伊集院光さんの至言「結局、うんこを食うしかない状況になるんです」
2009年12月25日08時20分 / 提供:日刊サイゾー
モテない、金ない、華もない......負け組アイドル小明が、各界の大人なゲストに、ぶしつけなお悩みを聞いていただく好評連載。第8回のゲストは、ラジオDJ、タレント、テレビ番組の企画演出など幅広く活躍する、あの伊集院光さんです!
[今回のお悩み]
「コンプレックスが昇華しないです......」
──ギャー! 本物の痴豚さま(ファンの間での伊集院さんのあだ名)だ! デッカイ! ラジオも聴いてるしDVDも面白かったです! すみませんがよろしくお願いします!
伊集院(以下、伊) ......あ、ありがとうございます。よろしくお願いします。
──うわ! ラ、ラジオと同じ声だ......! あの、さっそく相談なんですけれど、私、ものすごくコンプレックスにまみれた人間で、何をしても不安で、満足感を得られないんです。
伊 はい。
――そのコンプレックスを「自虐」って形で文章にしたら、コンプレックスが昇華されて、もっとすっきり明るく暮らせるんじゃないかと思っていたんですけれど、どれだけコラムを書いても、小説に挑戦しても、結局うまくいかなくて、またぐるぐるしてしまって......。
伊 ええ、ええ、分かります。
――伊集院さんは、ラジオやコラムでいつもご自分のコンプレックスをうまく笑いにして昇華させているので、今日は是非そのへんを......。
伊 ああー、それは難しいですね。僕も、コンプレックスは笑いにすることで武器になるんだって信じてはいますけど......。
――信じてはいるけど......?
伊 とりあえず「コンプレックスは僕の武器だ」っていうのを信じてがんばれる時期があって、そう思うことでコンプレックスを多少は解消できるじゃないですか。けど、そのコンプレックスを解消しちゃうと、一度「これが武器なんだ!」っていう自覚を持ったがゆえに、「武器を失った!」というコンプレックスができるので、そのへんは難しいですよね。『コンプレックス保存の法則』みたいなの。でも、徐々にコンプレックスに対する対処を憶えてくるから、「コンプレックスで死ぬことはない」くらいにはなりますよ。だから、よく聞く「コンプレックスを笑いに昇華するといいよ!」ということでもないかなぁ。コンプレックスはどんどん新たにできるので、堂々巡りになるんですよ。......つまり、あなたのコンプレックスは一生、姿を変え形を変え、ずーっとあなたに付きまといます。
――ええー! そんなの嫌だ!!
伊 ただ、そのコンプレックスの姿が変わる瞬間は、すごく気持ち良かったりするんです。姿が変わる前に一回消化されるから。そのコンプレックスを一回クリアする快感は、机上で計算しているよりは、ずっといいものだと思いますよ。
――なるほど。......ってことは、伊集院さんも未だにコンプレックスとか、あるんでしょうか? 元アイドル歌手のきれいな奥さんもいて、芸能界でもすごくいい位置にいるのに!
伊 なんて言うんですかねー。たとえば、学生時代にモテないで孤独なことよりも、芸能界っていう華やかなところにいる方が世間的に、まぁ満たされているといえば、比較的満たされているとするじゃないですか。でも、"満たされているはずなのに感じる孤独"の方が、どうしようもないよ。本当にどうしようもない。
――確かに、明らかに何か足りないときに感じる孤独より、対処の仕方が分からないですもんねー......って、なんか、むしろ事態は深刻化しているじゃないですか!
伊 うーん、なんでしょうね。僕は、かみさんがいなくなったら死んでしまうくらいかみさんが好きで、そのパーフェクトなかみさんが家にいるのに、なんかこう、孤独とも違うざわめきに包まれたりとか......あの、粗い目のサンドペーパーを丸めたのが、喉に入ってるみたいな夜が来る。
──ああー! 分かります。突然来ますよね、喉とか胃とか肺にこう、濁った空気がぐるぐるして苦しくて、息の仕方を忘れちゃう夜、みたいなの。
伊 何なんでしょうね、その感じ! もう意味が分からないです。それにはあらゆる処方を全部試して、全部つっかえは取れたはずなのに。さすがに昔みたいに銃を突きつけられてる恐怖みたいなのはもうないんですけど。
──うーん......。現在の伊集院さんクラスになったら、さすがに不安感よりも満足度の方が圧倒的に高いのかと思っていました。
伊 これは恐らく一生続くと思うよー。そう思ったら逆にちょっと楽になりました。もし僕がこのまま大変な人気者になって、ゴールデンで冠持って、スケジュールが全部埋まって、一億円札が財布に入っているような状態になったとしても、そのパーセンテージは絶対に変わらないし。だから、先に"幸せの総量"を決めておくほうが良い感じになってきたの。
──"幸せの総量"ですか?
