タイトル:Happy Christmas 〜version S.Y.K〜

――あなたは誰とクリスマスを過ごしたいですか?――

 

 

 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

【type A 観覧車の室内】

「……ったく。
こんなもんに乗りたいだなんてお前、ガキっぽいよな」

密閉された観覧車の室内に、呆れたようなため息が落ちる。
今日はクリスマスだというのに、彼は心底面倒そうだ。

「大体、観覧車なんてなにが楽しいんだよ。
特に見るもんねえし。夜景だってずっと見てれば飽きるしな」

悟空は眉間に皺を寄せながら、窓の外を眺めていた。
こちらを見もせずに吐かれた言葉は、彼の性格だと知っていても心が痛む。

「……密室に二人っきりだからいい、だって?
何言ってんだお前、アホか」

負けじと言い返してみれば、本気で呆れたように見つめ返された。
ため息とともにまたすぐに目をそらされてしまう。

「…………」

二人の間に、気まずい沈黙が流れた。

「……ホントにな、そーいうこと顔赤くしながら言うな。
こっちまで意識するだろ……くそ」

しかし、小さく呟かれた言葉にはっと顔を上げる。
顔を背けるように窓の外に視線をやる悟空の頬は……赤い。
観覧車の中はひどく温かいから、寒さの所為ではなさそうだ。

「こっち見んな」

素直ではない彼に、つい笑みがこぼれる。
悟空はまた、不機嫌な声を出した。

「手、出せよ」

ふと、唐突に言われて、首を傾げる。
……手? 

「いいから、手出せ」

少し緊張しながらも手を差し出すと、てのひらにころん、と小さな箱が載せられた。
可愛くラッピングされたそれに、目を瞠る。

「なに、驚いてんだ。
クリスマスにプレゼントのひとつもないのは味気ねえだろうが」

嬉しさに、目が熱くなるのがわかった。
心から御礼を告げると、悟空はふいに上を見上げる。

「もうすぐ、てっぺんか。
そういや観覧車ってアホらしいジンクスあったよな」

……それは。
恋人同士が幸せになるという、ジンクス。

「……プレゼント。もうひとつ、やろうか?」

気づけば彼の腕にとらわれて、耳元で囁かれて。
首を振ることなど、できるはずもなかった。

 

 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

【type B 自宅】

「これは、どこに飾る? 靴下……の形してるけど」

クリスマスツリーを知らないという玉龍と共に、飾りつけを始めて小一時間。
初めて自身で飾るツリーの大きさと華やかさに、玉龍の瞳がきらきらと輝いている。

「知らなかった。クリスマスって、こんなことするんだね」

色々な飾りつけの入った箱を楽しそうに眺めながら、玉龍が微笑む。
つられて、こちらまで口元が綻んでしまいそうになるやさしい笑顔だ。

「あ……これは? 他のより大きいし、引っ掛けるとこ、ないけど」

首を傾げて玉龍が取り出したのは、大きな星の形をした飾り。
それは一番上につけるものだと教えると、納得したように頷いてくれた。

「……こんな感じで、いい? ちゃんとツリーになってる?」

背伸びして恐る恐るといったように星をつけ終えて。
少し心配そうな玉龍の声色に力強く頷くと、またふわりと笑ってくれる。

「よかった。ツリーの飾りつけって、すごく楽しいんだね」

それはきっと、玉龍にとって初めての出来事だから。
見るものすべてが新鮮で仕方が無かったのだろう。
誰しもクリスマスの華やかさには心躍らせるものだ。

「違うよ」

しかし、唐突に否定される。なぜかと首を傾げてみれば。

「あなたと一緒だから、楽しかったんだ。
一緒に、相談しながら完成させるのは、すごく楽しくて。
……あなたが笑ってくれるのが、嬉しくて」

心から嬉しそうな笑みに、目を奪われる。

「楽しくて、嬉しいこと。教えてくれてありがとう」

御礼を言いたいのはこちらだと、首を振った。
自分でも顔が赤くなってしまっているのがわかる。

「……あ」

ふと、玉龍が何かに気付いたように目を丸くした。

「そういえば、クリスマスプレゼント。あげなくちゃ。
……なにをあげればいいか、よくわからなかったから。すごく、悩んだんだけど」

すっと、手を取られる。突然のことにそのまま固まっていると。

「今日はなんでもしてあげる、ってのじゃ駄目、かな」

……言われた言葉に、ぴきりと思考も固まる。

「プレゼント……。僕じゃ、駄目?」

真っ直ぐな視線に射抜かれて、囁かれた言葉は。
気温の低い真冬にも関わらず、体内の温度を一気に上げるものだった。

 

