サラウンド寺子屋レポート
By: Mick Sawaguchi 11−19−2006新宿 楽音舎スタジオ2001にて
沢口:11月も持ち出しで新宿曙橋に2006年春完成しましたアニメーションのファイナルダビングステージ楽音舎スタジオ2001をお借りしてここで制作した新作3本の上映とTHX
認定ダビングステージの音響設計について話をうかがいます。
今回は楽音舎ミキサー名倉さん、サウンドデザイナー笠松さんそしてソナの中原さんに講師をお願いしました。どうぞよろしくお願いします。
名倉:皆さんこんにちは!当スタジオのミキサー名倉です。このスタジオは今年春に楽音舎が「自社で優れたモニタリングのできるファイナルダビングステージを」という発想で完成したアニメーションの音響制作としては初のTHX
認証ダビングステージです。デモを聞いて頂くまえにスタジオの機材を紹介します。
Studio2001: 機材リスト
Mixing Console Euphonix SYSTEM 5 (70in 24Group-bus 12Mix-bus 16AUX-bus)
(24Faders 8MasterFaders)
Monitor Speakers TAD TSC-3215 ×3 (Front L,C,R)
TAD TSC-1118SW ×4 (Sub Woofer)
Electro-Voice SL12-2V ×10 (Surround)
Small Speakers YAMAHA MSP5 ×2
Power AMP QSC AUDIO DAC1222 ×8
QSC AUDIO DAC2422 ×4
Monitor Processer YAMAHA DME64N ×2
Video Projector Panasonic TH-DW7000
M.T.R Euphonix R-1 (24in/0ut)
Reverb Lexicon 960
V.T.R SONY BVW-75
CD Player TASCAM CD-01U Pro
Digital Processor Dolby DP563 (Dolby Surround and Pro Logic II Encoder)
Dolby DP564 (Multichannel Audio Decoder)
D.A.W
ProTools 1 digidesign ProTools|HD2 Accel
192 I/O DIGITAL ×1 (16in/out)
192 I/O ×1 (16in/out)
AVID Mojo (VIDEO Option)
SYNC I/O
ProTools 2 digidesign ProTools|HD2 Accel
192 I/O DIGITAL ×1 (16in/out)
888/24 ×1
SYNC I/O
ProTools 3 digidesign ProTools|HD2 Accel
192 I/O DIGITAL ×2 (32in/out)
AVID Mojo (VIDEO Option)
SYNC I/O
DAWは3台ありますが、これらは一台が台詞、1台がM/E再生用で残りが録音マスター用と使い分けています。
では、今年制作したアニメーション3作をお聞きください。
1 ブレイブ ストーリー
これはスタジオ完成後初の作品となりました。効果音のPRE-MIXまではアメリカ ルーカススタジオでトム メイヤーと当社笠松がチームで担当。音楽はマトリックスなどを手がけたジノ リアクターが担当しスロバキアでオーケストラ録音しロンドンでトラックダウン。台詞は国内で私が担当という国際チームで取り組んだ作品です。
デモ
それでは素材としてどんなものが用意されたかをお話します。この部分は担当した笠松さんよろしくお願いします。
笠松:SEの素材はルーカススタジオで制作しました。私はPRE-MIXの段階から合流しSEステムを制作後この素材をスタジオに持ち帰って手直し後にファイナルMIXという流れです。SEステムはファイナルMIXでの修正が容易なように
各ロールで、
FIX SESSIONS-修正SE 部分
FOLEY PREMIXES A-5.0CH
FOLEY PREMIXES B-5.0CH
Ambience_A_Premix-
Ambience_B_Premix
AFX_Premix-これらFXステムは6.1CHで制作
BFX_Premix
CFX_Premix
DFX_Premix
EFX_Premix
Sound_Design_Aムトム メイヤーオリジナルのME 風デザイン
Sound_Design_B
といった構成です。PRE-MIX は一日1ロール(20分)を仕上げていきました。作業工程の概要は以下のようになります。
