きょうのコラム「時鐘」 2009年12月21日

 金沢城辰巳櫓の模型が完成した。藩政期の中ごろに焼失したまま絵図面でしか見られなかった幻の城郭である。20分の1の縮尺だが予想以上の迫力に感心した

日本には建築模型を造る匠の伝統がある。大きな寺院や城郭や庭園を造る前に、まず模型でイメージをふくらませる。デザインから構造の仕組みや矛盾点が、この段階で整理されるのである

奈良市には1300年前に造られた五重塔の模型が2つ国宝になっている。高さ5メートル以上もあるので工芸品ではなく建築物としての国宝指定である。京都の修学院離宮の庭園は江戸初期の作庭だが、後水尾院が自ら模型を造ってデザインしたという

10年前に金沢城菱櫓が復元された時も、棟梁が精巧な模型を造り、直接工事にかかる大工たちを奮い立たせた。模型は単なるミニチュアではない。「場合によっては実物以上に実物の雰囲気を伝える」(建築模型の不思議世界・西和夫著)という

外観や色まで正確に復元した辰巳櫓の模型は最新技術を駆使した全国初の試みであり、模型文化に新分野を開いた。本物の辰巳櫓復元の夢がぐっと身近になった。