伊 「僕はこうやっていれば大丈夫、生きていける」っていうことを決めて、その枠の中でやっていく。そうしないと、人気とかお金は底なしだもんね。
──でも、総量をあらかじめ決めるってのも、ちょっと勇気がいりませんか? もしかしたらもっと上にいけるかもしれないのに、その可能性も奪ってしまうというか......。
伊 さんまさんとか見てると、まだ売れたい感じするでしょ? すげえなって。紳助さんくらいになってもまだ不安があって、「えー、なんで?」って思うじゃん、俺なんかからしたら! そんな地位にいっても不安になるんだったら、もう売れる気ないわ俺......って。俺、みのもんたさんみたいに、息するように芸能界にいるのムリだし......。絶対、みのさんにとって芸能界は銀座のお店の延長なんだろうな、きれいな人もいっぱいいるし......。
――なるほど。それはかなり分かります。
伊 あの〜、満たされるパーセンテージって以前と変わりました? かつて孤独だった時代と、こうして雑誌に連載を持ったりとか、人に会ったりしている今と。今も、瞬間瞬間は満たされたとしても、落ち着いて家にいるときとか、寝る前とか、どうですか?
──えーと、中学校のときに引きこもりをやってまして、その当時は本当に毎日すさまじい焦燥感と虚無感に襲われて「生まれてきてすみません」とか言ってベッドで泣いてたんですけど、さすがに今はそれが月に2〜3回くらいに減ってますよ! だから満足パーセンテージも......あれ? あんまり上がってない! 上がってないです!
伊 そう。それはやっぱり慣れみたいなものってあるじゃん。「死にたい」って言ってる自分に慣れてくるでしょ。
──あっ、確かに「死にたい」に昔ほどの緊迫感は無くなってます!
伊 "死にたい慣れ"してくるから、「死にたい死にたい」って言ってるときに、心のどっかでは「そうでもねえな」って感じになってくるでしょ。年齢的な慣れとかで、その折り合いのつけ方はできるようになってくるんだよ。だけど、なんかあんまり満足度のパーセンテージは、俺ん中では全然変わんねえんだよなー。
──もっと根本的な問題なんですかねー。世の中にはそういう鬱屈とした感情のパーセンテージが低くて、物事をエンジョイすることに長けている人たちがいて、その人たちって毎日すごく楽しそうに暮らしているじゃないですか。もう、羨ましくて軽く憎くすらなって、もう「悩まないってバカか! 楽しんでる人間全員死ね!!」みたいに思ってきて......伊集院さんもそうですよね!
伊 あはは! 俺はそこまでじゃない! けど、自分でもそういう不安定なところ、「ホントに中二気質!」って思うの。自分のことは決して利口だと思ってないんだけど、自分よりバカな人はすごくいっぱいいると思ってる感じ、分かります?
──中二病だ! 分かります!
伊 こんなにバカな俺がギリギリのところで踏ん張ってるのに、なんで俺より頭悪くてお前そんなことしてられんの? みたいな。これは、ナルシストなのかどうかもよく分からないよね。だって自分の自己評価としてはダメな人で、劣等感はすごいんだもん。それなのに、俺よりバカな人に対して優越感とも違う、もっとイヤなものを持ったりする。変なバランスだよね。
──危ういバランスですよね。そのせいか私、友達ってほとんど存在しなくって、うまく輪に入れないというか......たまに輪に入ってキャッキャと楽しくやれていても、一回自分を俯瞰から見ちゃって、「あたし何やってんだろう」みたいな、こう......。
伊 それはね、たぶん投げちゃった石のせい。昔キャッキャキャッキャ遊んでるやつらに、「楽しそうにしやがって、何も考えてないんだろ、お前ら!」って投げちゃった石が、時間差で自分に当たるんだよね。
──あー! なるほど!
