長谷川選手(右)のパンチを受ける山下正人さん。二人三脚で10度目の防衛戦に臨む=神戸市中央区、清水写す
世界ボクシング評議会バンタム級王者の長谷川穂積選手(29)=真正=を支えてきたのは元刑事だ。ジム会長でトレーナーの山下正人さん(47)は17年間兵庫県警に勤め、競技経験のない異色の経歴の持ち主。無名時代からともに歩んできた2人は18日、神戸・ワールド記念ホールで10度目の防衛戦を迎える。
主に暴力団対策の刑事だった山下さんが健康のため神戸市内のボクシングジムへ通い始めたのは1997年ごろ。後に入ってきた長谷川選手の印象は「ジムで唯一の左構え」というくらいだった。
転機は2002年。長谷川選手のトレーナーが現役復帰し、後を託された。快く引き受けたが、パンチをミットで受けようとしても、「速くてタイミングが合わなかった」。海外トレーナーの練習方法をビデオで研究。各地の試合に出向き、他の選手の練習を見て技術を盗んだ。週末にはお好み焼き屋へ長谷川選手を連れ出し、何をしてほしいか尋ねた。長谷川選手は「ミット越しに愛情を感じた。初めてトレーナーの大切さを知った」。コンビ結成から3カ月後には息が合っていた。
刑事の経験も生きた。容疑者の心理を読むことで磨かれた洞察力で、「相手のくせをすぐに見抜く」と長谷川選手。05年、長谷川選手は王座に就いた。
4度目の防衛戦後の07年秋、方針のずれから前ジムとトラブルに。引退を口にした長谷川選手のため、山下さんは神戸市内にジムを作った。「自分を信じてここまでやってくれた。その期待に応えなければいけないと思った」
県警退職後に始めた警備会社とジムを経営する今も、毎日のように長谷川選手のパンチを受ける。衝撃の蓄積で首がむち打ち症のように痛むが、「『あと5年は負けない』と言ってくれている。その間は誰にも譲らない」。10度目という節目の試合も、2人にとっては通過点だ。(清水寿之)