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鳩山政権の予算案―仮設住宅を百年建築へ

 鳩山政権が来年度の政府予算案を発表した。

 官僚を中心に進んだ過去の編成作業は一変し、各省の大臣や副大臣が「政治主導」の主役を演じた。

 事業仕分けを駆使して要求を削り、公共事業は前年度より2割近く減らした。この変革は自公政権下では望めなかった。政権交代の意味を目の当たりにさせる師走の光景だった。

 紆余(うよ)曲折もあった。藤井裕久財務相は当初、閣僚に「要求大臣でなく査定大臣になれ」と呼びかけたが、現実には大臣らは各省の立場を主張し、要求額は膨れあがった。

 それでも9月の政権発足から100日あまりで年内編成にこぎつけた。精力的な作業ぶりには、及第点をつけていいのではないか。

 中身はどうだろうか。各省の概算要求総額が95兆円まで膨らんだため、最低限の財政規律が守られるかどうかがひとつの焦点になった。仕上がりは92兆円台で、「新たな借金」である国債発行は目標の44兆円枠をかろうじて守った。

■守られた国債発行枠

 世界経済危機の影響で税収が激減している。財政規律を重視して政権公約の目玉政策を修正・転換するべきか、それとも借金を膨らませてでも公約を貫くか。

 鳩山由紀夫首相はガソリン税引き下げの公約にこだわり、そのまま進めば国債発行枠を守れなくなる事態が予想された。助け舟を出したのは、民主党の小沢一郎幹事長だ。財政規律を求め、政権公約の一部実施を見合わせる党要望を出したことが、予算の方向を決めた。

 その結果、「政策決定の一元化」には大きな疑問符がついた。首相主導の仕組みをどうつくるか、今後の課題も浮き彫りになった。

 実現する政権公約の目玉は子ども手当だ。出産をためらっている人たちを励ます役割を期待したい。公立高校の授業料無償化も、若い世代向けの社会保障を充実する第一歩だ。いずれも鳩山内閣の「コンクリートから人へ」の基本理念を具体化する政策として意義深い。

 ガソリン税引き下げを断念した首相は「率直におわび申し上げねばならない」と国民にあやまった。しかし、国連演説で自ら打ち出した温室効果ガスの大胆な排出削減の方針と矛盾する公約だったのだから、それを見直したのは、妥当な判断だったと言える。

 この予算案を住宅にたとえれば「プレハブの仮設住宅」ということになろうか。

■積み残された真の課題

 一般会計92兆円は巨額の国債と、特別会計などの「埋蔵金」に依存している。埋蔵金の多くは積立金や基金の取り崩しで、毎年使える財源ではない。予算全体がいわば耐用年数1年限りの土台の上に建てられた仮住まいだということを忘れてはならない。

 めざすべきは百年、二百年の長きにわたって使える住まいだ。老いも若きも、子育て世代や将来世代も共に快適に暮らし続けることが可能な経済社会。それを支えることのできる財政システムである。堅固な土台や柱、つまり安定財源が欠かせない。

 今後の財源として有力なのは消費増税だが、自公政権は増税を先送りしてきた。鳩山首相もきのう、「4年間は消費税増税をしない」と述べた。

 だが国家運営と国民福祉に責任をもつ政権が、持続不能な財政から目をそむけ続けることは許されない。子ども手当ひとつをとっても、財源を将来にわたって確保しようとすれば、この問題を避けて通れない。

 子ども手当を翌年度から2万6千円に引き上げるには5兆円の恒久財源が必要になる。今回ほぼ使い果たす埋蔵金はもはやあてにできない。

 来年度は見送られた環境税も、環境エネルギーの総合政策とセットで早急に実現を図ることが必要だろう。

 この意味で、「国民の生活が第一」という政権公約の土台は危うく、重要な課題が積み残されたままだ。

■財政と成長の戦略を

 鳩山政権は財政再建の戦略を早急につくるべきだ。中長期の目標と、そこに至る道筋、必要な増税規模を国民に示し、理解を求め、実行に移す。それが王道ではないか。

 そのために欠かせないのが、しっかりした成長戦略だ。

 鳩山内閣には、崩れかかった国民の生活基盤を再興しようという強い意欲はある。だがそれだけで国民の安心は築けない。

 政権を取り巻く経済環境は来年も厳しい。デフレ脱却のめどは立っていないし、米欧経済も低迷しており輸出環境の劇的な改善も期待しにくい。だからこそ、あすの日本の産業と雇用の基盤をいかに築いていくのか。政権のメッセージがほしい。

 成長が期待されるのは、地球規模の課題となった環境、超高齢化社会を支える医療・介護、膨張するアジア内需などの分野である。これらの有望市場を切り開き、日本の経済成長の糧にする。その戦略を描くことは鳩山政権に課せられた任務だ。

 菅直人副総理兼国家戦略相が率いる国家戦略室が中心になって、近く成長戦略をまとめるという。政権をあげて取り組む意気込みを期待する。

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