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社説

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小沢氏秘書公判―公共工事の裏側に何が

 西松建設から小沢一郎・民主党幹事長の周囲に流れた3500万円の献金は違法だったのかどうか。献金の背景に、公共工事受注への小沢事務所の強い影響力があったのか否か。

 小沢氏の公設第1秘書、大久保隆規被告がきのう初公判の被告席についた。大久保秘書は、政治資金収支報告書に西松建設からの献金をダミー団体名で書いた罪に問われている。

 献金した側の裁判では、すでに西松建設元社長の有罪が確定している。これに対し大久保秘書は無罪を主張し、検察との全面対決となった。

 法廷で検察側は事件の構図を次のように描いた。小沢事務所は東北地方での公共工事受注に決定的な影響力を持っており、「天の声」を出してはゼネコン側に献金を要求した。西松建設もこれに応じてトンネル工事などを落札したが、大久保秘書は特定のゼネコンとの癒着が明らかにならないよう社名を隠して報告書に記載した。

 被告側は全面的に反論した。小沢事務所に公共工事の受注を決める権限などなく、検察の主張は虚構だ。献金した二つの政治団体には実体がある。大久保秘書は西松建設からの献金とは認識しておらず、小沢氏の政治への応援と確信していた。

 この事件を機に、小沢氏は民主党代表を辞任した。しかも総選挙が取りざたされた時期だったため、検察に対して「不公正な捜査ではないか」との批判が上がり、それに対する検察の説明も不十分だと指摘された。

 検察は冒頭陳述で、小沢事務所とほかのゼネコンとの関係についても触れ、事件の悪質性について生々しく述べた。それは、こうした批判への具体的な回答でもあろう。

 すでに逮捕・起訴から9カ月がたっている。裁判所にはできるだけ迅速な審理を望みたい。

 西松建設元社長の判決によれば、小沢氏の側が特定の業者から長期間にわたって資金を受け取っていた事実は動かしがたい。

 西松建設が小沢氏の側に10年間で約1億4千万円を渡していたこと、その動機が「談合により公共工事を受注するため」だったことが、この判決で認められている。

 小沢氏はいまや鳩山内閣の与党幹事長として巨大な議員集団を率いて政権を支える実力者だ。政府の政策にも具体的な影響を与える立場にある。

 この事件について、小沢氏は「やましいところはない」と主張し続けている。秘書の公判を受けて、改めて説明を聞きたい国民は多いだろう。

 民主党は、3年後をめどに企業・団体献金の全面禁止を公約している。小沢氏が政治とカネの透明性を重んじるなら、率先してもっと早い立法化と実施に踏み切るべきではないか。

核ゼロへの道―一歩ずつ確実に進めよう

 核廃絶を実現するために、どのような政策を進めていくべきか。日豪主導の国際賢人会議(共同議長・エバンズ元豪外相、川口順子元外相)が最終報告書を、鳩山由紀夫首相と、来日したラッド豪首相に提出した。

 「核のない世界」をつくり、しかも国際秩序を安定させる。すぐに目標へは到達できなくても、その途中で実行できることはたくさんある。賢人会議は、核廃絶への導線となるような政策の数々を、行動計画としてまとめた。

 まず、2012年までにすべての核保有国が「核の唯一の目的は核に対する抑止」だと宣言する。米ロだけでなく、核を持つすべての国が軍縮交渉の準備に入る。包括的核実験禁止条約を発効させ、軍事用の核分裂性物質の生産禁止条約を締結する。

 25年までに世界の核の総数を2千発以下まで減らし、核保有国同士の先制不使用にも合意する。核兵器禁止条約の準備も進める。その後、核抑止が不要になるような国際環境をつくって、廃絶する。

 いつまでに核をゼロにするのかは、書かれていない。25年の時点で2千発も残るのか、との思いもある。だが、まずは行動計画を足場に少しずつ世界を変えていくことが先決だ。行動計画を着実に実行し、しかも前倒しできるものは先行実施する。現実の厚い壁にたじろがず、粘り強い外交で廃絶の日をたぐり寄せたい。

 行動計画の多くは、「核のない世界」をめざすオバマ米大統領の方針と共鳴する。むしろ、応援歌にも聞こえるだろう。米国の同盟国である日豪は米国と協議しながら、行動計画の牽引(けんいん)役を担っていくべきだ。

 米国は来年2月までに、新たな抑止戦略と戦力配備に関する「核戦略見直し」(NPR)をまとめる予定だ。エバンズ氏は、核兵器の役割縮小がNPRに明示されるよう、日本も米国を後押しすべきだと語る。

 すぐに「核の傘」をなくすのは難しい。だが、「唯一の目的」宣言を打ち出すことで、核が実際に使われるリスクを少しでも減らせるはずだ。米中の軍拡競争の防止や、北東アジアの安定にも寄与しよう。日本は「唯一の目的」宣言のNPRへの盛り込みに賛意を伝えるべきだろう。

 来年5月には核不拡散条約(NPT)の再検討会議がある。核保有国が真剣に軍縮に取り組まないと、他の国に核を持つなと言っても説得力が弱まるばかりだ。賢人会議は、行動計画に盛られた政策をできるだけ多く実行するよう再検討会議で確認することを求めている。

 NPTのもとでの結束力を強めるには、格好の提案である。ぜひとも再検討会議の場で、国際社会の共通認識としたい。

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