パリのオペラ座の特等席に運んでくれる円筒形スピーカー
その音はどこから聞こえてくるのだろうか…。部屋の片隅に移動しても、部屋の真ん中でも、音は歪まず、真っ直ぐに、自然に、音のシャワーが耳の鼓膜を通して心に共鳴する。しかし、巨大なアンプもなければ 5.1 チャンネルのスピーカーも見あたらない。あるのは、フローリングの上に無造作に置かれたポータブル CD プレイヤー、そして小さなアンプと 2つの円筒形スピーカーだけ。これが、今までの音響工学の常識を覆して誕生した『Yoshii9』だ。
いくら言葉を尽くしても、『Yoshii9』の、心を共鳴させる音のイメージを伝えることは難しい。だから、こう表現した方が雰囲気を想像していただけるかも知れない。『Yoshii9』は、パリのオペラ座の特等席に運んでくれる瞬間移動機だ。2つの円筒形スピーカーのコーンが振動を始めたとたん、深夜、電気を消して聴くいつもの居間は、オペラ座の特等席に変身する。しかも、たった 30万円 (消費税別) で、毎日オペラ座の特等席に座れるのだから、こんなにコストパフォーマンスの高いオーディオはない。
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オーディメーカ・オンキョーの技術者だった由井社長が、『Yoshii9』を開発する原点は 28年前に遡る。
「40歳頃、十二指腸潰瘍で血を吐いて入院し、血清肝炎を患って病院生活をしたことがあります。会社も休職扱いになり、あと半年で職場に復帰できなければ退職という状態でした。当時、肝炎は直るかどうかもわからず、気分が滅入っていたときに、私をなぐさめてくれたのが音楽でした。そのとき聴いた、トランペッターのケニー・ドーハムの『クワイエット・ケニー』とヴィバルディの『忠実なる羊飼い』は、私の音楽観を大きく変えました。音楽は“心の宝物”だということを教えてくれたのです。こうした“心の宝物”を再生するには、音のよいオーディオシステムが必要だと実感しました」
その後、由井社長は職場に復帰したもののポジションがなく、人事部預かりとなり一人で研究することを幸いに、“心の宝物”を再生するオーディの研究に没入する。その成果が、1978年、スーパーウーハー『SL-1』として結実し、かなりのヒット作となる。しかし、さらに改良しなければ、“心の宝物”を再生するにはまだ不十分であるとも感じていた。
「そこで、北海道から沖縄まで 20人以上のオーディオマニアを訪ね歩きました。その結果、何千万円もかけたオーディオ装置でも本当の音はしない、システムコンポと大同小異だという結論になりました。問題はアンプだけではなくスピーカーにあることも明らかでした」
このオーディオマニア行脚によって従来方式のオーディオの限界を体験したことが、後の『Yoshii9』開発に役立つことになる。また、由井社長はスーパーウーハー『SL-1』ヒットのご褒美として、1981年、2週間のヨーロッパ音楽鑑賞旅行を行い、一流のコンサートホールで生の音楽を毎晩のように聴いて回った体験も『Yoshii9』開発に役立った。
「パリのオペラ座では 2階の正面ボックスが一番いいと聞き、実際にその席で聴いたところ、衝撃を受けました。日本のコンサートホールで聞く音とは、格段にレベルが違うのです。入院生活で感じた“心の宝物”が、そこにありました。その後、ヨーロッパに行くたびにホテルで観光に来ているおじさんやおばさんを誘って、一流のコンサートホールで一緒に音楽を聴きました。クラシック音楽を聴いたことがないような人たちですが、本物の音を聞くと大感激するんですね。本物の音は音楽の教養に関係ないのです。“心の宝物”を感じてもらうには、本物に限りなく近い音を再現できるオーディオを作るしかないと確信を深めました」
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設置場所を選ばない『Yoshii9』は、広いエントランスのどかから聞いても歪まず自然な音を体感できる
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従来の音響工学を覆したタイムドメイン理論
「ヨーロッパの本場のコンサートホールでの音と、オーディオマニア行脚で聞いた再生音を比較すると、従来のオーディオでも部分的には本物に近い音が出ていることに思い当たりました。それらのいい部分のみを合わせると、スピーカーで“心の宝物”を再生することは不可能ではないと確信しました。では、なぜ部分的にしろ本物に近い音が出るのか? 実験で今までのオーディオ常識と反対のことをするといい音が出る。従来の音響理論が間違っていたのです。そこで、1年ほど一人でホーンスピーカーの研究を行いました。その試作品の音を聞いた社長は、即座に「製品化せよ」と指示を出した。年100回以上、世界各地に音楽を聴きにいくほどの音楽マニアである社長が、製品化の指示を出したのですから自信を深めました」
