きょうのコラム「時鐘」 2009年12月25日

 クリスマスになると、ドイツ文学者の西義之さんから聞いた話を思い出す。旧制四高出身で、母校や金大、東大で教壇に立ち、退官後に金沢に移り住んだ

足しげくドイツや周辺に出掛けていた人で、ある時、オーストリアの教会での見聞を教えてくれた。訪れたのは「きよしこの夜」の作曲家ゆかりの土地で、クリスマス礼拝には当然、その歌の合唱がある。本来の歌詞はドイツ語。西さんもドイツ語で歌い出したが、集まった人からは英語やフランス語などさまざまな歌詞が聞こえてきた

西さんも、途中から日本語に切り替えた。多くの言葉での合唱が終わった後、感動の拍手が続いたという。国を超えて「地には安らぎを」と願う。いい話ですね、と言ったら、西さんは「悲しくもある」と応じた

共に「きよしこの夜」を願うのは、それが容易にかなわぬからでもある。希望があるから祈り、失望を重ねるから祈る。西さんは、ベルリンの壁が築かれるのを目撃し、壁が崩壊した後の混乱も知る。その人の「悲しくもある」だけに、強く心に残った

以来、「きよしこの夜」を聴くと、時に切ない思いがする。