「ブレイブストーリー」作業日程
○ガイド用アフレコ 2日
ガイド用アフレコからファイナルミックスまでの期間が約四ヶ月半。
○本アフレコ 約8日
トータルの期間はおよそ2ヶ月。ガイド用アフレコが終わってから
本アフレコ初日までの期間が約二ヶ月半。
○効果音プリミックス 7日
ガイドアフレコしたセリフ付きの映像を渡してからプリミックスまでの期間が約3ヶ月。
○ミックスの行程について
ファイナルミックス時に監督、プロデューサー等を長時間拘束するのを避けるために、「プレビュー」と呼ばれる作業を事前に行います。
「ブレイブストーリー」の場合、
○SE素材が揃ったところで一回。
○10日後に音楽素材が揃ったところで一回。
全ロール通し見をして、それぞれSEのチェック、音楽のチェックを行うのですが、ここでバランス等も含めたダメ出しを行うために事前に仮ミックスをつくります。今回はセリフの整音作業が一番遅れていたのですが、プレビュー時には仮の加工もして全体像が見える形にし、セリフのチェックも合わせて行いました。
○「ファイナルミックス」
音楽プレビューの3日後にファイナルミックス1日目(3ロール)
その間にプレビューでダメ出しが出た部分を修正し、セリフの整音作業をするのですが、その際にプレビュー時につくった仮ミックスのステムを聴きながら作業します。そうすることで、ファイナルミックスを見越した効率の良い仕込みが出来ます。また、ファイナルミックス時には事前に音響スタッフのみでミックスを作り上げておき、監督他スタッフには「完成された3ロール分のミックス」を通しで聴いてもらいます。
問題がなければそのままOK。大きな変更点がない限り直しもさほど時間がかからず、スタッフの拘束時間を短縮できます。
二日後にファイナルミックス2日目(2ロール)
翌日にファイナルミックス3日目(2ロール)
フィルム用SRトラック作成&ドルビーデジタルマスタリングは、東京TVセンター407stにて2日間作業。
通常の国内制作に比較すれば十分なスケジュールと制作期間で完成することができました。それではこれらのステムにはどんな素材がはいってきているかを単独できいてください。
単独ステム再生
名倉:MIXの前の台詞制作は私が担当しましたが、 SE PRE-MIXが先行して完成していますので台詞の定位はこれらSEトラックを参考にして定位を決めていきました。
笠松:今回トム メイヤーと仕事をして感じたいくつかをお話しますと。
機材面ではなんの相違もありません。
またスタジオ音響もTHX 仕様でありLFEの再生レベルとか当初心配しましたが、これも問題ありませんでした。
私が大きく異なると感じたのは使うSE素材の持つ空気感です。それとたくさんのスタッフがそれぞれの持ち場で専任プロとしてシステマティックに作業している人的なインフラの層の厚さですね。国内制作ですと多くてサウンド デザインスタッフは3名、少ないと私一人で担当といったことになります。SEの組み上げ方などもほぼ同じアプローチですし、最後の差は組み上げたときのディテールのニュアンスですかね。
スカイウオーカーのスタジオは規模も大きいので出ている音の感じ方も異なりますし、特にLFEの再生については、国内でも同じように再現できるのか心配しましたが、THX仕様のおかげでここスタジオ2001で再生しても同じ感覚が得られたのはさすがだと思いました。FIXセッションという国内で追加修正したのは、文化の相違からくる音の表現の違いを修正したものです。例えば夏の蝉や虫の鳴き声などは、彼らには単なる雑音としか受け取られないのでこちらで追加しています。神社のざわめきや雰囲気などもそうでした。
名倉:では次に「アタドールは、ネコの森」という2作目のアニメーションをお聞きください。
デモ
これは音楽の要素が多いアニメーションでしたので、通常の音楽完成トラックに加えて楽器別のステムMIXも作ってもらいました。これがあったおかげでファイナルMIX
時に大変有効でした。音楽は映像の仕上がりと並行して制作していましたので最終的な映像のカットと音楽バランスが一致しないカットが出てきた場合にこれらのステムMIXからバランスをRE-MIX
することができるからです。
その例を2つほどお聴かせします。
例ー01 Voバランスが音楽的であったのをお祭り広場全体へ響かせた例。
例ー02 ネコが太鼓を叩くカットで映像が太鼓のアップであったため太鼓の音を持ち上げた例。
音楽制作の立場でいえば、2倍の時間がかかるのですが、こうした完成mix とパート別のステムmix を用意してもらうと最終のバランスが映像にマッチした仕上がりとすることができます。
