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時代劇、テレビは縮小 映画、CSは人気
テレビ朝日が火曜午後7時からの時代劇のレギュラー枠を9月で打ち切ると、2月初旬に一斉に各紙で報じられ、時代劇ファンにショックを与えた。半世紀近くも続いてきた枠だけに、年配の固定ファンが少なくない。現在は俳優・松平健主演の「遠山の金さん」が放送されている枠だ。
この時代劇枠では、「遠山の金さん」「暴れん坊将軍」などの人気シリーズが生まれた。1959年の開局以来の時代劇の「聖域」だ。「白馬童子」「素浪人月影兵庫」などもこの枠で流された。東映と共に制作する本格時代劇が売り物だった。松平演じる金さんが1月から登場した矢先だけに、ファンには驚きが大きい。
一方、ドラマ強化を打ち出すテレビ東京が2006年10月、目玉番組として始めたのが本格時代劇の「逃亡者(のがれもの)おりん」(金曜午後8時から)。女忍者を主人公にした「おりん」は同局にとってゴールデンタイムでは6年ぶりの連続ドラマで、時代劇は9年ぶり。通常の連続ドラマの2倍の6カ月という放送期間を設けたあたりにも同局の期待度が感じ取れる。出演者の一人で、珍しい悪役を演じる榎木孝明さんは「おりん」出演の意気込みを「日経WagaMaga」で語ってくれている。
テレビ時代劇はバブル期にいわゆる「トレンディードラマ」がもてはやされるようになった時期以降、視聴率面で苦戦を強いられてきた。若い女性の視聴者を求めるスポンサーのニーズとも合致しにくくなり、番組が減り続けた。連続時代劇の枠は減り続け、テレビ朝日が撤退した後はNHKの「大河ドラマ」「木曜時代劇」とTBSの「水戸黄門」枠が残るだけとなりそうだ。
もっとも、テレビ局側が手をこまぬいてきたわけではない。「水戸黄門」は69年にスタートした老舗中の老舗番組だが、現在の里見浩太朗さんに至るまで黄門役を変えたり、脇役のバリエーションを広げたりしてきた。第37部からは往年の人気キャラクター「風車の弥七」が復活する。人気俳優の内藤剛志が、故・中谷一郎に続く2代目の弥七を演じる。
内藤さんは1月に放送が始まったNHK「木曜時代劇」枠の「新 はんなり菊太郎〜京・公事宿事件帳」にも主演している売れっ子だ。「はんなり」シリーズの第3弾で、3年ぶりの復活となる。NHKの大河ドラマ「風林火山」は関東地区の初回平均視聴率が21.0%と高視聴率を記録し、順当なスタート。戦国武将の武田信玄の下で知略を働かせた軍師、山本勘助(内野聖陽)の生涯を描く。
地上波のレギュラー枠では厳しい立場に置かれている時代劇だが、CS(通信衛星)放送では事情が違う。スカイパーフェクTVやケーブルテレビで視聴できる「時代劇専門チャンネル」(日本映画衛星放送)は契約する世帯やCATV局が増え続けている。往年のヒット時代劇をじっくり楽しめる番組構成が受けているようだ。
今では黄門様を演じている里見さんの若かりし日の代表作の一つ、「大江戸捜査網」や、大川橋蔵主演の「銭形平次」、萬屋錦之介の「破れ傘刀舟 悪人狩り」、中村吉右衛門の「鬼平犯科帳」など、作品名を聞いただけで主人公の顔が思い浮かぶようなラインアップが並ぶ。月額視聴料525円(スカパーの場合)で朝から晩まで時代劇三昧に浸れる。
テレビとは裏腹に、「時代劇ブーム」とでも呼びたくなるような活況を呈しているのが映画界だ。2006年末から公開された正月映画では「武士の一分」「大奥」といった大人向けの時代劇映画が観客を動かした。2006年夏公開の「花よりもなほ」(是枝裕和監督)も高い評価を受けた。幕末、英国に密航した伊藤博文ら長州藩の若者5人の群像劇「長州ファイブ」も2月10日に公開されたばかりだ。
新作の時代劇映画も相次いで撮影が進んでいる。黒沢明監督の時代劇「椿三十郎」は45年ぶりにリメークされる。三船敏郎が扮した三十郎役は織田裕二が主演する。映画「失楽園」「家族ゲーム」などで知られる森田芳光監督が当時の脚本でリメークする。既に撮影が進んでおり、2007年末の正月映画として公開される見込みだ。先行してノベライズ版小説『用心棒−椿三十郎』(角川春樹事務所刊)が出版されている。
同じく黒沢監督の名作で、「椿三十郎」に先立つ「用心棒」のリメークも現実味を帯びている。角川春樹事務所は両作品のリメーク権を黒沢プロダクションから取得済みだ。
映画の時代劇ブームを呼び込んだのは、「たそがれ清兵衛」に始まった山田洋次監督のシリーズだろう。作家・藤沢周平の時代小説を原作にした3部作は「武士の一分」で終わったが、時代劇映画の魅力をあらためて証明した功績は大きい。「武士の一分」ではSMAP・木村拓哉さんを主演に迎え、若い層にも一気に観客層を広げて見せた。
江戸時代の遊郭を舞台にした映画「さくらん」は2月24日から公開が始まる。写真家・蜷川実花監督の長編映画デビュー作だ。世界3大映画祭の1つとされる第57回ベルリン映画祭では特別招待作品として上映された。
映画「鉄道員(ぽっぽや)」「居酒屋兆冶」「駅」などを撮った降旗康男監督の次回作「憑神(つきがみ)」は幕末を舞台にした時代劇だ。うだつの上がらない暮らしを送る下級武士を主人公に据えた。人気俳優の妻夫木聡が「ニート武士」を演じる。作家・浅田次郎さんの同名小説が原作だ。今初夏の公開を予定している。東映は2007年末の正月映画として「大奥」の続編を製作すると見られ、映画界ではまだしばらく時代劇熱が冷めそうにない。