20091227
■[雑文]フランチャイズシステムについて現場のオーナーがなんかゆってみた
さてと。こちらである。
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20091220/1261285986
関連の記事もあるみたいなんだけど、そちらはざっと目を通した程度。ちなみにリンク先の方が触れている本は読んでない。
リンク先の方がいってることは、ちょっとおおげさだなーと思いつつも、事実関係としてはさほどまちがってないと思う。ただしこっちはセブンのオーナーではないので、あちらの事情は噂話程度にしか知らない。
まず用語の説明から行っとこう。
問題となってるドミナントだが、これはチェーン本部が、ある地域を独占するために、まとめて出店することを言う。車でのドライブが趣味の方なんかだと、道路沿いに走っていって、一定間隔でセブンイレブンばっか出現する、という経験をした方もいらっしゃるかもしれない。あれがドミナントだ。コンビニにおいては、競合するチェーンに出店されて、古いほうの自チェーンの店舗が潰されることが非常に怖い。なので、店が成立するだろうぎりぎりの狭い商圏に店舗を建てていき、その地域に他チェーンが出店できないようにする、という方策が採用される。狭義のドミナントは、こういう意味でのみ使われる。
また、コンビニに適した不動産物件なんかがあったときに、他チェーンに取られるくらいならうちが!ということで、すでに自チェーンの店がそばにあるにもかかわらず、新たに出店したり、なんてこともしたりする。これは実はドミナントとは呼ばない。現象的には似たようなもんだが、ドミナントは「本来は」その地域をチェーンで独占することを意味するのだから、共倒れには意味がない。
また、ドミナントにはもうひとつの側面がある。配送センターや米飯の工場など、ひとつだけ離れた店舗があっては効率が落ちる。効率が落ちれば原価に反映する。ということで、本部個店双方にとってよいことはない。なので、集中的に街道沿いに出店したほうがよい、という理屈だ。
次にオープンアカウントについて。これは、要するに毎日の売上をみんな本部に送金しやがれ、というもので、実際の仕入れとかの金の動きについては、すべて本部が代行してくれる、というものだ。これについては「商売人」としてはデメリットが大きいが、実際のところメリットも少なくない。
俺は、自分で仕入れ先から開拓するような商売をやったことがないので、比較対照ということはできないのだけれど、かつて大昔、まだコンビニのシステムが充実していなかったころは、電話発注なんてのもよくあった。FAXでの発注も。これが、もんのすげー時間がかかる。仕入れ値の交渉なんてもの含めたら、もうめんどくさくて話にならない。
本部の見解はどうか知らんけど、コンビニってのは、基本的には「待ち」の商売だ。つまり、売場を完璧にし、店員を完璧にし、その状態で「客が来てくれるのを待つ」わけだ。そして来た客に最大限にいい印象を与えて「また来てもらう」のがいい。予約商材みたいに攻めの商売ができるものもあるが、基本は「待ち」だ。つまり、オーナーの持てる時間、バイトの持てる時間のすべてを「客を待っている店舗」を磨き上げることに費やすと、レベルの高い、客に信頼される店ができあがる。そのためには、仕入れとか経理とか余計なことに頭使わないほうがいい。
オープンアカウントというのは、思いっきりポジティブに考えるのならば「めんどくさいことは本部がやってやる。だからオーナーは売場の充実に努力して、客呼べる店を作れ」ということでもある。もちろん裏面としては、ほんとに原価が本部の言うとおりなのかとかそういう問題もある。実際、いろんな商品の値入率見てても、実勢価格とつきあわせて考えると「ほんまかいな」と思うようなものもある。オープンアカウントを問題にする人の問題意識は、たぶんそのへんにあるだろう。
あと、オープンアカウントの利点をひとつあげておくと、確定申告とかすごい楽。もちろん、うまい節税対策とかできないとかいう話でもあるけど、個人経営のレベルだとあんま関係ねーんじゃねーの、とも思う。
最後にロスチャージだ。これについては極めてグレーゾーンの疑いが濃厚なのだけれど、うかつなこと言って店バレしたときにほんとやばいので、俺個人の意見は明確にしないでおく(少なくとも、明確にしたらやばい、という雰囲気があることは事実だ)。具体的にどういうものなのかというと、コンビニでは、商品を仕入れた時点で、利益が発生したとみなす。100円の商品を70円の原価で仕入れたとしよう。その30円はすでにして利益であり、そこに対してたとえば本部の取り分であるロイヤリティーが50%かかる。店の利益もその時点で発生する。