伊 石が当たって「アッ! あの時に俺が投げた石だ!」って。それで「今、俺、何も考えずに遊んでた......」ってことに気づいて、急に怖くなってくんだよね。
──そこですごく冷静になってしまって、急に作り笑いになっちゃったり......。
伊 そうそう。......俺ね、ナンシー関さんのエッセイ集のタイトルがすごい好きでさ。必ず「なにをいまさら」とか「なにさまのつもり」とか入れるでしょ。俺も、あの感じでいかないと、がんばって立てないの。「お前が一番ダメだ!」って言われるより先に「分かってるんです、これは僕のルールだからやってるんです」って提示する。だから、自分の誕生日に若手とワーッて飲み行っても「みんなで金出しあって、(出した金額が)一番上の一人と一番下の一人で会計15万を割るけど、お前らいくら出す?」とかルールを作って......。
――誕生日パーティーがえらい緊迫した雰囲気に! 楽しめない!
伊 ぜんぜん楽しくなかった(笑)。でも俺、ルールを決めなきゃ遊べないんだよねー。
──なるほどー。ストイックというか、ひねくれた自分ルールですな。そういう精神が伊集院さんの『伊集院光のでぃーぶいでぃー』(ポニーキャニオン)にも出てましたね。若手芸人にジャンケンとか野球とか団体ゲームをやらせるんだけれど、必ずスパイを混ぜたり気まずくなるような巧妙なルールを作って、若手芸人たちの団結力を測りながら、それを壊して、どんどんギスギスさせて、それを伊集院さんが上から見て爆笑しているあの構図、本当に面白いです! 私はあまり人を信用できない方なので、ああやって頭のいい人が策に溺れたり、身内で裏切りあっていくのは、スリリングだけどマヌケで笑えました!
伊 良かった! あれは僕のモットーなんですよ。「人間はみんなマヌケだ」っていう。
──ああいうときの伊集院さんは本当に楽しそうですよね。
伊 みんなを混乱させて、言い合いさせるのが愉快でしょうがないんですよ。一生懸命持論を展開して、みんなを巻き込んで沈んでいくやつとか(笑)! でも、崩れていく人間関係を覗いてるときの、俺のサディスティックな力の入り方とか、ちょっと引いて見ると、本当に頭おかしいんだよね。みんなにどんどんイヤな指示を出して追い詰めてる時の俺の楽しそうな顔が、僕の一番ダメなところだし、一番、見られたらイヤなことろ。だからこそDVDに入れたかったの。そこで「そんな人でも生きてていいんだ」っていうところが俺の立ち位置なんだと思ってますよ。人間みんな変なんですよ。でもその中で、最も変なのは僕......。
――なんか、娯楽と孤独が紙一重ですね......。その辺の伊集院さんの深層心理に潜れるのが、伊集院さんや若手芸人たちが箱庭を作る、『伊集院光のでぃーぶいでぃー箱庭カウンセリングの巻』ですよね。あれ、私、泣きましたよ......。
伊 そ、そんなもので(笑)! ありがとう!『箱庭』は、たぶん好き嫌いが相当あると思うんですけど、実は一番好きなんです。
――箱庭っていう、本来カウンセリングに使うものを笑いにするのは難しそうなのに、笑えるし感心もできて、私も箱庭を作りたくなりました。箱庭って、作るとあんなにトラウマとか、現在やら未来への不安が浮き彫りになっちゃうもんなんですね。芸人さんたちがちょっとシャレにならないようなトラウマ持ってて、そこに涙が出ました。
伊 ああ、そういうの持ってないとお笑いやっちゃいけない、って僕は思うんです。僕もすごいコンプレックスばっかりで、うまく立ち回れないことが多いんですけど......。
──ええー、そんなことないですよ! 芸能界では白伊集院(テレビ版)と黒伊集院(ラジオ版)、ちゃんと分けられてますから!
伊 うーん......小明さんも、"アイドルちゃん"やるくらい可愛くても、愛される量が足りてたら、こんな世界に来ないでしょ? それはみんなそうで、普通に可愛いって言われて愛される量が足りていたら、1万人に可愛いなんて言われる必要がないじゃないですか。
──いやいやいや、私なんか全然なんですよっ。うちは姉が極端に美人で頭が良かったりセンスがあったっりしたもんで、写真も姉ばっかりで、私はいつも日陰でした......。
伊 あー、やっぱりなあ。そういうことですよ。
──伊集院さんの箱庭もかなり「こんなに根が深いものがあったとは!!」って感じでしたよ。若手だけじゃなく、あそこでご自分も作られたのはすごいと思いました。だってあれ、現在・過去・未来の脳みそを晒すようなものだから。
伊 勇気がいるよね。でも、アレがお笑いだと思うんだ。やっぱ見せる勇気ってお笑いにしかないなって、本当に思うもん。だから、もしかしたら普通の女性タレントとかの方が「うわぁ、やべえな!」っていうのができるかも。......ベッキーのとか見てみたいよね。
──あ、それは見たい(笑)。普段すごく明るい人とか嫌味のない人のが見たいですね。
伊 うふふ。小明さんもやってみ。
――やってみたい! でもやっかいな性格が更に浮き彫りになったり、忘れていた暗い過去とか思い出しそうで怖いです! 将来も不安だらけだし!