 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

【type C いい雰囲気の個室バー】

「メリークリスマス」

低く囁く声色が、バーの個室に響く。
シャンパンのグラスに照明の光が反射して、彼の金髪をも輝かせた。

「聖なる夜をあんたと一緒に過ごせるなんて……オレは世界一幸福な男だ」

グラスを差し出しながら、そんな甘い言葉を囁かれて。
――正直なところ、何をふざけているのかと白い目で見つめ返してしまった。
どう考えても、誤魔化そうとしているようにしか見えない。

もう酔ってしまったのかと、冷めた声で問いかければ。

「ふ……違うさ。あんたの美貌に酔いしれ――」

まだふざけた言葉を続けようとしていたので、思いきり彼の耳を引っ張った。

「いっ、痛いいだい! ごめっ、悪かったってホント!!」

クリスマスデートの夜に、大遅刻という失態をやらかした恋人が慌てふためいて謝る。
――そう。本当なら別の店に予約を取っていたのに。
八戒が遅刻をした所為でおじゃんになってしまったのだ。
今いるのは当日でも奇跡的に入ることが出来た、バーの個室。

「や、違うんだって! 忘れてたわけじゃないぜ!?」

……視線をそらすと、機嫌をうかがうように覗き込んでくる彼が憎い。

「……だってさ。昨日、緊張してよく眠れなかったんだよ。……今日は特別な日だろ?」

確かに、クリスマスといえば一大イベントだ。
でもだからといって眠れないほどに緊張することがあるだろうか?

「ちーがうって。あんたと過ごす、初めてのクリスマス」

八戒が少し拗ねたように反駁してくる。
彼は軽いように見えて、初めて、とか記念日、とかをやけに大切にする人だ。
そういうところが憎めなくて、ついつい許してしまうのが問題なのかもしれない。

「……あんたにとっても、今日は特別だろ?」

質問を返されて、肩を竦めることを返事とすれば、八戒はしょんぼりと眉尻を下げた。

「待たせてごめんって……。でも、さっき言ってたのホントだから。
……特別な日を、あんたと一緒に過ごせるなんてオレは幸せ者だってヤツ」

ふと顔が近づいて、紫の瞳が甘えるように見上げてくる。
こういうところが憎たらしい。

「……な? 機嫌、直してくれよ」

せっかくのクリスマスに喧嘩ばかりしているのもどうかと思う。
さすがにそう思って、仕方ないといったようにため息をついた。
すると、八戒がころっと笑顔を見せる。まったく、調子がいい。

「やった。じゃあ、さ。もうちょっと調子乗っていい?」

これ以上なにを調子に乗るつもりなのかと、視線を動かせば。
ふいに、その瞳が真剣なものになっていて。どきりと、心臓が跳ねた。
ゆっくりと顎に指がかかったことで、すぐに予想がつく。

「聖なる夜には、聖なるキス。……な、させて?」

聖夜にふさわしくない、甘い響きの声色。
文句を言おうと開いた唇は、すぐに彼によって塞がれてしまった。

 

 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

【type D ショッピングモール】

「あ」

クリスマスのイルミネーションが光る、ショッピングモール。
雑貨屋の店外に飾ってあるアクセサリーに目を留めて、蘇芳が足を止める。
繋いだ手を少し引っ張られ、足早に追いかけた。

「ね、これ可愛くない?」

彼が手に取ったのは、小さな鈴のついたネックレス。
とても可愛らしいデザインだ。華美すぎずひっそりとした感じがすごく好みで、微笑みながら頷いた。

「しかもこれペアだよ。こっちも鈴だけど、メンズ用にデザインされてるやつ」

蘇芳が示したもうひとつ。そちらも素敵なデザインで、確かに男の人が使っても差し支えなさそうだ。
感心して眺めていると、蘇芳がじっとこちらを見つめていた。なんだろうと、首を傾げる。

「ちょっと、じっとしててね」

言葉と共に、蘇芳の指がさらりと首に触れる。
首にかかる髪をやさしい手つきでかき分けて、その両手が首の裏にまわった。

「はは、そんなびっくりしないでよ。合わせてみただけだって」

少し冷たい指が肌にあたって、思わずびくりと身体が跳ねてしまった。
胸元に視線を落とせば、確かに先ほど蘇芳が手にしていた鈴のネックレスがあてられている。

「……うん。やっぱ似合う。これにしようか」

……?

