Newsweekの国際版編集長Zakariaが、今年を回顧している。
客観的にみれば、今回の危機の原因はアメリカの債券市場の機能停止という一時的な問題であり、狼狽売りが終わって価格がつけば、むしろ高度に発達した金融市場が問題の修復を助けた。もちろん各国の政府と中央銀行が、30年代の教訓に学んで流動性を大量に供給し、銀行の連鎖倒産を防いだことも大きい。危機に対して各国が協調する国際的な枠組が機能したことも重要だ。各国が金融引き締めや保護貿易によって「不況の輸出」を競った30年代とは大違いだ。
もう一つの要因は、Zakariaも指摘するように、70年代以降の金融政策の変化によって、経済を崩壊させる最大の元凶であるインフレを押さえ込んだことだ。それが新興国の世界市場への参入とあいまって世界的な物価の安定がもたらされ、ハイパーインフレによって国家が転覆するような事態は中南米でも中東でも起こらなかった。「ドバイショック」を大げさに叫んで補正予算を組んだ日本政府は、マーケットの笑いものだ。
民主党政権は、いまだに「二番底」を防ぐと称してバラマキ福祉を拡大し、デフレ宣言を出すなど「危機モード」だが、他の国は通常モードに戻りつつある。金融システムの打撃が最小だった日本経済がもっとも出遅れている原因は、成長率を引き上げる長期的な戦略なしに場当たり的な財政・金融政策や所得再分配を続けた「政府の失敗」だ。
大きな試練をくぐり抜けて、グローバル資本主義の変化は一段と鮮明になった。先進国が危機の後遺症に苦しむ中で、新興国の経済は危機以前の水準にいち早く復帰し、世界経済の中心が移ったことを示している。こうした変化を「ユニクロ型デフレ」などという愚劣なとらえ方しかできない日本は、無意味な「デフレ退治」で財政危機を拡大し、それが先行き不安を増して投資を冷え込ませる悪循環に陥っている。
「今は非常事態だから、需要不足を埋めることが第一だ」などという話にだまされてはいけない。今回の危機で明らかになったのは、在来型のケインズ政策は(30年代にも実はそうであったように)きかないということだ。オバマ政権の超大型バラマキ予算がほとんど執行されないうちに、経済は自律的に回復した。今後の世界経済の最大の課題は、Zakariaもいうように、財政危機と成長率の低下であり、それを解決するのにマクロ政策は何の役にも立たない。民主党政権がこの変化に気づくのは、いつのことだろうか。
1年前、世界は崩壊に向かっているように見えた。資本主義と貿易の拡大を推進してきた国際金融システムが崩壊し、アメリカ型モデルの信用が失墜した。新興国の経済も沈み、貿易は1930年代以来の大幅な下落を記録した。経済危機が政治危機に発展し、暴力や戦争のリスクが大きくなると予想する向きもあった。誰もが確信していたのは、世界は変わってしまったということだ。1年前には、今回の危機を「大恐慌」などと呼んで、世界経済が崩壊して30年代のような長期にわたる激しい不況が続くかのように騒いだ人もいた。「100年に1度」というグリーンスパンの言葉が異常な財政金融政策を正当化するのに使われ、「グローバリズム」や「新自由主義」の時代が終わって、またケインズの時代がやってきたなどと称する向きもあった。しかし天は落ちてこなかったのだ。
あれから1年。アメリカの投資銀行の数がいくつか減り、数社の地方銀行がつぶれたことを除いては、世界はほとんど変わっていないように見える。世界全体が長期にわたる大不況に襲われた30年代とは、まるで違う。財政赤字の拡大やインフレなど、問題がないわけではないが、システムそのものは驚くほど安定している。経済が最悪の状態にあるパキスタンの国債価格でさえ、ここ1年で2倍以上になった。世界経済は、最悪の状況を脱したのである。
客観的にみれば、今回の危機の原因はアメリカの債券市場の機能停止という一時的な問題であり、狼狽売りが終わって価格がつけば、むしろ高度に発達した金融市場が問題の修復を助けた。もちろん各国の政府と中央銀行が、30年代の教訓に学んで流動性を大量に供給し、銀行の連鎖倒産を防いだことも大きい。危機に対して各国が協調する国際的な枠組が機能したことも重要だ。各国が金融引き締めや保護貿易によって「不況の輸出」を競った30年代とは大違いだ。
