――そして、待ちに待ったミラクル・ノエル当日。

大ホールで行われた、生徒も先生も全員参加のパーティは、本当に素敵なものだった。
華やかな雰囲気に、おいしいご飯は食べ放題で……
もう、いつまででもここにいたいくらい!

私は昨日作った似顔絵クッキーを、みんなに配って回った。
エドガー、イヴァン先生とヴァニア先生、シンシアたちにマシュー、
エルバート先生、アミィ……みんな、とっても喜んでくれた。
顔が引きつってたようにも思うけど……もしかして照れてたのかな?
ふふ、うれしいなあ!



「ルル! こんなところにいたんだ」
名前を呼ばれて振り返ると、細長い箱を持ったユリウスが歩み寄ってきていた。
「ユリウス! よかった、私も探してたの」
私はごそごそと、花柄のかわいい袋を取り出した。
中身はもちろん、昨日作った似顔絵クッキー。
「はい、ユリウス。プレゼント」
「ありがとう。これは俺から」
ユリウスから、手に持っていた箱を受け取る。見かけによらず、ずっしりと重い。
「開けてみて、ルル。……ううん、むしろ開けるだけじゃなくて、使ってみて!」
「使う……?」
ドキドキしながら、言われるまま箱を開けてみる。
中から現れたのは、大きな砂時計だった。
「すごい……こんなに大きな砂時計、初めて見たわ!」
「それ、ただの砂時計じゃないんだ。魔法をかけると、砂が流れ出すんだけど……
属性によって計れる時間が変わるっていう魔法具なんだ!」
「へえ……! 面白いのね!」
「風魔法をかけると3分計れるんだ。ちょっとやってみるね」
時計の中にある砂は真っ白だったけど、ユリウスが風魔法をかけてみると緑色に変化した。
サラサラと流れ始める様子は、とてもきれい。
「これでどうしても試してみたいことがあって……ルル、君にお願いしたいんだけどいいかな?」
「え? 何をしたらいいの?」
「この砂時計に、全属性を1度にかけてみて欲しいんだ!
自分で試してみたんだけど魔力を均等にしなくちゃいけなくてうまくいかないんだ。
全属性の君ならきっとできると思うんだというわけで早速やってみてルル!」
「……え、ええっ!?」
大興奮で詰め寄るユリウスを、私は必死で「今度試してみるから!」と、なんとかなだめた。
ユリウスったら、こんなときでも相変わらずなのね。ふう……。



ユリウスと別れ、次は誰に渡そうかときょろきょろしていると、不意にトンと肩を叩かれる。
振り返ってみると、ビラールがワイングラス片手に微笑んでいた。
「こんにちは、ルル。楽しんでいマスか?」
「ビラール! うん、とっても楽しんでるわ!」
ビラールは満足そうに笑うと、ワイングラスをテーブルへ置いた。
そして、空いた手で白い紙袋を差し出してくる。
「アナタへのプレゼントデス。受け取ってくれマスか?」
「もちろん! ありがとう、ビラール!」
紙袋を受け取って、お返しに似顔絵クッキーを手渡す。
ちゃんと注意事項を添えるのも忘れない。
「私からのプレゼントは、お部屋に帰ってゆっくり見てね! 割れ物注意だから扱いには気をつけて」
「ふふ、わかりまシタ。ワタシからのプレゼントは、今開けてもらっても、いいデスか?」
「うん!」
紙袋の口を閉じているテープを剥がして、ごそごそと中身を取り出す。
それは、真っ赤な地に金色の線が入った、優しい手触りのショールだった。
「わあ……! これって、ファランバルドの?」
「正確には、ファランバルド風デス。ラティウムのブティックにお願いして、特別に作ってもらいまシタ」
特注のショールはデザインだけ似せてもらったもので、ファランバルド製より防寒に優れているんだとか。
肩にかけてみると、確かにすっごく温かい!
「ありがとう、大事に使わせてもらうね!」
「ハイ。コチラこそ、ありがとうございマス」
私が笑うと、ビラールもうれしそうに微笑みを返してくれた。



