<リプレイ>
●我は神なり 廃れた礼拝堂は薄暗く、とても神様などが出そうな雰囲気ではない。むしろ悪魔が出ると言われたほうが、納得しそうな気配だった。 中央に置かれた十字架も血に濡れており、およそ神聖とは程遠くなってしまっている。 しかし。 このような場所であっても、神を信じて救いを求める者は少なからずいた。神を騙るゴーストを呼び出すだけとも知らず、十字架に新しい血はつけられていく。 「祈るってなんなんだろーな。祈っても自分で救われたとか思っちまえばそこまでだろーし、結局自己完結ってヤツじゃねーの?」 神に祈ったことが無いと言う四陸・散(虎牙闘徒・b71080)は、祈るという行動そのものに疑問を持っているようだ。祈るという行動は確かに彼の言うとおり、自己完結に他ならない。 が、そうしなければならないほど切羽詰っている人もいる、という現実はある。 「神が本当に存在するとして、それぞれが希望した『救い』を与えているのかどうかは、僕には疑問に思うところだね」 まして今回は神ではなくゴースト。綾鷹・耀一郎(漆黒の夜鷹・b57231)は救いも情けもあったものではないなと、付け加えた。 「ゴーストじゃなかったとしても、こんな搾取するだけの神様は信じたくないなぁ」 「難しいことはわかんないけど、死ぬのが救いなんだったら神さまっていらないと思うの」 七儀・唯冬(ハドマの九頭鳥・b02567)も、ただ単に『死』を与えるだけの神に苦笑気味だ。隣にいる朝穂・魅鷺(はらぺこキャラでは無いのです・b45798)も同じ意見らしい。 結局のところ、『死』は救いではないという部分は誰もが同じ意見のようである。 「威徳の伴わない紛いもの〜、程度の低い紛い物は本物への冒涜です〜」 少し間延びした口調でリヒャルダ・エンデ(道楽を楽しみし吸血鬼・b47011)がそう言うと、加奈氏・みりあ(元放浪女子高生・b71193)が締めに入った。 「犠牲者増えちゃう前に何とかしないとっ」 この不況のご時世、こんな偽の神などいてはならない。 これ以上犠牲者を出さないためにも――と、能力者達はイグニッションカードを取り出しはじめる。 「Jesus Christ is in Heaven now」 ぐしゃり……とカードを握りつぶすようにしながら、澱神・蒼海(ゴーストと共に生きる詠唱兵器・b01742)がイグニッションを済ませると、白衣に身を包んだ小野・早深(光を携え歩む魔女アリス・b03735)もそれに続く。 「懐かしきあの頃へ……イグニッション!!」 右手に握ったカードを掲げ、どうやら久方ぶりらしいイグニッション。昔の感覚を思い出すかのように、彼女はカードの絵柄に視線を向ける。少しのブランクがあっても大丈夫と、確かな自信を持って早深のイグニッションは完了した。 次々にイグニッションを能力者達が済ませていけば、次に待つのは地縛霊を呼び出す動作。 仲間達が散らばり準備ができたのを確認した唯冬が、軽く指を傷つけ、十字架に血をつけていく。 「神様、僕の血をあげるから助けて! お願いします……!」 わざとらしい演技も忘れず、神にすがるキャラを演出する唯冬。新たな血が十字架をまた少し赤く染めると、どす黒い雰囲気と共に彼の目の前に影が現れた。 『良いでしょう、救いましょう』 神のような神々しさではなく、暗い闇に包まれた偽の神。仰々しく神を騙っているが、地縛霊であって断じて神ではない。 「さー、神を騙る罰当たりさんには、天罰覿面。ぶっとばしちゃいますよ!」 『な、なんだって、私は神だぞ、神! 敬えよ! とりあえず! 神って言ってるんだからさ!』 木之花・初名(風待草・b25223)に偽者だと突きつけられた偽神は、小者だと思わせる口ぶりでそう言うものの、その言葉を信じる者はその場にはいなかった。 信じるどころか、全力を持ってぶちのめそうと殺気立っているほどである。 『罰当たりはどっちか、教えてやる! 天使君、おいでませ!』 態度や口調から、すでに神とはかけ離れていることなどお構いなし。偽神の言葉に呼応するかのように、二体の天使が現れると、能力者達はぐっと手にした武器を握り締める。 やたらマッチョで天使っぽくない見た目の天使の片割れには、なるべく誰も目を向けないようにしながら、戦いに身を投じていく。