「ん? 別のがいい? ……ていうか、もしかして自分用に選んでたとは思わなかったとか?」

まさかと思うけど、と添えられそうな声色で聞かれて、ばつが悪い気持ちで頷く。
と、彼はがくりとうなだれた。

「彼女差し置いて、他の奴の為に買うわけないだろ?
それに、これペアだし。どう考えてもあんたのだってば」

さすがに、まったく気付かなかったわけではない。
けれど、ウィンドウショッピングの一環だと思っていたのだ。
まさか本当に自分のために買ってもらえるとは思わず、驚いてしまった。

「あ、遠慮はなしだよ。今日はクリスマスなんだから、女の子は彼氏に甘えていーの」

優しく微笑まれて、顔が熱くなるのがわかった。
選んでくれたこと、素敵な贈り物が嬉しいこと、おそろいがくすぐったいこと。
伝えたいことがたくさんあって、ままならずに蘇芳の服をきゅっと掴む。

「あー……もう、そんな可愛い反応しないでよ」

困ったように笑う彼の顔が直視できなかった。
ふと、蘇芳の手がいったん離れたと思うと、いきなりぎゅっと抱き込まれる。

「はいはい、暴れないの」

思いがけない衝撃に動揺すれば、くすくすと楽しそうに笑う声。
何が起きているのかわからない状態で、さらに耳元に唇が寄せられた。

「じゃ、プレゼント交換。あんたにはこれを贈るから……オレには、あんたをくれる?」

その、甘い囁きに。
公衆の面前でなにをのたまうのかと怒るべきはずの口は、しばらく使い物にならなかった。

 

 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

【type E クリスマスツリーの下で】

――息が、白い。
断続的に荒い息を吐きながら、必死に走る。
そして、待ち合わせの場所に人影を見つけてさらに速度をあげた。

「あ、こっちですよ。……って、走って来たんですか? そんなに焦らなくても」

こちらに気付いて、すぐさま駆け寄ってくれたのは恋人である悟浄。
今日はクリスマス。そんな特別な夜に、電車の遅延で足を阻まれて。
遅刻してしまったのはこちらだというのに、彼は心配そうに気遣ってくれた。

どこかに入って待っていて欲しいと連絡してあったけれど、
律儀に外で待っていてくれたらしい悟浄は少し、頬が赤い。

「いえ、そんなに待っていませんよ。10分くらいですし。
  中に入ろうとも思ったんですが……雪が綺麗で」

言われて見上げれば、いつの間にか雪が降っていた。
ホワイトクリスマスなんて滅多にないのに、と。
つい見とれてしまう。

悟浄の後ろには、大きなクリスマスツリー。
この辺りで一番有名なツリーにも関わらず、周囲には珍しく人影がない。

「……でも、良かった。何かあったかと心配しました」

優しい声色でそんなことを言ってくれる彼に、申し訳なさを感じて。
精一杯の気持ちで謝る。と、くすりと笑い声が落ちた。

「……そうですね。少し、傷ついたかもしれません」

言葉とは裏腹に、穏やかな声音と、珍しく意地悪そうな笑みを向けられる。

「でも。あなたの顔を見た瞬間に、そんなもの吹き飛んでしまいましたよ」

そして次に向けられたのは、ふわりとした優しい笑み。
胸がいっぱいになってしまって、思わず悟浄に一歩近づく。
――と、踏み出した足が地を滑った。

「わ……っと、危ない。地面が凍っていますから、気をつけて」

すぐに支えてくれる腕は、温かい。
御礼を告げると、何故か悟浄は恥ずかしそうにそっぽを向いた。

「ええと……あの。
地面が、凍っていますから。危ないですし……その」

言いよどみながらも、すっと手を差し出される。
その意図が一瞬、掴めなくて。目を瞬いた。

「手を、繋ぎませんか?」

嬉しそうで恥ずかしそうな、声。
嬉しくて恥ずかしいのは、こちらのほうだ。

「あ。でも俺の手じゃ、あなたの手を冷やしてしまいますね」

それでも、そんな風にまた、気遣うようなことを言うから。
こちらから悟浄の手を取って、ぎゅっと指を絡ませた。

「っ、…………温かいですね」

わずかに驚いたあと、悟浄がとろけるように相好を崩す。
その手は、やはり冷たくなっていた。
だから少しでも温度を分けられるように、強く握り締める。

「あ、あと。言い忘れていました」

思い出したように悟浄が声を上げる。

「……メリークリスマス」

幸せで仕方がないといった声色で、告げられて。
同じ言葉を返してから、そっとその身体に寄り添った。

 

 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

Wish we could be together this Christmas. Thinking of you with love!

Merry Christmas & Happy New Year!!

 

END.


(C)2010 IDEA FACTORY/DESIGN FACTORY
掲載されている文章、画像等の無断転載は禁止しています。