増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル

米中古住宅市場、回復が一段と鮮明に=予想上回る654万戸

【2009年12月23日(水)】 - NAR(全米不動産業協会)が22日発表した11月の中古住宅販売件数(一戸建てや分譲住宅、集合住宅など、季節調整値)は、前月比7.4%増の年率換算654万戸と、2007年2月以来2年9カ月ぶりの大幅増となり、市場予想の625万戸を大幅に上回った。

 これは前月(10月)の前月比9.9%増(改定前は10.1%増)に続く大幅増で、9月以降3カ月連続の増加となる。8月以降の4カ月間では実に28%も増加している。

 また、水準としても前年比44.1%増と過去最大の伸びなった。1月の底からも46%増となっており、2005年のピーク時からは10%減まで急速に回復してきている。

 こうした中古市場の急回復のデータを受けて、ニューヨーク株式市場では、株価が大幅に上昇。ダウ工業株30種平均は前日比50.79ドル(0.5%)高の1万0464.93ドルとなった。他方、国債市場では10年国債が急落し、債券価格と反対方向に動く利回りは前日の3.68%から3.76%へと、8月以来4カ月ぶりの高水準となっている。

 販売の内訳は、主力の一戸建てが前月比8.5%増の年率換算577万戸と、2006年4月以来3年7カ月ぶりの高水準となり、前年比も42.1%増と大幅に増加した。分譲住宅と集合住宅の合計では前月比横ばいの77万戸となったが、前年比は60.1%増となった。

■住宅取得控除が販売戸数を押し上げ

 NARのエコノミスト、ローレンス・ヤン氏は、11月の中古住宅販売が好調となった理由について、住宅を新規に取得する購入者に対し、8000ドルを限度に住宅価格の10%の住宅取得控除を認める住宅取得控除が11月末で期限切れとなるため、駆け込み需要が起こり、販売戸数を押し上げた、と分析している。

 結局、この住宅取得控除制度はオバマ大統領が雇用市場の回復の遅れに対する当面の措置として、失業保険の給付期間を最大で20週間延長する法案に署名した際、同時に来年4月末まで5カ月間延長された上に、それまでの新規取得者という限定条件も外している。

 つまり、居住年数が5年以上であれば、新しい住宅に買い換えた場合には最大6500ドルの取得控除が認められることになった。こうした制度の拡充は、住宅取得控除が第3四半期GDPのプラス成長への転換に寄与した教訓から、景気回復を後押しするために取られている。

 ヤン氏によると、11月の販売戸数の半分以上は、同制度の利用者だったという。また、これまでに住宅取得控除制度を利用したのは約200万人で、今後、期限延長され適用対象も拡大された新制度の利用者は240万人に達すると予想。新旧両制度の利用者は実に計440万人になるという。この結果、米国の中古住宅市場は、同制度の適用が終わったあとの2010年下期に自律回復に入ると見ている。

■住宅在庫、3年ぶり低水準=適正水準に

 一方、中古住宅市場の供給過剰感を示す売れ残り住宅在庫は、前月比1.3%減の352万戸、前年比でも15.5%減となった。11月の販売ペースで換算した在庫水準も6.5カ月分と、前月の7.0カ月分から大幅に低下し、3年ぶりの低水準となった。

 これは過去25年間の平均値である7.1カ月分を下回っており、また、適正水準とされる6-7カ月分(住宅ブームのピークだった2005年は4.5カ月分)のレンジに入った。最近では2006年4月に記録された6.1カ月分に次ぐ低さだ。

 ヤン氏は、「ほぼ全米の住宅市場で、11月の中古販売件数は前年水準を上回った」と指摘する。

 ここ数カ月、中古の住宅販売が伸びたのは、住宅取得税額控除に加え、フォークロージャー(住宅不動産の差し押さえ=競売)の格安物件への旺盛な購入意欲だ。

 このフォークロージャー物件の販売比率は、11月も全体の約33%と、2008年後半から2009年初めまでの45-50%を下回っているものの、依然高水準となっており、こうした格安物件は失業率がまだ高止まりしているため、2010年まで増加し続けると見られている。

 また、住宅ローンの低下も販売好調を支えている。フレディマック(米連邦住宅貸付抵当公社)によると、30年の固定金利型住宅ローンの金利は、11月は4.88%となり、10月の4.95%から0.7%ポイントも低下している。

■住宅価格、依然低下傾向=高水準のフォークロージャー物件で

 さらに、中古住宅の販売価格の中央値(季節調整前)の低下も寄与している。11月は前年比4.3%安の17万2600ドルと、格安なフォークロージャー物件で全体の価格水準が押し下げられている。

 一戸建て住宅の中央値は、同4.4%安の17万1900万ドル、分譲住宅は同3.1%安の17万8000ドルとなっている。(了)

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12月18日更新

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増谷栄一(ますたに・えいいち)

増谷栄一(ますたに・えいいち)

経済ジャーナリスト。北海道生まれ。早稲田政経学部卒。
1988年ジャパンタイムズ入社、編集局記者として世界100カ国の特集記事を制作。
1992年日経国際ニュースセンター編集室総合編集部次長を経て、1996年~2000年まで
米国経済通信社ブリッジ・ニュース東京特派員として日米の政治、経済、マーケットを取材。
1998年から2年間、ニューヨーク、ワシントン支局でアメリカのマーケット、重要経済統計、米政府、
財務省、米議会などをシニア・エディターとして取材。G7財務相・中央銀行総裁会議を3度取材。
その後、米国通信社ダウ・ジョーンズ通信社のコピー・エディターを経て、2001年1月から2004年9月まで
AFX通信社(AFP通信の経済ニュース部門)東京特派員。
2004年4月から2007年3月末までライブドア・ニュース外報部チーフ。
2007年11月まで英米金融情報サービス、トムソン・ファイナンシャルの起債担当記者。
2009年2月から経済ニュースサイト「NNAヨーロッパ」の編集長としてロンドンに駐在中。

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