船はどうして水に浮くのでしょうか。お風呂に入ると自分の体が軽くなる事を経験したことがあるでしょう。水に浮いている船体には、その船体が排除した水の重さに等しい浮力が上向きに働いていますので船は水に浮くのです。ここではこの様子を図解で説明します。
原理は紀元前 250年頃、ギリシャの科学者アルキメデスによって発見され、アルキメデスの原理と呼ばれています。
浮力 (B) = 水面下の船体容積 (V) x 海水の比重 (ρ)
従って、同一の船で重量が増えると(貨物等を積載すると)それに比例して吃水(船側水線面から船底までの深さ)が深くなります。船には船体の総重量を知るために船首部、船体中央部、船尾部に吃水標(Draft mark)が描かれており、吃水計測をすることにより水線面下の船体容積が分かり、これにより、船体総重量を知る事ができます。
船が建造されると造船所では、その船の各吃水に対応した船体総重量を知るための「 排水量等曲線図」( Displacement curves)や「載荷重量屯数表」(Dead weigt scale)等の図面や図表が作成されます。これらの図表は船体が平行に沈下し、船首吃水と船尾吃水が同一な状態での船体中央部の吃水に対応した水線面下の船体総容積を求めるものであり、船体の総重量を知るためには、正確な「吃水計測」(Draft survey) をしなければなりません。
上の写真は 総トン数 1万6000 トン程の停泊中の貨物船です。
『 吃水計測の方法 』
船が海上に浮かんでいる時、殆どの場合、船首吃水と船尾吃水には差が生じております。この船首と船尾の吃水の差を船では「トリム」(Trim)と言い、
◎ 船首吃水が浅く、これに対して船尾吃水が深い場合を「船尾トリム、ともあし又は、バイザスターン(By the stern)」等と言います。
◎ 船首吃水が深く、船尾吃水が浅い場合を「船首トリム、おもてあし、バイザヘッド(By -the head)」等と言います。また、
◎ 船首吃水と船尾吃水が等い場合を「平あし、又はイブンキール(Even keel)」と言います。殆どの船が「船尾トリム」で浮いている事が多いのですが、これは船体構造上の問題や、航行中船首からの波の打込みが少なく、保針性が良いからです。
吃水計測に於いては 比較的小型の船では船首尾吃水を読取り、この平均値を船体中央部の吃水と仮定して「 載荷重量屯数表」からこの平均吃水に対応した「重量屯数」を読取り、その時点での船体総重量を求めます。 しかし、船が「トリム」している場合には、「読取った」船首吃水と船尾吃水を平均した数値では、これをイブンキール状態のものに改正する場合、正しい平均吃水値とはなりません。本来、船首吃水は「船首垂線」上で読取るべきですが、船首の形状から「船首吃水標」が描かれている場所で読取っているからです。「読取った」船首吃水を「船首垂線」上のものに改正する必要があり、このための改正値を 「ステムコレクション」 と言います。
また、船が貨物の移動等によって「トリム」が変化する場合、「船体中央」の水線面を中心として変化しているわけではなく、「浮面心」上の水線面を中心として変化します。
従って、「読取った」中央吃水をイブンキール状態のものに改正する必要があり、この改正値を 「トリムコレクション」と言います。
「浮面心」とは、水線面下の浮力の中心を鉛直上方の各吃水に対応した水線面上の位置を描いたもので、例えば、水線面の浮面心位置の垂直線上に貨物を積載すれば「トリム」が変化せずに船体は平行に沈下します。
ステムコレクションの解説 ステムコレクションは「図解1図」の Cs の値です。Cs の値は a c 間の距離 d x Tan θ で求めることができます。a c 間の距離は「一般配置図(General arrangement)」により求め、角度θ は船首尾吃水の差、即ち、トリム ÷ 垂線間の長さ(Lpp)で求めます。Cs 値は、船尾トリムの場合は「読取り吃水」から減じ(ー)、船首トリムの場合は「読取り吃水」に加え(+)、正しい船首吃水に修正します。
