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社説

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竹島問題―教えることの大切さ

 竹島、韓国名で独島は歴史的にも法的にも「わが国固有の領土」というのが、日本の変わらぬ立場だ。

 一方、この島は植民地支配の過程で不当に奪われた、というのが韓国の立場。だから「領土争いなど存在しない」という。日本側の主張に対して、事あるごとに激しい反発が起きる。

 両国間で「領土」と「歴史」が複雑に絡み合う竹島について、学校でどう教えるか。とても難しい問題だ。

 文部科学省が公表した高校の学習指導要領の解説書は、竹島の2文字を書き込まず「中学校における学習を踏まえ」というあいまいな表現をとった。高校でも中学と同じように教えなさい、ということだ。

 昨夏に出された中学の解説書ははっきり竹島と記し、「日韓の間で主張に相違があることにも触れ、我が国の領土について理解を深めさせることも必要だ」としている。

 福田政権時代、この解説書が公表されると、韓国が駐日大使を帰国させるなど日韓関係は一時悪化した。

 今回、表現上の工夫とはいえ「竹島」明記を避けたのは、アジア外交重視を掲げる鳩山政権の配慮だろう。韓国政府は、間接的に領有権を主張した点について遺憾を表明したが、反応は抑え気味だ。

 10月の首脳会談で、鳩山由紀夫首相は「歴史を正しく見つめる」と明言した。李明博大統領とは「未来志向」の協力強化を確かめ合った。これまでの政権とは違う向き合い方を示す鳩山政権に、韓国側は期待を寄せてきた。

 来年は、日本が韓国を併合してから100年という節目だ。韓国では、植民地支配の歴史への関心が高まるだろう。そんなときにこの問題で、両国関係をつまずかせることは避けたい。

 この島を歴史問題と重ね、反発する韓国の人の思いは理解できなくはない。だが竹島をめぐる日韓の主張の対立を超え、両国の関係は分厚いものになっている。この流れが逆転することはもはやありえない。

 今回の解説書を参考にしながら、教科書が編まれ、教師は授業を組み立ててゆく。

 領土問題について、日本の立場を正しく学ぶのは自然なことだ。そのうえで、ほかの国と争いがあるものは、相手の言い分にも耳を傾ける姿勢が必要だ。中学、高校の新しい解説書は、そのことを強調しているとも読める。

 竹島をめぐる韓国の主張を知ることは、背景にある過去の植民地支配への理解の深まりにもつながる。

 修学旅行先に韓国を選ぶ高校も増えている。負の歴史と、未解決の問題があることを学んだうえで、よき友人関係を築く。そうした若者たちの交流を太く、豊かにしてゆくことが、いま大切なのではないだろうか。

診療報酬増額―医療再生へ大胆な配分を

 来年度の予算編成で焦点だった診療報酬の改定問題は、総額を0.19%引き上げることで決着した。

 病院や診療所で受ける治療や薬の価格に当たる診療報酬は、小泉政権時代から引き下げが続いた。今回は10年ぶりの引き上げになる。

 報酬引き上げは、保険料負担や患者の窓口負担の上昇にもつながる。デフレが進み、賃金も下がる厳しい経済状況のもとで、引き上げが妥当なのか。厚生労働省の審議会でさえ、意見が割れた中での政治主導による決着だ。

 来年の参院選をにらんでの思惑もあるに違いない。だが、それ以上に大きかったのは、これまでのような医療費の抑制を続ければ「医療崩壊」に歯止めがかからない、という危機感だったといえよう。

 財政状況は厳しいが、わずかでもプラス改定に転じたことは、鳩山政権が医療現場の再生に向けて踏み出すという意思の表れとして評価したい。

 ただ、まだ診療報酬の総枠が決まったに過ぎない。大事なのは、限られた財源をどこにどれだけ配分するかということである。年明けから始まる中身の議論だ。

 薬価や医療材料価格の引き下げを加味すれば、医師の技術料である「本体部分」は1.55%の引き上げとなり、医療費が5700億円増える。

 だが厚労省の政務三役はもともと、病院勤務医の負担軽減や、産科、小児科、救急医療の立て直しのためには6300億円程度の増額が必要だと主張してきた。今回の引き上げ分だけでは、十分な施策が出来なくなってしまうという理屈になる。

 このような状況下で期待したいのは、本体部分の中での開業医と病院、診療科間の配分を思い切って見直し、メリハリをつけることだ。

 たとえば、病院より高い開業医の再診料の引き下げは、これまでの改定でも課題とされてきたが、日本医師会などの抵抗で実現しなかった。こうした既得権にも大胆に切り込み、財源を生み出すことが必要だ。

 長妻昭厚労相は今回、議論の舞台になる中央社会保険医療協議会のメンバーから日本医師会の代表をはずし、思い切った配分の見直しをする構えを見せている。期待通りの結果を出してもらいたい。

 もちろん、開業医の報酬を削りさえすればいいというほど簡単な問題ではない。夜間や休日も診察に応じ、地域医療の担い手として貢献度の高い開業医には、むしろ報酬を手厚くすることで支援を強化すべきだ。

 病院と開業医の役割分担、連携も大切で、それが進まなければ、勤務医の過剰な負担も解消されない。

 この診療報酬の改定を医療再生につなげなければならない。

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