由井社長が、今までの音響工学の常識を覆した「タイムドメイン理論」に基づいて開発したオールホーン型スピーカー『GS-1』は 1984年に発売されて、オーディオファンの間で圧倒的な支持を集め、その年の日本のオーディオ3大賞を独占。さらに、1991年にはパリのハイファイショーでもグランプリを受賞するなど、今でも伝説の名器として有名だ。『GS-1』は 1台 200万円もする高級機だが、それでも 400台も売れたという。
この成功を受けて、由井社長はその後、タイムドメイン理論に基づいて、『GS-1』の音を最大限活かすアンプの研究に没頭する。しかし 1994年、オンキョーの経営不振で新しい役員が赴任し、55才以上の部長はリストラの対象となる。ところが、アンプの神様と言われる新役員が、由井社長が研究している新しいアンプの音を聞いて感動し、オーディオ研究所を作ってくれたという。リストラの対象から一転して研究所長へ。音がもたらした第一の奇跡である。
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開発した『Yoshii9』の間に座る代表取締役社長・由井啓之氏
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音の虜になった者たちによる奇跡の連鎖
「今までの技術・セオリーとことごとく反対のことをやると、音がどんどんよくなるのです。しかしアンプの神様である役員にしてみれば、自分の信奉する理論が否定されていくのですから、面白いはずはありません。さらに、いつ完成するのか、いつお金になるのかもわからない状態でしたから、1996年 10月、『今日限りで研究室を明け渡してください』と宣告されました。ところがその日の夕方、アスキーの西さんらが最後の見学者として研究室を訪れたのです。試作品の音を聞いたスーパーオーディオマニアである西さんは、『何でこんなにいい音が出るんや? 多分、時間ですね…』と、タイムドメイン理論の本質を言い当てました」
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試聴後、客人達と食事をした時、「我々が研究を支援しますから、研究を続けてください。明日、経理に言ってお金を振り込むのですぐに準備室をつくりなさい。その代わり世界一のものを作ってください」という思わぬ申し出があった。それから 2ヵ月後、アスキーのオーディオ研究所として、奈良県の関西学研都市のスペースで数名の技術者と共に研究を再開する。音がとりもつ第二の奇跡だ。
再出発に当たり、由井氏はタイムドメイン理論を一から練り直し、一般の人たちでも入手できる、“心の宝物”を再生できるオーディオ作りを目指す。オンキョー時代に比べると設備も機材も見劣りすることは否めず、材料も安価なものでしか研究を続けることはできないという事情もあった。発砲スチロール製の卵型スピーカーなど、試行錯誤の研究を続ける毎日が続く。
「半年後の 1997年、今度はアスキーが経営危機になり、来月から給料は支払えませんという連絡がありました。そして、リストラの説明を行うため、新役員が1時間の事情聴取に来るということになったのです。実際に役員の方が来られたら、試作品の音を 45分も聴き続けた。結局、その場ではリストラの話はなく、そのまま帰られました。ところが、京都駅から電話がかかってきて、『そのスピーカーは育てなければなりません』と給料の支払いを約束してくれたのです」
しかし、アスキーでは由井社長の庇護者である西氏は去り、研究継続は不可能だった。研究を続けるには独立するほかなかったが、今までかかった経費を返済し、今後の活動費を含めると 2億円近く必要となる。「独立して研究を続けたいのですが…」と先の担当者に相談すると、「由井さんの考えるとおりにやってください。什器備品や今までの経費はチャラでいいです」ということになる。
ただ、運転資金はまったくないので、製品もなく、担保もないにもかかわらず、地元の金融機関に 3,000万円の融資を申し込む。
「支店長に発泡スチロールの試作品の音を聴いてもらったら、『音を聴かないとわかりません』という稟議書を上司に上げてくれました。そして、試作品の音を聴いた理事長も、いたく感動されて融資が実行されたのです」
第三、第四の奇跡である。音に虜になった者たちによる奇跡の連鎖は、『Yoshii9』誕生まで続くのだが、ここら辺で本題に戻ることにしよう。
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何も加えず、欠落させずに、音源からの音を 100% 引き出し、ありのままに伝えることができる『Yoshii9』
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「まるごとの音の形」を正しく再生するタイムドメイン理論
従来の音響工学を覆したオーディオシステムのベースになっているタイムドメイン理論とは何か? タイムドメインとは、音響工学の専門用語で「時間領域」を意味する。従来のオーディオはフレケンシードメイン (周波数領域) 理論に基づいて設計されている。ちなみに社名は、このタイムドメインからきている。
