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2009年12月16日(水)付

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普天間先送り―鳩山外交に募る不安

 米軍・普天間飛行場の移設問題で、鳩山内閣が方針を決めた。決着を来年に先送りし、連立3党で移設先を再検討するという。しかし、これを方針と呼べるだろうか。

 移設先の検討対象には、県外や国外ばかりでなく、自民党政権時代に合意された名護市辺野古も含まれる。移転先の結論を示す時期は明示しない。辺野古移設を前提とした経費は来年度予算案にとりあえず盛り込んでおく。

■展望欠いた政府方針

 沖縄の基地負担、日米合意の重さ、連立への配慮。どれにも応えたいという鳩山由紀夫首相の姿勢の繰り返しにすぎない。ただ結論を先延ばしするだけである。

 危険な普天間飛行場の現実を早期に変えようとすれば、選択肢は限られている。日米合意を基本に辺野古へ移設するか、本気で沖縄県外の移設地を探るかだ。加えてこの間、傷ついた日米当局間の信頼をどう回復するつもりなのか。政権の意思も方向性も見えないままである。

 政権発足から3カ月。これまでの無策と混迷がさらに続くのだろうか。

 この問題の深刻さを認識していたのかどうか、先月の東京でのオバマ米大統領との会談では「私を信頼してほしい」と語りかけた。何の成算もなしにこの言葉を発したと見られても仕方あるまい。

 半世紀以上続いてきた自民党政権から代わったのだから、従来とは違う日米関係、同盟のあり方を追求したいという首相の気持ちは理解できる。沖縄が戦後60年以上にわたって背負ってきた過重な基地負担を、歴史的な政権交代を機に軽減したいと考えるのも当然だろう。

 だが、そうであるなら、手順を踏んで現実的な政策として練り上げ、同盟国である米国の信頼と同意をとりつけていく努力が要る。そこをおろそかにしたまま、ただ「待ってくれ」「辺野古の可能性も残っている」などと優柔不断な態度を続けるのは同盟を傷つけ、ひいては日本の安全を損ないかねない危険すら感じさせる。

■同盟の重要性確認を

 政府方針に沿って、これから事態の打開を目指そうとしても、先行きは極めて険しいことを首相は認識すべきだ。そもそも再交渉するための土台となる米国との相互信頼を一から築き直さねばならない。

 対案をつくるにしても、いつまでという期限が欠かせない。しかし、来年5月までとする考え方に社民党が難色を示し、与党3党の間では合意できなかった。外交には相手があるという現実をあまりに軽く見ていないか。

 結論を先送りし、さらに日米間の交渉が長期化する可能性も大きい以上、普天間返還が「凍結」されることも覚悟する必要がある。辺野古移設とセットの海兵隊員8千人のグアム移転も進まない恐れがある。

 沖縄の現実も、いっそう厳しさを増すだろう。堂々巡りのあげく、辺野古移設の受け入れに戻ろうといっても、県外移設への期待を高めた県民の反発で代替施設の建設が順調に進むとは思えない。来年1月の名護市長選や秋の沖縄県知事選で、辺野古移設反対派が当選すれば、なおさらのことだ。

 鳩山首相に求めたいのは、普天間の移設をめぐるもつれを日米関係そのものが揺らぐような問題にさせないことだ。出発点は同盟の重要性を新政権として再確認することにある。

 日本の安全保障にとって、米国との同盟は欠かせない柱だ。在日米軍基地は日本防衛とともに、この地域の安定を保ち、潜在的な脅威を抑止する役割を担っている。

 むろん、だからといって米国の軍事的合理性だけに基づいて過重な基地負担を地元に押しつけ続けていいはずはない。最小限、どの程度の存在がどこに必要なのか、両国で協議し、納得しあわなければならない。普天間移設で問われているのは、まさにこの問題なのだ。

■大局を見失うな

 首相は、普天間の米海兵隊が担っている抑止力を、飛行場の返還後も何らかの形で補う必要はあると考えているのだろう。3年前の在日米軍再編をめぐる日米合意全体の見直しを目指しているのではなく、普天間の移設先だけの問題であることをはっきりさせるべきだ。

 米政府がこの問題で鳩山政権への不信や戸惑いを深めているのは「鳩山政権は日米同盟を本当に大事に思っているのか」という思いがぬぐえないからだろう。

 首相はかつて「常時駐留なき安保」構想を打ち出したことがある。持論の「東アジア共同体」や中国重視政策と日米の同盟関係のかかわりについても、明確な説明を欠いたままだ。

 日米が連携して取り組むべき課題は、地域の平和から核不拡散、地球環境まで幅広い。米国にとっても日本との関係が揺らいではアジア政策は成り立たない。オバマ大統領は先の東京演説で日米同盟を「繁栄と安全保障の基盤」と強調した。

 普天間をめぐるこじれで日米両政府の円滑な対話ができなくなっては大局を見失うことになる。

 事態がここまで来た以上、決着は容易ではない。首相は現実を直視して、相互信頼の再構築を急ぐべきだ。

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