情報技術の進展はすさまじいスピードである。大型コンピューターからパソコン、さらにインターネットへと進化して、企業や産業、さらに社会の在り方を大きく変えてきたが、今また、「クラウドコンピューティング」が変革の主役として登場してきた。ネットワーク経由で、効率的にユーザーが情報資源を共用する。従来の情報システムよりも低コストで、またシステム構築が容易で利便性が大幅に向上する。発展途上で、その定義すら固められないほどに刻々と内容が深化しているが、企業や社会を激変させるパワーを秘めている。

「雲」の中に情報資源

 「クラウド」とは、雲のことである。企業運営や社会システムの運営に必要な情報資源はネット上の巨大な「雲」の中にあって、ユーザーはパソコンやクライアント端末、携帯電話などの端末画面を見ながらメニューを選択し、必要な作業ができる。
この「雲」はインターネットに代表されるネットワークのことで、端末から「雲」を利用して情報操作をするのでクラウドコンピューティングと呼ぶ。
 端末装置をクラウドに接続するだけでコンピューター機能を必要なときに必要なだけ使える。水道の蛇口をひねれば水を得られるように、情報処理機能もクラウドにつなげば簡単に得られる仕組み。それが、クラウドコンピューティングが目指す方向である。
 どこに情報が保管されているか、ユーザーは気にする必要はない。どこで情報が処理されているかもユーザーは気にする必要はない。法律や制度の整備が必要にはなるが、もしかすると、その情報処理や保管の場所は国境を越えたどこかの国かもしれない。
 もちろん、国家情報や個人情報、医療情報などの特別な領域の情報は厳格な管理を必要とするので、今後はクラウドで取り扱う情報についてのガイドラインが制定されるだろう。

仮想化で効率アップ

 クラウドコンピューティングの意味は進化して、単に「ネットワークを利用する」という意味だけではなくなった。情報資源を効率よく利用する技術が次々に登場して、それがクラウドコンピューティングに既存秩序を破壊するようなパワーを与えている。
 その一つは、情報を処理・加工し、データを蓄積するサーバー類の利用効率を飛躍的に上げた「サーバー仮想化」の技術である。
 従来の情報システムでは、多数のサーバーを利用して多数の業務を処理してきた。ところが、一つひとつのサーバーの稼働率は低く、大半は待機状況で空き時間が長い。空き時間に他のサーバーで処理してきた業務を行えば効率が飛躍的に向上する。空いているサーバーを見つけて自動的に業務を振り向ける技術が向上して、全体のサーバー数を数分の一、あるいは数十分の一に集約してコストを大幅に削減することができる。
 もう一つが、さまざまなサーバーやソフトウエアを連携させるための接続技術の「標準化」である。
 多数のサーバーを連携させ、また、業務を連結してゆくには、技術の標準化が不可欠だ。インターネットの進展に伴って、これらの連携の重要性が認識された。コンピューターメーカーやネットワーク関連機器メーカー、通信事業者、ソフトウエア開発企業など、業界全体でグループが作られ、標準化作業は急速に進んだ。コンピューターメーカーや機器メーカーでも自社製品の標準化を進めた。これがクラウドの基盤を作っている。
 さらに重要なのは自動化である。サーバーやハードディスクの割り振りやアプリケーションの組み合わせなどが、システムの背後で働くソフトウエアによって自動的に実行されている。空いているサーバーの点検やソフトウエアの組み合わせを人間が手作業で実行していたら、作業は複雑すぎて機動的な運用はできないだろう。

※ この特集は11月25日付日本経済新聞朝刊に掲載された広告特集「競争を勝ち抜くIT活用」の内容を再録したものです。

中島 洋 氏プロフィール

なかじま・ひろし 1973年東京大学大学院修了後、新聞記者としてハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを取材。出版社ではパソコン雑誌の創刊にも携わる。現在、MM総研所長、国際大学(グローコム)教授、全国ソフトウェア協同組合連合会会長などを兼務。公職としてASP・SaaS普及促進協議会副会長などを務めている。直近の著書に「クラウド・コンピューティング・バイブル」(ジョルダンブックス)などがある。