●偽りの神様と、マッチョ天使と、影の薄い天使と 『神を敬わないヤツ等め! 神だとか言っちゃう俺がどれほど強いか見せてやろう!』 最初の神様らしい言動はどこへやら。やはり地縛霊は地縛霊、ということだろう。 戦いが始まると、能力者達よりも先に動いたのは、マッチョな割に意外と素早い筋肉天使だった。しかしおよそ天使らしくない、筋肉質な肉体を用いての肉弾戦を行う事は無く……。 『むっはー!』 殴りたくなるようなポージングと共に、能力者達に怒りの感情を与えていく。 いかに散開しているとは言え、礼拝堂の中はそれほど広いわけではないため、攻撃はどこにいても確実に届いてしまう。それでも能力者達が散開したのは、キャラの濃そうな偽神様と筋肉天使の影響で影が薄くなっている、もう一体の天使を警戒してのことだった。 しかしそれは、他の二体の攻撃を避ける手段としては通用はしない。 「あまりに不愉快ですね〜」 「とりあえず潰す」 「むっかー!」 まともにそのポージングを見てしまったリヒャルダ、耀一郎、みりあは怒り心頭。しばらく怒りが収まる気配はないようだ。 「ィアリス、後衛を頼む」 そんな三人の状態を想定内だと判断していた蒼海は、自身の使役するサキュバスドールに声をかけると、ィアリスがコスチュームプレイを発動させると同時に旋剣の構えを取りはじめる。 続いて初名が自身に白燐奏甲を施すと、その向こうからは怒りに任せてマッチョ天使に斬りかかる耀一郎の姿が見えた。 「おい、しっかりしやがれ!」 浄化の風を流し、散が三人を冷静にさせようとするも、冷静になれたのは耀一郎ただ一人。ポージングへの怒りは、かなり激しいようである。 ならば元を断てばいいと、魅鷺の氷の吐息がマッチョ天使をしっかりと凍らせると、その筋肉は氷に包まれ少し輝いていたとか。 「諸々の穢れを赦し……清め給え」 その隙にすかさず早深が華麗に赦しの舞を舞えば、リヒャルダとみりあも正気に戻り、能力者達のディスアドバンテージはほぼ取り戻すことができていた。 後はこのマッチョ天使を早々に葬り去ることが出来たなら、戦闘はかなり楽になることだろう。 「それにしてもエンジェルがマッチョだなんて、きっと何かの間違いよ。許せない! しかも速いし!」 早深にとっては、マッチョ天使は別にポージングを見せられなくとも許されざる存在のようだ。それでも冷静に対処できるのは、彼女自身がおっとりしているからなのだろうか。 だが敵はマッチョ天使や偽神だけではない。 『ここにもいるんだよ?』 強化を打ち消す羽根が、蒼海とィアリスに撃ち込まれたのだ。偽神やマッチョ天使のせいで影が薄くなってはいるが、もう一体、天使は確かにそこにいた。 一撃のダメージはそれほど高くは無いが、強化を打ち消す効果は能力者達にとって厄介極まりないものである。 それでも、最初に倒すべき敵に変更はない。 「奥義! 龍顎拳っ!!」 落ち着きを取り戻したみりあがマッチョ天使を殴りつけると、それに合わせるように続けざまに叩きつけられる唯冬のインパクトの強烈な打撃。 「最初が肝心です〜」 そしてリヒャルダがライカンスロープで自身を強化した時、ソレは動いた。 『ははは、愚かな人間ども! 自称神に逆らうとどうなるか思い知るがいいわ!』 偽神の神々しいほどの眩い閃光が、暗い礼拝堂を激しく照らし出す。いかに偽者とは言っても、神の裁きと呼ぶに相応しい一撃が能力者達の体力を数回に渡って奪っていった。 