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2009.12.23

鳩山首相のマニフェスト違反より深刻な問題

 明白なマニフェスト(公約)違反で特徴付けられる鳩山政権の税制改正大綱が決まった。公約違反の予想はしていたのでさほどの驚きはないが、それに関連した深刻な問題に国民が直面することになった。しかし、まず表面的な問題からみていこう。
 鳩山政権の税制改正大綱で、形の上ではりガソリン税の暫定税率を廃止としたが、ただ看板を掛け替えるだけで税の内実は維持された。民主党のマニフェスト(参照PDF)で示されていたことは、その減税効果を国民生活に及ぼすことであった。しかし、鳩山政権は暫定税の看板を「環境税」に書き換えて税収を国庫に納める決定をした。しかも「暫定」を「恒久」にした分、自民党政権よりもひどいことをやすやすとやってのけた。

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民主党公約の破綻
from 民主党マニフェスト(公約)PDF

 自身の偽装献金すら認めているほど素直な鳩山首相なので(そして当然秘書の罪は議員の罪とする信条の鳩山氏は年初には素直に辞任されるのだろうが)、これがマニフェスト違反ではないとまで強弁しないところが国民に愛される所以であろう。「マニフェストに沿えなかったということに関しては、率直におわびを申し上げなければならないと思います」「暫定税率を廃止して、また同じ額を平行移動して、『許してください』と、財源が足りないからしょうがありませんみたいな議論は、やはり国民の皆さんには認められないだろう」(参照)と素直に公約違反を認めている。伝説のワシントンの桜の木である。昭和天皇も感動した話だ。
 鳩山首相はかねてより、「当然のことながら公約が実現できなかったときは、政治家としての責任を取ります。言うまでもありません」(参照)との政治信念を持っているので、どのように「政治家としての責任を取る」のか首相辞任後のあり方も見守っていきたい。
 民主党はかねてよりガソリン税の暫定税率廃止を掲げ自民党政権下で批判を繰り返してきたものだった。そのことへの反省は微塵もなく踏みにじられた。2008年1月の衆議院本会議で鳩山氏はこう述べていた。


 道路特定財源は、道路整備が最優先だった五十四年前の昭和二十九年に創設され、暫定税率は三十四年前の第二次石油ショックへの対応として導入され、そのまま既得権化しています。自民、公明の政府には、この硬直した構造を変えるつもりは全くありません。原油高に苦しむ国民の皆さんの声は、自公政権には届かないのであります。
 民主党は、道路特定財源を現地の地方のニーズに合わせて社会保障や教育などにも使えるように一般財源化をして、期限を迎えた暫定税率は廃止します。民主党は、この国会を生活第一・ガソリン国会と位置づけています。

 そして「ガソリン値下げ隊」(参照)なる興行を街中に繰り出していた。菅直人副総理・経済財政相はこう述べていたものだった。

 また菅代行はガソリン税についても触れ、「30~40年ほど昔はどろんこ道が多く、ガソリン税で道を作るということは良かったかもしれない。しかし役人が天下りをつくるために、30~40年前に作った法律を未だに続けている。まさに日本の政治は国会で決めているのではなく、長い間官僚が決めたことを与党が丸呑みしている」と官僚の権力が肥大化していることと与党の体質に対して徹底的に批判した。
 同時に菅代行は、「税金は役所で使い道を決めるのではなく、国民のために国会で決めればよい」と当たり前のことを当たり前にすると述べると同時に、「暫定と言いながら30~40年も続く税率を廃止し、一般財源化することをぜひ民主党の手でやらせていただきたい」と決意を表し、マイクを収めた。

