「100円ラーメン」として長年知られてきた東京・西八王子のラーメン店が経営難などで瀬戸際に立たされている。悩める店主は「明日にでも値上げしたい」と胸中を激白。だが、子供時代に常連だった歌手・俳優の滝沢秀明さん(24)は、夕刊フジの直撃取材に「子供たちのために100円でがんばって!」と熱いエールを送った。
「これまでも何度値上げをしようと思ったかわからない。でも、今度ばかりは本気で悩んでる」
渋い表情で話すのは、JR中央線西八王子駅前のラーメン店「満福亭」の店主、相川勇さん(67)。近所の子供たちから「100ラン(100円ラーメン)のおっさん」と親しまれている。
相川さんは25歳で独立。当初ラーメンは50円だったが、オイルショックによる割りばし高騰で昭和49年、100円に値上げ。それでも行列ができ、全盛期は1日1000杯を売った。
メニューは、今もラーメン100円、タンメン100円のまま。ライスが150円で餃子が200円。サイドメニューの方が高い、時代を超越した破格値だ。
低価格の秘密である自家製の麺にしょうゆ味のラーメンはネギ、チャーシュー、メンマ、のり、なるとが載り、量もしっかりある。タンメンはニンジン、キャベツ、モヤシと野菜たっぷりだ。
「値上げしようかと思うと取材が来て、『100円!』と宣伝される。それを見て来るお客さんのことを考えると…」(同)
しかし、ライバル店が増え、今では1日300杯にまで減った。今年初春にはキャベツの価格も高騰。さらに相川さんは数年前から糖尿病を患い、「正直、体もしんどい」。2人の息子が継ぐ予定もないという。
「どうせおっ死(ち)ぬなら、一生涯100円ラーメンが本望だが、赤字もかさみ、明日からでも値上げしたいのが本音。『200円にしたら』とも言われるが、今さら『200ランのおっさん』と呼ばれるわけにも…」と胸中は揺れている。
一方、同店には夕方、学校帰りの学生が小腹を満たしに来るが、そんな子供の一人で、今回の危機にエールを送ったのが八王子出身のタッキーこと滝沢さんだ。相川さんが監督を務めていた少年野球チームに小学4年から所属したのが縁で、“100ラン”の大ファンに。
満福亭がピンチと聞いた滝沢さんは、都内テレビ局で収録前、夕刊フジの取材に応じ、「忘れられない地元の思い出の場所。100円でがんばってほしい」と熱く語った。
「僕にとって相川さんは『監督』。練習では厳しくて怖くて。近くの健康ランドのお風呂に連れて行ってくれたり、本当にかわいがってもらったりしたけど、内心はいつもビクビクでした」
チームは土日になると店の前で待ち合わせて試合に出かけ、試合後は店に戻り、相川さんが「好きなだけ食え」と野球少年たちのために腕を振るった。滝沢さんの注文は「ラーメン2杯」。放課後に友人たちと店に来ても、「ラーメン2杯」が定番だった。
滝沢さんはジャニーズ事務所に入って小学6年でチームを離れたが、平成10年に雑誌の企画で久しぶりに店を再訪。当時の色紙と写真は今も店内に燦然(さんぜん)と輝いているが、「当時はまだサインがなかった」(滝沢さん)ため、色紙には楷書(かいしょ)で氏名が書いてある。
「今でもあの100円ラーメンの味わいを思い出す。八王子出身の人と話すときは、だいたい満福亭の話になる」と滝沢さん。怖かった監督が「体がつらい」と弱音を吐くことに寂しさを感じながらも、激励を送らずにはいられない。
「いまどきあんな昔ながらの店はないし、(採算など)現実的なことはさておき、子供のいきやすい場所だったし、子供たちのために100円ラーメンを残してほしい」
そして満福亭のため、新たに色紙にサインをしたためた。
ZAKZAK 2006/04/22