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天皇の「政治利用」は霞が関のトリックだ

 西松建設事件で民主党の小沢一郎代表(現幹事長)の秘書が逮捕されたときも思ったが、わたしの頭がおかしいのか? 世間のほうがおかしいのか? とにかくどうかしていると思う。先週末からさかんに喧伝されている「天皇の政治利用」問題だ。あれのどこが政治利用なのかまったく理解に苦しむ。

 ことの経緯を冷静に検証すれば、「1カ月ルール」をミスったのは官僚の不手際だったことがわかる。それを官僚が「政治利用問題」にすり替えて責任回避しているに過ぎない。こういう責任逃れ、保身に関する官僚の智恵は本当にすごい。しかし、それは国益にも何にもならない。しばらく《THE JOURNAL》をさぼっていたが、あまりにデタラメなので復活することにした。しかし、本当はわたしの頭がおかしくなっているのかもしれない......。

 新聞報道によると、そもそも中国側から「国家指導者」クラスの来日を打診されたのは前政権下の2009年の初めだったという。外務省は当然、これに対する準備と情報収集を始めたはずだ。もし、始めていなかったら職務怠慢というほかはないが、〝優秀〟な外務官僚がそんなミスをするはずはない。周到な準備の中で、やがて習近平国家副主席が来日することはつかめたはずだ。習が次期主席の最有力候補であることは、ある時期以降はチャイナウォッチャーの間では常識になっていたからだ。もし知らなかったとしたら、外務省の職務怠慢である。知らないはずがないのである。そこで、次に外務省がやるべきことは「前例」のチェックだ。

 調べればすぐに分かることだが、1998年に胡錦濤現国家主席が副主席として来日した際、天皇陛下と会見している。となれば、次期主席を確実視される習副主席の来日に際し、陛下との会見要請があるのは当然、予測できただろうし、外務省としてもその準備を始めたはずだ。なにごとも根回し優先の霞が関で、ここまで簡単に素人でも予測できる事態を前に何もしないはずはない。当然、この段階でどのレベルかは不明だが、内々で宮内庁にも意向を伝えていたはずである。もし伝えていないとしたら、それこそ職務怠慢である。

 宮内庁側も、当然こうした動きは察知していなければならい。本当に天皇陛下の体調をおもんぱかるなら、それに影響を与えそうなあらゆる情報を収集していなければならない。とくに外務省の動きは、「要人来日=陛下との会見」と直結しているだけに、常に連絡を密にすべき相手である。中国側から要人の来日が打診された年初の段階から、両省で連絡を密に取り合い、情報共有していなければならない。していないとしたら職務怠慢である。

 新聞報道によると、最終的に中国側から習の来日を伝えてきたのは10月だったという。あわせて天皇陛下との会見を希望していることを伝えられたそうだ。しかし、そんなことは外務省も宮内庁もとっくに知っていなければならない事項だ。なにしろ、素人のわたし(山口)が考えても容易に想像できることだから。もし、知らなかったとしたら、その職に留まる資格はないといえる。

 役人の仕事は、ここから「ルールに合わせる」ことだ。習副主席の最終的な来日日程が決まらず、1カ月を切りそうだと判断したら、どういう方便を使ったらルール違反にならないのかを考えるのが、官僚の仕事ではないか。今回はなぜか、外務省も宮内庁もそれをしなかった。外務省の言い分によれば、中国側には「1カ月ルール」があることを伝えたが、なかなか日程が決まらなかったという。ちょっと待ってほしい。そんなことが社会人の仕事のありようとして許されるのだろうか。

 ふつうに考えたら、中国から要人が来日する、ついては天皇陛下との会見を希望している。しかし、日程が決まっていない。この段階で外務省がやるべきことは、一刻も早く宮内庁にこの状況を伝達し、どうしたらいいかの方策を考えることではないのか。ふつうの社会人だったらそうするだろう。

 羽毛田信吾宮内庁長官によると、来日1カ月を切った11月26日になって〝初めて〟外務省から「内々の打診があった」という。これを信じろというほうが無理だ。羽毛田は、それまでまったく知らない寝耳に水の事態だというのだろうか? 外務省となんら情報共有していなかったのだろうか。だとしたら、これも職務怠慢というほかはない。

