレーキで言ったら少し遊びがあるくらいが。

H : やっぱり今まで役所がやってきた事や積み上げてきた事を、まぁ全員とは言わないけど理解してもらって。
 どうも今のムードは「あなた達は悪い事をしてきたんだから認めない、なに勝手な事を言ってるんだ」と、そういう事を言い切っていくからね。これは非常に…行政を進める者の士気を失わせるね。「あぁ、勝手にして下さい」って、各省の何万人という公務員が寝そべっているのが、我々には見えますね。「わたし達はそんな事でやっているんじゃないですよ」って。真面目に国にとってなにが必要かって事で散々議論してつけてる予算を、「悪意の結果作った予算である」って言ってるんだからね、「どうぞ勝手に査定して下さい、どうぞ政権政党なんですから」っていう、そういうムードが今どんどん出てきてるんだよね。それは良くないでしょ?だからもっと丁重に訊いてね、「これは効果ないんじゃないですか?止めましょうよ」っていうんならいいんですけど。もうバッサバッサ切っちゃう。…それは民主主義じゃないよね。

K : うーん…。

H : それは難しいところだよね。
 やっぱりね、バンドでもなんでもチームなら同じだと思うんだけどさ、…人間ってけなして使ってもちっとも生産性上がらないじゃない?「お前はバカだ」、「お前は才能が無い」ってやってたらさ、誰もがやる気なくなっちゃってさ。…「じゃあサヨナラ」っていうんならまだいいんだけどさ、「サヨナラ」じゃなくてトグロを巻いちゃってるんだよ、役所の中で。自分が一生懸命になって予算の必要性を説明したってけなされるんならね、働くのがバカバカしいと。段々多くの人がそう思い始めてるとすると、これは国家的悲劇なんですよ。
 …やっぱり褒めて使わないとね。我々自民党は褒めて使ってきたって自負してるんですよ。しかし、褒めて使って地方のために予算をつけてっていうのを全部「癒着」、悪しき意図を以って国家予算が出来上がってると割り切ってるわけだからね、民主党が。
 …まぁ、革命みたいなもんだよね。だから反革命も必要なんですよ、どっかでね。立ち止まらなきゃいけない。フランス革命だってロシア革命だって、やった時には凄かったけど、結果的には悪い方向にもすごく行ってるんだよ。そしてものすごく時間がかかってる。だから日本でも、これ結構時間がかかるとね、…まぁ悲劇になりますよ。

K : ちなみに「二大政党制」というのは、これは日本の風土に馴染むんでしょうか?

H : …なかなか難しい質問ですね。…あんまり馴染まないだろうね。

K : ボクもそう思うんですよ。

H : いろんな人がいるのが望ましいかもしれないね。
 アメリカなんかは「自分は共和党だ」、「自分は民主党だ」って党員になったり。新聞もテレビも日本みたいに隠してませんから。「我が新聞社は共和党を支持している」とか、まずそれを明らかにして、その上で「政党の言っている事のここがおかしい」とかそういう論調なんだよね。
 その方が民主主義としては公正なんだけど、日本はそうじゃないんですよ。みんな仮面をかぶって「この政権を倒さなきゃいけない」って言うからね、まだ未熟なんですよ。

K : 今後日本の若者は、政治に対してどの様なきっかけで入っていけばいいんですかねぇ?それは本来はボク達の世代が考える事だと思うんですけれども…。

H : 一番純粋な形で考えると、政党の党員になる、そしてそこでボランティアでもいいから応援をして、討論をして集会をしてっていうのが「アメリカ型」で、最終的には成長するのではないかと思いますけど。日本にはやっぱりそこまでやろうって人はなかなかいないでしょ?

K : …いないですね。

H : そうするとテレビ観て「こっちが悪いらしい、こっちがいいらしい」ってなってしまうでしょ?だから彼(野津松江市議会議員)みたいになって「がんばろう」と思う人がたくさん出る方がいいんだけどね。まぁ支持者の中にはたくさんいるけど、やはりごく一部ですね。

K : しかし今の日本の若者は、やりたい事がない者が多いと思うんですよ。みんな政治に関わればいいんですよね。簡単に関わるにはどうすればいいですか?

H : やっぱり集会に出て、意見を言うとか…そういう事をすればいいと思うんだけどね。

K : 地元の携帯ショップに行くのと同じように、集会に行けばいいわけですね?