伊 絶対みんな何かあるもんね。イヤなの作るぜ、きっと。
――き、希望に溢れた箱庭にしたいな......。私、根暗だからなのか、将来に明るいプランとか全然持てないんですよ。性格だって自己評価はやたら低いんですけど、変なところでプライドが高かったりして、自己顕示欲ばっかりこじらしちゃってるところがあるし......。
伊 はあー......何かね、その原因は。なんで俺らそういうふうになっちゃうのかね......。
──なんでなのか分かんないんですけど、もう、取り返しはつかないんで、とりあえず現世はこの性格でやっていくしかないと思って......。でも、なんかやり切れていないような......。
伊 うまく自分に向き合えない感じのね。「本気出してないよ!」って言い張る。
──自分を直視するのがすごく怖いんですよ。本気出したときに、「なんだ、全然しょぼかったんじゃん!」って言われるのが怖いから、本気出していても出してないふりして。
伊 なんですかね、その斜に構えた姿勢。何が起因してるんですかね。きっとどっかで落ち着くんだと思うっていうか、そう思いたいんですけどね。
──その感じでどんどん時間が過ぎて、もう25歳になっちゃうんですよ、びっくり。
伊 うん、そうそう。だから最近すげえ「健康でいようかな」って思うようになりましたよ。「落ち着くところまでいけないだろ、これじゃ!」って思って......。
――健康は大事ですよねー。......あの、ちなみに、今回の相談は『コンプレックスはどうやったら昇華できるのか』だったんですけど。
伊 ああー......そうだったねー。「昇華」はなかなかできませんので、一旦「消化」する。俺は、いわゆるあの「昇」と「華」という形の、きれいな漢字面で昇華されることはないと思ってる。消化しちゃー、また新しい排泄物になって、そのうんこを食って......っていう状態が、ずーっと続いていくような気がする。消化しても、結局またそのうんこを食うしかないような状況に、絶対になると思う。でも、そうするとお腹も慣れてくるんでしょうから! んふふ!
――うんこに慣れなきゃいけないのか......。
伊 今後、何になってくの? やっぱり小説書いたりしてんの?
──小説も書きたいんですけど、やっぱり自信がなくて二の足を踏んじゃったり......書けても本当に中二病丸出しで、途中で泣きたくなったりして。
伊 いいじゃん。俺、小説読まないから分かんないんだけど、そのままこじらせまくって、直木賞とってよ! 俺の『のはなし』(伊集院さんのエッセイ集)も直木賞とんねーかなって思ってんだけど、直木賞ってどうやらそういう賞じゃねえっていう(笑)。
――あははー! やー、なんだかがんばれそうな気がしてきました! 今日は本当にありがとうございました、お会いできてうれしかったです! 今後も応援してます!
伊 あ、こちらこそ、本当にありがたいね。こっちも元気が出た。
(取材・構成=小明)
●伊集院光(いじゅういん・ひかる)
1967年、東京都生まれ。タレント。『JUNK 伊集院光 深夜の馬鹿力』(TBSラジオ/月曜25時〜27時)のDJとして活躍中。エッセイ『のはなし』『のはなにし』(ともに宝島社)、DVDシリーズ『伊集院光のでぃーぶいでぃー』(ポニーキャニオン)も続々発売されている。
●小明(あかり)
1985年、栃木県生まれ。02年、史上初のエプロンアイドルとしてデビューするも、そのまま迷走を続け、フリーのアイドルライターとして細々と食いつないでいる。初著『アイドル墜落日記』(洋泉社)での自虐っぷりが一部で評判を呼んでいるとかいないとか。
ブログ「小明の秘話」<http://yaplog.jp/benijake148/>
【第7回】 ルー大柴さんの至言「ライフっていうのはマウンテンありバレーありです」
【第6回】 大堀恵さんの至言「私、いつも『アンチ上等』って思ってるんです」
【第5回】 品川祐さんの至言「なったらいいなと思ってることは、だいたい実現する」
【第4回】 福本伸行さんの至言「俺は『面白いものを作ろう』じゃなくて、作れちゃう」
【第3回】 大根仁さんの至言「ネットの書き込みなんて、バカにしていいんじゃない?」
[今回のお悩み]
「コンプレックスが昇華しないです......」
──ギャー! 本物の痴豚さま(ファンの間での伊集院さんのあだ名)だ! デッカイ! ラジオも聴いてるしDVDも面白かったです! すみませんがよろしくお願いします!