フレケンシードメイン理論は、音の波形は正弦波の集合で表すことができるので、すべての正弦波 (20Hz〜20kHz が人間の耳に聞こえる) を正しく再生すればよいという考え方だ。しかし、正弦波の集まりとして表せると言うことと、正弦波でできているということは本質的に異なる。正弦波が再生できることと、元の音が再生できることとは何の関係もないのだ。
一方、タイムドメイン理論では、周波数成分を再生するのではなく、「まるごとの音の形」を正しく再生することを目指す。何も加えず、欠落させずに、音源からの音を 100% 引き出し、ありのままに伝える。つまり時間の経過で変化していく波形を崩さずに、音楽ソースに含まれる音を忠実に再現する。これによって、再生音楽を聴いて感動するための必要条件である「自然さ」を再現することが可能となる。
「人は不自然なものに対するチェック機能に優れています。これは自己防衛のために備わった人間の本能的な機能です。音に対してもチェック機能が働き、不自然な音に対しては意識領域と潜在領域の間にあるゲートが閉じてしまうので、不自然な再生音楽は心の領域には届きません。オーディオマニアがいくらすごい音でしょうと自慢しても、意識領域で理屈で聴いているだけでは心の領域に達しないのです。自然であれば警戒感は無くなり、ゲートはオープンになりますから、誰でも音楽を心の領域で受け止めることができます」
タイムドメイン理論によれば、「自然な音を再生するにはスピーカーのユニットは小さい方がいいのです。大きいと、振動板の内側と外側で分割振動が起こり、音の形が崩れ、原音を忠実に再現できない」からだ。音の崩れは至るところに生じる。例えば、スピーカーのユニットと箱との間に生じる振動、アンプの部品やコード内部の振動などだ。微妙な崩れを一つひとつ潰してできた最初の試作品が、振動を伝えないために宙に浮かせたミニアンプと、卵型スピーカーだった。
由井社長の研究の噂を聞きつけたビル・ゲイツがビジネスで来日した折り、東京のホテルに呼ばれた。発泡スチロール製の試作品にもかかわらず、大のオーディオマニアであるビル・ゲイツは、今までの常識を覆したスピーカーから流れる音を聴いて、「私の 7,000万円のオーディオシステムよりいい音だ。製品化を待ち望んでいます!」と絶賛してくれたという。しかし、製品化するには解決しなければならない問題が残っていた。
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ブレークスルーは熱を出して唸っているときに突然閃いた
製品化のめどは立たず、資金は底を突き、社員に給料を払えない状態に。3人の社員は去って、女子社員一人が残るという倒産寸前の状態に陥る。金策に走り回っても、製品化のメドが立っていない以上、融資してくるところはない。潰れるのは時間の問題と思われた。
「再建策もないのでとりあえず研究だけは続けていたのですが、無理がたたったのか風邪をこじらせて 40度もの高熱を出して寝込んでしまいました。ところが、ウンウンうなされていた床の中で、突然スピーカーを円筒形にすればいいと閃いたんです。円筒形の天頂にスピーカーをシャフトで支持し固定すれば、振動を抑えることができ純粋に音源を再生できる」
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とことんやり尽くして、ギブアップ寸前に閃いたアイデア。濃霧が晴れるように問題がクリアになった。喜びのあまり全身が震えたという。翌日、東急ハンズに透明な円筒形のアクリル筒と茶漉しを買いに行った。まだ熱は残っていたのだが、閃いたアイデアを基に夢中にスピーカーを作った。
「発泡スチロールとウレタンを敷いたスピーカーをアクリル円筒上面に固定し、CDプレイヤーにつないだのです。透明な円筒形天頂のスピーカーからは、予想を超えた『自然な音』が流れ出しました」
長年苦しんでいた振動問題をクリアすることができ、円筒形スピーカー『Yoshii9』の原型が誕生した。1999年 10月 21日のことだった。
『Yoshii9』の長さは約 1メートル、コーン口径は 5.5センチ、振動系の質量は 1.4グラムに抑えた。筒の材料はアルミ、表面をホーニングで硬化したあと硬質アルマイトで処理してある。これによって音源をそのまま再生でき、パリのオペラ座で聴いている感覚を味わえる。
その後、『Yoshii9』原型は改良を加えられ、商品化される。コーンの磁気回路や振動板を振動を伝えないゲル状物質で支えて円筒に載せ、下から金属棒の重りで引っ張る。また振動板自体の分割振動を押さえるために、口径は 5.5センチ、振動系の質量は 1.4グラムに抑えた。筒の材料はアルミ、表面をホーニングで硬化したあと硬質アルマイトで処理。構造体としてのパイプ形状の剛性の高さとの相乗効果によって内部音圧で振動することもない。こうすることでコーンは他を共振させず、純粋に音源を再生できる。
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『Yoshii9』の長さは約 1メートル、コーン口径は 5.5センチ、振動系の質量は 1.4グラムに抑えた。筒の材料はアルミ、表面をホーニングで硬化したあと硬質アルマイトで処理してある。これによって音源をそのまま再生でき、パリのオペラ座で聴いている感覚を味わえる。 |
