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障害のある人がみずから、政府の障害者施策づくりに参加する。
舞台は、鳩山由紀夫首相を本部長とする障がい者制度改革推進本部の下で実務を担う「推進会議」だ。委員の過半数を障害者が占めることになった。
まず、鳩山政権が早期廃止を明言している障害者自立支援法に代わる、総合的な福祉法制を検討する。
2006年に施行された自立支援法は障害者にとても不評だ。自律的に生きようと社会に参加するほど、福祉サービスの原則1割負担が重荷にならざるをえないためだ。
新たな法制にもある程度、自己負担の仕組みは避けられまいが、所得の低い人には十分な配慮が要る。
欧米諸国では障害者が人口比の1、2割を占めるが、日本は5%ほどだ。難病や発達障害を抱えて支援が必要なのに、認定制度から漏れているからだ。詳しい実態を把握したい。
そのうえで、入所施設で保護することを中心に考えられてきた障害者福祉政策を再検討してほしい。施設にいる障害者は1割にすぎないが、望まずして何十年も施設で暮らしたり、逆に、自宅で家族だけが重い介護の負担を背負ったりしている例は少なくない。
地域に暮らしながら、施設に通ったり、自宅で福祉サービスを受けたりできる人たちをもっと増やせるよう、柔らかな制度設計を考えるべきだ。
3年前、国連で障害者権利条約が採択された。障害者自身の政策立案への参加は、この条約づくりでの合言葉だった。70カ国以上が批准しているのに、日本は国内の立法や対策が不十分なため批准できていない。
いまの日本では障害者が社会に出ると、まだまだハードルがある。車いすで上れない段差、耳が聞こえないろう者には届かない放送……。
そんな壁を取り除くことが条約の狙いだ。壁のために障害者が教育や就労の機会を失うことは人権の侵害であり、変わるべきは社会の仕組みだ。条約はそうした考え方を求めている。
たとえば、企業には、車いす社員のために社内施設の段差をなくしたり、ろうの同僚と情報を共有するため会議メモを作ったりする努力が求められる。過大な負担でないのにそうした配慮を拒むことは差別とみなされても仕方がない。障害を理由に入学や就職、施設利用を断ることも許されない。
こうした社会の実現に向け、推進会議は5年かけて改革に取り組む。その中では、障害者差別禁止法や虐待防止法の検討も必要だろう。
障害者にはだれもがなりうる。日本人は、一生のうち平均7年間を病気や障害を抱えて暮らすという統計もある。障害がある人にもない人にも、住みやすく働きやすい社会をつくる努力を重ねたい。
中央アジアのトルクメニスタンから中国へ天然ガスを送るパイプラインが完成し、先週、胡錦濤・中国国家主席が出席して開通式が現地であった。
日本で話題になることは少ないが、パイプラインは新疆ウイグル自治区まで全長約1800キロに及び、建設費のほとんどを中国が出した。経由するウズベキスタンとカザフスタンの天然ガスも合わせ、将来的に中国が必要とする量の半分を供給する。
おりしもトルクメニスタンから、開通式を済ませたばかりのベルドイムハメドフ大統領が初めて来日し、国内につくる肥料工場に日本が設備を納入するなど経済協力の推進で合意した。
カスピ海沿岸の中央アジア諸国は、豊かな天然資源を持つことで知られる。トルクメニスタンは天然ガスで世界第4位の埋蔵量を誇る。カザフスタンは石油埋蔵量でも世界9位で、ウズベキスタンも天然ガスが豊富だ。
だが、外洋から遠く離れた内陸に位置するため、天然ガスや石油の輸出はロシアのパイプラインに依存せざるをえなかった。これを有力なてこの一つに、ロシアは「勢力圏」と見なす中央アジアでの影響力保持に努めてきた。
この構図を今回のパイプライン開通は大きく変える。いまや巨大な資源消費国となった中国は、豊富な資金力を武器にカザフスタンとの間でも石油パイプラインを稼働させている。ロシアによる資源搬出路の独占を中国が崩しつつあることで、両国の間にはあつれきも表面化している。中央アジア諸国も自立的な動きを強めてゆきそうだ。
トルクメニスタンを主要な天然ガスの供給源とし、ロシアを迂回(う・かい)して東欧まで届く欧州のパイプライン計画もからみ、中央アジアの資源をめぐるかけひきはいよいよ激しくなりそうだ。
中央アジアは、アフガニスタンに接する戦略上重要な地域でもある。日本はソ連が崩壊し、中央アジア諸国が独立した直後から「ユーラシア外交」として積極的に経済援助を実施し、地域の安定を助けてきた。
もともと、中央アジアの資源開発に日本は、カザフスタンの油田開発に少数の企業が参画するくらいでかかわりは薄かった。しかし、長年にわたる援助もあって日本への中央アジア諸国の評価は高い。世界がこの地域の資源に注目した外交を繰り広げるなか、日本もこれまでの実績を基礎により太い関係を結ぶ好機かもしれない。
トルクメニスタンとは、ニヤゾフ前大統領のもとで独裁政治が長く続いたこともあって日本は関係が希薄だった。2007年に就任した現大統領は開放政策を進め、徐々にではあるが民主化にも動いている。訪日時の首脳会談で鳩山由紀夫首相は民主化や市場経済化への支援を表明した。そうした方向で関係を深めていくべきだ。