もう一つの要因は、Zakariaも指摘するように、70年代以降の金融政策の変化によって、経済を崩壊させる最大の元凶であるインフレを押さえ込んだことだ。それが新興国の世界市場への参入とあいまって世界的な物価の安定がもたらされ、ハイパーインフレによって国家が転覆するような事態は中南米でも中東でも起こらなかった。「ドバイショック」を大げさに叫んで補正予算を組んだ日本政府は、マーケットの笑いものだ。
民主党政権は、いまだに「二番底」を防ぐと称してバラマキ福祉を拡大し、デフレ宣言を出すなど「危機モード」だが、他の国は通常モードに戻りつつある。金融システムの打撃が最小だった日本経済がもっとも出遅れている原因は、成長率を引き上げる長期的な戦略なしに場当たり的な財政・金融政策や所得再分配を続けた「政府の失敗」だ。
大きな試練をくぐり抜けて、グローバル資本主義の変化は一段と鮮明になった。先進国が危機の後遺症に苦しむ中で、新興国の経済は危機以前の水準にいち早く復帰し、世界経済の中心が移ったことを示している。こうした変化を「ユニクロ型デフレ」などという愚劣なとらえ方しかできない日本は、無意味な「デフレ退治」で財政危機を拡大し、それが先行き不安を増して投資を冷え込ませる悪循環に陥っている。
「今は非常事態だから、需要不足を埋めることが第一だ」などという話にだまされてはいけない。今回の危機で明らかになったのは、在来型のケインズ政策は(30年代にも実はそうであったように)きかないということだ。オバマ政権の超大型バラマキ予算がほとんど執行されないうちに、経済は自律的に回復した。今後の世界経済の最大の課題は、Zakariaもいうように、財政危機と成長率の低下であり、それを解決するのにマクロ政策は何の役にも立たない。民主党政権がこの変化に気づくのは、いつのことだろうか。
コメント一覧
新潟中越地震で上越新幹線が脱線したとき、マスコミは事故・安全管理の失敗として報道しました。しかし失敗学の畑村洋太郎氏によると「脱線しても転覆せず適度に減速して停止出来るようになっていて、実際にそうなった。これは失敗でも何でも無く大成功だ。」と言っていました。
マスコミは「解り易いニュース」を報道しようとする余り、解り易い画を解り易い結論に結びつけがちで、それが正しいとは限らない。特に金融・経済に関しては専門的内容の為、噛み砕いて伝えようとすればするほど内容が正解からズレていく。それを鵜呑みにすると非常にマズイ事になる。アゴラやtwitterの使命は重大ですね。
約92.3兆円の政府予算案が決定しましたね。
http://www.asahi.com/politics/update/1225/TKY200912250325.html
非難ばかりしていてもしょうがないので、少し可能性のある話をします。
私の憶測ですが、小沢さんが行政刷新会議に冷ややかだったのは、「仕分けは国会でやればいい」と考えていたからかもしれません。事実、各委員会の委員長は担当大臣と等価な立場にあると言っていい。たとえば、衆院文科委員会の委員長は田中眞紀子議員です。田中さんがその気になれば、次世代スパコンをぶっ潰すことができるでしょう。
今はネットの時代です。次世代スパコンに反対の方々は、田中さんにメールを送ってみてはいかがでしょう。田中さんならやりかねないという気がしますw
ysrobinsさんに、同感です。マスコミに金融や経済を解説する能力がないようにも感じます。そもそも、一般紙に細かな金融や経済の記事を載せる必要なんかあるのでしょうか。米国にいたとき、WSJはいらしらず、クロニクルに財政政策や金融政策の記事などなかったように記憶しています。本来関心のないはずの読者に無理に伝えようとするから、どんどんおかしな内容になっていっているのではないでしょうか。
「経済危機は資本主義の強さを証明した」と池田先生はおっしゃいますが、経済システムとして今の世の中に資本主義以外に何か存在するのでしょうか。いま広く「資本主義」と呼ばれているものは経済そのものであって、それ以外にシステムがない以上、「資本主義の強さを証明した」というのはトートロジーでしかありません。
Zakariaなんて名前はアルメニア人かなんかでしょうけど、、彼(彼女かも)の言うところは、経済というのは少々の危機ではダメにならない強さを持っている、というだけの話です。理論とか数式とかの飾りばかりつけてそんなことを言われると、オジサン、同じ事を繰り返し言わないでね、それって老化現象じゃないのって言いたくなります。
秋
