修士論文の執筆もいよいよ後半戦。毎週修士論文工房をおこなっているが、そろそろ終了に向かっていく作業を始めよう。
僕のところで修士論文を書いている学生の多くはコラボレーションでいままで研究を行ってきた。プロジェクトのメンバーとして活動してきた状態から、個人の作品として修士論文を書くことになって混乱している。都市メディアのチーム、医療システムのチーム、新しいメディア開発のチームなどがあるが、すべてにおいて、共通する特徴がある。それは、人間と携帯端末とそれが繋がるネットワーク、そしてその先のデータの世界のインタラクションという非常に複雑な現象を扱っているというところだ。クラウドコンピューティングとWebサービスの登場によってこうした複雑なシステムを学生プロジェクトでも作ることができるようになったのだ。そしてなかなか面白い結果を出しているが、これを論文の形で説明することは非常に難しい。また全体に自分が関わっているわけではないので、自分の貢献あるいは自分が責任をとって論じることが出来るテーマの設定が難しい。そろそろ修士論文執筆も後半戦に入ってきた。ここで論文を構成する方法を教えておこう。
第一章
イントロダクションである。ここが一番大切だ。まず、この論文で達成したいこと、この論文を書いた意味を主張する。そのためには「僕は・私はこの論文で###を作りました」という文章を書く。一般論ではいけない。これに5WIHの質問をする。ここが甘いと論文が進まない。
自分は何をしたか:What
端末をつくったのか、サーバーのシステムを作ったのか、インターフェイスを作ったのか、入力・出力する情報の種類を決定したのか、自分が一番一生懸命やった、あるいは論文としてしっかりと書けそうなところを明確にする。これがコンセプトであり、プロトタイプであり、仮説である。
何処でいつ行ったか:Where,When
何故これを行ったのか:Why
この研究をしたのは、###です、といった感じで書く。社会的な視点と個人的な動機があるはずだ。
誰が使うのか:who
誰が使う仕組みなのか、ユーザーを明確に記述する。
どのように:how
実際には論文はここがすべて。
どのように作るのか
どのように使うのか
どのように証明するのか
この問題に丁寧に答えて、それをもとに第一章を書く。古典的エッセイの様式である5パラグラフで書ければいいが。
第2章 関連研究のレビュー
論文はオリジナリティが無くてはいけない。このことを勘違いしている学生が多い。自分のオリジナリティを細かく説明しようとするのだ。だがオリジナリティという言葉は、その背景を説明しなくてはいけない。自分のWhatに関連する研究論文をいくつかそろえてまとめる。まとめも批判してはいけない。この論文はこのようなことを言っている、この論文はこのように証明している、といった感じで説明をする。そして、自分の研究するテーマを巡って、どのような研究が行われているのかを概観し、領域を特定する。そして、その領域で、誰も行っていない分野を明確にして、自分の研究はここに位置すると述べる。修士論文では関連するる学会論文を使うレベルでいい。単行本はWhyの説明に使うくらいで、修士レベルではここで使ってはいけない。
第3章 コンセプト・仮説の説明
自分の研究を関数概念で意識して、「関数」をプロトタイプ、コンセプト、あるいは仮説として説明する。関数でもいいのだが、まあこれは補助線だ。どのようなインプットをいれると、どのようなアウトプットが出てくるか。それを説明して、その仕組みを説明する。ここで難しいのは、数理モデルや、実際のプロトタイプを作った学生はそれを示せばいいが、インプットやアウトプットをなににするかの調査を行った学生がプロトタイプやモデルを自分の研究の関数として言及してしまうが、それは良くない。フィールドに行って経験を拡大して、そこからの直観でプロトタイプなどを思いつくわけであるが、どのようなデータをとって、どのような情報としてわたすと人は喜ぶかあるいは感謝するかは情報システムの中にある話ではない。人間側にある。この場合、生理学的に議論すれば科学になる。ここは実験法などを明示して科学的に証明しなくてはならない。そうではなくて解釈学的に議論することも出来る。この場合は質的調査の方法論を採用しなくてはいけない。また僕は好まないが、大量のデータを集めて統計的な処理をする方法もある。このよな量的調査を採用するならその方法を明示する必要がある。この証明をこの章でする必要はないが明言する必要がある。
第4章 コンセプトの構築
数理モデル、サーバーの設計、デバイスの設計などはここで詳細にどのように作ったかを説明する。またインプットとアウトプットの関係を解釈学的に証明しようとしている場合も、ここをブラックボックスとしないで仕組みを説明すると共に、フィールド調査のまとめを適切に説明する。
第5章 コンセプトの証明
作ったモデルやプロトタイプ、あるいは入力と出力の組み合わせの妥当性などを証明する。論理モデルだけをあつかっていれば、仮説演繹法で十分だろう。人間に関係するところを扱うのであれば、生物としての人間であれば科学的な方法論で検証する。社会的文化的存在としての人間であれば民族誌的手法を活用する。この分野は佐藤 郁哉氏が第一人者で彼の著書である『質的データ分析法—原理・方法・実践』などを参考にして、自分の論文のコンセプト・プロトタイプ・仮説(同じもの)を証明する。
第6章 今後の展望
引用
文献リスト
となる。次回の修士論文工房は各自内容はともかく、この構成のドラフトを持ってきてもらいたい。