ビラールと別れて、他のみんなを探していると……。
ガツガツと、すごい勢いでお肉をたいらげているラギを発見した。
「ラギ! ハッピーミラクル・ノエル!」
「ああ? ……なんだ、おまえか。つーかなんだよ、ハッピーミラクル・ノエルって」
「今日は素敵な日だなってこと! はい、ラギにプレゼント!」
私がクッキーを取り出すと、ラギはお肉を食べる手を止めた。
「……おう、一応もらっておいてやる。中身はなんだ? 食いもんか?」
「わわっ! 開けちゃダメ!」
受け取った途端、袋を破こうとするラギに、私はあわててストップをかける。
「な、なんだよ!? 開けちゃいけねーもんなのか?」
「そういうわけじゃないんだけど……お部屋に帰ってからゆっくり見て欲しいの!」
「……なんだよ、脅かすんじゃねーよ」
ラギはため息をつくと、足元から何かを拾い上げた。
そのまま差し出されたそれは、包装されていない木箱だった。
「やる。……たいしたもんじゃねーけど」
「ありがとう、ラギ! 開けてもいい?」
ラギが頷くのを確認してから、蓋を開ける。……その瞬間、優しい木の香りがふわりと舞った。
中に入っていたのは木彫り細工。台座の上に、モミの木と子鹿さんが乗っている。
「かわいい……! これ、ラギが作ったの?」
「ああ。……ミラクル・ノエルっぽくしたかったんだけど、【奇跡の人】なんか見たことねーから彫れねーし。
代わりに、エドガーの話に出てきた子鹿にしたんだが……」
「うんうん、とっても素敵! これ、机の上に飾るね!」
そう宣言すると、ラギは顔を赤くして、そーかよ、とつぶやいた。



ラギを見ていたら、私もお腹が空いてきちゃった。
テーブルに並べられた、たくさんのケーキはどれもおいしそうで……
うーん、どれにしようか迷っちゃう!
「俺は、こっちのフルーツケーキがいいと思うな。ほら、珍しいものたくさん乗ってるし」
「本当、すっごくおいしそう! うん、あれにしようっと!」
オススメされたフルーツケーキをお皿にとったところで、私はハッとして振り返った。
「アルバロ!」
「やあ、ルルちゃん。ケーキもいいけど、プレゼント交換しようよ。俺の分、用意してくれてるんでしょ?」
「それはもちろん! はい、どうぞ」
プレゼントを受け取ったアルバロは、上から見たりひっくり返してみたりと、興味津々な様子。
だけど、すぐに口角をつり上げた。
「ありがとう、ルルちゃん。俺からはこれ」
言うが早いか、首の後ろに、すっと腕が伸ばされる。
な、なんだろう。動いちゃいけないのかな……?
ドキドキしながら待っていると、思ったよりもすぐに腕は引っ込んでいった。
「うん。なかなか似合ってるよ」
首元に下げられたのはペンダント。
チェーンからぶら下がった、ピンクのハートがゆらゆらと揺れている。
「かわいい……! ありがとう、アルバロ!」
アルバロが普通のプレゼントをくれるなんて、なんだか感激しちゃう!
……だけど、その感激はすぐに吹き飛ばされた。
「それ、ペンダント型の魔法具なんだ。君に誰かが近づくと、このハートから光の刃が飛び出す仕組みになってる」
「え、ええっ!? なんで!?」
「全属性の君は人気者だからね。護身用グッズも必要かと思って」
「き、気持ちはうれしいけど、こんな危ないものつけられないわ!」
誰かが近づくだけで刃が飛び出すなんて危険すぎる!
私はあわててペンダントを外した。
「あれ? お気に召さない? 残念だなあ……」
そう言うアルバロは、もちろんにこにこと笑っていた。



危ないペンダントはしっかりとカバンにしまって、ホール内を歩き出す。
「あと、クッキーを渡す相手は……っと」
キョロキョロと辺りを見回していると……隅っこの方に、見慣れた人物が立っていた。
「エスト! エストー!」
手を振りながら駆け寄っていくと、彼は不機嫌そうな顔でため息をついた。
「……ルル。大声で名前を呼ぶなと、何度言えばわかってくれるんですか」
「ごめんね! それより、はい! プレゼント!」
クッキーを渡すと、エストは少しためらいながらもちゃんと受け取ってくれた。
そしてすぐに、動物の絵柄のかわいい紙袋を差し出してくる。
「……どうせ、あなたに催促されると思ったので」
「えへへ……ありがとう、エスト!」
「ではプレゼント交換も済みましたし、僕はこれで」
「待って待って! このプレゼント、今開けるから!」
立ち去ろうとするエストの腕を掴んで、引き止める。
別に今すぐ開けなくても……というつぶやきを聞きながら、私はべりべりと紙袋を開けた。
「これって……手帳?」
出てきたのは、うさぎさん柄のかわいい手帳。
ちょっと意外でパチパチと瞬きしていると、エストはふいっと顔を逸らした。
「あなたは忘れっぽい人ですから。そのくせ、いつも何かと忙しそうですし……。
それで少しは、予定を整理することを覚えてください」
「うん! 来年は、この手帳使うね! ありがとう、エスト!」
満面の笑みを向けると、エストの頬がほんのりと赤くなった。


気がつけば、パーティーは終わりへと近づいていた。
イヴァン先生とヴァニア先生の、ケンカが混じったスピーチを聞きながら、私はそっとカバンの中を覗き込む。
みんなからもらったプレゼントの間にある、寂しそうな1枚のクッキー。

……どんなに探しても、ノエルの姿だけは見当たらなかった。


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