伊集院(以下、伊) ......あ、ありがとうございます。よろしくお願いします。
──うわ! ラ、ラジオと同じ声だ......! あの、さっそく相談なんですけれど、私、ものすごくコンプレックスにまみれた人間で、何をしても不安で、満足感を得られないんです。
伊 はい。
――そのコンプレックスを「自虐」って形で文章にしたら、コンプレックスが昇華されて、もっとすっきり明るく暮らせるんじゃないかと思っていたんですけれど、どれだけコラムを書いても、小説に挑戦しても、結局うまくいかなくて、またぐるぐるしてしまって......。
伊 ええ、ええ、分かります。
――伊集院さんは、ラジオやコラムでいつもご自分のコンプレックスをうまく笑いにして昇華させているので、今日は是非そのへんを......。
伊 ああー、それは難しいですね。僕も、コンプレックスは笑いにすることで武器になるんだって信じてはいますけど......。
――信じてはいるけど......?
伊 とりあえず「コンプレックスは僕の武器だ」っていうのを信じてがんばれる時期があって、そう思うことでコンプレックスを多少は解消できるじゃないですか。けど、そのコンプレックスを解消しちゃうと、一度「これが武器なんだ!」っていう自覚を持ったがゆえに、「武器を失った!」というコンプレックスができるので、そのへんは難しいですよね。『コンプレックス保存の法則』みたいなの。でも、徐々にコンプレックスに対する対処を憶えてくるから、「コンプレックスで死ぬことはない」くらいにはなりますよ。だから、よく聞く「コンプレックスを笑いに昇華するといいよ!」ということでもないかなぁ。コンプレックスはどんどん新たにできるので、堂々巡りになるんですよ。......つまり、あなたのコンプレックスは一生、姿を変え形を変え、ずーっとあなたに付きまといます。
――ええー! そんなの嫌だ!!
伊 ただ、そのコンプレックスの姿が変わる瞬間は、すごく気持ち良かったりするんです。姿が変わる前に一回消化されるから。そのコンプレックスを一回クリアする快感は、机上で計算しているよりは、ずっといいものだと思いますよ。
――なるほど。......ってことは、伊集院さんも未だにコンプレックスとか、あるんでしょうか? 元アイドル歌手のきれいな奥さんもいて、芸能界でもすごくいい位置にいるのに!
伊 なんて言うんですかねー。たとえば、学生時代にモテないで孤独なことよりも、芸能界っていう華やかなところにいる方が世間的に、まぁ満たされているといえば、比較的満たされているとするじゃないですか。でも、"満たされているはずなのに感じる孤独"の方が、どうしようもないよ。本当にどうしようもない。
――確かに、明らかに何か足りないときに感じる孤独より、対処の仕方が分からないですもんねー......って、なんか、むしろ事態は深刻化しているじゃないですか!
伊 うーん、なんでしょうね。僕は、かみさんがいなくなったら死んでしまうくらいかみさんが好きで、そのパーフェクトなかみさんが家にいるのに、なんかこう、孤独とも違うざわめきに包まれたりとか......あの、粗い目のサンドペーパーを丸めたのが、喉に入ってるみたいな夜が来る。
──ああー! 分かります。突然来ますよね、喉とか胃とか肺にこう、濁った空気がぐるぐるして苦しくて、息の仕方を忘れちゃう夜、みたいなの。
伊 何なんでしょうね、その感じ! もう意味が分からないです。それにはあらゆる処方を全部試して、全部つっかえは取れたはずなのに。さすがに昔みたいに銃を突きつけられてる恐怖みたいなのはもうないんですけど。
──うーん......。現在の伊集院さんクラスになったら、さすがに不安感よりも満足度の方が圧倒的に高いのかと思っていました。
伊 これは恐らく一生続くと思うよー。そう思ったら逆にちょっと楽になりました。もし僕がこのまま大変な人気者になって、ゴールデンで冠持って、スケジュールが全部埋まって、一億円札が財布に入っているような状態になったとしても、そのパーセンテージは絶対に変わらないし。だから、先に"幸せの総量"を決めておくほうが良い感じになってきたの。
──"幸せの総量"ですか?
