ちびティエぱにっく③(ロクティエ小説)
【ちびティエぱにっく③】
「ロックオーン!」
モビルスーツデッキにティエリアの声が響いた。
入り口から低重力の広い空間へ泳ぎ出ようとしているのだが、身体が幼児化したので勘が狂っているらしく、ほとんど前へ進まずジタバタしている。
ロックオンはケルディムのコクピットを蹴るとスッと飛んで、ティエリアの両手をとった。
「お、可愛くなったな」
「そうですか?」
最愛のロックオンに褒められて、ぱあっと明るい笑顔になる。
着替えた服は、パフスリーブの袖で腰の後ろに大きなリボンが付いた、淡いピンクのミニワンピース。その下には膝丈のデニムレギンスを履き、白い靴にもリボンがついている。
「ああ、似合ってるぜ」
頬にキスをされて、ティエリアははにかんで顔を赤くした。
「ちょっと、ロックオン。今のティエリアは3歳児の身体なんだから、バカな真似はしないでよ」
デッキサイドの通路で、クリスと並んで立つスメラギが腕を組んで睨んでいる。
「バカな真似って・・・?」
「まさか・・・・・」
デッキ内にいた刹那やアレルヤ、ラッセの他、イアンたちメカニックまでもが、蒼ざめた。
もともと背ばかり高くて何の凹凸も見られないティエリアと恋仲になったロックオンには、ロリコンの気があるなどという噂が影で囁かれていたのだ。その噂がまさかの真実だったのか、という暗い想像で顔を引き攣らせて、視線をロックオンとティエリアに集中させる。
「私は今も彼の恋人です!!」
反論を返したのはティエリアの方で、その恋人に抱きついてプウ~とふくれた。
「それは、わかってるわよ」
眉尻を下げて両手を広げてみせるスメラギに、ロックオンも苦笑する。
ティエリアの態度がどう見ても「お父さんは私の恋人よ」と言い張る幼児にしか見えないのである。他のメンバーも何だか毒気を抜かれた状態になってしまう。
「あの・・・、私のセラヴィーは?」
デッキに愛機が見当たらないのに気付いたティエリアが、キョロキョロと見回す。
「セラヴィーの修理は終わってる。後はおまえさんが乗って調整するだけだ」
「では、早速始めましょう」
ロックオンの腕の中から勢い良く飛び出したティエリアだったが、バランスを崩してその場でクルクル回ってしまった。今度はレギンスを穿いているので、お尻が丸見えになっても問題ないが、目が回る。
ほら、と差し出されたロックオンの逞しい腕にしがみついて回転を止めると、ガックリと首を項垂れた。
ロックオンは顔を隠した髪をかき上げ耳にかけてやって、優しく微笑む。
「元の身体に戻ってからでいい。あせんなよ」
コクリと頷いたものの見るからに落胆しているティエリアに、ちょっと意地悪をしてみたくなった。
「寂しくて早く帰りたがったって、俺じゃなくてセラヴィーに会いたかったのか?」
拗ねた表情までしてみせると、ティエリアは焦って弁明する。
「1番会いたかったあなたに会えたので、次に2番目に会いたかったセラヴィーを見たいな、と思っただけです。1番はあなたです!」
両手をバタバタと動かして必死に言い募るのが、あまりに可愛くてロックオンは小さなティエリアをぎゅっと抱きしめた。
「ロックオン・・・・・、く・・・苦しい」
「あ、悪い」
小さな子どもの身体は弱いということを忘れて、いつの間にかつい力を込めてしまってしまった。それほど可愛すぎたのだ。
もしティエリアとの間に娘が生まれたらこんな感じかなぁ、なんて妄想していたら、ついニヤけて表情が緩む。
そこへポカリと、頭をグーで殴られた。
「いい加減になさい、バカップル!これ以上みんなの士気を下げないでちょうだい」
「失礼だなぁ」
ロックオンがムスリとする横で、殴られた彼の頭をティエリアが小さなモミジのような手でやんわり擦っている。
その2人の様子を見ながら、スメラギがこめかみに青筋を立てて周りを指差した。
デッキ内の全員が壁際まで下がって、こちらを見ながらヒソヒソと囁き合っている。
ロックオンとティエリアの間柄をよーく知っている刹那とアレルヤでさえも、白い目を向けていた。顔に出ているセリフは「ロックオン、そんな小さくなったティエリアにまで手を出すのか!?」である。
張り詰めた空気をの中に、のんびりとした声が聞こえた。
「ティエリアちゃん、リジェネから貰ったデータによると起床してからもう15時間になるわ。食事をしたらお風呂に入って寝なさい」
すべての雰囲気を和らげるリンダ・ヴァスティの登場で、場の空気が一気に穏やかになる。
「まだ眠くありません」
「ダメよ。中身が今まで通りのつもりでも、身体が追い付いていかないわ。いくら仮のボディといっても、酷使していいものじゃないでしょう?幼児虐待は犯罪よ」
リンダはここで1回言葉を切り、ロックオンをチラッと見てからニッコリ笑う。
「彼にそんな犯歴付けたくないでしょう?」
「すぐに食事を摂ります」
とたんにティエリアは背筋を伸ばし出口へ向かおうとして、またクルクル回り始めてしまった。やはり力の加減がわからないのだ。
またロックオンの腕にしがみつくと、もうグッタリしてしまう。
その真ん丸になってしまった幼児ティエリアは、リンダによってロックオンの腕から奪われてしまった。リンダの微笑みは、ロックオンに異論を唱える隙をまったく与えない。
(恐ろしい女性だ。おやっさんの奥さんは・・・・・)
こうしてティエリアは食堂へ連行されてしまったのだった。
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連載3回目です~。我ながら、これってロクティエ?って感じですが、2人はラブラブですよ~!
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