トリムコレクションの解説 トリムコレクションは「図解2図」の Ct の値です。Ct の値は a c 間の距離 d x Tan θ で求めることができます。a c 間の距離は「排水量等曲線図(Displacement curves)」により求め、角度θ は船首尾吃水の差、即ち、トリム ÷ 垂線間の長さ(Lpp)で求めます。通常、吃水計測時には平均吃水に対する船の排水量を「 載荷重量屯数表 」から求め最後にCt 値に対する排水量を算出しこれに加減して船の「総排水量」を決定します即ち、 Ct 値に対する排水量 = Ct 値 x T で求めます。Tはその吃水に対応した場所で、吃水を1センチ変化させるのに必要なトン数でこれを「トンパーセンチメートル(Tons per centi-meter)」と言います。これは「 載荷重量屯数表 」から求めます。
トリムコレクションを排水量に加減する場合、「浮面心」の位置が船体中央垂線の前方か後方で変わり、また船尾トリムか船首トリムでも変わります。
ホグ・サグの解説 大型の船では貨物の前後配分により下図のような船体の撓みが生じます。この修正には一般的に「船首尾吃水の平均値と中央吃水の平均値からさらに平均値をだし、これにまた中央吃水の平均値を加えて、これを平均しホグ・サグを修正した平均吃水とします。
上3枚の写真は左から船首吃水、中央吃水、船尾吃水です。船首吃水は約 5M 38cm、中央吃水は約 6M 46cm、船尾吃水は約 7M 80cm と読取れます。従って、この船の現在のトリムは7M 80cm - 5M 38cm = 2M 42cm の By the stern です。
『満載吃水線標(Free Board Mark) 』
左の写真は船体中央左舷に描かれている「満載吃水線標(Free Board Mark)」です。また別名、乾舷標とも呼ばれています。この満載吃水線標は船の両舷に描かれています。
船が貨物を積載するとその貨物の重量に応じて船体が沈下し、吃水が深くなりますが船が沈没するまで貨物を積載する事は出来ません。そこで船では安全な航行のできる十分な予備浮力を残した最大吃水を定めて、これを「夏期乾舷(計画満載吃水線)」とします。円環中央の横線の上面位置が、この船の夏期乾舷(計画満載吃水線)で、この位置を基準として各帯域における満載吃水が定められ満載吃水線を示す線が表示されます。円環中央の夏期乾舷は満載吃水線を示す線の S と描かれた線の位置と同一で、これを「夏期満載吃水線」と言います。通常の海では吃水がこの位置になるまで貨物を積載できると言う位置です。また満載吃水線が適用される帯域や区域、季節期間等は船舶安全法の満載吃水線規則で定められています。満載吃水線標は下記の通りです。
W : 冬期満載吃水線(Winter load line)北大西洋季節冬期帯域 2、北大西洋季節冬期区域、北太平洋季節冬期帯域南部季節冬期帯域及び船の長さ百メートル以下の季節冬期区域の冬期期間
S : 夏期満載吃水線(Summer load line)=夏期帯域は通年北大西洋季節冬期帯域 1、北大西洋季節冬期帯域 2、北大西洋季節冬期区域北太平洋季節冬期帯域、南部季節冬期帯域及び季節熱帯区域は夏期期間
T : 熱帯満載吃水線(Tropical load line)熱帯域は通年、季節熱帯域は熱帯期間
F : 夏期淡水満載吃水線(Fresh water load line)夏期満載吃水線の項に掲げる帯域又は区域内にある比重1.0の水面は夏期期間
TF : 熱帯淡水満載吃水線(Tropical fresh water load line)熱帯満載吃水線の項に掲げる帯域又は区域内にある比重1.0の水面は熱帯期間
満載吃水線標の円環に AB と描かれていますが、これは船級協会の表示で、この船はアメリカの船級協会で船舶検査を受けたことが解ります。船級協会は各国政府の認可を受けて船舶の各種検査を行う団体で日本では、財団法人 日本海事協会( NK )があります。もしこの船が日本海事協会の検査を受けていれば NK と表示されます。アメリカの船級協会は American Bureau と言いますので AB と表示されています。イギリスはロイズ船級協会で Lloyd's Register で LR と表示されます。また、日本政府(国土交通省)が直接検査を行った船であれば Japanese Government で JG と表示されます。
満載吃水線標は幅25ミリメートル、円環の内径は250ミリメートルで描くことが定められています。尚、各吃水線の位置は白線の上面であり、また、吃水標(Draft mark)の数字の大きさは10センチメートルで描かれ、各数字の下面がその吃水となります。