伊 「僕はこうやっていれば大丈夫、生きていける」っていうことを決めて、その枠の中でやっていく。そうしないと、人気とかお金は底なしだもんね。
──でも、総量をあらかじめ決めるってのも、ちょっと勇気がいりませんか? もしかしたらもっと上にいけるかもしれないのに、その可能性も奪ってしまうというか......。
伊 さんまさんとか見てると、まだ売れたい感じするでしょ? すげえなって。紳助さんくらいになってもまだ不安があって、「えー、なんで?」って思うじゃん、俺なんかからしたら! そんな地位にいっても不安になるんだったら、もう売れる気ないわ俺......って。俺、みのもんたさんみたいに、息するように芸能界にいるのムリだし......。絶対、みのさんにとって芸能界は銀座のお店の延長なんだろうな、きれいな人もいっぱいいるし......。
――なるほど。それはかなり分かります。
伊 あの〜、満たされるパーセンテージって以前と変わりました? かつて孤独だった時代と、こうして雑誌に連載を持ったりとか、人に会ったりしている今と。今も、瞬間瞬間は満たされたとしても、落ち着いて家にいるときとか、寝る前とか、どうですか?
──えーと、中学校のときに引きこもりをやってまして、その当時は本当に毎日すさまじい焦燥感と虚無感に襲われて「生まれてきてすみません」とか言ってベッドで泣いてたんですけど、さすがに今はそれが月に2〜3回くらいに減ってますよ! だから満足パーセンテージも......あれ? あんまり上がってない! 上がってないです!
伊 そう。それはやっぱり慣れみたいなものってあるじゃん。「死にたい」って言ってる自分に慣れてくるでしょ。
──あっ、確かに「死にたい」に昔ほどの緊迫感は無くなってます!
伊 "死にたい慣れ"してくるから、「死にたい死にたい」って言ってるときに、心のどっかでは「そうでもねえな」って感じになってくるでしょ。年齢的な慣れとかで、その折り合いのつけ方はできるようになってくるんだよ。だけど、なんかあんまり満足度のパーセンテージは、俺ん中では全然変わんねえんだよなー。
──もっと根本的な問題なんですかねー。世の中にはそういう鬱屈とした感情のパーセンテージが低くて、物事をエンジョイすることに長けている人たちがいて、その人たちって毎日すごく楽しそうに暮らしているじゃないですか。もう、羨ましくて軽く憎くすらなって、もう「悩まないってバカか! 楽しんでる人間全員死ね!!」みたいに思ってきて......伊集院さんもそうですよね!
伊 あはは! 俺はそこまでじゃない! けど、自分でもそういう不安定なところ、「ホントに中二気質!」って思うの。自分のことは決して利口だと思ってないんだけど、自分よりバカな人はすごくいっぱいいると思ってる感じ、分かります?
──中二病だ! 分かります!
伊 こんなにバカな俺がギリギリのところで踏ん張ってるのに、なんで俺より頭悪くてお前そんなことしてられんの? みたいな。これは、ナルシストなのかどうかもよく分からないよね。だって自分の自己評価としてはダメな人で、劣等感はすごいんだもん。それなのに、俺よりバカな人に対して優越感とも違う、もっとイヤなものを持ったりする。変なバランスだよね。
──危ういバランスですよね。そのせいか私、友達ってほとんど存在しなくって、うまく輪に入れないというか......たまに輪に入ってキャッキャと楽しくやれていても、一回自分を俯瞰から見ちゃって、「あたし何やってんだろう」みたいな、こう......。
伊 それはね、たぶん投げちゃった石のせい。昔キャッキャキャッキャ遊んでるやつらに、「楽しそうにしやがって、何も考えてないんだろ、お前ら!」って投げちゃった石が、時間差で自分に当たるんだよね。
──あー! なるほど!
