第274回 『戦え!! イクサー1』
『戦え!! イクサー1』も、OVA初期を代表するタイトルだ。阿乱霊が美少女マンガ誌「レモンピープル」に発表したマンガを元にしたヒーローアクションもので、平野俊弘(現・平野俊貴)が監督、脚本(第1作のみ脚色)、キャラクターデザインを務めている(第1作では作画監督、第2作では総作画監督も兼任)。この年、平野俊弘は『メガゾーン23』にも参加。別にペンネームで手がけたOVAもあり、大活躍だった。『戦え!! イクサー1』は1985年10月19日に第1作がリリース。1986年7月23日に第2作『Act-II イクサーΣの挑戦』が、1987年3月4日に第3作『Act-3 完結編』が発売され、全3巻で完結している。
宇宙からやってきたクトゥルフと呼ばれる者達と、ヒーローであるイクサー1との戦いを主軸にした物語だ。主人公の加納渚は、どこにでもいる普通の女子高生であり、彼女の身の回りに不思議な事件が起こるようになる。最初は戦うの拒んでいた渚だったが、クトゥルフに殺された両親のかたきを討つために、イクサー1と共に巨大ロボット・イクサーロボに乗り込み、クトゥルフの軍勢と戦う事になる——というのが、第1作のあらすじである。
『戦え!! イクサー1』は、ヒーローものに巨大ロボットを足し、さらにスプラッターホラー、エロチックな描写を加えた作品だ。そして、本作の根本にあるのは、東映のヒーロー番組、東宝特撮等へのオマージュだった。ヒーローものとしても、ロボットアニメとしても充実した仕上がりだった。
また、クトゥルフの構成メンバーは、全て女性であり、主人公側のイクサー1も女性。敵戦士同士のレズビアン的な関係も描かれているし、イクサー1と渚の関係も百合的だ。また、渚がイクサー1に搭乗する際には、なぜか全裸になる。エロチック方面も万全だった。
全てにおいてマニアックな作品だった。そういった個々の要素だけでなく、作品の空気までが濃密なものだった。当時はそのネチっこさが心地よかった。『戦え!! イクサー1』は同時期のOVAの中でも、趣味性が強い作品だった。新しいとは思わなかったけれど、こういった趣味性を極めた作品もいいと思った。
本作をよりマニアックなものにしていたのは、渡辺宙明の存在だった。数々の特撮ヒーロー番組、ロボットアニメで音楽を手がけてきた彼が、この作品に参加。かつての過去の名作、人気作の楽曲を彷彿とさせるBGMを提供していた。このあたりの感覚は、年齢やそれまで観てきた作品によって違うのだろう。少なくとも「人造人間キカイダー」や『マジンガーZ』を観て育ち、「宇宙刑事」シリーズを喜んで観ていた僕は、曲を聴くだけで燃えた。
マジメにヒーローものをやっているのもよかった。基本的にオマージュであり、パロディなのだが、かつての作品を茶化したりせずに、シリアスにやっていた(富士壱號にはじまる地球防衛軍のスーパー戦艦が、出撃してすぐにやられてしまうのを繰り返すのは、茶化している部分だった)。すでにそういったノリの作品は珍しくなっていたし、ちゃんとツボを押さえてくれているのが嬉しかった。『Act-II イクサーΣの挑戦』から、イクサー1を倒すために作られた強敵イクサー2が登場する。イクサー2は「人造人間キカイダー」のハカイダーをモデルにしたキャラクターであり、彼女のテーマ曲までハカイダーのテーマ曲を思わせるものだった。『Act-II イクサーΣの挑戦』は渚とイクサー1が乗ったイクサーロボと、イクサー2とセピアが乗ったイクサーΣの対決が始まる直前で終わるのだが、それを観て「えー! ここで『続く』かよ!」と思ったのをよく覚えている。それを残念に思うくらい楽しんで観ていた。
平野俊弘のキャラクターも、当時としては新しいタイプのものであり、人気が集まっていた。毎回同じ事を書いているような気がするが、この頃の人気OVAの多くがそうであるように、若手アクションアニメーターが多数参加している。作画に関しては、大張正己の存在も大きい。彼は『Act-II イクサーΣの挑戦』から、垣野内成美と共同で作画監督を担当。ケレンミを増したアクションに、作画マニアは大喜びだった。当時の大張正己は、まだ20歳前後の若手アニメーターだった。
第275回へつづく
(09.12.21)