2008-03-24 19:46:58

(財)日本ユニセフ協会インタビュー【第3回】アメリカ司法省「警察はそれほど暇じゃない」

テーマ:シリーズ連載:コンテンツ産業と法規制
--単純所持禁止の問題についてはどうお考えでしょうか? 例えば警察による恣意的な運用が行われることの危機が指摘されています。

中井さん:そういった危惧が出てくること自体、児童ポルノが蔓延していることの裏返しではないでしょうか。
 アメリカ司法省に恣意的な運用の問題について尋ねたことがありますが「警察はそれほど暇じゃない」との回答でした。
 
 たとえば、悪意を持ってメールで送りつけ密告したとする。その場合、逮捕できるかといえば、司法省は「できない」といいます。なぜなら、どういう意図で持っていたのか立証する責任が警察と検察にある。メールの場合だと、どのように送信されたかは技術的に証明できますし、親が子供の入浴写真をネット上にアップしたことに関しては検挙されることもありえないということです。

--しかし実際にアメリカでは検挙事例がありますよね。

中井さん:それは、どういう意図で(子供の入浴写真の類を)撮っていたかが立証されたからだと思います。

私たちは「児童の権利」を優先する

--敏感な人が気にしているのが反政府、反体制的な言動を抑圧する手段に使われる可能性があるじゃないかということです。たとえば家宅捜索されてしてパソコンを押収される。しばらく経ってから「なにもありませんでした」と返却されても、その間パソコンを使った業務はストップしてしまいますよね。

中井さん:そうした危惧に関して、私たちが「そういうことはありませんよ」といえる立場ではありません。
 ただ、ユニセフ協会の立場としての訴えなければならないのは、パソコンを押収された期間と、児童虐待された人とのバランスをどうとるのかということになる。

 私たちの立場としては児童の人権が優先します。最終的な判断は国会で行われるべきではないでしょうか?

--つまり児童の人権のために冤罪はしょうがないということでしょうか?

中井さん:それは極論です。私は、そういう手段を官権なり悪意のある人に与えるために提供しようとしているのではなく、子供の人権侵害の立場から主張しているのです。

--諸外国から批判されながらもいっこうに改善されない代用監獄制度とかもある日本の司法制度下において、警察にこれ以上の権力を与えるのは危惧すべきではないでしょうか?

中井さん:個人的には色々ありますけど、キャンペーンの立場からお答えするものではありません。

誰が「児童ポルノ」を判別するのか?

--たとえば、ある創作物が児童ポルノであるか否かは、誰がどのように判断するものとお考えでしょうか?

中井さん:ひとつの策としては、映倫のような機関で審議されるようなのも一つの方法だと思います。

--極端な事例ですけど創作物で18歳と17歳11ヶ月の違いは判断できないと思うのですが?

中井さん:児童ポルノか否かを判断するのは「目的」だと思います。こちらのDVDは衣服を着用した幼女を映しただけで性的なシーンは一切ありません。
 ところが、アメリカ司法省の方に見せたところ「アメリカでは児童ポルノです」という。それは「タイトルにロリータと記載されていて子供の性を売る物」と判断されるからです。



文中で触れたDVDの現物。秋葉原で販売
されていたものだという。

コンテンツ大国としての責任

--児童ポルノか否かの線引きの問題は表現の自由に踏み込むかなり大胆なものです。十分な議論がないまま安易に法律ができてしまえばコンテンツ産業にも影響があるのでしょう? 法改正を求めるのならばもう少し、基準を明確にすべきではないでしょうか?

中井さん:私が秋葉原で見たPCゲームに中出しでポイントを得て妊娠すればあがりとパッケージに銘をうたれたものがありました。これは、私の主観ですが、私の周囲の人にこれを見せた場合、やはりおかしいのではないかと思うのではないか。
 確かに、表現の自由は憲法の認める基本的人権で尊重されるものです。ただ、表現に限らず様々な権利には責任がついて回ると思います。
 特に、子供の性に関して、商品としてやりとりしている現状はいかがなものかと思います。

--そのお気持ちはわかりますが、説得材料として被害実態を示す必要があると思います。他人に「見るな」と強制するためには、具体的なデータがないと説得は難しいのでは? 個人法益を制限するためには著しく社会法益が侵害されていることを証明しなければならないと思うのですが。

中井さん: おっしゃることはわかります。
 しかし、例えば被害者が出るまで放置しておいてよいのかという議論もあります。
 
 日本はコンテンツ大国ですから、その責任はあるのではないかと思います。ごく一部かもしれませんが、海外からもどうにかすべきという声が聞こえてきている。そうした中で、日本として果たさなければならない責任はあると思います。

【続く】

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(取材:永山薫 昼間たかし 構成:昼間たかし 2008年3月19日取材)
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