この人物のオモテとウラ　犬童一心（映画監督）

●先週から「ゼロの焦点」が公開

　ある意味で、今もっとも注目の監督ではないか。１４日から公開されている映画「ゼロの焦点」で監督を務めている。広末涼子が久々に主演で、中谷美紀や木村多江ら、女優陣も華やかだ。

　生誕１００年を迎えた社会派ミステリーの巨匠・松本清張の原作を、１９６１年にも野村芳太郎監督が映画化している。だが、犬童監督はリメークではなく、オリジナル作品にこだわった。「戦後の日本の転換期と、経済が破綻して先が見えない現代とは、どこか似ているのではないか」と初のミステリー演出に大いに意欲を見せている。

　さらに注目なのは、１０日、９６歳で亡くなった俳優の森繁久弥さんの最後の映画「死に花」（２００４年、東映）でもメガホンを取ったこと。「スタッフや共演者を気遣い、いつも周りを楽しませた森繁さんは、山崎努、宇津井健ら、数多くのベテラン俳優にある種の緊張感を与える存在」と犬童監督。また「毎朝、僕が控室に行くと、いつもシナリオを読んでいました。その姿が、まるで芝居好きの演劇青年のよう」と、知られざる一面を明かした。

　才気あふれる犬童監督は、１９６０年、東京都出身。高校時代から自主製作映画の監督、製作に携わる。７９年「気分を変えて？」の脚本・監督で、ぴあフィルムフェスティバル入選。自主映画の旗手のひとりとなる。

　大学卒業後は、「映画監督では食えない」とＣＭ制作会社に入社。ＣＭディレクターとして数多くのテレビＣＭの企画・演出を手掛けた。ＡＣＣ賞、ＩＢＡ、ニューヨークフィルムフェスティバルなどで受賞多数。

●大先輩・市川準を超えられるか

　仕事の合間に自主映画を撮り続け、その長編作が商業映画として劇場公開される。３７歳だった。２００３年監督作品「ジョゼと虎と魚たち」で文部科学大臣新人賞を受賞。その後、松嶋菜々子主演の「眉山」や、長澤まさみ主演の「タッチ」の商業映画が興行収入１０億円を超えるヒット作に。ゲイをテーマにした「メゾン・ド・ヒミコ」と前出の「タッチ」で日刊スポーツ映画大賞監督賞を受賞。０８年には学生時代から大ファンという漫画家・大島弓子原作「グーグーだって猫である」を映画化する。８０年代最強のアイドルだった小泉今日子を、アラフォー世代のあこがれへと再ブレークさせた。

　ＣＭ演出家出身で、アイドル映画から本格映画を撮り続けた監督といえば、昨年急死した市川準監督を思い出す人も多いのではないか。

「タンスにゴン」など、個性的なＣＭを作って話題を呼び、８７年に富田靖子主演の「ＢＵ・ＳＵ」で監督デビューした市川監督と犬童監督には接点がある。９９年、市川作品の「大阪物語」で、犬童監督が脚本を担当したのだ。

　市川監督は、８８年にハナ肇とクレージーキャッツ主演の「会社物語」で世のお父さんたちの涙を誘った。犬童監督も、将来はオヤジ世代を大いに感動させる監督になるか。楽しみである。

（日刊ゲンダイ2009年11月18日掲載）