あの人は今こうしている　あご勇さん

　この人の場合、しばらくブラウン管に登場していなくても、顔を見たらすぐ芸名を思い出すだろう。コミックバンドのザ・ハンダース、そして桜金造と組んだ「アゴ＆キンゾー」で活躍したあご勇さんだ。あの長い顔につながる立派なアゴはすべての人の印象に残っている。今どうしているのか。

●太陽光発電、オール電化など省エネ家電のセールスマンを

　会ったのは高田馬場の喫茶店。差し出された名刺には「アトム　光熱費削減隊　隊長」とあった。ハテ、これは一体？

「大阪に本部があるアトム電器は全国の“町の電器屋さん”７３６店舗が加盟するフランチャイズチェーンでしてね。大型量販店に押され気味の現状を打破するために一致団結してるわけですが、実はその関東支部隊長として、訪問営業に走り回ってるんです。去年９月、加盟店の知り合いから手伝ってくれないか、と誘われたのがきっかけ。ボクも芸能だけじゃ収入的に少し不安だった。で、家電のイロハから勉強して、この３月から埼玉を中心にセールスするようになりました」

　仕事は太陽光発電、オール電化などの省エネ家電のセールスから見積もり、設置工事までの段取り。が、しばらくはうまくなかった。

「芸能人が訪問販売なんて……という変なプライドがあって、最初の頃は本名の鵜沢勇で営業してました。“あれ、どっかで見た顔だわ”“いえ、お初にお目にかかります”なんて具合に、セールスには苦労しましたよ。１日３０軒、５０軒回ってまったく売れず、さすがに気がめいって辞めようと思ったこともあります」

「ところが、忘れもしない４月６日、玄関をピンポ〜ンとやったら、ドアホンのモニター越しに“あら、あごさんじゃないの？”と家の中から奥さんが出てきて、いろいろ雑談してくれた。このとき、思ったんです。もう中途半端にやらないで、あご勇で楽しく営業しようって。と、それからボチボチ売れるようになりました」

●「芸能だけじゃ収入的に少し不安だった」

　さて、あごさんは７５年に結成されたザ・ハンダースに加わり、７８年、「ハンダースの想い出の渚」がヒットした。

「メンバー６人は所属プロが提供してくれた一軒家に住み、米も配給されてました。でも、ピークのときでさえ、給料はたった２０万円。リーダーの清水アキラさんにだけリーダー手当５万円がつくのが不満で、みんなブーブーいってましたよ」

　８０年にハンダースが解散してからは桜金造と「アゴ＆キンゾー」を結成。お笑いブームに乗ったが、８４年に燃え尽きた。以来、舞台を軸に映画やドラマに出演。全国を回る旅一座にも加わっていた。

「今の仕事を始めてからは、稽古（けいこ）に時間を取られるお芝居などはお断りするしかなくなった。ただ、芸能活動はこれからも続けていきます」

　新宿区内のマンションに聖子夫人（５１）と２人暮らし。

「オール電化にしても、量販店に負けないくらいの、あご隊長価格でお引き受けしてます。いつか隊員を抱えて、『アゴといえばエコ。エコといえばアゴ』といわれるくらいの存在になりたいですね」

（日刊ゲンダイ2009年12月8日掲載）