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☆★☆★2009年12月13日付 |
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世界選手権で惨敗した日本柔道の将来はどうなるのかと心配していたが、そこはお家芸である。新たな救世主が登場して胸のすく思いがした。海老沼匡、十九歳。まさに彗星のように現れてきたのだ▼十一日開幕した「柔道・グランドスラム東京(嘉納杯改め)」の男子66`級で、五試合中四試合を一本勝ちで優勝した彼は、先月の講道館杯で五輪二連覇の内柴を破って注目されたが、ほとんど無名の選手で、今大会での活躍が本物かどうかを問われる試金石となった。内柴に勝ったからといってまぐれかもしれないと思いつつもテレビを注視した▼本命の内柴が準々決勝で韓国の選手に敗れる波乱があり、日本の期待は海老沼一人に寄せられたが、そんな重圧に耐えられるのか―それが老柔道ファンの一人としての偽らぬところだった。内柴さえ敗れるほど強敵揃いのこのクラスである。ポッと出の新人がどこまでやれるか▼世界選手権を制したツァガーンバータル(モンゴル)と準々決勝で対決、技ありを取られながら見事逆転し、ついで内柴を破った韓国の安正煥と準決勝で対戦してこれも退けた試合ぶりを見ていて、これは本物だと実感した。技の切れ、スピード、度胸、すべて王者の素質を備えている▼同大会初日は日本勢が男女各二階級を制覇、幸先の良いスタートとなったが、どの試合を見ても勝敗の分かれ目は運としかいいようのないほど選手の実力は伯仲している。海老沼の活躍に中・重量級が刺激を受ければいいが…。 |
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☆★☆★2009年12月12日付 |
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若い頃、哲学という不可解な学問は人間に何をもたらすのかと大いに疑問を持っていたが、最近になって意味がわかりかけてきた。つまり文字通り哲ることだと▼哲学ではしばし「幸福とは何か」と問う。むろん個々の答えは異なる。持てる価値観が千差万別だからだ。だから正解というものはない。だがもしあるとしたらそれは「安心立命」という四文字だと考えるようになってきた。そういう心境にさせられたのは鳩山首相の置かれた立場の複雑さを目の当たりにしてからのことである▼一国の宰相となるというのは、大変な名誉であり、むろんそこには本人の努力や人格識見のみならず、強運もなければならない。鳩山首相はまさに選ばれたそうした一人である。政権を奪取するという歴史的事業をなしとげた民主党の代表として鳩山さんの得意は推して知るべしだったが、その至福感はいまなお持続しているだろうか?▼ノーだろう。それどころか今のご本人が直面しているのは重圧感からくる強いストレスのはずだ。政治家の本懐である総理の座に上り詰めた幸運の持ち主だけでなく、金銭的にも何億円という小遣いを自由に使える裕福さなどはたから見ればまぶしくて羨ましいばかりの存在だが、決してわが世の春を謳歌しているわけではあるまい▼金も名誉も何もないがまずは一家無事で、何より煩うものがないから毎日安心して床につけるという一事と比較して、鳩山首相は果たして幸せなのかと自らを慰め、納得させるのが哲学の奥義というものであろう。 |
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☆★☆★2009年12月11日付 |
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未利用魚を追え!大手の水産・食品メーカーが、これまで見向きもされなかった規格外≠フ魚を有効活用に乗り出すという(日経)。売れない魚が売れるようになるというのは浜にとって朗報だろう▼未利用魚というのは、漁の際ついでに捕れた小魚など流通の規格に合わなかったり、消費者になじみが薄いため商品価値が低かったりして市場に出回らない魚のことで、日本で水揚げされる魚の約三割がこれにあたるという。こんな定義自体、存在するのがおかしいのが水産王国・日本の実状なのである▼魚のえり好みが許されるのは、それだけ魚種も豊富な上に水揚げもあるからの贅沢であって、魚好き民族の特権となってきたのは紛れもない。