 繰り返すが、中国側は遅くとも10月には習の名前を挙げて、陛下との会見を希望している旨を外務省に伝えている。これまでの例から考えると、この段階で即、情報が宮内庁に伝わらなければならない。それがなぜか今回はできていなかった。霞が関の大チョンボだ。ミスはどこで発生したのか。単なる連絡ミスなのか、職務怠慢なのか、あるいは新政権に対する意図的なサボタージュなのか。現段階ではハッキリしないが、いずれにしても省庁間の連絡ミスで情報共有できていなかったことが、「1カ月ルール」を犯した根本原因だ。なぜなら、ここまではすべて事務方の仕事だからだ。

 そのことを官邸(政権)が知ったのが、おそらく直前になってからだったのだろう。それでドタバタが始まったのだ。羽毛田はこの動きを見逃さず、官僚側のミスを覆い隠すために「政治利用」という分かりやすいロジックを持ち出したのだ。

 「1カ月ルール」を守らないとなぜ、「政治利用」になるのだろう。では、バリバリに政治的意図を持った要請でも1カ月以上前に持っていけばOKなのか。いずれにせよ、羽毛田の主張は矛盾している。本気でこれを問題視しているのなら、(根耳に水の)11月26日の段階で新聞記者に対して「官邸がこういう横紙破りの要請をしてきた。宮内庁としては容認できない」と語ればよかったのに、そういうことはしていない。しかも、最終的に平野博文官房長官の電話による説得を「宮内庁といえども政府機関の一翼を担う......」などという理屈で、自らの判断によって受け入れてしまっている。つまり、羽毛田も共犯なのだ。

 今回、あえて記者に漏らしたのは、「自首」による共犯逃れを目論んだに相違ない。自ら語れば免責されると考えた、官僚の浅知恵だ。

 もし、羽毛田が宮内庁長官として本心から今回の一件が天皇の政治利用であり、あってはならないことだと考えるなら、身を賭してでも会見を阻止すべきである。辞表を叩きつけて、その場で新聞でもテレビにでも出まくって、自らの主張をプロパガンダすればよかったのだ。それをせずに、長官の職にとどまり、小沢に批判されても「辞めない」と言い張るのは、結局、すべてが保身だったと言われても仕方あるまい。

 もちろん、この間に訪中を控えた小沢幹事長サイドから政府に対して何らかのアピールなどがあったかもしれない。しかし、あったとしても最後の最後の段階での話ではないか。繰り返すが、最終段階まではあくまで事務方の仕事なのだ。その事務方の連絡ミス(あるいは意図的なサボタージュ)を「政治利用」にすり替えていることは否定できまい。

 しかし情けないのは、こんな簡単な霞が関トリックを新聞が見破れないということだ。新聞を読むと、まるで霞が関の官僚が書いているような解説ばかりで驚いてします。たとえば、「1カ月ルール」ができたのは、陛下が前立腺がんの手術を受けた2004年からだというが、ではそれ以前はどんなルールがあったのか、まったく触れていない。自民党政権下では、2004年より以前も1カ月を切る要請はなかったのか? あるいは、今年初めに外務省が中国から要請を受けてから、どんな仕事をしてきたのか、なぜ早い段階で宮内庁に打診しなかったのか、情報収集、情報共有はきちんとできていたのか、などの検証もない。

 もちろん第一義的な責任は、こうした官僚たちをきちんとハンドリングてきていない鳩山政権にあることは言うまでもない。 

 しかし、週刊朝日は過去に、皇室関係者らの声を元に天皇の公務が多く負担がきつ過ぎるのではないかという記事を何度も書いているが、新旧政権を通じてそうした声を一度として顧みることがなかったのは、羽毛田をはじめとする宮内庁官僚ではなかったか。だから、わたしには羽毛田らが陛下の体調をおもんぱかっているというのは、まったく冗談にしか聞こえない。だったら、もっと早くに公務負担を減らすべきだった。

 「陛下のお体への気づかい」という誰にも否定できないワードをそれこそ政治利用し、民主党政権を牽制しようとしているのは、羽毛田ら宮内庁を中心とする霞が関官僚ではないのか。