 首相後釜を狙って沈黙しすぎている菅直人副総理も、今回の公約違反を認めないわけではなかった。「約束を守れなかったことは大変、申し訳ないと思っている」(参照)とイラ菅の面目もなく陳謝した。選挙運動時点で疑問が上がっていた「行政の無駄削減でマニフェストの財源確保は可能」という主張には、ようやく「ややその困難さに対する準備が十分でなかった」と反省された。なのでもっと準備してからもう一度政権交代にチャレンジしていただきたいとも思うが、戻すべき自民党は実質解体してしまった。昭和の言葉に「路頭迷う」というのがあるが、国民はそんな感じをかみしめている。
 他の主立った鳩山政権議員にはバックレも目立つ(参照)。仙谷由人行政刷新担当相は「首相がリーダーシップを発揮して決断したことを多としたい」と述べた。どこにリーダーシップがあるのかは、後で批判したい。
 北沢俊美防衛相は「現実的な選択で、ぜひ国民に理解いただきたい」と述べたが、そうした現実の泥かぶりをやってきたのが自民党政権だのだから、理解はどこに行き着くべきなのか。
 社民党党首福島瑞穂消費者・少子化担当相は「やむを得ない。今の状況では妥当ではないか」との認識を示したが、状況でやすやすと信念を曲げていくありかたでは、いずれ同じ認識を普天間飛行場移設問題に示されるのではないかと懸念される。
 長妻昭厚生労働相は「国民の皆さま、期待をされていた方には申し訳ない」とさりげなく陳謝した。さすがに長妻氏は後期高齢者医療制度などを含めてすでにマニフェスト違反が多く手慣れた発言だった。
 中井洽国家公安委員長は「地方の圧倒的な支援があっただけに大変残念。苦渋の判断だろう」と述べ、国民が眼中にないことを公言した。
 しかし、こうした事態はそれほど予想外のことでもなく、国民としても、「迷走民主党ならなんでもありだからなぁ」という印象で今年は終わるだろう。そういえば例年行われる越冬闘争も昨年は場所を日比谷に代えて政局の政治運動と化したが、今年は例年通りに戻したようだ。民主党政権ならなんでもありだよなという麻痺した感覚で一年が終わることで、今年を象徴する漢字に麻痺・麻生・麻婆豆腐の「麻」が選ばれたのもさもありなん。
 今回の民主党の冗談のような公約違反だが、この過程で明らかになった深刻な問題が三つある。いやこれも想定内なのだと言えないこともないが、麻痺していく政治関心のなかで指摘しておいたほうがいいだろう。

1 鳩山首相の君子豹変の資質
 東洋においては君子豹変は美徳である。だからそれでいいのではないかという論者もあるだろう。しかし、なんのポリシーも感じられない豹変を肯定的に評価するのは、普通は難しいのではないか。
 今回のガソリン税の暫定税率廃止問題だが、数年前からの民主党の主張やマニフェストをさて置くとしても、12月3日の時点では、まったく別の主張を鳩山首相はしていた(参照)。


私が申し上げたのは、暫定税率の議論は前から行っていて、暫定税率は廃止すると民主党は選挙でもうたってきた。したがって、暫定税率を廃止して同じ額を平行移動して、環境目的だから許してくれみたいな議論をしても、一方で、本来ならばしなきゃならない増税の議論を行わないで国民の皆さんに認めてくださいと言っても、それは許されない話でしょうということを申し上げています。


すなわち、約束した暫定税率はまずは廃止をするということを行わなきゃいけない。時間的にズレるかズレないか。それは増税の議論をしっかりと国民の皆さんに行って、「分かったよ」。国民の皆さんが認めていただければ、あるいは、われわれの結論を出すことができれば、それはそれでいいと思います


したがって、やはり新しい税を議論するわけですから、政府税調で行っていただいているわけですから、あまり中に入るつもりはありません。結果として増税になったり、何も変わらなかったりと言うような話は、私はなかなか国民の皆さんが納得されないんじゃないかと思っています

 これが3週間前の鳩山首相の発言であったということに、議論以前に溜息が出てくる。
 重要なことは、鳩山首相自身が「環境税」といった正義の御旗ではなく、ただの「新しい税」だということを認識していた点と、それには国民の合意のプロセスが必要だとも認識していた点だ。
 そこが3週間後、なんの説明もなく、すっぽり抜けた。そして3週間後にはこう述べている鳩山首相がいた(参照)。

暫定税率に関しては、熟慮に熟慮を重ねました。国民の皆さんのさまざまなご意見にも耳を澄まして傾けさせていただきました。私が最終的に得た結論は、地球環境、景気の二つを考えたときに、まず、これは暫定税率の仕組みそのものはいったんは廃止することになりますけれども、問題としては、その税率は維持をするということにいたしました。


今申し上げましたように、私も、国連、9月に参りましたけれども、この間もコペンハーゲン、行って参りました。この地球環境問題、25%削減を温暖化ガスでするという思いのもとで、いろいろと環境の問題を世界で考えていく中で、今ガソリンの価格などは割と低位で安定をしているという状況であります。このような中で、国民の皆さんの思いもだいぶ地球環境に対してやさしいお考えを持ってこられたということもあって、ライフスタイルの変化なども考えて、やはりこういう時期に暫定税率、確かに私ども、党としてはマニフェストでうたったことではありますけれども、そのマニフェストに沿えなかったということに関しては、率直におわびを申し上げなければならないと思いますけれども、現実問題を考えていく中で、まずは地球環境を守ろうではないかという、国民の皆さんのさまざまな意思も大事にさせていただいて、暫定税率を維持したいと決めたところであります。