伊 石が当たって「アッ! あの時に俺が投げた石だ!」って。それで「今、俺、何も考えずに遊んでた......」ってことに気づいて、急に怖くなってくんだよね。
──そこですごく冷静になってしまって、急に作り笑いになっちゃったり......。
伊 そうそう。......俺ね、ナンシー関さんのエッセイ集のタイトルがすごい好きでさ。必ず「なにをいまさら」とか「なにさまのつもり」とか入れるでしょ。俺も、あの感じでいかないと、がんばって立てないの。「お前が一番ダメだ!」って言われるより先に「分かってるんです、これは僕のルールだからやってるんです」って提示する。だから、自分の誕生日に若手とワーッて飲み行っても「みんなで金出しあって、(出した金額が)一番上の一人と一番下の一人で会計15万を割るけど、お前らいくら出す?」とかルールを作って......。
――誕生日パーティーがえらい緊迫した雰囲気に! 楽しめない!
伊 ぜんぜん楽しくなかった(笑)。でも俺、ルールを決めなきゃ遊べないんだよねー。
──なるほどー。ストイックというか、ひねくれた自分ルールですな。そういう精神が伊集院さんの『伊集院光のでぃーぶいでぃー』(ポニーキャニオン)にも出てましたね。若手芸人にジャンケンとか野球とか団体ゲームをやらせるんだけれど、必ずスパイを混ぜたり気まずくなるような巧妙なルールを作って、若手芸人たちの団結力を測りながら、それを壊して、どんどんギスギスさせて、それを伊集院さんが上から見て爆笑しているあの構図、本当に面白いです! 私はあまり人を信用できない方なので、ああやって頭のいい人が策に溺れたり、身内で裏切りあっていくのは、スリリングだけどマヌケで笑えました!
伊 良かった! あれは僕のモットーなんですよ。「人間はみんなマヌケだ」っていう。
──ああいうときの伊集院さんは本当に楽しそうですよね。
伊 みんなを混乱させて、言い合いさせるのが愉快でしょうがないんですよ。一生懸命持論を展開して、みんなを巻き込んで沈んでいくやつとか(笑)! でも、崩れていく人間関係を覗いてるときの、俺のサディスティックな力の入り方とか、ちょっと引いて見ると、本当に頭おかしいんだよね。みんなにどんどんイヤな指示を出して追い詰めてる時の俺の楽しそうな顔が、僕の一番ダメなところだし、一番、見られたらイヤなことろ。だからこそDVDに入れたかったの。そこで「そんな人でも生きてていいんだ」っていうところが俺の立ち位置なんだと思ってますよ。人間みんな変なんですよ。でもその中で、最も変なのは僕......。
――なんか、娯楽と孤独が紙一重ですね......。その辺の伊集院さんの深層心理に潜れるのが、伊集院さんや若手芸人たちが箱庭を作る、『伊集院光のでぃーぶいでぃー箱庭カウンセリングの巻』ですよね。あれ、私、泣きましたよ......。
伊 そ、そんなもので(笑)! ありがとう!『箱庭』は、たぶん好き嫌いが相当あると思うんですけど、実は一番好きなんです。
――箱庭っていう、本来カウンセリングに使うものを笑いにするのは難しそうなのに、笑えるし感心もできて、私も箱庭を作りたくなりました。箱庭って、作るとあんなにトラウマとか、現在やら未来への不安が浮き彫りになっちゃうもんなんですね。芸人さんたちがちょっとシャレにならないようなトラウマ持ってて、そこに涙が出ました。
伊 ああ、そういうの持ってないとお笑いやっちゃいけない、って僕は思うんです。僕もすごいコンプレックスばっかりで、うまく立ち回れないことが多いんですけど......。
──ええー、そんなことないですよ! 芸能界では白伊集院(テレビ版)と黒伊集院(ラジオ版)、ちゃんと分けられてますから!
