きょうの社説 2009年12月16日

◎天皇の「特例会見」 二度とあってほしくない
 「天皇陛下への会見を1カ月以上前に申請する」という慣例を破る「特例会見」は、こ れを最後にしてほしい。政治的な思惑で例外を認めれば、陛下の中立性・公平性が揺らぎ、「政治利用」につながりかねない。

 宮内庁に「特例」として会談の実現を強く指示した理由について、鳩山由紀夫首相は「 諸外国と日本との関係を好転させるため」と説明し、平野博文官房長官は「日中関係の重要性」を指摘したが、ほかの国から同じような要請が来たら、どう対処するのだろう。要請国の重要度をだれが判断し、どこまで例外を認めるのか。

 皇室外交は、現実の国際政治から超然としたところにあらねばならない。だからこそ陛 下への会見申請は、国の大小を問わず、すべて平等に扱われてきた。1カ月前ルールは、陛下の健康に配慮し、多忙なスケジュールを円滑にこなすためにも必要である。

 中国の習近平国家副主席は、陛下との会見で箔(はく)を付け、国家主席の最有力後継 者の立場をより強固にした。国内に反対勢力もいるなか、日本政府の後押しで特例を認めさせたことにより、政治的な力量を誇示できた。これでも政府・与党は「政治利用」ではないと言い切れるのだろうか。

 普天間基地移設問題では煮え切らない態度の鳩山首相が、特例会見を強気で主張したの は、民主党の小沢一郎幹事長側からの働き掛けがあったからだとされる。小沢幹事長は会見で、「天皇陛下の体調がすぐれないというならば、それよりも優位性の低い行事はお休みになればいい」と述べた。「天皇陛下ご自身に聞いてみたら『会いましょう』と必ずそうおっしゃると思うよ」とも語った。

 これは、はなはだ思慮を欠いた発言である。陛下の体調より、中国の副主席との会見が 優先と言わんばかりだ。陛下のお心を勝手に推察して、都合よく決めつける強引さも無神経と言わざるを得ない。鳩山政権では、岡田克也外相が国会開会式における天皇陛下の「お言葉」見直しを求めて物議を醸したことがあった。政府・与党を通じて、皇室に対する尊崇の念の薄さが気に掛かる。

◎松井エンゼルスへ 新たな挑戦にエールを
 米大リーグ・ヤンキースで7年間主軸を担った実績をひっさげ、松井秀喜選手が、アメ リカン・リーグ西地区の強豪エンゼルスに移籍することが確実となった。人気、実力ともに最高峰の超名門球団を離れる寂しさはあるが、36歳という野球選手としての円熟期に差し掛かる来季、新たな舞台で大リーグ生活の集大成を飾る活躍を期待して、ふるさと北陸の地からエールを送りたい。

 松井選手は巨人で10年間、主砲としてプレーした後、2003年にヤンキースに入っ た。日本を代表するスラッガーという重圧もある中で、ここ一番の勝負強さによりチームの信頼を勝ち得、契約最終年のワールドシリーズでは、最優秀選手の栄誉に輝いた。

 7年間に選手として残した数字もさることながら、野球に向き合う姿勢の点で松井選手 は際立つ。連続試合出場を続ける鉄人から一転、けがのリスクを抱えた選手との評価を受け、出番の不規則な指名打者として起用されることが多くなったあとも、チームの方針に異を唱えず、謙虚な言動と黙々と野球に向き合う姿勢を貫いた。声高に自己主張する選手が多い大リーグの中でも、異彩を放つ松井選手の献身的な態度は、生まれ育った北陸の良き精神風土を体現しているとも言えるだろう。

 北陸では、わがまちの強豪チームとして、プロ野球独立リーグの石川ミリオンスターズ や富山サンダーバーズが市民の間に定着してきており、また、今年の全日本学童軟式野球大会で石川代表チームが優勝するなど、全国規模の大会で優秀な成績を残すチームも出てきている。

 野球にかかわる多様な環境が地域に浸透するなかで、松井選手は、ふるさとの野球ファ ンがあこがれを抱く最も大きな存在である。松井選手が、大リーグの舞台で活躍を続けることは、後に続く野球少年たちに、計り知れない勇気と励ましを与えるだろう。

 新天地では、その特大のアーチとともに、この1年間封印してもなお、こだわり続けた 守備位置に立ち、緑のフィールドを躍動する松井選手の姿が見たい。