2009年12月28日
今年3月に雪の中で行われた山形−名古屋戦。地元に人によると、この程度の雪は、普段と比較にならないくらいやさしいらしい
12月23日に、小学生と中学生を対象としたサッカー教室を新潟で開いてきた。この季節、日本海側は雪が深い。グラウンドには20〜30センチ積もっていた。「体力トレーニングになるから、雪かきせい!」と子供たちをグラウンドに出したが、練習そのものは屋根付きのフットサル場で行った。狭いコートに大人数がいては、ミニゲームはできるけど、キックなどのしっかりした練習にはならなかった。
Jリーグを「秋春制」にしようという動きが、日本サッカー協会にある。現行のJリーグは3月開幕、12月閉幕の「春秋制」で、プロ野球とほぼ同じサイクルでやっている。これを、8月末か9月開幕、5月閉幕にしようというのが秋春制だ。欧州の主要リーグがこの時期に開かれ、W杯やコンフェデレーションズ杯などの主要国際大会が6月、7月に開かれることから、代表チームの活動に支障を生じさせないことや、欧州への選手移籍を潤滑にする目的などから、日本も欧州に合わせようという発想だ。ここ数年、日本協会の犬飼基昭会長が秋春制導入を進めようとしている一方、Jリーグの鬼武健二チェアマンは「現行から変えるつもりはない」という立場をはっきりさせている。
しかし、秋冬制にしたとして、新潟の例をみても、いったいどのようにやるつもりなんだろう? 試合で使うピッチはたまに雪かきすればいいかもしれないが、クラブが日々使う練習場はどうするのだろうか? 体育館に人工芝を敷き、4分の1程度の大きさのコートでプロが毎日練習しろというのか? Jリーグが使うスタジアムのスタンドも、多くは冬仕様にはなっていない。各地に屋根付きのスタジアムと練習施設を作るべく、日本サッカー協会が金を出すわけにはいかない。現実味のない案だ。
推進派は「欧州では寒い中で見るのが当たり前」と言うかもしれないが、日本と欧州はファン層が違う。日本は、子供や女性が見に行く特有のサッカー文化を持ち、欧州のように大人の男が酒飲んで体を温めながら、ワアワアやるようなサッカー文化じゃない。「酷暑の夏を避けることができ、試合の質は上がる」ということを秋春制のメリットに挙げる声もあるが、真夏だってナイターで週に1回試合をするだけだろ? 暑い中で試合をさせられてへばる、というような頻度じゃない。そんなの理由にならん。僕の経験では、寒い中で毎日練習する方が、かなわんで。
何より、季節感が日本人に合わない。子供や女性が気温4度、5度という気候のもとで、どれだけサッカーを見に行くだろうか? 日本人のスポーツ観戦の感覚は、雨が降ったら中止という野球の感覚が染みついている。雨の中でも見ようというのは、コアなサポーター以外ありえない。4月から新学年が始まる学制とのからみもある。ヨーロッパはクラブが100%選手を育成しているから、リーグの開催時期と学制は無関係でいいだろうが、日本はまだまだ高校や大学が選手を育てている。新人にとっては、12月、1月で卒業の目処が立ち、練習シーズンが始まる2月からチームに加わるという今のリズムが、実は丁度いい。
Jリーグが始まって17年。サッカーという文化が全国的に定着したかというと、そうじゃない。まだ定着する過程にあるわけで、これからJリーグクラブ誕生を目指す地域もある。日本テレビが経営撤退した東京ヴェルディ然り、9億円以上の実質債務を残した大分トリニータ然り、J1もJ2も累積赤字を抱えたクラブがたくさんある。2009年の平均観客数は、J1全体は約1万9000人でまずまずだが、J2は全体で約6300人。1万人を超えたのは3チームだけとは、プロとして失格だよな。そんな中で冬に試合をして観客数が落ちて、経営を維持できないクラブが続出したらどうするんだ? 秋春制はひとまず置いておいて、クラブがつぶれない方法を先に考えなければいけないよ。
1944年、京都市生まれ。山城高から早大を経て、1967年にヤンマーディーゼルへ。日本リーグで通算最多の202得点。得点王には7度輝いた。日本代表としては、国際Aマッチ日本最多の75得点。1968年のメキシコ五輪では7ゴールをあげ、銅メダル獲得の原動力となった。1984年に引退。Jリーグ・ガンバ大阪初代監督、参議院議員、日本サッカー協会副会長などを歴任。