静かな劇場 

人が生きる意味を問う。コアな客層に向けた人生劇場。

人生五十年 下天のうちを比ぶれば

2009-12-10 20:33:51 | Weblog
「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり……」

織田信長が出陣の際に謡ったといわれる謡曲「敦盛」の一節です。共感する人が多いことからも分かりますように、だれしも人生を夢のように感じる瞬間がある。でも、それは「夢のように」はかないという意味であって、この現実が、構造的に、夢みたいだと分かってのことではないと思います。
分かっていれば、戦場など行かなかったでしょうから。

さて、
私たちは素朴に、自分の前に無限大の空間が広がり、そこに悠久の時間が流れている、そういう「時間」と「空間」を基軸とした世界が実在しているという感じをもっています。理屈はどうあれ、そのようにしか思えないのです。

でも、それのどこがいけないのか。
時間も、空間もちゃんと実在している。だから、今、私たちにそれがありありと感じられているのじゃないか、と言われる方もありましょう。でも、昨日書きましたように、夢を見た時、そこにもやはり「ありありとした」空間が広がり、時が流れていたはずです。ということは、私たちの心は、いくらでも私に「世界」を現わしてみせることができるのです。だから、その「ありありとした」という感じも、〃実在〃を証明する根拠にはなりえません。

さて、

夢は「意識」の乱舞といわれます。
意識には「夢」といわれる世界を、自身に現わす働き、作用があるということです。
夢は「意識内」に現れた、実在しない虚構の世界ですから、目が覚めると同時に消えてしまいます。

では、夢から覚めた、この「現実」と呼ぶ世界はどうなのでしょうか。

夢は、完全に自分だけの世界ですから、「意識が生み出した意識の中の世界」として、説明も理解も容易いのですが、この「現実」という世界が私に現れてくるのは、もっと複雑な構造で説明も難しくなっています。

ですが、結論から言えば、この現実世界とは、「意識」よりも深層にあって、私たちには知覚することのできない「阿頼耶識」の生み出した、やはり夢みたいな世界ということです。

万人に共通した、絶対的な時間も空間も本当は実在せず、それらは各自の共業(共通した業のこと)が生み出したもの。一つの世界を共有しているという錯覚の中で、各々が関わりあって夢見ている。いや、夢を現実と思って暮らしている。ということです。
ぼんやりとしたイメージでも、そう自身に問いかけ、振り返ってみてはどうでしょう。

夢で、宝くじに当たったと大喜びしていても、夢から覚めれば、くだらぬことに浮かれていたと自嘲するほかありません。
同様に、人生もまた夢の如し。とすれば、金が儲かったといって喜び、勉強ができた、仕事が成功したといって人に自慢し、恋人がいる、結婚した、子供が生まれたといって喜び、家が建ってご満悦でいるのも、それが夢中の出来事とすれば、何とつまらぬことではありませんか。

確かに、生きていくのに必要、大切なものではあるでしょうが、人生の目的と呼べるものではありません。その証拠に、それらはいつまでも幸せの形をしてはいないのです。

砂に書いた文字が、書いたあとから消えてゆくように、どんな幸せも、つかんだあとから消えていく。人生自体が〃夢〃ならばそれも当然かと。こんなことをいつまで続けるつもりなのでしょう?臨終ともなれば、何らかの爪跡を残したはずのこの「世界」丸ごと消えてゆくというのに。

だから、蓮如上人もおっしゃっています。
「人間はただ夢・幻の間のことなり、後生こそ永生の楽果なり」
「人間は五十年・百年の間のうちの楽しみなり、後生こそ一大事なり」
「それ人間の浮生なる相をつらつら観ずるに、凡そはかなきものは、この世の始中終、幻の如くなる一期なり」

もし、人間に本当に救われたということがあるならば、それは、夢の世界でいかに大喜びしたか、感謝できたか、ということではなく、この迷いの夢から「覚めた」といえることのはずです。

いつの時代、どこの世界にもいろんな宗教があり、それぞれに「私は救われた!」という体験談が付きものですが、たとえ本人がどんなに喜んでいても、救われたか否かは、その喜び具合では決まるのではありません。夢から覚めないうちは、夢を夢とは語れません。どういう意味合いでその人は「救われた」と言っているのか、語る内容から、その体験の質や深さは、自ずと計られるというものでしょう。

コメント (0) | トラックバック (0) | この記事についてブログを書く |   | goo

コメント

コメントはありません。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。
 ※ 
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。
※文字化け等の原因になりますので、顔文字の利用はお控えください。
下記数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。この数字を読み取っていただくことで自動化されたプログラムによる投稿でないことを確認させていただいております。
数字4桁

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。