全員がそれなりのダメージを受けてしまったが、この一回で倒される者はいない。 立て続けに食らいさえしなければ勝てる――。 誰もがそう思った。そのためには、一刻も早く二体の天使を倒さなければならないとも。 「ィアリス、いくぞ」 再びポージングをするマッチョ天使の肉体から目を逸らしつつ、蒼海がィアリスに声をかけた。先ほどの羽根で事前に施した自己強化は消え去ってしまっているが、やり直す前に攻撃に転じる蒼海。 こくりと無言でうなずくィアリスが投げキッスを飛ばすのに合わせ、自身は接近戦を行うべく距離を詰めていく。 「ふむ、コレが天使とは、俄かに信じ難いな……」 改めて間近で見る異形の天使に、思わずため息が出そうになるのを堪えながら黒影剣で斬りつけると、先ほど怒りに任せて動いていた耀一郎がリフレクトコアを使用している姿が目に留まる。 速攻の必要性と羽根の攻撃を受ける可能性を考えつつも、自己強化による火力を重視する作戦を取る能力者達。それは明らかに攻撃の速度のペースダウンへとつながっていた。 ィアリスを使役しているために体力の低い蒼海を案じた初名が白燐奏甲を施すと、散も自身の体に虎紋覚醒の紋様を浮かび上がらせていく。そして魅鷺が、傷ついたみりあに白燐奏甲を施したその時、マッチョ天使に向けて放たれる一本の破魔矢。 「常闇の魔を……打ち払い給え」 魔ではなくマッチョと言いそうになるのを抑えながら、早深が放ったものだった。一直線にマッチョ天使を貫いたその矢は、見事マッチョ天使を討ち取ることに成功する。 『僕が残ってるのも忘れないでね?』 「負けるっ、もんかぁっ!!」 自身をアピールするように残る天使が羽根をみりあ目掛けて放つと、仕返しとばかりにみりあは龍顎拳で応戦。彼等の次のターゲットは、自己アピールをした天使だったのだ。 「ゴーストが神様気取りだなんて、笑い話にもならないね」 「あなたの事も忘れていませんよ〜」 天使の後ろでドンと構える偽神を軽く見た後、唯冬の放ったインパクトが天使に綺麗に直撃すると、リヒャルダがスラッシュロンドでそれに続く。もう少し押せば、天使もすぐに倒れるだろう。 しかし――。 『いい加減にしろ! 敬え俺を、神なんだから!』 向けられた唯冬の視線と言葉に激昂しつつ、偽神の裁きの光がまた能力者達へと襲い掛かった。先ほどの一撃よりも少し強烈なダメージに、みりあがその場で崩れ落ちてしまう。 見れば、残る能力者達もかなりのダメージを負ってしまっている。 「そんなに神を名乗りたいのならば、消えて天に昇ると良い」 旋剣の構えで回復を図りつつ、さらにィアリスに祈りを捧げられて傷を癒した蒼海が、偽神を睨みつけた。 「ふふふ、このわたしを差し置いて神を名乗るなど、56億7千万光年早いのです」 近くにいる耀一郎の傷を白燐奏甲で癒しつつ、初名がびしっと一言。 「ありがとう。だが、光年は距離だぞ」 「……し、新世界の神は、そのような些末なコトは気にしないのですー!!」 援護への感謝と共に耀一郎がツッコミをいれると、初名はじたばたと慌てふためく。戦闘中のはずだが、そのやり取りに偽神も一瞬、攻撃を忘れてしまっていた。 「戦闘中だぜ、しっかりしてくれよ」 戦いの最中のやり取りに苦言を呈した散が、ジェットウィンドでこっそりと天使を打ち倒していた。影の薄さは最後まで折り紙付だったらしい。 これで残るは、偽神のみとなった。 「神様とやらには悪いけど、俺は誰かに救いは求めねぇ。情けを請うくらいなら自分の足で立って歩くさ」 光には光と、耀一郎の光の槍が偽神との戦いの口火を切る。早深が赦しの舞で全員の傷をわずかに癒すと、魅鷺が忙しそうに回復による援護を行っていく。 「ここからが本番ですよ、頑張ってください!」 彼女の言葉が仲間達を勇気付けると、偽神との激しい攻防が始まった。 果たして、勝敗の行方はどちらの手に――?
