きょうの社説 2009年12月26日

◎「新潟の乱」終結へ 開業遅れは避けられそう
 泉田裕彦新潟県知事が、前原誠司国土交通相との会談で北陸新幹線建設費の地元負担金 の支払い拒否を撤回する意向を表明したことに、ひとまず安堵の思いである。これで、約10カ月にわたって国交省と沿線各県を振り回してきた「新潟の乱」は終結へ向かい、開業遅れの不安も薄らぐだろう。

 泉田知事が支払い拒否に踏み切る「原因」となった停車駅問題や地元負担金に関する情 報開示の在り方などについては、新潟県と国交省がこれから1年程度かけて継続的に協議していくという。「工事を着実に進めながら」という前提さえしっかりと守られるのであれば、それを見守りたい。

 新潟県がこのまま不払いを続けていれば、いずれ建設費不足に陥り、懸念されていた開 業の遅れが現実になったに違いない。泉田知事は「開業を遅らせるつもりはない」という趣旨の発言を繰り返してきたが、これではあいくちを突きつけながら、「刺すつもりはない」と言っているのに等しい。

 その状態で、どれだけ話し合いを重ねたとしても、両者の溝が埋まるはずもなく、結局 はどちらも損をしていただろう。国交省や石川、富山県関係者はもとより、新潟県関係者もそんな結果は望んでいなかったのではないか。泉田知事の「方向転換」は、新潟県のためにもなる。今後は、自らの主張を通そうとパフォーマンスめいた強硬手段をちらつかせるのは慎んでほしいものである。

 「新潟の乱」では、それまで多少の温度差を内包しながらも、同じゴールを目指して足 並みをそろえてきた沿線4県の間にも、深い亀裂が走った。予定通りの開業に向けて工事を加速させていくためには、4県の信頼関係を結び直すことも大切になってくる。

 来月21日には、沿線4県と国交省、さらにJRや鉄道・運輸機構も交えて停車駅問題 などを検討する作業部会の初会合も開かれる見通しであり、泉田知事も出席する意向を示している。既存の連携組織に加え、「新潟の乱」の副産物ともいうべきこの作業部会も大いに活用し、4県の意思疎通をより緊密にしていきたい。

◎政府予算案決定 公約と財源のジレンマ
 一般会計総額が過去最大の92兆円を超えた2010年度予算案は、かつての自民党と はまったく違う手法で、マニフェスト(政権公約)の政策経費などを盛り込み、国民に政権交代を強く印象付ける内容になった。不況で税収が大幅に落ち込むなか、新規国債発行額が44兆3030億円と過去最大に膨らんだのはやむを得ない。埋蔵金など税外収入を総動員して大型予算を組み、政府支出を増やしたのは妥当だった。

 整備新幹線建設事業費は、概算要求通りの2600億円(うち国費706億円)が認め られ、新規着工にも使える留保分が100億円弱上積みされた。公共事業費が減るなかでの満額回答は、北陸にとって何よりありがたかった。

 事業仕分けで一定の成果があったとはいえ、予算の組み替えとムダの排除で財源をひね り出す作業は掛け声倒れで、及第点にはほど遠かった。マニフェスト実現のための歳出増の圧力と財源不足のジレンマに苦しみ、暫定税率廃止の公約見送りに追い込まれるなど、家計を直接支援して景気回復につなげるシナリオは大きく色あせた。来夏の参院選を意識し、無理に無理を重ねた印象は否めない。

 マニフェスト違反が続出したのは、財源の裏付けなしに、バラ色の公約を並べたツケで ある。子ども手当や高校の無償化に際して「地方負担」を強要したのも減点材料といえよう。

 気になるのは、家計支援を目指す公約の多くが中途半端に終わった結果、深刻なデフレ を食い止め、景気回復を後押しする力が不足しているように思えることである。消費者物価が下げ止まらないのは、多くの国民が将来を不安視し、消費を控えているからだろう。エコカー減税の継続や住宅減税の拡充のように、消費を刺激し、企業生産を活発化させる経済対策がもっと必要だったのではないか。

 「コンクリートから人へ」の基本理念を元に、公共事業を18%減らし、子育てや教育 、医療に厚く予算を配したが、税収不足は来年度も続くだろう。歳入の大半を国債発行や埋蔵金に頼る手法は限界に近づいている。