H : そうそう。党員になったり、党の支部に行って「わたしはこういう事やりたい」と。しかしそういう人は、日本人の場合は極一部ですよ。
 やっぱりわたしの選挙区だって、若い人は何人かはいるけれども、どちらかって言うと…もう無党派で、政治に関わりたくないような人が多いんだけどね。それを是非、コラムでも書いてもらって。
 「政治に参加しようじゃないか」と。「それが政治じゃないか」と。
 アメリカなんかはその点が非常に上手く行ってるね。
 政治の世界はやっぱり、自分も興味があって、「政治こそ国民を良くする基じゃないか」と思う人があればね、そういう人がもっと増えてくれないと困るんだけど…。
 小学校の頃からそういう教育をしないからいけないんだ。…政治こそ大事なんだから政治家になる事、或いは政治を支える事、主張する事がどんなに大事かって分かってる人が少ない。

K : すごく遠く感じますよね。お茶の間で、テレビを通して見る政治の世界って。しかし「そうじゃない」と。文句を言うんだったら自分でやってみたらいいんですよね。

H : そうなんですよ。そういう事を講義したり、若い人に伝えていく「指導者」が少ないんですね。
 アメリカには随分いますよ。大学でも高校でも「政治が大事だ」と。「政治に関わるべきである」という前提で授業もやり、講義もやってるんですから。それは歴史上アメリカは、ヨーロッパを脱出して国家を作っていくにあたって、「ひとりひとりの国民が政治に関わらなきゃ国家が出来ない」という認識があったから。
 日本は神代の昔から我が国というのがあって、明治維新が起こってね。自由民権運動だとか、その頃はまだ政治運動があったけど、戦後いつの頃からか「政治は汚い仕事だ」って事になっちゃった。「政治は嘘ばかりついてきた」とか、「国民をたくさん殺した」とか…そういう反省材料ばかり言って、その影響が今出てるんですね。
 だから「今の政権がどんなに汚くて悪いか」って言う事で、初めて政権交代するような土壌になっちゃってる。もっと客観的に評価をして「いいか悪いか」を比較出来る様な社会であれば円満に、…過激にならずに政権交代があって、オーバーコミットメントをする必要がない。今民主党はオーバーコミットメントで、できない事をたくさん言ってしまったから四苦八苦してるんでしょ。それは不幸ですね。

K : 現時点で日本の政治家に必要な要素って、「ディベート」の上手さでしかないんじゃないかと思うんですよね。「口喧嘩がどっちが強いか」みたいな。本来政治家にとって必要な資質って何でしょうか?どうお考えですか?

H : やっぱりディベート能力っていうのは大事で、アメリカのディベートに関する教育は非常に立派ですね。日本は…やっぱりそういう議論をさせても「だってイヤなんだもん」っていう感じじゃないですか。何でも議論して、正しい根拠を示して、皆さんに訴えるという事をその人の点数に加える、という事をしていないからね。
 アメリカは小さい頃からやるんだよね?「Show & Tell」って言うのかな?月に一回くらい演壇に立って「わたしはこう思う」という事を、とうとうと20分くらい喋る。そして自己主張が上手く出来たかどうか、それを先生が評価する。つまり自己主張しないと生きていけない社会だから、アメリカは。黙ってたんじゃどんどん下層に落ち込んでいってしまう社会だから、そういう教育を小学校のときから始めてるんだよね。「喋って自己主張する事は良い事だ」と。
 日本はどちらかと言うと「黙っているのが良い事だ」っていいながら教育してて、最後になるとやっぱり自己主張しないと駄目なわけだから、まぁいい加減な議論になっちゃっててね。
 …やっぱりオバマさんだってそうだけど、上手いよね。この間の演説でも、非常に表現力もあるし。ただあれは訓練なんですよ。日本人はその訓練が全然足りない。政治家もそうなんです。だから鳩山さんだって…あまり悪口言っちゃいけないけど、鳩山さんは「友愛」だなんだってフワフワした、なんとなく「いい人」って事が分かるような言い方はするけども、ハッキリした主張は実はあまりないんだよね。だけどそれが受け入れられる土壌があるんだと思います。