どこの魚市場を見ても量がまとまっていて売れる魚以外の「雑魚」は、関係者が持ち帰る分を除き打ち捨てられてカモメやカラスのエサになっている▼しかし毒性を持つ魚はともかく、天与の恵みを廃棄するのは罰当たりの行為であり、エコ時代になってようやくその非を、いやムダを思い知らされたということであろう。マルハニチロでは小魚をすり身にして、つみれ、魚肉ソーセージ、さつま揚げなどの練り製品に、ニチレイでは給食などの空揚げや煮付けにこれを使うという▼魚族資源が減る中、その安定確保のためにこのような見直しが生まれたのは時代の必然というもので、まさに「もったいない」精神が呼び戻されたのだろう。活用によって三割の水揚げ増となるに等しく、一石二鳥とはこのことだ。 |
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☆★☆★2009年12月10日付 |
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指紋を変えて日本に不正入国した中国人の女が逮捕された。この例からも、一つとして同じものがない指紋といえども、もはや個別認証の有効な手段でないことがはっきりしてきた▼本人の照合をパスポートに貼られた写真だけに頼っていた時代は過去のものとなり、現在はバイオ(生体)認証、つまり体の一部を使った確認が入国審査の主流となっている。指紋照合もその一つで、昔からある本人確認の有効な手段だが、手術によって紋様を変えれば新たな人格≠ェ生まれる▼逮捕された女は不法滞在で国外追放されたため指紋が登録されて残っている。そこでこれを「変造」して再入国した。中国にはこうしたヤミの変造組織が存在し、この女も約百三十万円も払って新しい指紋を手に入れた。昔から紙ヤスリでこすったり、劇薬で焼いたりして指紋を残さぬ古典的方法はあったが、それはばれやすい。この女がバイオ認証をかいくぐって入国できたことは、このチェック方法も万全ではないということだろう▼IT時代に入って企業や団体秘密を守るため、不法侵入を防ぐため、本人かどうかを確認する方法はさまざま登場している。一般的なのはID(個人認証)カードだが、指紋や虹彩、声紋などを登録するという方式もあるが、どこへ行っても出入り自由だった時代が懐かしい▼ある意味で日本も「人を見たら泥棒だと思え」という嘆かわしい社会になったともいえるだろうが、そんな日本でも移住希望が絶えないあたり、日本はいい国であるという何よりの証拠だろう。 |
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☆★☆★2009年12月09日付 |
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Jリーグ鹿島アントラーズの小笠原満男主将が最優秀選手(MVP)に選ばれたことを知って思わず赤面した。数日前「小笠原はどうした?」とサッカーフアンに尋ね「大活躍してますよ」と呆れられたばかりだったからだ▼ほとんどスポーツ観戦などしないので野球のこともサッカーのこともまったくうとく、話題には入っていけない。だから大船渡高校出身の逸材が、Jリーグの1部で三連覇という偉業を成し遂げた鹿島で主将を務めているという事実すら知らずにいた。大体J1にいること自体がいかに大変なのかという認識もないのが当方なのだ▼むろん小笠原選手が在学中からその存在は知っていた。盛岡市の大宮中学から斎藤監督を慕って大船渡高校のサッカー部に入部した同選手の華々しい活躍は、いかにスポーツ音痴でも耳目に入る。しかし日報紙が必ず「盛岡・大宮中―大船渡高出」と書くからか、留学組み≠ニいう意識があったことは否めない▼しかし娘の同級生で、しかも夫人が気仙人であることを知ってから親しみは増したが、サッカーは元々関心外。そこで冒頭のような質問をして笑止されたのである。なんとおそれのおおいことか。最優秀選手とはJ1選手の中のさらにナンバーワンなのだ▼スポーツで名を挙げた学校の知名度は飛躍的に高まる。出身校が一度だけ甲子園に出場したおかげでその効用を体験済みだが、この件で「小笠原?おらほの出身だでば」と大いに宣伝することができる。この宣伝料、宣伝効果はばかになるまい。 |
