静かな劇場 

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唯物論への疑問(7) 続・クオリア 

2009-12-01 18:13:56 | Weblog
クオリアの起源が、唯物論に突きつけている問題を、昨日に続いて書いてみます。
以下の内容は、『哲学的な何か、あと科学とか』(飲茶著)に基づくものです。大変分かりやすいので参考にさせていただきました。


「巨大なビリヤード台」と「その上で転がるたくさんのボール」を想像してみてください。

台の上でボールは転がり続ける。すべてのボールは、力学という絶対の法則に従って動いており、決して物理法則から外れた動きをすることはありません。

さて、宇宙が、「こういうボール(原子)とその運動で出来ている」と考えてみましょう。たくさんのボール(原子)が、一定の法則に従って、永久に運動する世界です。

私たちの「身体」も宇宙の中の一部ですので、「身体」は原理的には何億、何兆個のボール(原子)が運動しているビリヤード板上の現象の一部ともいえるでしょう。

その運動が果てしなく複雑化していく中で、人体のような形となったボール(原子)の集合体が、まるで意志を持ったように動くこともあるでしょう。

だが。。。

実際には、そんなボール(原子)の集合体の運動に、意志などないのは自明です。
なぜなら、どんな運動であろうと、結局のところ、物理法則に支配された機械的なボール(原子)の離合集散に過ぎないからです。

機械的なボール(原子)の集合体が、人間の形となり、右手を上げ、
「今、右手を上げたのは、俺様の自由意志だ!」と叫んだとしても、
「意志がはたらいたのではない。単に、機械的に動いた結果である」
と解釈するのが妥当なところです。

「なぜ右手を上げたか?
 そこに『意志』なんて、妄想を持ち込む必要なんかない。
 そんなことは、ボール(原子)の運動で説明できる。
 すべては物理法則に従って、機械的に起こったことなんだ。
 たしかに、全てのボール(原子)がどう動いているかを知ることは難しいが、究極的には『キミ』が『物理法則に従うボール(原子)の集まり』である以上、『キミという人間が機械的な存在にすぎない』ということは自明なのだ」

その考え方は正しいように思えます。

だがしかし。よく考えてみてください。
仮に、すべてのボールの動きを説明する科学理論があったとして、「人間」のすべての行動について、完璧な説明を行うことができたとしても、それでもなお残る疑問があります。

それは、
「今、現実に『この私』が感じている『この赤』という内的体験(クオリア)がどこから来たのか説明がつかない」ということです。

結局のところ、
機械的に動くボール(原子)の集まりが、どんなに複雑化したところで、
「今、現実に起こっている『この主観的な体験』」を生み出すなんてことはありえない。だから、そのボールたちの動きを理論立てて追求したところで、クオリアの問題については、何一つ解答は得られないということです。

ところで、これまでの話は、
「世界をボール(原子)の集まり」
という古典的で単純な世界観で説明してきましたが、最新の科学理論、例えば超ひも理論でも、量子論でも、どんな最新科学理論でも原理的に同じなのです。

というのは、結局のところ、どの科学理論でも本質的には、
「世界は、物質Xの集まりで出来ています。そして、物質Xは、法則Yにしたがって、運動(変化)します」ということを述べているにすぎないからです。

つまり、理論の種類によって、物質Xが「原子」だったり、「量子」だったり、「ひも」だったり、法則Yがより複雑な数式だったりと、そういう違いがあるだけなのです。

だから、「ボールの集合という考え方では、『なぜクオリアが発生しているのか?』を説明することができない」ということは、どんな科学理論にも適用できてしまうし、今後、科学がどんなに発展しようとも、同じ仕組みである限り、クオリアの問題を解決することはできません。

これが、クオリアが唯物論に突きつけている問題の本質なのです。



参考:『哲学的な何か、あと科学とか』(飲茶)
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