ちびティエぱにっく⑥(ロクティエ小説)
【ちびティエぱにっく⑥】
地上に下りた翌日、ロックオンはティエリアを連れて動物園に行くことにした。
「動物のデータはヴェーダの中の資料で知っています」
「フォトで見るのと、実際に見たり触ったりするのとは全然違うぞ。何事も経験だ」
朝デートに行こうと誘われて楽しみにしていたのに、行き先が動物園だと教えられ、張り切ってしたオシャレがムダになったとガックリするティエリアに、ロックオンは苦笑する。
「動物園って割りとポピュラーなデートコースなんだぞ」
「そうなのですか?子どもが親と一緒に行くところだと、データにはありましたが?」
「どっちもありだ。親子もカップルも、な」
その一言で、デジタルな単純思考が多いティエリアは機嫌を直し、さっそく大きな姿見の鏡の前で服をチェックし始める。女の子だとバレて以来、いろいろとお姉さんっぽく接して教えてくれるクリスに言われているからだ。曰く、デートに行く前は全身が映る鏡で服装のバランスをチェックすること、だ。
襟と袖口に小さなフリルの付いたオフホワイトのカットソーに、濃いピンクのデニム地でできたミニのジャンパースカート、オーバーニーソックスとスニーカーも組み合わせ、たいへん愛らしい3歳児だ。
その姿を見ながらロックオンは、普段のファッションセンスはいまひとつ首を傾げるものが多いが、こういう子供服は組み合わせが上手いな、と思う。一瞬、実年齢と関係あるのかもという考えが浮かんだが、すぐに頭を振って忘れることにする。
「今日は日差しが強いから帽子をかぶっておけ。おまえさん肌が白いから、焼けて赤くなっちまうからな」
白いリボンの付いたつばのある帽子を被せてやると、ティエリアは嬉しそうにはにかんだ笑みを見せた。
「では、まいりましょうか。お嬢様」
ロックオンは差し伸べた手にティエリアが手を乗せると彼女を抱き上げ、そのままホテルを出て車に向かった。
― ― ―
動物園に着くと思いの外楽しい所だとわかり、ティエリアははしゃいだ。
「あなたの言うとおり、フォトだけより生で見る方が興味深い」
大きな動物は体高何メートルと言われるより、一目見た方が実感としてわかる。“百聞は一見にしかず”である。ゾウやキリンに目を丸くする様子は、まわりにいる他の小さな子どもと同じようだ。
「あっちに人が集まっています。行ってみましょう」
「ああ、いいぜ」
ティエリアが指差した場所は、小動物や動物の赤ちゃんが抱ける人気コーナーだ。
まずはオーソドックスに仔ウサギに挑戦、とティエリアが恐る恐る近づくと、ウサギは逃げて隅に行ってしまう。他の人には大人しく抱かれている慣らされたウサギなのに。首を傾げて追いかけると、更に逃げる。それが幾度か繰り返されてしまい、ティエリアは顔を顰めて、スカートの裾を握り締めた。
「ティエリア」
ロックオンが声を掛けると、彼を見上げて涙を零す。
「ウサギ・・・が・・・・・。私が普通の人間ではないか・・・ら・・・・・」
「そうじゃねぇよ」
泣いているティエリアの前に膝をついて優しく微笑み、親指で頬を濡らす涙を拭ってやると、哀しそうな顔のまま見つめ返してくる。
「いいか、おまえさんは恐々触れようとするから、それがウサギに伝わって相手も恐がるんだ」
そう言ってロックオンは仔ウサギを1羽ヒョイと抱き上げ背を撫でる。ウサギは気持ち良さそうにジッとしていて、ティエリアは思わずおおっと感嘆の声を漏らした。
「おまえさんも触ってみな」
「しかし・・・」
ついさっきあれほど拒絶されたので、どうしても躊躇してしまう。
「大丈夫だって」
ロックオンはティエリアの小さな手をとると、自分の腕の中のウサギの背に導く。
「柔らかくて暖かい」
指に触れた感触に、目を細めて微笑む。
ティエリアが撫でてもウサギが暴れないのを確認すると、ロックオンは彼女の腕にウサギを移動させた。
「あまり力をいれずに・・・でも不安定にならないようにしっかり抱くんだ」
「こうですか?」
ロックオンに言われる通りに注意深く抱くと、ウサギはおとなしく抱かれてくれている。
「ああ。良くできました」
ティエリアが嬉しそうにふふっと笑い声を出してウサギの頬に自分の頬を寄せると、ウサギも同じように擦り寄せてきた。
(かっ、可愛すぎるっっ!!)
ロックオンは携帯端末を取り出すと、シャッターチャンスを逃すまいと、フォトとムービーを撮りまくった。
同じフロアにいた人達は、ロックオンとティエリアの2人を親バカ丸出しの父とファザコン娘の図として、微笑ましく眺めたのだった。
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動物園エピソードが全部入りきりませんでしたぁ。動物園編は次回も続きます~。
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