●礼拝堂に神は降りず 『だから、うやま……』 消え去る偽神。戦いの末、勝利をもぎ取ったのは能力者達だった。無論、彼等とて無傷ではない。戦いの最中、耀一郎が倒れてしまっていた。 「残念でした、僕が信じるのは人だけだよ」 地縛霊が消滅し、静けさに包まれる礼拝堂に唯冬の一言が響く。神よりも、人を信じる。いかにも現実を感じさせる一言である。 「元より信じられるのは自分自身だけどよ、将来何かに縋んねーよう、心も鍛えねえとなぁ」 そして自分自身が一番信じられるという散は、今後のさらなる鍛錬をしっかりと誓った。 ここに立つ誰もが、唯冬や散のように、神よりも自分や周囲の仲間を信じている。まして偽者の神など、信じる必要性すらもない。 「神とて時代の流れには逆らえまい。偽物だろうと神を名乗ったのならば、消えて行くのもまた必然」 遥か昔には、神は万物に宿っているとされていた。しかし時の流れと共に、それを信じる者がほとんどいなくなってしまった、現在。 たとえ偽者であっても……と、蒼海は静かに、そう呟いた。 「天罰的面〜ですね〜。エイメン♪ なんちゃって〜♪」 どちらかといえば偽者を名乗ったから天罰が下ったのだと、軽く気取って指で十字を切りながらそう言うのはリヒャルダだ。 神を騙るという行為自体、確かに罰当たりなのだろう。初名が戦闘中に、新世界の神だとか言っていたのには突っ込みはしなかったが。 当の初名は、見れば被害者へと静かに黙祷をささげている。 そんな彼女から視線を流すと、リヒャルダは古びた礼拝堂の中をゆっくりと見渡していく。どうやら後日、この礼拝堂をちょっと調べてみようと考えているらしい。 「さて、そろそろ……帰ろうか?」 地縛霊も倒した以上、いつまでもここにいる必要はない。傷の痛みに耐えつつ立ち上がった耀一郎に促されるように、能力者達はぞろぞろと礼拝堂を後にし始める。 「皆、お疲れ様〜」 「お腹空いたし、何か美味しいもの食べたいなぁ」 去り際に傷ついた体でさりあが全員を労えば、その前を歩く魅鷺はどうやらお腹が空いた様子。店が開いているかなと考えはするが、最近は24時間ずっと開きっぱなしの店も珍しくはないため、おそらく杞憂に終わる事だろう。 そんな彼等の後を追うように最後尾を歩く早深は、礼拝堂を出ると一度だけ振り返り、十字架があった場所へと視線を移す。 「さようなら、貴方のSilver rain。貴方の為に流される涙は……もう……ありません」 小さくそう呟くと、早深は先を行く仲間達へと合流していく。 この朽ちた礼拝堂で神にすがったとしても、神を騙る者が現れることはもう、ないのだ。
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参加者:9人
作成日:2009/12/09
得票数:笑える4
カッコいい5
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冒険結果:成功!
重傷者:綾鷹・耀一郎(漆黒の夜鷹・b57231)
加奈氏・みりあ(元放浪女子高生・b71193)
死亡者:なし
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