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「解決策なきものもある」 香山リカさん近著 12週1位

2009年12月9日

写真「(ヒットは)全く想定外。不況や、政権交代といった時代の気分にマッチしたのでは」と語る香山リカさん=都内の事務所

 精神科医・香山リカさんの近著『しがみつかない生き方』(幻冬舎新書)の勢いが止まらない。7月末の発売直後から売り上げを伸ばし、現在、発行部数は42万超。オリコンランキングの新書部門で8月下旬から12週連続の1位、年間ランキング新書部門でも各社1位だった。香山さんに話を聞いた。

 『しがみつかない生き方』は「『ふつうの幸せ』を手に入れる10のルール」とした副題の通り、「恋愛にすべてを捧(ささ)げない」「仕事に夢をもとめない」といった10章からなる。特に話題を呼んでいるのが、最終章「〈勝間和代〉を目指さない」で、経済評論家の勝間和代さんを競争社会の成功者の象徴とした点だ。

 勝間さんの著書の多くは、家事や仕事や人間関係の無駄を徹底的にそぎ落とした結果、生まれた時間や労力を様々なスキルアップに充てることで、一つ上の人生を目指すノウハウを示したもの。ファンの中にはそのノウハウの熱心な追従者となる人もいる。

 香山さんは診療の現場で、「勝間さんの言う通りに努力しても人生が充実しない。自分はダメな人間だ」と自己否定に走る患者に何度か接したという。「客観的にはそこそこ幸せな境遇なのに『上があるはず』と頑張り過ぎる人たち。彼らの姿に、なぜこんなに普通の幸せは手に入りにくくなったのだろうと、不思議に思っていた」と、勝間さんに言及した理由を語る。

 この本を巡り、複数の雑誌が香山さんと勝間さんの対談を掲載。「AERA」10月12日号の対談の中で、勝間さんは「私は頑張り至上主義ではなくて(略)頑張らなくてもいい方法を探しましょう、と言っている」「目標は格差をなくすことなので、私の本で格差が生まれているのであれば、目的に逆行してしまっています」と語っている。自身の意図が誤って読者に伝わっている可能性にも言及した。

 香山さんは、勝間さんとの対談を経て、改めてこの本にこめた思いをこう語る。「新自由主義的な合理志向のもとで、すべてのことに解決策があるというイメージが社会に広がりました。もちろん経済が発展し、個人が向上心を持つことも重要なことですが、人生は解決出来ることばかりではないという大前提を、忘れることは危険です。そもそも人生とはままならないもの。私の本にも解決策は示されていないのです」(浜田奈美)

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