静かな劇場 

人が生きる意味を問う。コアな客層に向けた人生劇場。

唯物論は外道

2009-12-02 20:54:58 | Weblog
こうしてみると唯物論とは、随分、旗色の悪い思想のように思えますが、実際には支持者がたくさんいます。以前、社会を動かすのは人であり、人を動かすのは思想であると書きました。その時代に敷衍した思想が、その時代の空気、ムード、あるいは倫理観を醸成していくのだと思います。

今日、ハッキリと唯物論の立場を表明する人は少ないかもしれません。
でも、科学者の大半はこの立場だと思います。科学者でありながら唯物論の立場を捨て、霊魂を信じていると言えば、馬鹿にされるか、異端視されることでしょう。

今日の人は、「科学=真理」という漠然とした信仰を持っています。だから科学者の態度に右習えで、大衆の信仰は唯物論寄りに傾いているといえるでしょう。

それはそれとして、昔の人はどう思っていたのか?
例えば江戸時代、頭蓋骨の中の灰白色のブヨブヨしたもの(脳みそ)から、心が生ずると言えば、皆、馬鹿にして大笑いしたでしょう。でも現代は、昔なら大笑いされるそのことを、まともに信じる人が圧倒的に多くなっています。このことが社会に何の影響も及ぼさないものでしょうか?

もちろん及ぼします。でも、

科学的な知識も何もない、無学で無知な江戸の庶民と比べ、現代人は科学的知見に立ち、人生について、社会について、確かな、優れた見解を持っている。世の中も人も確実に進化していると思っている人が多いと思います。

しかし、

唯物論というのは、現代になってようやく到達しえた人類の英知というようなものではありません。

釈尊の時代にも、唯物論を唱えた人はありました。
名前を阿耆多翅舎欽婆羅(アジタ・ケーサカンバリン)といい、六師外道の一人に数えられています。

彼は唯物論および快楽至上主義を唱えたといわれています。

彼の主張を要約してみましょう。

アジタは世界も人間も、地、水、火、風の4要素の離合集散によって説明できるという四元素還元説を唱えました。
物質とは別の「不滅の生命」の存在を否定し、善悪の行為の報いも完全に否定しました。人は死ねば4要素に帰って消滅するとし、輪廻を否定し、来世も認めず、道徳も宗教も不必要なものとみなしました。また布施に功徳があるという考えもまた愚者のものだと主張しています。

地、水、火、風の4元素のみというのは、今日の人には荒唐無稽に思えるかもしれません。しかし問題の核心は、構成分が何であるか、ではなく、世界のあらゆる現象を幾つかの要素にすべて還元する、という考えの枠組み自体なのです。

今日ならば、人体を構成する高分子の生体物質は、核酸、タンパク質、糖質、脂質といわれ、もっと細かく分ければ、その99パーセントが、水素原子(H)、酸素分子(O)、炭素分子(C)、窒素分子(N)の4種類の元素であることが分かっています。

アジタの4元素説に、上記の物質を当てはめさえすれば、アジタの主張は今日でもそのまま通用します。そんな人が皆さんの周りにもたくさんいるのではありませんか?

さて、

こういう世界認識から当然、導かれる結論として、アジタは快楽至上主義 を唱えています。

つまり、

唯物論に立つアジタは、人生には目的が備わっているという従来の思考や、人間には生得的に守らなくてはならない規範があるとする伝統的な共同体倫理を否定しました。
そして、宗教行為は無意味であり、現世における生を最大限に利用して、それを楽しみ、幸福をそこから得るべきだとしました。ただし、楽しみには悲しみがつきものであり、それはある程度覚悟しなければならないとし、悲しみを恐れて喜びから退いてはならず、たまに訪れる悲しみもまた、現世での幸福のためには喜んで受け入れることも必要だと説いています。

なんか、どこかで聞いたような?こんな人生訓話を書いている人は、今日でもたくさんいるように思いませんか?
まさにアジタは、現代の風潮、ムードを先取りした感がします。でも実際は、先取りではなく、人類は同じところを行ったり来たりしているだけということなのです。

釈尊が、アジタの説を「外道」と言われたということは、仏説はアジタの言っていることの対極にあるということになります。

すなわち、

人間は物質に還元し切れず、永遠の生命は存在し、善悪の行為に報いはあり、来世はあり、輪廻もあり、道徳も宗教も必要とし、布施の功徳ももちろんある。

ということになります。(つづく)


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