ところで、実際に仕入れた商品がすべて売れるかは別の問題だ。弁当なんかだと、売り切れなくて賞味期限切れの商品がよく出る。しかし仕入れ時点で、すでに利益は発生したことになっている。このままでは、大量に仕入れて廃棄出しまくると、自動的に店舗の利益が増えてしまう、というおかしな状態になる。
そこで、最終的に店の利益として残った金額から、廃棄分の金額を原価で差し引く。それと諸経費を除いたものが、店主の利益として残る。
この仕組みがロスチャージというものだ。
理屈でいうと、仕入れではなくて、販売の時点で利益が立つようにすれば、この問題は解決する。しかしそこがめんどくさいところで、そうすると店舗は廃棄を抑えにかかるに決まっている。けれど、実際問題としては、多少の廃棄を出して品切れをなくすほうが、トータルでは店の利益になったりする。これは実際に店をやっている人間の実感として話すのだが、廃棄による損失よりも「客が欲しいときに商品がなかった」という機会損失のほうが、はるかに店にとっては悪影響を及ぼす。
そこで、ロスチャージという仕組みが考案されたのかな、と思うんだけど、このへんはよくわかんない。ほかの理由があるのかもしれない。あと、自分のチェーン以外がどうなってるのかもよく知らないんだけど、まあロスチャージが話題になってる時点で、少なくともセブンはそうなんだろうね。
つーわけで、用語説明終わり。
さて、これが善か悪か、という話になりますわな。
個人的には「現状そうなってるし、その状況で商売が不可能かっていうと、やりようによっては儲かりまっせ」と思ってるので、とりたてて現状否定することはしない。あと、リンク先のテキストではわからないことなんだけど、月に20万以上かかる電気代が、セブンでは本部持ちになってる。これ、ものすごくでかいんですね。あと、セブンのロイヤリティの高さはもう、有名なんですけども、そのかわりに「セブンイレブンである」というパッケージ力だけで、平均日販が他チェーンより10万は軽く高い。月間トータルで300万、仮に粗利率を25%として考えて月間で100万違ってくる。
さらにいうと、キャンペーンとかで集中的に売り込みかけたい商品があったときに、本部が廃棄分について損失補填してくれる制度があるんだけど、セブンはこの支援の金額が他チェーンと比較して相当に大きい。また、プライベートブランド商品が多い関係上で、おそらく値入率については、他チェーンより恵まれてる部分があるはず。
ということで、セブンってチェーンは、本質的に「高コスト高売上」というラインでやってて、かつて殿様商売でやってたころはそれでもよかったんだけど、過当競争、そんで他チェーンが力をつけてきた現状では、それがどうにもならなくなってきた。そこで綻びが表面化した、ということなんだと思ってます。つまり、かつてダイエーって会社の社長さんが言ってた「売上はすべてを潤す」ということだったと思うのね。表面化してなかっただけで。
てゆうより7年か8年前ころから、セブンのオペレーションの平均値ってあきらかに下がってると思うんだけど、あれなにかあったのかね。
と、ここまで書いてみてだ。
現状認識はそれでいいとして、じゃあ打開策はなんなの、という話になったときに、俺は現場で、いまこの瞬間もバイトが「いらっしゃいませー」ゆってるのを聞きながらこのテキストを書いてる。
で、不買運動が根本的な解決にならないのはもちろん、労働組合を結成して本部と交渉していこうって気もない。おまえはコンビニのシステムに魂まで飼いならされたイヌでちゅう☆といわれればまあそれまでだが、しかしこうしたシステムをよく知っている状態で、自分で店を始めたわけだ。当然ながら勝算があったからだ。
いちおー、上記の問題点について自分の立場をあきらかにしておくと、ドミナントは「地域の独占」という本来の目的においては可、既存のオーナーにことわりもなく至近距離に出店するのは問題あり、てゆうかやめろ派。んでオープンアカウントは、俺にとってはメリットのほうが大きいので現状肯定。ロスチャージについてはおかしいとは思うものの、現状やれてるから問題ない、ということになる。
その前提で話をする。
さて、勝算がある、ということはフランチャイズシステムが、「完全な」詐欺の体系ではないことを意味する。しかし詐欺だという人がいる。この俺の「勝算」というものが、自分に下された天命だとか、神に愛された子供とかだと話にならないわけだが、俺には理詰めの根拠があった。
まず、経験が長かったということ。競合に勝っていける店舗、稼げる店舗を作るにはどうしたらいいのか、すでに知っていた。ここには売場作りも、人の運用も、あらゆることが含まれる。つまり「その立地の最大のポテンシャル」を引き出せる自信があった、ということだ。