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☆★☆★2009年12月08日付 |
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京都大学と三重大学の研究グループが、稲わらや木くずといった植物繊維をほぼ残らず分解する細菌を発見したという、昨日の日経記事に新時代の到来を感じた▼太陽の恵みを受けて育った生物群を利用してエネルギー源とするバイオ燃料の生成にネックとなっていたのは、繊維には糖化しやすいセルロースとしにくいヘミセルロースとがあり、後者の分解に手間ヒマがかかることだった。このため、ヘミセルロースを容易に分解し糖に変える菌の発見が急務とされ、新種も色々と報告されているが、異なる繊維を同時に糖化する有効な方法はなかった▼研究グループが着目したのは「クロストリジウム属菌」という既知の細菌で、ただし分解能力の優秀さは知られていなかったという。細かく砕いた稲わらを交ぜた水溶液に菌を入れると約十日で完全に糖に変わった。この糖をエタノールにすれば百`の稲わらから約三十gのエタノールが得られる計算だという▼バイオ燃料を手っ取り早く作るために、分解しやすいサトウキビやトウモロコシなど食料となる原料を使うことによって穀物相場の高騰や食料不足をきたした苦い経験から世界は非食用原料の有効活用やリサイクルを目指している。問題は商品化の効率とコストで、そのためにも「働き者」細菌の登場が待たれていた▼「期待の星」は建築廃材、林地残材のリサイクルや放置竹林の活用につながるだけでなく、二酸化炭素を排出しない「カーボンニュートラル」ともなり、今後が楽しみだ。 |
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☆★☆★2009年12月06日付 |
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看板を掛け替えても中身が変わらなければ客はソッポをむくだろう。自民党内に見え隠れしていた「党名変更」問題は、どうやら立ち消えになったようだ。大敗の責任を党名に嫁すなどもってのほかとなったらしい▼あまりにもの惨敗にすっかり気力を失ったかに見える同党だが、党名を変えたところで過去の栄光が戻ってくるわけでもなく、ワラにでもすがる思いがそうさせたのだとしても、本末転倒の小細工を弄するなど腰が据わっていない証拠だ▼自由民主党という党名は、掛け替えのない価値を持つ自由と民主の二つが並立した見事な看板である。この欲張った党名を「自由党」に、ついで「民主党」にそれぞれお裾分けしたところ、自由党は消えたが民主党は残って、ついには本家のお株を奪ってしまったところが歴史の皮肉である▼それはさておき、自民党の再建は容易でない。各派閥の領袖たちは落選したり引退したりして、もはや誰が生徒か先生かわからないメダカの学校化してしまった。元総理たちが不死鳥のように蘇る様子もなく、どこに求心力があるのか五里霧中の状況である。敗戦とはかくも悲惨なものなのだろうか▼しかし事態が民主党の一人勝ちでどこまでも進むとは限らない。まさかの時に備えてやはり政権の受け皿が一つあってしかるべきで、そのためには自民党が奇跡的再建をとげるか、あるいは政界再編成による真正保守党の誕生を待つかのいずれかが必要だろう。変えるべきは党名でなく頭の中である。 |
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☆★☆★2009年12月05日付 |
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大の男の弁慶が牛若めがけて切りかかるどころか、逆に牛若が弁慶の首に匕首を当てて「どうなるかわかってるわね」と脅している。どうやら総身に毒が回ったようだ▼民主党が衆参両院を制するため、社民、国民新両党と連立を組んだことは数の論理上やむなき選択だったとしても、呉越同舟、同床異夢が好ましい結果を生まないことは幾多の経験則が教えるところ。これが諸刃の剣となるおそれはつとに指摘されていたことである。いわゆるキャスティング・ボート(主導権)を握られるからだ。はたしてそうなった▼まず、ひさしの中にいた亀井さんがわがもの顔に母屋を歩き回り「現代版徳政令」やら、「郵政復古」やらを言い出すかと思えば今度は福島さんが普天間基地の県外、国外移設を主張し出した。