あの人は今こうしている　牧伸二さん

♪フランク永井は低音の魅力　神戸一郎も低音の魅力　水原弘も低音の魅力　漫談の牧伸二低能の魅力　あ〜あンやんなっちゃった　あ〜あン驚いた……。５０代以上の日本人なら誰でも知ってる牧伸二さんの「やんなっちゃった節」。ウクレレ片手に牧さんが歌い始めると、それだけでみんな爆笑した。「低能の魅力」の牧さん、０２年に高血圧性脳出血で倒れ、再起不能といわれた。さて、今どうしているのか。

●「漫談家の肩書外してステージに立つ。でないと、気分が乗らないよ」

「今ね、ロックンローラー、やってんのよ」

　浅草演芸ホール近くの喫茶店で会った牧さん、こう切り出した。「ロックは昔から好きで、ＣＤなんかも出してはいたんだけど、古希を迎え、ひとつの区切りとして本格的にやろうと思ってね。で、『コキコキロック７０』って曲を引っさげて、ロック界に殴り込みをかけたってわけ。ロッカーとしての名前は“シンジ・マッキー”。もちろん、ライブもやってて、そんときは漫談家の肩書外してステージに立つ。でないと、気分が乗らないよ」

「内田裕也が若い頃に鳴らした」という渋谷の「クロコダイル」でも歌うというから、本格的だ。

「ただ、ボクのファンはだいたい５０代以降でしょ。それで若い連中のリズム中心のロックと違って、歌詞が大事になる。どんな歌詞？それはＣＤ買って聴いてよ。７０過ぎたジジイがガンバってるのがわかるから、ハハハ」

　いや、高血圧性脳出血という大病を経験したにもかかわらず、しゃべりは滑らか。後遺症はまるでうかがえない。

●「『やんなっちゃった節』は１５０番以上ある」

「右ヒザがちょっとガクガクするくらいかな。あとは全然問題ナシ。たばこ（葉巻）も酒もほどほどに楽しんでるよ。ホント、ボクの場合は幸運だったねえ」

　倒れたのは０２年。病気が病気だけに、再起不能説がささやかれた。

「仕事場で趣味のアクリル画を描いてたら、突然、頭の右側をヌルヌル生温かいものが流れるのを感じたの。それから間もなくして、左腕がしびれ始めた。これはマズいと思って救急車を呼び、病院に運ばれるや、脳内出血と診断されて即入院ね。幸いにして薬だけの治療で済んだけど、リハビリには苦労したよ」

「言語機能はセーフだった代わり、左の手足が動かない。ウクレレを壁にかけ、“絶対弾いてやるからな”って自分に活を入れて必死に指先のリハビリを繰り返したよ。それと病室や廊下で歩行訓練を徹底的にやった。おかげで４５日の入院期間中に、ほとんど回復した」

　牧さんは５７年、故牧野周一に入門。６３年、「大正テレビ寄席」（ＮＥＴ＝現テレビ朝日）の司会に起用され、ウクレレ漫談で一躍人気者になった。

「社会風刺はオブラートに包むようにしゃべれ、って師匠に教えられ、それがウクレレ漫談という形になった。ネタは『やんなっちゃった節』の歌詞としてずっと残ってて、１５０番以上まである。ギネスブックに申請したら、間違いなく世界一に認定されるよ、ハハハ」

　１１月２７日、文京区の文京シビックホールで自身が会長を務める東京演芸協会主催の「秋祭りお笑い大行進」が開催される。

（日刊ゲンダイ2009年11月24日掲載）