民主党政権がいつ気付くのか、それは誰にもわからないと思いますが、ひたすらバラマキ路線で突っ走った結果、「国にたかる」ことによってしか生きられない産業分野が延命し、その裾野を広げていった清算を、果たして政治ができるのだろうか、という疑問があります。政権交代しようがしまいが、バラマキは破滅するまで永続的に続くのではないか、と。政権交代に一時は期待していましたが病巣の深さ、各産業の想像以上の国への依存度の高さを見るにつけ、これは無理かもしれないなぁ、と思っています。 また、財政政策、金融政策が頻繁に取り沙汰されるのもそのニュースの需要があるからではないでしょうか? 国にたかっている割合が多ければ多いほど、こうしたニュースには敏感になるでしょうから。
2. jestemneko
>田中さんがその気になれば、次世代スパコンをぶっ潰すことができるでしょう。今はネットの時代です。次世代スパコンに反対の方々は、田中さんにメールを送ってみてはいかがでしょう。
Webブラウザーは、 イリノイ大学のスパコン・センターで開発されましょた。 Unix、 インターネット、 Googleも、もとをたどっていくと、 米国政府資金によるプロジェクトです。 Unixの開発者は、Multics のプロジェクトの参加者で、その反省のうえにUnixを設計したとのことです。Googleの創業者は、Digital Library プロジェクトのメンバーでした。
Multics、スパコン・センター、Digital Library プロジェク自体は、たいした結果をだしませんでした。
他国の政策についてはともかく、日本では「税収減」「負債の累積」という特殊な事情があったのではないでしょうか。
結果的に他国では一部を除いて危機的な事態に陥らなかったとは言うものの、日本がそうならないという根拠はないわけですから、必要と思われる対策を講じる必要はあったのではないでしょうか。
政府の責任として。
必ずしも自民党、民主党の経済対策を全面的に擁護するわけではありませんが、対策を取るのに越したことはなかったのではないかと思います。
日本だけ一人負けとは情けなや・・・・。国境の外では経済が立ち直りつつあるのに、鎖国状態になりつつある日本だけが、緩やかに滅びていくのはごめんです・・・・。
失業するだけでなぜか国民年金1万4千円と国民健康保険1万5千円の負担があるなんておかしい・・・。自費で払ったほうが安いっていうのは何なんでしょうか?ついでに収入があった前年度の住民税の負担までのしかかるとは・・・・。失業保険からこれを払ったら、ただ単に税金から税金に分配したに過ぎないのではないかと・・・。
池田教授のブログいつも拝見しております。
内容ごもっともでいつも同感です。
ビジネススクールのマクロ経済でMankiwの7th edition 使ってましたが、それにはるか及ばない理解しかもたない方たちが政策の意思決定にあたってる(菅氏、亀井氏など)日本の現状には目を覆わんばかりです。
現状理解力、そして問題解決力に乏しい
鳩山政権をこのまま放置しておくと、日本は不可逆なレベルに駄目になってしまうのではと危惧しています。
当ブログで繰り返し伝えられているメッセージ、エッセンスを、鳩山総理や菅大臣など、現在の内閣の主要
メンバーに、池田教授が集中的にレクチャーし政策の方向性を変えさせることはできませんか?私の知る範囲では、彼らも民間の各種専門家に意見を聞く機会を集中的にもうけていたようですし。
1か月では無理かもしれませんが、半年、1年たてば取り組み次第では目に見えた影響を行使できそうな気もしますがいかがでしょうか?意思決定者に対し政策面での思想的影響を与える取り組みは、池田教授であれば当然ながら我々一般人よりやりやすいはずでしょうから、是非日本のため、その方向を模索していただくのがよいかと考えましたがいかがでしょうか。
宜しくお願い致します。
池田さんがtwitterで
湯浅誠氏と勝間和代氏とリフレ派が連合軍を組んだようですね。馬鹿なマスコミには受けるだろうから、「貧困ビジネスの青年将校」になりかねない。
と仰いましたが、鳥越俊太郎や森永卓郎もいまだ健在ですよ。変態だ。
>他国の政策についてはともかく、日本では「税収減」「負債の累積」という特殊な事情があったのではないでしょうか。
新聞報道によると、前年度比で国債の発行額は11兆円増、税収は9兆円減とのことです。
