今朝の報道2001を見て感じたこと・・・「だめだこりゃ」です。
「観光立国」を目指し、現在830万人の海外からの観光客を2000万人にするということは大変結構なことですが、方法論が間違えています。
日本の観光産業のキーマンと言われる星野リゾートの星野佳路氏も松下幸之助氏が創設した松下政経塾で学んだ前原誠司国土交通大臣も、残念ながら観光産業振興のポイントを全く理解されていないようです。
私は有料の講演でしかディズニーランドの成功の秘訣を公開していませんでしたが、ここまでレベルが低い状況を鑑みると、日本人として公開しないのは悪であると思い、ここに公開します。
その前に、ディズニーランドと松下幸之助氏の関係を記したいと思います。ご存じのように、パナソニックはディズニー・テーマパークの友好的オフィシャルスポンサーでもあるからです。
以下は、東京ディズニーランド開園前のオフィシャルスポンサー交渉時の逸話です。
<引用開始>
松下電器産業に伺った時のことである。(三井物産の)江戸さんの訪問を相談役の松下幸之助さんが待っていてくださった。プレゼンテージョンが終わった後の質疑の中で松下さんは「資源の無い日本はこれから観光立国をめざすべきです。外国人客の誘致が海外との交流を通じて観光地の活性化や雇用の増大をもたらしてくれます。東京ディズニーランド・プロジェクトはこれからのわが国にとってとても良いことです」という感想を述べられた。私達が松下の本社を辞した時、松下幸之助さんは車椅子で正面玄関に出てこられ、われわれが見えなくなるまで見送っておられた。江戸さんは東京ディズニーランド・プロジェクトが松下さんに強く支持されたことに大層感激されて、その後この話をのちのちまで他人に話されていた。
<引用終了>
(筆者注:1977年から1981年の間、つまり松下政経塾創設の頃と考えられます。)
上澤昇 ディズニー・テーマパークの魅力−「魔法の王国」設立・運営の30年− 実践女子大
http://campus.jissen.ac.jp/seibun/contents/etext/disney/Kamisawa/fileDLD.htm
※松田氏の善意により、このファイルは無料でダウンロードしてテキストなどに使用できます。
前原国土交通大臣は、この話を知らないのでしょう。しかたないことです、これまで、卓越したディズニーランドの運営から学ぶことは、自分たちが松下政経塾で学んだ組織運営論を否定することになるのですから。
しかしながら、日本がピンチの時にそんなことは言っていられません。正しい結果が出ているところから学ぶことが大事であると、前原大臣に申しあげたいと思います。
星野氏はホテルや旅館の従業員が、一人何役を演じる「マルチタスク」という手法をオリジナルのように話していましたが、ディズニー・テーマパークでは、数十年前から行われてきたことです。
例えば、ジャングルクルーズでは、キャストは「スキッパー(船長さん)」「ローダー(乗船補助)」「ゲストコントロール(入口での案内など)」などの複数の役割を演じています。
ジャングルクルーズだけでなく、すべてのアトラクションではこのような「バンプ・ローテーション・システム」が取り入れられています。バンプとはバンパーのバンプであり、後ろから押し、人を回転させるシステムです。日本にも最近、「カーブス」という女性専用のフィットネスクラブが進出してきましたが、そのシステムと同じ「タスクに人がローテーションする」のです。
ディズニー・テーマパークがこのシステムを取り入れている理由はいくつかありますが、最大の理由は「集中力の限界」です。スペース・マウンテンのディスパッチャー(発進係)のように、安全に集中できるのは20分くらいが限度です。ディズニーは人を知りつくしています。いかに人が仕事に集中できるかということに対し、卓越したノウハウを有しているのです。
もう一つは、キャストのやる気です。キャストはすべての作業ができることで「私は一人前」と実感します。周りの人も認め、評価してくれるのです。
本題に入ります。
ディズニーランドの成功の秘訣はこの質問に答えにあります。私は講演でこのように問いかけます。
皆さん、科学の「科」とは、「分ける」という意味です。違いを「分ける」と本質が「分かる」のです。分けて考えてみましょう。
テーマパークと遊園地の違いが分かる方はいらっしゃいますか?