次に立地の選定眼があったということ。都合7店舗くらい、うち店長をやって面倒みた店舗だけでも3店舗。んで、中規模のスーパーを競合にブッ建てられた経験1、同社競合2回、ライバル競合数知れず、異種競合にいたってはよくわかんね、という経験を経てきた。本部がいう「車の通過台数」とか「通行人数」「商圏人口」なんかがあてにならないことは「最初からわかっていた」。ポイントは、人の生活動線がどうなっているか、その立地が地域の人にとってランドマークになりうるかということで、外部の人間にはわからない「地元民だけの動線」というのが確かに存在する。現に俺はいまの店をやるまでに2店舗ほど断っている。いまの店より予測売上はいずれも高かったが、俺の目にはクソ立地に見えた。だから断った。オープン後にどうなったかは言わないでおく。あえて言うならざまぁwwwwwwというところか(ゆってる)。
そして、最後にこれが重要なのだが、共同経営者たるうちの奥さまは、最初から店長できるだけの力量を持っていた。というより売場の管理に関しては俺よりもはっきりレベルが上だ。人を育てるまでもなく、最初から店舗を一人で回せる人間が二人いて、互いの欠点を補いあいながら高いレベルでの経営を目指すことができた。こうした例は、まずあるものではない。
あー、あとひとつ。最初から本部とのつきあいかた知ってたね。スーパーバイザーの言いなりになってもうまくいかないってこと知ってた。
と、ここまでの裏づけがあって、俺は紹介された店舗を選び、店を始めて、初年度からレベルの高い売場を作り続けた。そんでまあ、オープン5年。昨今前年比がやばくなってる状況でも、うちの店は前年比落としてない。タスポ効果とか、あんなん乗っちゃうほうが悪いんだって。タスポ効果で期待できることは、新たに来店した客に対して「いかにうちの店がすばらしいか思い知れ!」って言うことであって、タバコの売上伸ばすことじゃないでしょー? 本部の施策もそりゃそういう建前で動いてたけど、タスポ導入時に「揚げ物薦めていきましょう!」って指導した本部がどれだけあるってのよ。3個パック祭りとかで浮かれてる場合じゃねーっつーの。
で、俺みたいに経験があって始めたオーナーはともかく、大多数のオーナーはそうではない。ごく主観的な印象なんだけど、会社勤めでそれなりに実力を認められるようなタイプの人であれば、店やってもそう失敗しないと思うのね。つまり、自分の持ち時間、スケジュールなんかをきちんと把握し、自分の能力を高め、全体として「客を呼べる店にするためにはどうしたらいいか」っていうことを考え続けて、それなりに努力できる人。でも、会社社会でもそうであるように、成功できる人って一部なわけ。なんの法則だか忘れたけど、1:8:1だっけか? そういうような。
じゃあ、店作ることそのものには大したコストがかからない。加盟金その他でプラスが出る状況で、次から次へと店作って、ダメな店は淘汰して、ってやりかたはまちがってない。スクラップ&ビルドだわね。こっちの立地がダメならオーナーさん、あっちのほうに駐車場つきの物件作れますから、ちょっと移動してくださいよ。そこでもダメですか。あー、じゃあおまえやる気ねーんだろ次のオーナー入れて近くに物件作ったれ。ダメなほうは死ねwwwwですよね。人間が使い捨ての道具である、という前提なら別にまちがっていない。
しかしフランチャイズは共存共栄を謳うわけですよ。共存共栄、どwwwこwwwwがwwwだwwwwwwって話ですよ。
じゃあなにが共存共栄を阻んでいるのか。俺には、必ずしも上述したようなオープンアカウントとかの問題点だけではないように思える。
つまり、俺には勝算があった。本部の言うことを鵜呑みにしないという前提で。
じゃあ、脱サラして店始める人には、最初から勝算なんかないってことです(もちろん、一部の能力ある人は除く)。裏事情なんて知らないんですから。そこに「詐欺」が発生する。
そして本部は潰しあいを是とする。是としないまでも、非とはしない。
だから、いちばんの悪者はなにかっていったら、これは過当競争だと俺は断言しますね。コンビニ作りすぎ。よくスクラップ&ビルドの成功例として、沖縄ファミリーマートなんかが挙げられることが多いですけど、あれなんかは「オーナーは変わらない」という前提で、ベストの立地を選び続けるためにやったから成功なわけです。この場合、本部だってそれなりの出血を強いられる。でもほら、よくセブンのすぐ隣にファミマがあったりするじゃないですか。ああいうのって後からできたほうの店が既存の店をブッ潰す前提でできてるんですよ。もしそうでないにしても「2店舗あっても両方とも存続できるから」っていう前提。それはおかしいでしょ、って話。
