「ラポート」では女性店員の笑顔が絶えない=東京都千代田区のJR有楽町駅、相場郁朗撮影
甘酸っぱいイチゴを生クリームと餅でくるんだ菓子「雪苺娘(ゆきいちご)」。JR東京駅や有楽町駅の改札口近くにある店でこの菓子を初めて買う客は、まず戸惑い、次に、店員の満面の笑みに心癒やされる。その店の名は、心のきずなを表す「ラポート」。
客が来た。店員の岡崎信子さん(58)の顔にパーッと明かりが差す。「この店は耳の聞こえないスタッフが担当しています。ご協力下さい」。そう記されたボードを差し出された客は、ちょっと驚いたような表情を浮かべ、やがて理解する。注文する菓子の種類や個数をボタンを押して店員に伝えるタッチパネルを利用する人もいれば、紙に書く人もいる。
2店で働く27〜60歳の女性たち8人は全員、耳が聞こえない。
「ありがとう」。はっきりとした発音ではないが、岡崎さんは心を込めて礼を言う。口を大きく開けて「が・ん・ば・っ・て・ね」と励ます客や、左手の甲に右手を直角に乗せて上げ、手話で「ありがとう」と伝える客も多い。
埼玉県戸田市の男性(65)は常連客。店の近くを通りかかると、必ず雪苺娘を一つ買う。「年金生活で余裕はないが、ハンディのある人に少しでも協力できればと思って。でも、店員さんの笑顔に逆に励まされている」と話す。
店はJR東日本リテールネット(旧東日本キヨスク)が2003年、障害者雇用の一環としてオープンした。それまで障害者は在庫管理など裏方の仕事ばかりだったが、活躍の場を広げるため、タッチパネルなどの仕組みを整えたという。店員同士は手話で、本社とはファクスやメールでやりとりする。
岡崎さんは生まれつき耳が全く聞こえない。母親の口の動きで言葉を覚えた。高校では授業後、筆談で先生に内容を教えてもらった。主婦だったが、子育てが一段落し、開店の半年後、ハローワークの募集を見て入社した。「耳の聞こえない人だけで運営する店なんて聞いたことなかったから興味をもった」