 デンマークのコペンハーゲンで開かれた「国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)」の余波はあるかもしれないが、会議内容も事前に想定されていたことであり、ここに来ていきなり「環境税」が出てくる理由にはならない。そのことはこの税の性質が現状なんら議論されていないことからも明白だ。
 むしろ景気対策ということなのだろうが、であれば、かねて民主党が主張してきたとおり暫定税率廃止のほうがよい。
 ここは今朝の朝日新聞社説「税制大綱 財源なしに公約は通らぬ」(参照)の主張のように、他のバラマキ財源不足のしわ寄せがいったというにすぎない。
 くどいが、3週間でころっとポリシーもなく政策変更し、恒久的な新税を設立し、そして説明が嘘くさいという、この鳩山首相の資質はやはり深刻な問題だろう。

2 手順からするとマニフェスト全体の崩壊
 今回のマニフェスト違反は、次年度の全体公約の7.1兆円のうちの2.5兆円と比率は大きいが部分に過ぎないとも言える。しかし、この一部公約の破綻で明らかになったのは、個別の問題ではなく、民主党マニフェスト実施プロセスの崩壊だった。
 民主党マニフェスト(参照PDF)では、「政権政策の実行手順」として、次の段階が規定されていた。


  1. マニフェストで国民に約束した重要政策を、政治の意志で実行する。
  2. 「税金のムダづかい」を再生産している今の仕組みを改め、新たな財源を生み出す。
  3. その他の政策は、優先順位をつけて順次実施する。

 今回の民主党マニフェスト崩壊の最大の理由は、「2 『税金のムダづかい』を再生産している今の仕組みを改め、新たな財源を生み出す」に起因するものだが、むしろ問題なのは、1に関連してマニフェストに明示されていない新税の増設を、プロセスも説明もない「政治の意志で実行」した点にある。そして言うまでもないが、この「政治の意志」とは小沢一郎民主党幹事長であったと言ってよいだろう。民主党渡部恒三元衆院副議長がこの状況を「(鳩山由紀夫首相より)圧倒的に小沢一郎幹事長の方が力がある。(同党議員のうち)130人は兵隊みたいに何でもついていく。大政翼賛会だ」(参照)という認識を示しているが、説得力がある。
 別の言い方をすれば、現政権構成者が今回のマニフェスト違反にろくな抗弁もできないことが象徴するように、国民から乖離したこの「政治の意志」に対応できない構造がある。
 問題は、マニフェストの一部が破綻したのではなく、民主党政権内の権力構造にある。

3 財務省とのアコードの不在
 3点目はやや背理法的な指摘になるが、素朴な疑問でもあるので問うてみたい。なぜ、埋蔵金で充填しなかったのか?
 これには単純に「埋蔵金なんてない」という回答もあるだろう。しかし、現在の民主党政権の予算は、すでに10兆円の埋蔵金を前提にしている。面白連立政党である国民新党は次のように15兆円すら提示している(参照)。


内訳は<1>財政投融資特会積立金3・4兆円<2>外国為替特会剰余金1・8兆円<3>労働保険特会積立金3兆円<4>国債整理基金特会剰余金7兆円。

 社民党はもっと面白い(参照)。

活用する埋蔵金の内訳は、(1)財政投融資特会4兆円(2)外国為替資金特会6兆円(3)国債整理基金への繰り入れの一部停止で4兆円(4)日本銀行納付金などその他の税外収入1兆円――の4項目となる。

 面白いお話の5兆円分はさておくとしても、民主党としても10兆円の埋蔵金が前提になっているなか、それをマニフェストを台無しにしてまで切り崩せないというのは不可解だ。おそらく、12月3日時点での鳩山首相の念頭にあったのは、埋蔵金から工面だったのではないか。
 それが当面不可能になったのは 財務省とのアコードの不在を意味しているだろう。あるいは、財務省のグリップが小沢氏を介して影響したのではないか。だとすれば、このどたばたのすべてのシナリオは財務省が握っていたということになる。

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コメント

3週間どころか「朝令暮改」だったそうで:

http://news24.jp/articles/2009/12/22/04150253.html

投稿: | 2009.12.23 13:01

埋蔵金の前提が崩れてるから暫定税率を維持するしかなかったんでしょう

外国為替資金特会の埋蔵金(積立金)は
為替差損に備えた物

円高による為替差損で埋蔵金は今は吹き飛んでる

いまだにこんなものを前提にするなんて
社民と国民新党がおかしすぎるんですよ

外貨準備高、最高1兆306億ドル 円高含み損…しぼむ埋蔵金
http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/090109/fnc0901092230014-n1.htm

投稿: どらどら | 2009.12.23 16:18

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