私のこの質問に「分かります」と手を挙げた方は過去にはいません。
お教えしましょう。これがディズニー・テーマパークの「核心」です。
遊園地とは「アミューズメントパーク」であり、乗り物や装置、コンピュータゲームなどの「機械」が、人を楽しませる場所であり、スタッフは機械のヘルプをしているだけです。
一方、テーマパークとは、人が人を楽しませる場所なのです。キャスト(出演者、アメリカでは「ホスト」「ホステス」であり、喜びを共有する役)とゲストとは楽しみを分かち合っている友愛の現場なのです。
遊園地はハード中心、テーマパークはソフトが主人公と言ってもいいでしょう。
皆さんも違いを知らなかったに違いありません。なぜならば、私もディズニーランドで働いている時には、両者の違いを認識していませんでした。ある講演会で(株)オリエンタルランド元専務の山下尭氏から教えていただき、初めて違いを認識できました。
山下さんとは、二度共同講演をしましたが、山下さんは講師をリタイヤされたため、私がこの違いをお教えしています。
このことを理解すれば、財政破綻した夕張市の遊園地のように高額な機械装置を導入せずに、魅力的なテーマパークをつくれたのです。
今朝の討論には、観光とは人が人をもてなすということ、そして素晴らしいおもてなしを受けた人は必ずリピートするという、ザ・リッツ・カールトンホテルやディズニーランドにも当てはまる「大原則論」が欠落していました。
もう一つの成功の秘訣です。それは「引き算」することです。私は、岡山県のある地域の観光ガイドの方々への講演会でこのように述べました。
皆さん、ある観光地を思い浮かべてください。京都でも天の橋立でも・・・私は関東ですから軽井沢を思い浮かべています。
観光地をより魅力的にするには「引き算」が有効です。魅力を高めるためには、魅力を低下させてしまうものを「引き算」すると効果的です。観光地から「引き算」するものとは、「汚いのぼり」「うるさい呼び込みのアナウンス」「道路にはみ出た看板」「景観をあざ笑うかのような原色の建物」「ごみ箱から溢れたゴミ」「政治家のポスター」「行政の注意看板」などなど、観光客が目ざわりだと思うものを「引き算」することにより、観光地が伝えたいテーマがはっきりと見えてきます。
ディズニーランドがその良い例です。アドベンチャーランドやウエスタンランドからは、トゥモローランド的なものは、徹底的に「引き算」されています。ですから、伝えたいテーマがはっきりするのです。ゲストは雰囲気を満喫できるのです。ゲストは「大切にされている」と思ってくださるのです。
神社仏閣が美しいのは、神社仏閣にふさわしくないものが見事に「引き算」されているからです。私は東京の多摩地区に住んでいますが、雪が降るとこの街も美しくなります。これは美しい雪が「足し算」されたことにより、汚いものが「引き算」されたから美しく感じるのです。
「引き算」が完了するということは、まっさらになるということです。次の工程として、テーマに合った装飾品などをまっさらな場所に「足し算」すること観光地の魅力はより高まります。このようにしないと、観光地は決して魅力的にはならないのです。
観光ガイドの方々も「その通りだ」と思ってくださったに違いありません。講演のアンケートの結果もまさに「身に余る光栄」と言える評価でした。
外国人観光客に日本に来てもらうには、日本をより魅力的にしなくてはなりません。前原大臣は「観光立国」を目指すと発言されていますが、ここまで記してきた観光の「基礎」をまず学ばなくてはいけないと私は考えます。
前原大臣は警察の声としながらも、「外国人が増えると犯罪が増える」という、とんでもない発言をしていました。日本の警察は、自転車に乗っている外国人には声を掛けるそうです。自転車泥棒の可能性があるからだそうです。
「外国人が増えると犯罪が増える」は、ウソです。浦安市は外国人が増えましたが、私が在職中は犯罪が増えたなどとは聞きませんでした。
前原大臣のこのような差別的な見方を変えないと、反対に「日本は外国人を白い目で見る国だ」という悪い評判が世界中に広がる可能性があります。そうなったら大打撃です。
サンデープロジェクトという番組で、「コンクリート」に変わる新しい公共事業の必要性が問われていました。田中康夫議員は、さすがに前長野県知事だけあって、山間地の下水道に代わる水洗トイレの普及工事という具体的な公共事業の提案をされていました。素晴らしいと思います。
私は、観光地から電柱や電線などの汚いものを「引き算」して、日本の魅力を向上させる「良性公共事業」に税金を投入すべきであると考えます。私はカメラ愛好者ですが、日本の山村でも広角レンズはまず使いません。なぜならば、電線が必ずフレーム(枠)に入り、写真の価値を著しく低下させてしまうからです。
電柱と電線がない街は空が広く、実に美しい街です。NHKのつばさというテレビドラマは、川越市が舞台でした。私も舞台となった川越の美観地区によく行きましたが、電柱と電線の街は実に美しいと感じました。
観光地の電線の地下埋蔵事業は、土建業者も潤い、日本の観光的魅力を向上させます。外国人観光客2000万人計画にも寄与します。やらない手はない、鳩山政権に提案していきたいと思います。
長くなりましたが、要点は2点です。日本人、外国人を問わず、観光客への「おもてなし力」を向上させるということ。もう1点は、観光地から魅力を下げるものを「引き算」することです。
さらに、突き詰めれば、日本を「環境立国」にするためのポイントは1点です。
それは、成功しているディズニー・テーマパークから学び、真似ることなのです。