K : ボクはみんな、特に若い子は「友愛」に対しては相当クエスチョンマークがあると思いますよ。なんだか抽象的で。

H : なんか綺麗事を並べたような感じはみんなしてるんだけど、だけどごく一部の人には「いい人じゃないの」と。フワフワと仲良くする事がいい事だと。「それは確かにそうだ」なんていう人がね。

K : でも「仲良くする」って掲げてるわりには、言う事は言いますよね。言い方が攻撃的だし。民主党もハッキリ言って、生え抜きの議員が執行部を取るまで、あまり「独立した党」という感じには認められないですね。

H : ハハハ。


Interview 2009・11・16 自民党本部に於いて




「後書き」

 「全有権者が政治家と直接一対一で話ができればいいのに」、これが、話し終わった直後のオレの素直な感想だ。
 物理的に不可能なコトかもしれないが、心底そう思った。
 政治も自分と同じ人間がやっているコトなんだ、と肌で感じることができる。
 ニュースの中でしか見れなかったことが、グッと身近に感じることができる。

 細田氏とはもちろん初対面だったが、話好きで、物腰も語り口も柔らかな方だった。クラシックを愛し、ピアノを演奏する音楽家でもある。そのピアノの腕前はピアニスト中村紘子さんも褒めたほどだという。
 これだけ紹介すると「ただの気のいいオジサン」みたいだが、政治家としてくぐるところをくぐってきた、なんと表現すべきか…「体についた傷」みたいなものが、その柔らかさの合間から時々見えたのが印象的だった。柔らかさと凄みを併せ持った人だった。

 ここで細田氏へのインタビューが実現した経緯を書いておこう。

 10年以上前に溯るが、Hi‐Standard を初めて松江に呼んでくれた男がいる。野津なおつぐ。現在32歳。当時全く面識がないにもかかわらず「松江にハイスタを呼びたい」という一心で、駆け込みでオファーをくれた。その後 Ken Band になっても交流は深まり、今でも松江でやる時は必ず彼の世話になる。信頼できる熱い男だ。
 その彼が2009年の松江市議会選挙に立候補すると電話があった。彼の主張は、「松江市の政治家の高齢化に対して『自分達の住む街。誰の力でもない自分達の世代で良い町に築いてみせる』」というものだった。時々「街の人に、こんな事言われちゃってへこんでます…。」とかいうような連絡があった。少し心配だったが、まぁ彼なら大丈夫だろうと思ってた。
 結果、見事当選。
 無所属での出馬だったが、保守王国松江市で30代の初出馬当選は12年振りの快挙だという。そしてその保守王国での大いなる先人達である、自民党の会派に合流。そこで細田氏と出会う。
 彼はオレが時々コラムで政治や社会に対して意見しているのを知っていたので、「細田氏と対談してみませんか?」と、今回のインタビューをセッティングしてくれたのだ。

 そんな彼に現在どこにポイントを置いて活動しているのか訊いたところ、「数年間は徹底して若い人達に政治を身近に感じてもらう仕事をする予定でいます。若い人の無関心はいずれ政治家のレベルの低下を招き、20年後30年後、自らの親や子にとんでもないしっぺ返しとなって帰ってきます。今はどんな手段を使ってでも若い人達に少しでも政治に関心を持ってもらう様に動いていきます。」という返答があった。(野津君とはまた改めて、このコラム上で話をしてみたい。野津君のブログも、興味がある方は是非読んでみて欲しい。http://naotsugu.exblog.jp/

 野津君はオレを通して、若い世代に政治に興味を持つ機会を提供したかったのだ。
 彼の情熱があり、オレの情熱があり、細田氏の情熱があり、周りで尽力してくれた方々の情熱があった。
 そして今回の実現に至った。

 ちなみに政治的な観点で言えば、…今度は民主党や他党の議員とも話がしてみたくなった。
 細田氏と話す以前からオレは実は、民主党に対しては相当疑いの目を持ってみている。機会があればの話だが、そんな疑っている人達と話がしてみたい。今回とは違った角度で政治を見てみたい。

 オレの役割は、これを読者の皆さんに伝えること。
 自民がどうとか民主がどうとかじゃない。
 「政治は身近なものなんだ」ということを伝えたること。
 
 これで1人でも2人でも政治に興味を持てたり、やりたいことが見えてきた人がいたら、嬉しい。




「我が愛しのロゴ、国会に超接近中。」




2009.12.17