もひとつ。次にやばいと思うのが、初期教育の不徹底。だって、店をひとつ経営するんですよ。いかに仕入先の開拓とか必要ない、端末みたいなものに数字入れれば発注完了、売れるものと売れないものの区別は本部がやってくれるったって、店の運営はそれだけじゃない。最近はファミマなんかが人材育成に力を入れてるらしいですけど、基本的には、アルバイトの教育は素人オーナーがやることになる。店がオープン時にどれだけの力を持ってるかっていうのはとても重要なことなのに、初期状態で、そこが危うい。こりゃおかしいですよ。
もちろんチェーン本部もなにもしてないわけじゃない。たとえばスリーエフやミニストップなんかは、直営店で嘱託社員みたいなかたちで1年ほど働いてから独立、なんて制度もある。ローソンにも既存店舗のオーナーから、一定の資格を持つ人をオーナーとして推奨する独立支援制度なんかがある(この場合、加盟金は半額)。セブンはしらね。そうやって独立した人の成功率に限ってみれば、相当に高いはずなんですね。
だけど、一般のオーナーはわずか数日の泊まりこみの研修と、直営店での2週間足らずの研修、あとオープン前の1週間程度の研修、そしてオープン後に、本部の指導員が1週間ほどついてくれるだけ。これで経営のなにをわかれっていうの、って話。
フランチャイズが大きくなってくる過程では、大量の「経営者」を必要とするのはまあ確かでしょう。そのためには敷居を低くするってのもね。こうして素人オーナーが乱造されて、確かにオープンアカウントだのロスチャージだのグレーゾーンがたくさんあるシステムながらも、やりようによっては儲かるってことも知らずに玉砕していく。構造的におかしいってのは、もう、リンク先の方のいうとおりです。あとまあ、ロスチャージの話を契約のときに持ち出したら、ものすごい勢いでいろんな本部社員に「それは問題じゃないです!!」って否定されたけどなー。空気読まないことには自信があります☆
理想論だけでいえば、まあ、コンビニのフランチャイズシステムは問題だらけです。
上述の3点セットにしてもそうだし、あと本部側の問題として、スーパーバイザーが7店舗とか持ってるの絶対無理だって。新店なんか持たされた日にゃほんと死にますよ。オペレーション上の不備とか、全部スーパーバイザーのとこに電話が行くんだから。そりゃ彼らだって人間なんだから「おまえ自分でそれくらいやれよ……」ってな気分にもなります。
そのうえでなお、睡眠時間削ってがんばってくれてる人は多い。
だけど、睡眠時間削ってる時点でもうすでになにかがおかしい。
ほんと、無理あるんですよ。
そんで、そのなかでも根本的な問題として、俺は過当競争と、オーナー候補者への初期教育の不充分さ、というのを挙げてみました、という話です。金方面のうさんくささよりも、そっちのほうがよっぽど本部としての責任果たしてねーわ。もうバブルも終わって20年くらい経つんだからさー、いつまでもスクラップ&ビルドでもないでしょー? いまチェーンが持ってる資産のなかで、どうやって戦っていくかでしょうに。
……はいはい。チェーンのトップはそれよくわかってるね。いや、これは皮肉じゃなく、ほんとにわかってると思います。ただねー、スケールメリットってのは確かにありながらも、拡大拡大でやってきた会社が、いまさら「維持」を目標に切り替えるのは難しいでしょうね。図体でかいだけに。
あくまで個人的な主観だと断言したうえで言いますが、これからの時代、既存店守れないチェーンはやばいと思うよ。店は確かに立地が勝負なんだけどさ、人が人をつなぎとめるっていう側面は、流動性が低くなるだろう(てゆうか流動するだけの経済的体力が一般市民になくなる)これからの時代では、決して無視していいもんじゃないと思う。もうちょっと経営者を「育て」ましょうよ。そのためには、最初から「信用される」「頼りにされる」本部であるべき。俺みたいな20年選手に「本部はしょせんそんなもんなんで、俺は俺のやりかたで店守る」なんてオーナーに思わせたらほんとはダメなんだよ。こう考えるようになったオーナーに、いまさら「共存共栄で参りましょう!」ったって話聞くわけないじゃない。
そのためにも、最初から「ああ、このチェーンで店やってよかった」って思われるだけの手厚い初期教育してきましょうよ、って俺はゆってます。単純に利害だけで考えるんであっても、そのほうがよっぽど本部としてはやりやすいでしょうに。
というのはつまり、ビジネスモデルの転換って話なんですが、まあ、そこまでできるかどうか……。やったチェーンが勝つだろ、ってのはかなりの確信を持って断言できちゃいますけど。