タイトル:聖なる夜の奇跡

昔々、ある小さな村に、孤独な少年がおりました。



少年には家族もいなければ、友達もいません。
けれど、そんなもの必要ないと考えていました。
少年は誰の力も借りずに、1人で生きていました。

ある冬の日、少年が井戸場で水を汲んでいたときのことです。

「おーい、おーい」と声を上げながら、村人が遠くから走ってきました。
「すごいぞ! 森の奥に、何でも願いを叶えてくれる奇跡の人がいるそうだ」
「何だって? それは本当かい?」
「きっと本当さ。これから、森に行って確かめてくるつもりだ」

そんな村人たちの会話を、少年は呆れた様子で聞いていました。
「くだらない、でたらめな話だ」
少年は、人を信じることができません。
ですから、村人の話も信じられません。
そんなことあるはずがない、と決め付けていました。

 

その夜、村には雪が降りました。
家の中にいてもとても寒く、震えてしまうほどです。

少年は暖炉に火を灯そうとしましたが、なんと、薪を切らしていました。
薪を拾うには、森へ行くしかありません。
仕方ない、とつぶやいて、少年は村人が話していた森へと出かけていきました。

モミの木が生い茂る森には、雪が積もっていました。
少年は白いため息を吐きながら、雪を掻き分け、せっせと薪を拾っていきました。

少年の指先が、かじかんでしまった頃。
突然、森の奥からまばゆい光があふれ出しました。
「な、何だ……?」
まぶしくて、光の正体を見ることができません。

少年はふと、昼間の村人の話を思い出しました。
「まさか本当に、奇跡の人が……? いや、そんなことあるはずがない」
そう自分に言い聞かせる少年でしたが、光の中から誰かが歩いてくるのを見ると、口をつぐんでしまいました。



その人は迷わず、少年の傍へと歩み寄ってきました。
「そなた、村の子であるな?」
「そ、そうですが……あなたは誰ですか?」
少年が恐る恐る尋ねると、その人はにっこりと微笑みました。
「私は、そなたたちが奇跡と呼ぶ者だ」
少年は、まさか、と思いました。
確かに、光の中から人が現れるなど不思議なことですが……すぐに、奇跡の人だなどと信じることはできません。
「そんなはずはありません。奇跡なんてもの、この世にはないんです」
「いいや、ある」
その人は優しく、けれども、はっきりとそう言いました。
「そなたの願いを、私が叶えてしんぜよう。何でも申してみなさい」
「……奇跡なんて、僕は信じません。何でも願いを叶えるだなんて、そんなこと不可能です」

「信じられぬと言うのならばなおさら、願いを申してみなさい」
その人は言いました。
「そなたの願いを私が叶えれば、そなたは奇跡を信じるのだろう」
「……わかりました。そこまで言うのなら、願い事を言いましょう」
少年は、村人全員でも食べきれないような、たくさんのお菓子をお願いしました。
チョコレートもキャンディも、とても高価なものです。
そんなものを、そんなにたくさん用意できるはずがありません。
さぞ困るだろう、と少年は思いましたが、その人は微笑みを崩しませんでした。

「心得た。その願い、叶えてしんぜよう」
その人は頷くと、光の中へと消えていきました。

 

翌朝。
少年は、村人の「おーい、おーい」という声で目が覚めました。

「おーい、大変だ! 外に出てきてくれ!」
村人に言われるまま、少年は家の扉を開けました。



するとどうでしょう。
少年の家の前には、たくさんのお菓子が積まれているではありませんか。

「こ、これは……まさか……」
手にとって見ても、お菓子は本物です。
昨晩出会った、あの不思議な人は、本当に奇跡の人だったのです。

「これはいったい何だい? こんなにたくさんのお菓子、どうしたんだい?」
そう尋ねてくる村人に、少年は正直に話しました。
「昨晩、森の中で奇跡の人に会ったんです。たくさんのお菓子をお願いしました」
村人たちは、たいそう驚きました。
少年は、集まった村人たち全てに聞こえるように、大きな声で言いました。
「このお菓子は、皆さんに差し上げます。僕と一緒に食べてくれませんか」
村人たちは喜び、少年に感謝しました。
そしてお菓子のお返しに、少年にたくさんのプレゼントを渡しました。

奇跡を信じられるようになった少年は、村人たちのことも信じられるようになりました。

奇跡に感謝しながら、少年は、村人たちと幸せに暮らしました。
めでたし、めでたし。


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