マスコミの論調はちょっと違いますが、素直に見ればこの政権は自民党を上回るバラマキ政権であり、負債も過去の自民党を上回るペースで積み上げていくのではないかと思います。民主党は選挙で自民党を殲滅するまではこの姿勢を変えないでしょうし、マスコミもかわいそうで困っている庶民の話が大好きですから本気で批判はしないでしょう。60過ぎて親から毎月1500万円も仕送りを受けてきて6億円も脱税したような人物が首相を続けていられるのはそのおかげ(記者会見で「知らなかった」という明らかな嘘に誰も突っ込みを入れない)だと思います。
しかしまあ改めて考えるにすごい話だ。知らなかったで済むなら誰も税務申告しない。納税の義務もへったくれもあったもんじゃない。
ysrobinsさん
上越新幹線の事故は長岡駅へ向け減速、200キロで走行中の事故です。脱線し豪雪地帯仕様の排雪溝へはまり込んだまま滑走したので横転、転覆、高架からの転落を免れたのであり、排雪溝のない東海山陽新幹線を最高速度で走行中であれば、はるかに重大な事故になった可能性があります。
来年中に山陽新幹線では営業最高速度をTGVと同様320キロに上げる計画のようです。地震の無いフランスと張り合って速度を競うのはいかがかと思います。建築物と違って走行中に車両の耐震テストは出来ないので、どの程度の地震に耐えられるかは実際に起こってみないと分かりません。
「資本主義は終わった」と騒いでいるトートロジーな人達への最高に皮肉な題名ですね>「資本主義の強さを証明した」
池田先生もZakaria氏も、考察が鋭いだけではなくセンスが良いです。と、本当に若々しい頭脳の方々は皆思っていますので、この調子で今後も啓発お願いします。
いつも貴重な記事を紹介されましてありがとうございます。 参照されました記事はいつも読んでいます。
恐慌におちいることをなんとか防ぐ事ができたことについての今回のZakaria氏の次の論点は妥当なものとおもいます。
1) 市場は自力で回復したわけではなく、恐慌を繰り返すまいとして行なわれた各国政府の強力な介入による。
2) 先進国において確立されている福祉制度が多くの人たちの苦境を軽減した。
不況はようやく回復しはじめたというところです。 失業率はいまが底です。 過剰に膨張した金融業と住宅産業の労働力を他の産業に移さなければなりません。 これに必要な、構造改革は用意ではありません。 ターゲットとなっているエネルギー産業がうまくいけばよいですが。
銀行の連鎖倒産をなんとか防げたおおきな要因は、政府による債務保証と不良債権の引き受けです。 これこそまったくのバラマキです。 結果は、より Too-Big-Too-Fail な銀行です。 よろこんでばかりもいられません。
4. zhaoqiujin さん、
> Zakariaなんて名前はアルメニア人かなんかでしょうけど、
Zakaria氏はアメリカ人です。 出身はインドです。
アルメリアの苗字の多くは ian でおわります。
ついでながら、 米国で公的な立場の人がこうした発言をすればアウトでしょう。
「世界で一番先に経済危機から立ち直る」筈だった日本が何故一人負けなのか?何故日本では未だに素朴ケインズ主義が蔓延るのか?
それは「中国より低レベル」と言われるメディアが直接の原因ではないでしょうか。学会もそうですがマスメディアは本来オピニオンリーダーのはずなのに、日本では世間の空気に同調して「共感」を増幅するのが仕事だと思われているふしがあります。日曜朝の老人だらけの報道・討論番組を見ていると特にそう感じます。
minourat さん >過剰に膨張した金融業
この池田さんの記事やhttp://diamond.jp/series/noguchi_economy/10050/ を見ればこのような記述はナンセンスでしょうね。金融とは貨幣とはリスクとは不確実性とは・・・が分かっていなかった。物理や数学が専門で経済学の基礎を知らなかった人間が多かった。
あと、金融はシステミックリスクが強いので、強い銀行・堅い債権でも大きく下振れする。
日本の質屋メガバンクは円国債キャリーで生き延びているだけ。政府に近い農林中金が一番大損したことをご存じですか?
Minouratさま、
Zakariaさんのことを教えていただきありがとうございます。
でもそういう場合は、アメリカ国籍のインド人と言うんじゃないんでしょうか?
私は日本国籍を持っていますが北京生まれの中国人です。
それから、アメリカのpolitical correctnessに私は賛成できません。日本の「気配り」とは異なり、あれは「ウソ」だからです。まして私は一介のOLですから、ついでながらでもご心配には及びません。
秋