セーラームーン・ダークエンド
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- 「さぁ目覚めよ、セーラームーン!」
祭壇に寝かされたうさぎの体の上で剣を振りかざしながらクンツァイトが声をあげると、
うさぎの胸に刻まれたクンツァイトの紋章が怪しく輝く。
と同時に、今まで硬く閉じられていたうさぎのまぶたがゆっくりと持ち上がり、
見開かれた瞳に、胸の紋章と同じ紫色の怪しい光がともる。
「うさぎ……」
「やめて!」
まぶたを開くと同時に光に包まれ始めたうさぎの体を、亜美、レイ、まことは
地面に這いつくばったままただ見ていることしかできなかった。
そうしている間にもうさぎの体はどんどん光に包まれていく。
クンツァイトは満足そうな笑みを浮かべながらそれを見守っていた。
「うさぎちゃん!」
亜美が最後の力を振り絞り必死に親友の名を呼ぶのと同時に、うさぎを包む光がその輝きの頂点を迎えた。
「きゃっ!」
そのまばゆさに耐えられず思わず目を伏せてしまう3人。
- 「目覚めたか……我が下僕・セーラームーン。いや今はダークムーンと呼ぶべきか」
クンツァイトの声に亜美はハッとして顔を上げる。
彼女の目の前にある祭壇の上では、醜い妖魔ではなくうさぎが、彼女の「かつての」親友が上半身を起こして座っていた。
だが、その体を紫色の妖気が取り巻いている点だけが以前と異なっていた。
「そんな……うさぎ……」
亜美に続いて顔を上げたまことが、青ざめた顔で言葉を失っている。レイもまた同じだ。
「うさぎちゃん……」
身も心も絶望に包まれた3人のセーラー戦士に向かってクンツァイトは高らかに宣言した。
「貴様らの仲間、セーラームーンは、今より我らダークキングダムの下僕、ダークムーンと化した。
もはや貴様らの希望は潰えたも同然。
さぁダークムーンよ!まずは忠誠の証としてお前のエナジーを我に差し出すのだ!」
クンツァイトが命ずると、うさぎ―――ダークムーンは祭壇の上でクンツァイトに向き直り跪いた。
「はい……私の名はダークムーン。忠誠の証に私のエナジーをお受け取りください、クンツァイト様……」
クンツァイトはうさぎの顎に手をかけ、うつむいた顔を上げさせるとその唇に自らの唇を重ねた。
「んっ……」
その行為に初めは少し戸惑っていた様子だったうさぎの表情が、段々と恍惚に包まれていく。
「んんっ……あぁ……」
しばらくの後、クンツァイトは口付けを止めてうさぎに語りかける。
「なかなか極上のエナジーだったぞ。これならばベリル様も大層お喜びになられるというもの」
「ありがとうございます……クンツァイト様」
口付けの快感か、はたまたエナジーを吸収される感覚によるものなのか、快感を名残惜しそうにしながらも
うさぎは感謝の言葉を淡々と述べる。クンツァイトはそれを見ながら再び満足げな笑みを浮かべた。
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「さてと、次は貴様らの番だ。セーラー戦士たちよ!」
今だ絶望に打ちひしがれたまま地面に這いつくばっている亜美、レイ、まことに向き直るクンツァイト。
よく通るクンツァイトの声が傷だらけの体に響いただけなのか、
それともこれから自分の身に起こるであろう恐怖に本能が反応したのか、
3人は体を震わせた。しかし彼女たちの瞳だけは目の前の敵を鋭く見据えていた。
「うさぎちゃんを……元に戻して!」
亜美は瞳に涙を滲ませながらも、振り絞る声で気丈に声を上げた。
「ほぅ……まだそんなことを言う気力があるのか。さすがは戦士だな」
3人を非情な目で見下ろしながらクンツァイトは亜美を褒め称えた。
「……しかし、肝心の本人の意思はどうかな?」
クンツァイトは、妖魔と化して邪悪な笑みを唇の端に浮かべているうさぎを振り返った。
「亜美ちゃん、私のことはもういいから……一緒に妖魔になろ?
それでクンツァイト様やベリル様にエナジーを捧げるの……
さっきわかったんだけど、エナジーを吸われるのって……とっても気持ちいいんだよ……」
以前の人間だった頃と変わらない無垢な笑顔のまま、うさぎは頬を上気させながら語る。
「……う、うさぎちゃん……」
「私たちをこれからどうするつもり!?」
まことがクンツァイトを睨みながら質問した。
「簡単なこと……先ほどのセーラームーン同様、お前たちにも我が洗礼受けてもらおう!」
そう言うとクンツァイトは自らの頭から引き抜いた数本の毛髪を、レイに向かって吹き付けた。
吹き付けられた毛髪は風に乗って、身動きできないレイの首筋にまるで生き物のように巻きついた。
- 「うっ!うぁ……ぁ」
「レイちゃん!」「レイ!」
亜美とまことは、苦しげにのたうちまわるレイに声をかけた。
「ふっ、仲間のことを心配している場合か?それっ!」
「あっ!」
まことが気がついたときには再びクンツァイトの毛髪が彼女の首を締め付けていた。
「くっ、外して……やる、こんなの!」
まことは首筋の毛髪に手をかけ引きちぎろうとするが、深く食い込んでいるのと
彼女自身が傷ついていて全力を出せないこともあり、それは相当の苦労を伴う作業だった。
しかもその間にもどんどん毛髪はまことの首を締め上げていく。
「うっ……くっ……あぁっ!」
「まこちゃん、しっかりして!」
苦悶の表情を浮かべているまことに亜美は呼びかけたが、亜美もまた体を動かすことが出来ないため
それ以外にどうすることもできなかった。
「さぁ最後はお前だ、セーラーマーキュリー……」
右手に毛髪を乗せたクンツァイトがゆっくりと亜美に近寄っていく。
「私は……絶対にうさぎちゃんを取り返す!」
すでに涙が頬を伝い落ちているのも気にかけず、亜美は気丈な言葉を吐いた。
しかしクンツァイトは静かに首を横に振ると、無言で掌の上の毛髪を亜美に吹きかけた。
「きゃっ!」
ついに亜美の首にも毛髪が絡みつき、亜美、レイ、まことの3人はしばらく苦痛の声を上げながら
地面の上をのた打ち回っていた。
しかしやがて毛髪が各自の首筋に吸い込まれるように消えると、彼女たちはその場に倒れ伏した。
- 地面に倒れ伏し動かなくなった3人のセーラー戦士を見下ろしながら、クンツァイトは相変わらずの邪悪な笑みを湛えていた。
そして腰の剣を抜いて3人に向けてかざし、額の紫水晶を怪しく光らせるとクンツァイトは呼びかけた。
「目覚めよ、我らが下僕となりしダークセーラー戦士たちよ!」
その言葉に導かれるようにまぶたを閉じた表情でムクリと体を起こす亜美、レイ、まことの3人。
そしてふらふらと立ち上がり全員一斉にまぶたを開くと、生気の抜けた表情のまま瞳に紫の光が宿る。
ダークマーキュリー、ダークマーズ、ダークジュピターの覚醒の瞬間であった。
「くっくっく……こうも簡単にセーラー戦士たちが堕ちるとはな。
このままプリンセスも、そしてやがては銀水晶さえも我らが手にいれてくれようぞ。
お前たち……そのために我らの下僕として存分に働いてもらうぞ!」
「……はい……」
クンツァイトの命令に、4人のダークセーラー戦士たちは邪悪な笑みを浮かべながら頷いた。
月のプリンセスは、幻の銀水晶は一体どうなってしまうのだろうか?
―DARK END―
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