笠松:純国産制作でスケジュールは10日間、サウンドデザインは、私一人で担当しました。
名倉:では最後にイベント上映用に制作した「北斗の拳」からお聞きください。これは夏休みにお台場のイベントとして3D 映像とともに公開された作品です。イベント用ということもあり全編フルビットを使い切っています。
笠松:こうしたフルビットを使い切った部分が作品のなかで数カ所でも実現できると音響的なメリハリがでて、私はいいと考えています。
特にイベント会場という周りも騒がしいなかの再生では高値安定的なバランスとしておくと少音量再生でもバランスが保てるメリットもあります。3D作品ではアップが多用されるのでワーク映像も3D
視聴が出来ると良いのですが、今回はそこまで準備することができませんでした。
沢口:名倉、笠松さんどうも有り難うございました。続いてこのTHX 仕様のファイナル ダビングステージの音響設計を担当したソナ中原さんから設計の考え方についてお話していただきます。
中原:ソナの中原です。私は、従来映画の音響に持っている独特のサウンドと呼ばれる音と音楽スタジオやポストプロダクションスタジオで再生される音には相違があるべきでないという考えを持っていましたので、今回はそうした考えをいかに具現化出来るかをポイントにスタジオ設計を行いました。もう一つは小空間でも大空間で再生している音響が近似できるサウンドをめざしました。
このスタジオでは、TADのシネマ用3WAYのフロントに4つのLFEそしてリアのサラウンドは3-3-2-2という配置で総計23CH分をドライブしています。注意点は、ファンタム仮想音源から同一の音が出た場合に生じるキャンセルでリスニングポイントによってピーク・ディップがでることをいかに避けてカバーエリアを均一にするかです。
LFEの設置
LFEについてはTHX 仕様は2つで設計していますが、私は低域の波面が均等に分布できるよう4つのLFEを提案し、それがクライアントにもTHX にも受け入れられました。小空間ではこうした低域をどこで吸音するかがポイントになります。ここでは、後方のマシンルームの隔壁を薄くし低域をこのマシンルームで吸音できるトラップの役目を兼用させています。
LFE SPの高さは、高くすれば床からの虚音像による反射でピーク、ディップがでますので極力床面に近くかつ120Hz以下に暴れのでない高さを選定しました。
フロントの設置
フロントスピーカの最大のポイントはL-C-R の音色をいかに統一するかにあります。そのためLとRは壁面から最低1M離しています。またスクリーンとスピーカの間で生じる2-5KHzのディップや暴れをいかに抑えるかがポイントです。このために最後まで待ったのはフランスのスクリーン リサーチ社の布織り透過スクリーンの完成でした。
これは大変音響透過率が高くスピーカとの間で生じるディップが少ないという特徴をもっています。
リアサラウンドの設置
リアは両側面を3本とし、後方は2つでなく4本としました。これも後方が2つですと干渉によるピーク、ディップが生じるのでこれを均一化するためです。
スタジオの場合は、ITU-R BS-775という配置基準があり部屋の大小に関わりなくこの比例関係で配置を決められますが、シネマの場合は、こうした基準配置が特定されていません。それで今回は、フロント サイド リアを等距離の正方形を基準シネマ再生と考えてこれに一致するようにサラウンドチャンネルのサイド リアの時間補正を与えています。またサイドは無相関とするためにスピーカとスピーカの間に拡散板を設置しました。
メインチャンネルとLFEのフェーズコントロール
メインチャンネルとLFEの位相を合わせておくことは大変重要です。このため35-140HZ 帯で両者の中心位相が合うように調整しています。
サラウンドのレベル調整
サラウンドのスピーカは左が3−2の5個、右も3−2の5個が設置されています。この5つのスピーカ間のレベルバランスはピンクノイズを聞きながらTHXの担当者が永年の聴感で合わせています。私は、それをTHX
MAGICと呼んでいます。それらを九州大学と日東紡と共同で音源がどこにあるのかを測定し計算で出してみましたところ大変興味深い結果になりました。複数のスピーカから出ている中心音源がITU-Rで規定されている110度前後に来ているという結果です。ここからも私はITU-Rの規定は大変理にかなった角度を選定していると実感しました。
沢口:みなさんどうもありがとうございました。残りの時間で皆さんが持参したソフトなどじっくり聞いてみてください。貴重な場を提供して頂いた楽音舎名倉・笠松さん、そしてソナの中原どうも有り難うございました。(了)