 なんてことに憤るわたしはやっぱり頭がヘンなのか。やっぱり新聞に書いてあるとおり、これは小沢らによる天皇の政治利用なのだろうか......。わからなくなってきた。

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ご理解・ご協力のほどよろしくお願いいたします。

山口一臣氏へ
貴殿のご指摘どおりです。誰が考えても、中国の次期国家元首の来日が1ヶ月前に通知されるはずがありません。しかし、事の本質は貴殿の言われる「官僚の言い逃れ」ではないと思います。これは巧妙に仕組まれた仕掛けだと思います。
 献金問題、普天間問題と次々と新政権を攻撃しても世論の支持が落ちてこない。そこで小沢訪中と習副主席の来日の次期が近接していることから、「天皇陛下」を利用するという驚愕の仕掛けを作り出したものと推察します。宮内庁長官を筆頭とする官僚たちも、自民党議員も、マスコミも、皆自らの不敬罪を恥じるべきです。よりによって「天皇陛下」を政争の具に用いるなど言語道断。「天皇」という我が国にとって極めて微妙かつ繊細な問題を使って政府を倒しに来るとは、いくら追い詰められているからといって、許されるものではありません。日本国民はこの暴挙に対し、断固たる態度を示す必要があります。
 最後になりましたが、山口編集長にはぜひ本論説を週刊誌上で世に問うてください。まともな言論人が存在していることを示していただかないと、日本の言論界は深い闇に包まれてしまうでしょう。

何を言ってるんだかこの人は。

「外務省が悪い」「事務方が悪い」「羽毛田が悪い」「報道の仕方が悪い」、たった一つの事実を覆すのに言い訳の組み立てが大変ですね。

毎週大竹交遊録でのヨタ話を聴いていますが、飛ばし報道で名を馳せているこの人らしい珍論です。
まあこれでもジャーナリスト名乗れるんだから、まったくなんだかなぁ。

30日ルールでは?

羽毛田信吾宮内庁長官は元厚生事務次官で小泉に任命された自民党族さ。

決めたものは決めたもの。問題があるなら、行き当たりばったり出対応することなく、変えればいい。変える議論をするべきです。これだって決めた時の事情が、あったはずです。
今は、民主党政権ではなく3党連立なのだから、陛下がどう思っておられるか、なんとおっしゃるかは、一党の幹事長が、ぺらぺら憲法論議しながら話すことでもないと思います。
こうなったら、長官を更迭するか、30日ルールを無視するかしないと・・。
ここでぺらぺら自分の言いたいことをいえる私達と違って、言いたいことも言えずに、それでもあらゆるかたがたと75歳の身で年間何百も会見をしておられるのですから、私は30日ルールとして厳密にあってもいいと思います。

来日することと会見を望んでいることは前から分かってはいたんでしょうが
会見の正式な申し込みを直前までやっていなかったことが原因で問題になっているのではないのですか?
正当な手続きを経る、ということの大事さを理解していないからこういう特例をねじ込めるのだと思います。

読者の皆様

12月15日16:03に当記事を公開いたしましたが、一部記述について事実確認の必要がございましたので、一度、非公開とさせていただきましたことをお詫び致します。

《THE JOURNAL》編集部

事実確認の必要ですか。

あのさぁ。

なんでちゃんと「推敲もせずに誤った情報を流してしまいました。すいません。」て言えねぇの?

一度流した情報に訂正も入れずに書き換えるのが「これがジャーナリズムだ!」という心意気か?

これがジャーナリズムか?

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Profile

山口一臣(やまぐち・かずおみ)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒。ゴルフダイジェスト社勤務を経て、89年朝日新聞社入社。高校時代から愛読していた『朝日ジャーナル』編集部に配属され、あこがれの「ファディッシュ考現学」(田中康夫)を担当するも3年で休刊の憂き目に。『週刊朝日』へ異動し、事件&事件の日々を送る。その後、何を血迷ったのか広島の公教育問題で日教組を徹底批判し、「朝日なのに産経と論調が同じ」と物議をかもす。9.11テロ直後のニューヨーク、パキスタンを取材。米軍によるアフガニスタン市民への誤爆を伝えまくる。デスク時代に北朝鮮拉致被害者関連の記事で下手を打ち、『週刊文春』に叩かれ、副編集長を解任、更迭される(停職10日の処分付き)。その後、広報部へ配属されるが約半年でお払い箱。百科編集部で子ども向け週刊科学誌『かがくる』の創刊などに携わり、05年5月から再び副編集長、同年11月から、『週刊朝日』第41代編集長に。85年にわたる『週刊朝日』の歴史で中途採用者が編集長になるのは、これが初めて。

-----<出演>-----

『スーパーモーニング』
(テレビ朝日系、8:00~)

『愛川欽也 パックインジャーナル』
(朝日ニュースター、毎月第1土曜)

『大竹まこと ゴールデンラジオ』
(文化放送、毎週火曜・5月8日から)

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