産みの苦しみを経て誕生した『Yoshii9』が世界に羽ばたく
ブレークスルーを果たしたものの倒産寸前で資金はなく、製品化することはできない。しかし、またしても、音の虜になった者の奇跡の連鎖が起こる。富士通の奈良支店長が、タイムドメインがすごい音を出しているという噂を聞いて本社に通報し、試作品の音を聴いた部長も即座に「時間ですね」と言ったという。後日、富士通本社に戻った部長は社内でタイムドメインの宣伝を行った結果、富士通の高級パソコンのスピーカーとしてバンドルされることが決定される。
タイムドメイン方式の卵型スピーカーをバンドルした富士通の高級パソコンは 2000年 5月に発売され、当初の生産目標である 12万台を超え、26万台のヒット商品となる。これで会社存続の基礎はできた。
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一方、円筒形スピーカーの『Yoshii9』を、自社ブランド製品として発売することを計画。岸和田の町工場に相談したところ、「制作費はウチで出しますから、オーディオの知識を教えてください」ということで自社ブランドの『Yoshii9』試作品が誕生する。 「しかし、製品を生産する資金がないため、富士通パソコンのバンドルスピーカーを生産している富士通テンに融資を申し込んだのです。ところが、融資は定款にないので、生産を委託する東大阪の町工場を富士通テンがコントロールするという話になった。富士通テンが材料を仕入れ、町工場に供給して生産してもらい、完成品在庫を持つ。品質管理と代金決済は富士通テンが行い、タイムドメインは在庫を仕入れて販売すればいいのです。しかも決済は 90日後ということになりました」
2000年 7月のことだった。30万円 (消費税別) という価格にもかかわらず、口コミでそのとき造った 200台はすぐになくなった。その後『Yoshii9』は、東大阪の工業団地にある金型、塗装、金属加工などの町工場 20社の連携生産に移行する。『Yoshii9』の評判は口コミで広がり、着実に売れ続けている。マニアよりも素人が購入する割合が高いという。これ以降、由井社長は恒常的な資金難から解放される。2005年からはヨーロッパやアメリカでも発売を開始し、『Yoshii9』は世界に羽ばたき始める。
また、富士通の高級パソコンにバンドルされた卵型スピーカーも、タイムドメインブランド製品となる。その背景には、パソコン安売り競争が激しくなり、単価の高いタイムドメイン方式スピーカーのバンドルが中止されたからだ。そのときに使った金型は不要になり、そのままでは宝の持ち腐れになる。「金型はタイムドメインで使ってもいい」ということになり、自社ブランド製品の『TIMEDOMAIN-mini』として、2001年 5月、販売を開始。18,000円 (消費税別) という手頃な価格もあって、順調に売り上げを伸ばしていく。
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『TIMEDOMAIN-mini』と、最近発売された『TIMEDOMAIN-light』。 徹底した振動対策を施してあり、山椒は小粒でもピリリと辛い。 CD プレイヤー、TV、DVD、アナログプレイヤー (イコライザー内蔵)、パソコンなどの音源につなぐだけで、簡単に素晴らしい音が楽しめる。 |
「何十回となく神様が助けてくれて」『Yoshii9』は誕生した
奇跡の連鎖で誕生したタイムドメイン方式のオーディオは、産みの苦しみを経て大きく羽ばたき始めた。基本的にはソースを選ばないから、使い方も従来のオーディオに比べて格段に自由だ。テレビでもラジオでも、もちろん CD プレイヤーや DVD プレイヤーでも OK。今、由井社長が一番はまっているのは『iPod』と『Yoshii9』の組み合わせだ。剛性の高い『iPod』のステンレスのケースが余分な振動を吸収して、クリアでより自然に近い音を楽しめるという。アップルからの引き合いもあるようなので、『iPod』のハイエンドオーディオも夢ではない。
「ここまでこられたのも、不可能なことと思っても諦めなかったからです。目先の小さそうな山でも、あの山に登ったらその先が見えると思い、次々と登り続けました。そしてその頂上に立つと、次の山が見える…。これを繰り返していくことしか技術者は前に進めないと思うのです。そうやって諦めないで取り組んでいると、千に一つ位しか起こらないことが起こるのです。何十回となく神様が助けてくれたに違いないと信じています。今後はプロ用の 21世紀バージョンのオーディオを創ります。かつて創った『GS-1』のおさらいなので、できるのは時間の問題です」
こうした奇跡の連鎖に支えられた『Yoshii9』は、どうしてもこの世に生まれなければならない“宿命”を負っていたに違いない。
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