小なりといえども連立の相手。友愛をモットーとする鳩山さんはハト、いやはたと迷い、年内決着を諦めて結論を来年に先送りするありさま▼連立解消をちらつかせて事態を有利に導こうというのが圧倒的多数派ではなく、議席では取るに足らない少数派というのが「国会双六」の面白いところで、上がりそうで上がらないものだから米国はしびれをきらし、不信感を募らせているようである▼いずれこの問題は日米双方のというよりすぐれて国内問題である。だからこそ首相の指導力が問われているのだが、このままでは優柔不断のそしりを免れなくなる。弁慶ならともかく首相の立ち往生だけはご免蒙りたい。 |
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☆★☆★2009年12月04日付 |
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民主党の掲げる政権公約の目玉の一つだった高速道路の無料化が、どうやら怪しくなってきた。むろん財源難からである。しかし公約した手前、色をつけなければと北海道に限定する案が浮上してきた▼道路というものは社会資本であるという理念があれば、高速道であっても無料というのが当然で、日本のようにトル(英語で有料の意)道路を持つのは少数派。しかし一般道があるのに、より早く到達したいという利用者のために作る道路が有料、つまり利用者負担というのは理にかなっている▼道路建設・維持すべて国家負担というシステムに国民がなれていれば別として、いきなり無料化となれば常時利用者には福音となるにしても、ほとんど利用することのない、あるいは免許を持たない層には不公平となる。無料化に伴う減価償却費、維持管理費を誰が払うのか、よもや民主党の議員たちのみが負担すまい以上、それは税金からだ▼案の定、バラ色と思われた無料化案に強い反発が出ている。そしてこの公約のための新年度予算案が六千億円と試算されたことから、鳩山さん自身「(無料化は)必ずしも人気がない」などと言い出した▼三年間で総計一・八兆円も出して喜ばれない公約のために突き進んでいくのはドン・キホーテぐらいなものだろうから、さすが政府も思いとどまったようだ。北海道の高速道ぐらいは画餅に帰した無料化構想の「記念碑」として開放してよかろうが、何事も家計を考えてやるべきで、そういう意味で他の公約修正も大いに結構だ。 |
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☆★☆★2009年12月03日付 |
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やはり長生きはするものだ。これまで定説とされていたものがそうではなく、価値観が主客転倒するこんな学説を知ればこそのことである。それは「心臓病には酒がいい」というもの。信じる信じないはあなたの勝手だが▼このコペルニクス的転回は、なにも与太話ではない。ちゃんと新聞記事に載ったものを紹介しているだけで、そこに一片の邪心も脚色もない。淡々と事実を述べるだけである。記事には「社会的に悪影響をもたらすとされる飲酒が、男性の心臓病リスクを低下させることがスペインの研究で示された」とあった▼スペインのとある県の公衆衛生局スタッフが実施したこの研究は、四万一千人余りの成人を対象に行われ、その結果意外や意外、益より害の方が喧伝されがちな飲酒におもわぬ効用があることが分かったというのだから、これは事件である。しかも飲めば飲むほどリスクが軽減されるというのだからなおさら▼飲酒が男性の心臓病を予防する可能性があるという報告は外にもあり、頭から疑うのではなくあくまで科学的データとして尊重されるべきであろう。常に「飲み過ぎだ」「ほどほどに」「休肝日を設けろ」などと言われ続けている愛飲家としてはまさに地獄で仏に会ったようなもの▼だからといってむやみに飲酒を勧める積もりなどない。このありがたいご託宣も女性は対象外らしく、ただ世の中にはこのようなアンビリバボー(信じられない)があるということだけを伝えるにとどめたいが、飲めば飲むほどいいというあたり、なにかこそばゆい。 |
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