伊 うーん......小明さんも、"アイドルちゃん"やるくらい可愛くても、愛される量が足りてたら、こんな世界に来ないでしょ? それはみんなそうで、普通に可愛いって言われて愛される量が足りていたら、1万人に可愛いなんて言われる必要がないじゃないですか。
──いやいやいや、私なんか全然なんですよっ。うちは姉が極端に美人で頭が良かったりセンスがあったっりしたもんで、写真も姉ばっかりで、私はいつも日陰でした......。
伊 あー、やっぱりなあ。そういうことですよ。
──伊集院さんの箱庭もかなり「こんなに根が深いものがあったとは!!」って感じでしたよ。若手だけじゃなく、あそこでご自分も作られたのはすごいと思いました。だってあれ、現在・過去・未来の脳みそを晒すようなものだから。
伊 勇気がいるよね。でも、アレがお笑いだと思うんだ。やっぱ見せる勇気ってお笑いにしかないなって、本当に思うもん。だから、もしかしたら普通の女性タレントとかの方が「うわぁ、やべえな!」っていうのができるかも。......ベッキーのとか見てみたいよね。
──あ、それは見たい(笑)。普段すごく明るい人とか嫌味のない人のが見たいですね。
伊 うふふ。小明さんもやってみ。
――やってみたい! でもやっかいな性格が更に浮き彫りになったり、忘れていた暗い過去とか思い出しそうで怖いです! 将来も不安だらけだし!
伊 絶対みんな何かあるもんね。イヤなの作るぜ、きっと。
――き、希望に溢れた箱庭にしたいな......。私、根暗だからなのか、将来に明るいプランとか全然持てないんですよ。性格だって自己評価はやたら低いんですけど、変なところでプライドが高かったりして、自己顕示欲ばっかりこじらしちゃってるところがあるし......。
伊 はあー......何かね、その原因は。なんで俺らそういうふうになっちゃうのかね......。
──なんでなのか分かんないんですけど、もう、取り返しはつかないんで、とりあえず現世はこの性格でやっていくしかないと思って......。でも、なんかやり切れていないような......。
伊 うまく自分に向き合えない感じのね。「本気出してないよ!」って言い張る。
──自分を直視するのがすごく怖いんですよ。本気出したときに、「なんだ、全然しょぼかったんじゃん!」って言われるのが怖いから、本気出していても出してないふりして。
伊 なんですかね、その斜に構えた姿勢。何が起因してるんですかね。きっとどっかで落ち着くんだと思うっていうか、そう思いたいんですけどね。
──その感じでどんどん時間が過ぎて、もう25歳になっちゃうんですよ、びっくり。
伊 うん、そうそう。だから最近すげえ「健康でいようかな」って思うようになりましたよ。「落ち着くところまでいけないだろ、これじゃ!」って思って......。
――健康は大事ですよねー。......あの、ちなみに、今回の相談は『コンプレックスはどうやったら昇華できるのか』だったんですけど。
伊 ああー......そうだったねー。「昇華」はなかなかできませんので、一旦「消化」する。俺は、いわゆるあの「昇」と「華」という形の、きれいな漢字面で昇華されることはないと思ってる。消化しちゃー、また新しい排泄物になって、そのうんこを食って......っていう状態が、ずーっと続いていくような気がする。消化しても、結局またそのうんこを食うしかないような状況に、絶対になると思う。でも、そうするとお腹も慣れてくるんでしょうから! んふふ!
――うんこに慣れなきゃいけないのか......。
伊 今後、何になってくの? やっぱり小説書いたりしてんの?
──小説も書きたいんですけど、やっぱり自信がなくて二の足を踏んじゃったり......書けても本当に中二病丸出しで、途中で泣きたくなったりして。
伊 いいじゃん。俺、小説読まないから分かんないんだけど、そのままこじらせまくって、直木賞とってよ! 俺の『のはなし』(伊集院さんのエッセイ集)も直木賞とんねーかなって思ってんだけど、直木賞ってどうやらそういう賞じゃねえっていう(笑)。
――あははー! やー、なんだかがんばれそうな気がしてきました! 今日は本当にありがとうございました、お会いできてうれしかったです! 今後も応援してます!
伊 あ、こちらこそ、本当にありがたいね。こっちも元気が出た。
(取材・構成=小明)
●伊集院光(いじゅういん・ひかる)
1967年、東京都生まれ。タレント。『JUNK 伊集院光 深夜の馬鹿力』(TBSラジオ/月曜25時〜27時)のDJとして活躍中。エッセイ『のはなし』『のはなにし』(ともに宝島社)、DVDシリーズ『伊集院光のでぃーぶいでぃー』(ポニーキャニオン)も続々発売されている。
●小明(あかり)
1985年、栃木県生まれ。02年、史上初のエプロンアイドルとしてデビューするも、そのまま迷走を続け、フリーのアイドルライターとして細々と食いつないでいる。初著『アイドル墜落日記』(洋泉社)での自虐っぷりが一部で評判を呼んでいるとかいないとか。
ブログ「小明の秘話」<http://yaplog.jp/benijake148/>
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