公的年金を250万円まで前借りできる国の年金担保融資制度(年担)を利用した結果、収入が減って生活保護を受給した例が2008年度で4908件に上ることが、厚生労働省の調べでわかった。病気や冠婚葬祭など年金生活者の急な資金需要にこたえるための制度だが、緩い審査が生活苦を招き、年金と生活保護の「二重受給」を一部で助長しているとの批判もある。実施主体の独立行政法人は、来年2月から審査方法などを見直す。
厚生年金や国民年金、労災年金など公的年金を担保に取る融資は法律で禁じられているが、厚労省傘下の独法「福祉医療機構」だけが例外的に認められている。
返済は年金からの天引きで回収し、焦げ付きリスクが小さいことから、審査は緩い。「公序良俗に反する」などの使途には貸せない決まりだが、実際には遊興費や借金返済のために多額の前借りをし、その後受け取る年金が激減して生活保護の申請に至る例が後を絶たない。
08年度は年担利用者が生活保護を申請した5108件のうち4908件(96%)が受給を認められた。中には年担利用と保護申請を繰り返す人の申請も889件あり、786件(88%)が認められた。
厚労省は06年度から、年金と生活保護の「二重受給」を制限しているが、06年4〜12月の前回調査よりも月平均の生活保護の受給者数は1割増えており、十分な歯止めになっていない。
福祉医療機構は来年2月の申請から、使途ごとの必要額と支出時期の記入を義務づける。一方で、無理なく返済できるよう、年金全額を天引きする方式を廃止し一定額は手元に残るようにする。返済回数も最大12回から15回に増やし、1回の返済額を減らす。(江渕崇)
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